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【まとめ】2023年 日本劇場公開の映画(7月編)

 この記事は2023年7月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)

 「2023年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。

 

 各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍

  • 公開日(日本の劇場で公開された日)
  • ジャンル
  • 監督
  • キャスト
  • 概要
  • あらすじ
  • 感想

 加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。

  • 脚本・ストーリー
  • 演出・映像
  • 登場人物・演技
  • 設定・世界観

 ⭐は最大で5つです。

 

 それでは、早速いきましょう💨

1秒先の彼

(C)2023「1秒先の彼」製作委員会

公 開 日  :7月7日

ジャンル:コメディ

監 督 :山下敦弘

キャスト:岡田将生、清原果耶、福室莉音、荒川良々羽野晶紀加藤雅也

 

概要

 岡田将生さんと清原果耶さんがダブル主演で贈るドラマ。監督は、『リンダ リンダ リンダ』・『天然コケッコー』・『苦役列車』などの作品が高く評価された山下敦弘さん。脚本は、唯一無二のキャラクター造形で、数々のヒット作を世に送り出してきた宮藤官九郎さん。「社会」や「普通」の枠から少しはみ出してしまう人々に温かな眼差しを向けてきた2人が、不器用なキャラクターたちが織りなす「愛」と「時間」についての物語をユーモアたっぷりに描きあげる。原作は第57回台湾アカデミー賞最多受賞作『1秒先の彼女』。男女の設定を反転&舞台を京都に移し、新たに変わったのが本作である。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 郵便局の窓口で働くハジメは、何をするにも他人よりワンテンポ早い。記念写真では必ず目をつむり、漫才を見て笑うタイミングも人より早い。ある日、街中で路上ミュージシャン・桜子の歌声に惹かれて恋に落ちたハジメは、桜子と花火デートの約束を取り付けた。そして、ウキウキの気分でデート当日を迎えたかにみえたが、日付は翌日に変わっていた。なぜ1日が消えたのが考えた矢先、鍵を握るのは、何をするにも他人よりワンテンポ遅い郵便局の常連客である大学生のレイカだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 他人より行動がワンテンポ早い男。他人より行動がワンテンポ遅い女。正反対な2人がタイムラグを経て織り成す奇跡のラブ・ストーリー

 前半と後半で男女それぞれの視点から、同じ時間を描いて繋ぎ合わせるストーリー仕立てが巧妙。

 前半はワンテンポ早い男の視点。主人公を演じる岡田将生さんが可愛さとユーモラスに溢れている。2021年に公開された『ドライブ・マイ・カー』等の約3作品で定着していた「拗らせキャラ」が嘘のよう。性格に一癖あるのは変わらないけど(笑)せかせかして、気が早くて、先走りし過ぎて落ち着きが足りないが、裏表ない素直な雰囲気が好感をもたらす。あと、ノソッと出現するワンテンポ遅い女役の清原果耶さんの存在感の加減が絶妙。存在感が薄いけど、存在感がある。そんな矛盾を起こすほどの種を蒔いて、後半に繋いでいる。

 後半はワンテンポ遅い女の視点。1つの物語だと思えた前半のパートが実は違った。清原さんの視点というか物語を経ることで、実は前半に蒔かれていた種が芽となり、本作の物語の全容が形を成す様が軽快。惜しいのは、主人公の男女2人が持つ過去の出し方が突飛な点。取ってつけたようにスルッと挿入されるため、2人を結び付ける後押しとしてはインパクトに欠ける。とはいえ、主演2人の好演で愛おしさを覚える。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

大いなる自由

(C)2021FreibeuterFilm・Rohfilm Productions

公 開 日  :7月7日

ジャンル:ドラマ

監 督 :セバスティアン・マイゼ

キャスト:フランツ・ロゴフスキ、ゲオルク・フリードリヒ、アントン・フォン・ルケ、トーマス・プレン 他

 

概要

 戦後ドイツ、男性同性愛を禁ずる刑法175条のもと、愛する自由を求め続けた男の20余年にもわたるドラマ。不条理な迫害の歴史の中で、愛と自由の本質を見つめた静かな衝撃作。

 監督および脚本を務めるのはオーストリア生まれのセバスティアン・マイゼ。本作は、2011年以来の長編フィクション映画となる。

 撮影監督を務めるのは『燃ゆる女の肖像』のセリーヌ・シアマの初期代表作でタグを組んだクリステル。フルニエ。「レンブラントの絵画のよう」と評された美しい陰影は観るものを魅了して離さない。

 同性愛者で何度も175条を破って投獄を繰り返す主人公ハンスを演じたのは、『希望の灯り』でドイツ映画賞主演男優賞に輝いたフランツ・ロゴフスキ。非人道的な法に踏みつけられながらも愛を諦めないハンスの炎のような魂を、少ない言葉と雄弁な身体で表現している。同性愛者に嫌悪しながらも次第にハンスへ心を許していくヴィクトールを演じたのはゲオルク・フリードリヒ。唯一無二の関係性を絶妙な距離感で具現化した2人のケミストリーは各国メディアから激賞された。

 また本作は、2021年カンヌ国際映画祭ある視点部門審査員賞を受賞し、2022年アカデミー賞国際長編映画賞にてオーストリア代表としてエントリーしている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 舞台は第二次世界大戦後のドイツ。男性同性愛を禁じた刑法175条の下、ハンスは自身の性的思考を理由に繰り返し投獄される。同房の服役囚ヴィクトールは「175条違反者」であるハンスを嫌悪し遠ざけようとするが、腕に彫られた番号を見て、ハンスがナチス強制収容所から刑務所に送られたことを知る。己を曲げず、何度も懲罰房に入れられる頑固者ハンスと、長期の服役によって刑務所内での振る舞いを熟知しているヴィクトール。反発から始まった2人の関係は、長い年月を経て互いを尊重する絆へと変わっていく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 静かに心を揺さぶられる作品。

 最近では現代的なLGBTを訴える作品が増えている。だが本作では、法律の名のもとに国家で正式に同性愛が禁止されていた過去を題材とし、同性愛を束縛する愚行や不条理を訴えている。他人の愛を引き裂いても誰かが得をするわけではない。逆に、損をするのは当事者たちだけ。過去の過ちを知って現代を正す作品。

 フランツ・ロゴフスキ演じる同性愛者の主人公からは無謀とも屈強とも言える体当たりで「それでも自分は男が好きだ」と信念を貫いたり「男なら誰でもいいわけじゃない」と異性愛と同等であることを主張したりする姿勢は感動する。

 ラストは何通りか解釈がある。個人的には、同性愛者たちが「大いなる自由」を得る為の闘いが未だ終息していないことを訴えかけていると思った。現在、性的指向が同性愛というだけで人を罰する法律は減少している。かといって、同性愛者への偏見や差別がゼロになったわけではなく、自身が同性愛者だと開示できないほど肩身の狭さを感じている方々が今でも居るほどである。まだまだ胸を張れる時代は来てないし、子供の同性愛者では「同性が好きな自分は変なのか?」と苦悩を抱え込んでいる。そんな方々のために、真に同性愛が認められる世の中、つまり「大いなる自由」が訪れるよう主人公から現代人へのメッセージに思えた。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

バイオハザード デスアイランド

(C)2023 CAPCOM / DEATH ISLAND FILM PARTNERS

公 開 日  :7月7日

ジャンル:アニメ

監 督 :羽住英一郎

キャスト:森川智之東地宏樹湯屋敦子甲斐田裕子小清水亜美子安武人

 

概要

 全世界で人気を誇るサバイバル・ホラーゲームの金字塔『バイオハザード』の長編CGアニメ映画の第4弾。制作は、動画配信サービスNerflixで公開したCGアニメ『バイオハザード:インフィニット ダークネス』シリーズのスタッフ陣が務める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 アメリカ大統領直属のエージェントのレオンは、機密情報を握るアントニオ・テイラーを拉致した武装集団の車両を追っていた。だが、突如現れた謎の女の妨害に遭い、犯人たちを取り逃がしてしまう。

 一方、対バイオテロ組織「BSAA」のクリスとジル、そしてアドバイザーのレベッカは、サンフランシスコを中心に起きている、ウイルスの感染経路が不明であるゾンビ発生事件を担当していた。クリスの妹でNGO団体「テラセイブ」に所属するクレアが調査した結果、ウイルスの被害者全員が元・刑務所として使用されていた監獄島「アルカトラズ」を訪れていたことを突き止める。島へ調査に向かうため、クリス一行はフェリーへと乗り込む。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 TVゲーム『バイオハザード』シリーズを原案としたフルCGアニメ映画の第4作目。ストーリーの時系列は『6』と『7』の間で『ヴェンデッタ』より後日。

歴代主人公がアッセンブル!こんなキレイな形で揃うのはゲーム本編でも実現してない。ゲームシリーズを遊び続けてきたファンにとっては歓喜の極み。最高の絵面を拝むことが出来る。

 アクション面は前作の『ヴェンデッタ』同様にキレキレ。『ジョン・ウィック』風な銃と体術を合わせたアクションであり、全キャラクターが実写のアクション・スターのように華麗な動きを披露。軽快なフットワークに気持ちよさを覚える。各キャラクターが手にする銃器のレパートリーも豊富で魅力的。ファン歓喜の銃器も登場する。登場というよりも、タイミングが良い時に丁度よく道端に落ちている。えっ?それでは、ご都合主義だって?いやっ、いいんだよっ!だって、そもそも道端に落ちてる銃器を拾って戦うゲームだし(笑)だから、これは原作再現なんだよ(笑)

 ストーリーは、どっちつかず。一応、『バイオハザード』を知らない方でもノリと勢いで表面的に観ることは出来る。だが、ストーリーを全て知るには、前作の『ヴェンデッタ』およびゲームシリーズの物語を知っておく必要がある。とはいえ、過去の『バイオハザード』シリーズ作品をプレイおよび鑑賞したところで深みは少ない。ゲームの歴史と共に、長年の歳月をバイオテロと戦ってきた歴代主人公たちの功罪を突き付ける側面が本作の物語にあり、主人公たちが長年の戦いに新たなアンサーを出すかと思いきや、ほぼ何もなく終わる。結局、『バイオハザード』シリーズ未見者向けだったり、今後のゲームシリーズの物語に影響を与えない配慮だったりで、ストーリーは添え物になってしまった。「バイオハザードのゲームスタジオが、あまり乗り気じゃないのな?」と邪推してしまったところである。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

交換ウソ日記

(C)2023「交換ウソ日記」製作委員会

公 開 日  :7月7日

ジャンル:青春

監 督 :竹村謙太郎

キャスト:高橋文哉、桜田ひより、茅島みずき、曽田陵介、齊藤なぎさ板垣瑞生

 

概要

 累計65万部を突破した、櫻いいよさんの同名小説の実写映画化。主演は、『仮面ライダー ゼロワン』で主人公を演じた高橋文哉さんと、子役から女優のキャリアを持つ桜田ひよりさんが務める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 高校2年生の希美は、ある日、移動教室で座った机の中に「好きだ!」と一言だけ書かれた手紙を見つける。その手紙の送り主は、学校イチのモテ男子・瀬戸山だった。イタズラかと戸惑いつつも、返事を靴箱に入れたところから、ふたりの秘密の交換日記が始まる。ところが、実はその手紙のや交換日記が親友の松本江里乃宛てだったことが判明する。勘違いから始まった交換日記だったが、本当のことが言い出せないまま、ついやり取りを続けてしまう。いつも空気を読み過ぎてしまう話し下手な希美は、自分とは真逆に、思ったことをはっきりと口にするド直球な瀬戸山を最初は苦手に思っていたが、彼を知るうちに惹かれていく。その一方で、打ち明けるきっかけをどんどん失っていき、事態は思わぬ方向へ進んでしまう…。

 

 

感想

 ウソの関係を続けても、気持ちにウソをつき続けられない。この関係はいつまで保てるか。自分は何処へ向かえばいいのか。そんなヒロインの葛藤と、綱渡りの先にある心温かい仕掛けが本作の見所。空気を読んで自分を主張しない性格であるヒロインが我を持ち始める良き成長物語になっている。

 女子が好きな男子からして欲しい行動が強引に訪れる。かと思いきや最後のフリになっている強引さで納得。女子の願望を叶えるだけで終わってない点が良い。ただ、終わってみれば、高橋さん演じる主人公はシンプルに俺様キャラだったな。

 気になる点としては、人間関係に軋轢が生じても数分後には修復されるところである。人間関係の動きが軽く見えるし、そもそもシークエンス自体を削除してもストーリーへの影響はない。あと、エンドロール後のシーンはラスト1分ぐらいは不要。「ウソをつかずに正直になろう」と作品のテーマを伝えたところで終わった方が締めには相応しい。テーマを伝えた後、御伽話のオチみたいな話が出てきてもな〜と思う。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

Pearl パール

(C)2022 ORIGIN PICTURE SHOW LLC. All Rights Reserved.

公 開 日  :7月7日

ジャンル:ドラマ、ホラー

監 督 :タイ・ウェスト

キャスト:ミア・ゴス、デビッド・コレンスウェット、タンディ・ライト、マシュー・サンダーランド、エマ・ジェンキンス=プーロ 他

 

概要

 監督タイ・ウェスト、主演ミア・ゴスで製作された『X エックス』のシリーズ第2作にして『X エックス』の前日譚。舞台は『X エックス』で登場した殺人老婆パールの若き頃であり、なぜパールがシリアルキラーとなってしまった経緯が明らかになる。

 監督・脚本は『X エックス』に続けてタイ・ウェストが担当。『X エックス』で主人公のマキシーンと、最高齢のシリアルキラー・パールの二役を演じたミア・ゴスが主演として、本作でも若かき頃のパールを演じ、脚本とエグゼクティブ・プロデューサーとしても参加している。

 このミア・ゴスの怪演によって、巨匠マーティーン・スコセッシが魅せられ、ベネチア国際映画祭が狂喜し、ホラー映画初のオスカー候補と噂されたほど世界中を熱狂させた。鑑賞時、ミア・ゴス演じるパールの狂気に圧倒されながらも、最後には彼女の笑顔の虜になってしまう…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 1981年、テキサス。スクリーンの中で踊る華やかなスターに憧れるパールは、厳しい母親と病気の父親と人里離れていた農場で暮らしていた。若くして結婚した夫は戦争へ出征中であり、父親の世話と家畜たちの餌やりという繰り返しの日々に鬱屈していた。そんなパールの束の間の幸せは、農場の家畜たちを相手にミュージカルショーの真似事を行うことだった。

 ある日、父親の薬を買いに町へ出かけ、母に内緒で映画を観たパールは、いっそう外の世界への憧れが募っていく。そんな中、地方を巡回するショーのオーディションがあることを聞きつけたパールは、オーディションへの参加を強く望むが、母親に「お前は一生、農場から出られない」といさめられる。その言葉を聞いたパールは、生まれてから籠の中で育てられ、抑圧されてきた狂気が暴発する。

 

 

感想

 自身を承認されない環境で育った人間は、反社会的な自分が覚醒する。現実世界でも起こり得る、犯罪者の後天性と先天性を追ったサンプル的なホラー・ドラマ。前作『X エックス』を先に観ると、パールの殺人動機やマキシーンにシンパシーを感じる行動原理を理解できて補完される。さらには『X エックス』で起こる惨劇の布石が随所に散りばめられ、発見する楽しみがある。

 ミア・ゴスが凄い。笑って、踊って、叫んで、殺して、1人語りして、また笑って…。パールというキャラクターを多種多様なパフォーマンスで体現していた。何よりも数分間に渡り、喜怒哀楽(楽は無いかも)を併せた笑顔の作り方は必見。本作における一連の過程を通して得た複数の感情を数分で表現している。前作ではマキシーン役も兼任し、人物像が重なり合うパールとマキシーンを2作に渡って物理的に見せた力量はアッパレ。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

遠いところ

(C)2022「遠いところ」フィルムパートナーズ

公 開 日  :7月7日

ジャンル:ドラマ

監 督 :工藤将亮

キャスト:花瀬琴音、石田夢実、佐久間祥朗、松岡依都美、宇野祥平、吉田妙子 他

 

概要

 2020年に入ってから国際的な映画賞や映画祭では『ノマドランド』・『あのこと』・『17歳の瞳に映る世界』等の”社会的に過酷な立場に置かれた女性の姿”を描いた海外作品が高い評価を得ている。そして日本では、沖縄県のコザを舞台とした本作が誕生した。

 沖縄では、1人当たりの県民所得が全国で最下位。子供(17歳以下)の相対的貧困率は28.9%であり、非正規労働者の割合や、ひとり親世帯(母子・父子世帯)の比率でも全国1位(2022年5月公表「沖縄子ども調査)。さらに、若年層(19歳以下)の出産率でも全国1位となっているように、窮状は若年層に及んでいる。本作は、そんな沖縄市のコザを舞台に、幼い息子と若き夫との3人暮らしをする17歳の少女が、社会の過酷な現実に直面する姿を描き、全編沖縄ロケにこだわって撮影された。

 本作の監督を務めるのは、2019年の長編デビュー作『アイム・クレイジー』で第22回富川国際ファンタスティック映画祭NETPAC賞(最優秀アジア映画賞)に輝いた工藤将亮さん。長編3作目となる本作は、第56回カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭で最高賞を競うコンペティション部門に日本映画として10年ぶりに正式出品。約1200席ある上映会場のチケットは事前に完売。上映後は約8分間にわたるスタンディング・オベーションによって、観客から熱狂的に迎えられた。

 主人公アオイを演じたのは、本作で映画初主演となる花瀬琴音さん。アオイの友人役・海音には映画初出演となる石田夢実さん。アオイの夫・マサヤ役は佐久間祥朗さん。3人とも撮影1か月前には現地に入り、沖縄市コザで実際に生活することによって体感したリアルな感覚は、各々が演じる役に反映されている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 沖縄県・コザに住む17歳のアオイは、若き夫のマサヤと幼い息子の健吾と3人で貧しく暮らしていた。なんとか生計を立てるため、祖母に健吾を預け、友達の海音(ミオ)と朝までキャバクラで働いていた。夫のマサヤは建築現場で働いていたのだが、段々と仕事に不満を持ち始め、ついには辞職してしまう。アオイはキャバクラの収入だけでは生活が苦しいため、マサヤに新たな仕事に就いて収入を得るよう頼む。だが、マサヤは仕事を探す努力をせず、いつしかアオイに暴力を振るうようになる。家計の圧迫と夫の暴力で苦しむ中、さらなる悲劇がアオイに積み重なっていく。

 若くして母となった少女が、連鎖する貧困や暴力に抗おうともがく日々の中で辿り着いた未来とは。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 観続けるのが辛い…。貧困であるが故に訪れる悲劇。就職先の選択が少ないが故に訪れる悲劇。教養が不足しているが故に訪れる悲劇。若くして子供を抱えるが故に訪れる悲劇。『空白』や『ダンサー・イン・ザ・ダーク』並に起こる悲劇の連鎖反応が観る者の心を締め付け、母となった少女の悲痛な現実を思い知らされる。社会問題が克明に浮き彫りとなって頭に入り込み、観終わった後は本作を観た者同士で語り合いたい内容である。貧困・非正規労働・若年層の出産を議題に、話が尽きないことだろう。本土から物理的に「遠いところ」にある沖縄。恵まれた者にとって環境的に「遠いところ」にある現実。それらが観る者の「近く」に寄ってくる。

 一見すると、主人公である少女の自業自得だったり自己責任だったりとの見解があるが、そもそも大人たちによる教養の施しが不足に思われる。教養の不足が少女たちを露頭へと迷わせている。さらには大人たちが少女たちを手助けすることはなく、大人たちの教養不足による後世のツケや世代間の断絶も垣間見える。教養なき大人が子供に教養を授けることが出来るはずもなく、社会問題が後世へ続く原因もよく分かる。

 序盤は社会人ながらも17歳の少女として青春時代の最中にいる躍動感は、映像作品ならではのケレン味がある。だが、序盤を過ぎたら地獄。未熟な少女のまま社会的責任を負わされる様がドキュメンタリーのようにリアルな生々しさを帯びている。加えて、セリフで沖縄弁をバリバリ使うのがリアルで生々しい。沖縄弁を知らないと何を言ってるかは分からないが、標準語に訳さずとも真に迫る熱量がヒシヒシと伝わる。さらには、主演を務めた花瀬琴音さんの悲哀を帯びながら身体まで晒してしまう演技が生々しさに拍車を掛ける。本作に「生々しい」という表現は幾ら使っても足りない。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

君たちはどう生きるか

(C)2023 Studio Ghibli

公 開 日  :7月14日

ジャンル:アニメ

監 督 :宮崎駿

キャスト:山時聡真、菅田将暉木村拓哉滝沢カレン火野正平柴咲コウ木村佳乃國村隼

 

概要

 『風の谷のナウシカ』・『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』などの名作を数々生み出し、2013年公開の『風立ちぬ』で長編作品の制作を引退した、日本アニメ映画界の巨匠・宮崎駿さん。だが、なんと引退を撤回をし、長編アニメ映画の監督にカムバック!作品のタイトル名を宮崎駿さんが感銘を受けた吉野源三郎さんの著書『君たちはどう生きるか』から借り、宮崎駿さん自身で原作および脚本を作り上げた。

 本作の驚くべきポイントは、広告・宣伝活動を全く行わず、あらすじの紹介や声優のキャスティングすら発表せず、密閉したまま劇場公開に挑んだことである。2023年7月の公開時点では、多くの方々が事前情報を入れずに鑑賞。改めて、鑑賞中に作品全体を知る体験を身に染みる作品となった。

 

あらすじ

 公式が公開してないため記載なし。

 

感想

 上下左右・奥行きに広がる宮崎駿さんらしい景色のビジュアル。アニメ表現の冥利に尽きる宮崎駿さんらしい生物と演出の数々。久石譲さんの音楽に乗せて広大な宮崎ワールドへダイブする作品だった…とジブリに詳しくない俺の月並みな感想です(笑)

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

CLOSE クロース

(C)Menuet / Diaphana Films / Topkapi Films / Versus Production 2022

公 開 日  :7月14日

ジャンル:ドラマ

監 督 :ルーカス・ドン

キャスト:エデン・ダンブリン、グスタフ・ドゥ・ワエル、エミリー・ドゥケンヌ、レア・ドリュッケール、イゴール・ファン・デッセル、ケビン・ヤンセンス 他

 

概要

 色鮮やかな花畑や田園を舞台に、無垢な少年に起こる残酷な悲劇と再生を描いた物語。

 第75回カンヌ国際映画祭で「観客が最も泣いた映画」と称されてグランプリを受賞し、第95回アカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされる等、各国の映画賞で47受賞104ノミネートを果たした。海外の映画批評サイトであるロッテントマトでも高い満足度を記録し、映画人や観客を魅了した。

 監督を務めるのは、前作『Girl/ガール』で第71回カンヌ国際映画祭カメラドール(新人監督賞)を受賞し、鮮烈なデビューを飾ったルーカス・ドン。長編2作目となる本作では、学校という社会の縮図に直面した10代前半に、自身が抱いた葛藤や不安な想いを綴る思春期への旅の始まりを瑞々しく繊細に描いた。主人公・レオと幼馴染のレミを演じるのは、本作で俳優デビューとなるエデン・ダンブリンとグスタフ・ドゥ・ワエル。子供でもなく大人でもない10代特有の揺れ動く心情を表現した2人には、世界中から賛辞が贈られている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 花き農家の息子のレオと幼馴染のレミ。昼は花畑や田園を走り回り、夜は寄り添って寝そべる。24時間365日ともに時間を過ごしてきた2人は親友以上で兄弟のような関係だった。

 13歳になる2人は同じ中学校に入学する。入学初日、ぴったりとくっついて座る2人を見たクラスメイトは「2人は付き合ってるの?」と質問を投げかける。その問いに「親友だから当然だ」とムキになるレオ。その後も2人は恋人イジりを受け、嫌悪感を抱いたレオは徐々にレミから距離を置くようになる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 流れゆく日常の中、それぞれの登場人物たちが秘めた確かな感情を心の奥底へ奥底へと押し込めても、漏れ出たり爆発したりするリアルな感情表現を至近距離で生々しく捉えている。思春期真っ只中の未熟な子供がした事とはいえ、同性愛をネタやゴシップとしてエンタメ化する行為が、棘となって突き刺さり続けているかが伝わってくる。その過程から、子供たちのみならず、大人でも続いている"同性愛イジり"、ひいては他者の人物像を推測だけで勝手に断定する行為そのものに反対する精神が見えてくる。そのような問題提起を提示しながらも、後半以降、いつもと変わらない日常(事実的には変わってる)の中で傷が疼いたり、再生を試みたりする描写を俳優陣の最低限のセリフと繊細な演技で表現しているのが見事。この物語は観た者の心に沈澱する。

 奇しくも日本では、同年公開の『怪物』と内容の共通点が多い。(主人公が男の子である点やコミュニケーションに加害性が含まれる点など。)だが、『怪物』は抑圧された男の子が自分たちの関係を確立する物語で、本作は確立した関係が崩れていく物語であり、出発点が異なる。とはいえ、2作品を並べ、人間がもたらす問題を2つセットで考えてみてはと思う。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

わたしたちの国立西洋美術館 奇跡のコレクションの舞台裏

(C)大墻敦

公 開 日  :7月15日

ジャンル:ドキュメンタリー

監 督 :大墻敦

キャスト:国立西洋美術館の職員および関係者の方々 他

 

概要

 フランスの建築家ル・コルビュジエが設計し、世界文化遺産に登録された東京・上野にある国立西洋美術館の知られざる舞台裏に迫ったドキュメンタリー。

 国立西洋美術館は大正から昭和にかけ、希代のコレクターとして活躍した松方幸次郎さんの「松方コレクション」を基礎に、絵画・彫刻・版画・素描などおよそ6,000点の作品を所蔵し、東アジア最大級の美術コレクションを誇る。2016年には世界的建築家ル・コルビュジエの建築作品のひとつとして世界文化遺産に登録され、日本を代表する美術館として、国内外から多くの来場者を集めている。

 2020年10月、ル・コルジェジエが構想した創建時の姿に近づける整備のために休館した美術館の内部にカメラが入り、1年半に渡り密着。そこから見えてきた、美術館の「ほんとうの姿」を映し出し、アートの見方をガラリと変える必見のドキュメンタリーとなっている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 特になし。

 

感想

 美術館に行くだけでは見れない光景がたくさん。彫刻の下にある台座の中身や美術品の一部をクローズアップしたりと、美術館巡りを嗜む方には堪らない映像がカメラに収まっている。また、美術館職員の方々による丹精が込められた仕事ぶりを拝見することが出来る。美術品の配置を考えたり、穴が空くほど美術品を見て状態変化を確認したり、美術品の素晴らしさを伝達する企画を練ったり等、精密かつ入念な姿勢に深く感銘。公共機関として限られた予算の中、芸術を届けようとする気概に感服する。美術館に携わる方々の思いが本作を通じて伝わり、観終わった後は近くの美術館へ足を運びたくなった。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

ミッション:インポッシブル デッドレコニング PART ONE

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.

公 開 日  :7月21日

ジャンル:アクション

監 督 :クリストファー・マッカリー

キャスト:トム・クルーズヘイリー・アトウェル、ビング・レイムス、サイモン・ペッグレベッカ・ファーガソン、バネッサ・カービー、ヘンリー・ツェーニー、イーサイ・モラレス 他

 

概要

 2022年公開の『トップガン マーヴェリック』で映画史に激震を与えたトム・クルーズが満を持して全世界に贈る次なる作品は、人気シリーズの7作目『ミッション:インポッシブル デッドレコニングPART ONE』。シリーズ初の二部作となっている。

 本作の見所は、欧州市街での激しいカーチェイスや、断崖絶壁からの大ジャンプ、激走する列車上での格闘戦など、「俳優人生で最も危険」と語るアクションの数々である。

 キャストはトム・クルーズの他、前作に引き続き、ビング・レイムス、サイモン・ペッグレベッカ・ファーガソン、バネッサ・カービーが続投。さらに、第1作目でキットリッジ役を演じたヘンリー・ツェーニーがカムバック。ニューヒロインとして『キャプテン・アメリカ』シリーズのペギー・カーターでお馴染みのヘイリー・アトウェル、本作のヴィランとしてイーサイ・モラレスが新たに加わる。

 監督は前々作『ローグ・ネイション』、前作『フォールアウト』のクリストファー・マッカリーが続投する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 IMF(不可能作戦部隊)所属のエージェントであるイーサン・ハントに新たなミッションが課せられる。それは、全人類を脅かす新兵器が悪の手に渡る前に見つけ出して奪取すること。しかし、IMF所属前のイーサンを知る”ある男”が接近し、イーサンと仲間たちは世界各地で攻防を繰り広げることになる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 世界の裏で暗躍する者たちが、全人類を脅かす新技術の鍵を賭けて争奪戦を繰り広げる、大作スパイ映画。

 前作及び前々作で監督を務めたクリストファー・マッカリーが続投し、安定の面白さを提供している。

 やはり、本作もアクションが面白い。相変わらずトム・クルーズが車両および自分の足で疾走する。特に、カー・アクションはシリーズ1番最長で1番の見応え。逆走で対向車をかわすムーブは前作同様。加えて、トムと仲間によるコミカルな掛け合いが追加されてユーモアが増した。また、車両の大破台数も増加。マッカリーはマイケル・ベイの後に続くつもりか(笑)

 本作1番の印象的なアクションはポスターにある、バイクに乗ってのスカイダイビング。『ゴースト・プロトコル』のビル以上に高所から低所に向かっており、シリーズ最長の飛び降りだと思われる。ここまでエクストリームすると、トムの身体が心配である。

 列車上のアクションは1作目のオマージュだろうか。ただ、1作目みたいに風圧が強くて立ってられない状態にならず、フィクション性を優先して普通に格闘戦を始める。よって、1作目の臨場感と比べると格段に下がっている。ただ、列車内のジリジリと追い込まれるシークエンスは見事。物と人を動かす順序が練り込まれている。

 ストーリーは前作と前々作より若干だが劣る。諜報戦が少なく、騙し合いが少ない。前作及び前々作よりイルサが引っ掻き回さない。本作のボスとイーサンに因縁があるけど、数秒の回想シーンを挿入したところでピンと来ない。イーサンの感情表現から因縁が伝わってくるけど、具体性がないから共感できない。そのため、前作に比べて、イーサンの人物像の掘り下げは出来ていない。本作のボスに関しても、因縁が感じられない点はもちろんだが、今までのボスより体を張った動きが少ないため、印象が薄い。本作で印象を残したのは、巻き込まれヒロインのグレース。本作の駆け引きやアクションを楽しませる役であった。

 総論すると、安定した面白さがある続編。だが、過去作と比較すると、列車上のアクションの臨場感の低下・人物間の駆け引き低下によるスリル値の低下が目立った。とはいえ、スパイ映画として楽しめる十分な作品である。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

警視庁捜査一課 ルーシー・ブラックマン事件

Netflix

公 開 日  :7月26日

ジャンル:ドキュメンタリー

監 督 :山本兵衛

キャスト:当時の担当刑事、ブラックマン家、ジャーナリスト、六本木のホステスの方々 他

 

概要

 2000年に起きた「ルーシー・ブラックマン事件」を事件関係者のインタビューで収めたドキュメンタリー。六本木で外国人ホステスとして働いていたルーシー・ブラックマンの失踪から凶悪犯罪へ辿り着いた過程を担当刑事、ブラックマン家、ジャーナリスト、六本木ホステスの方々が当時の心境を語る。

 

あらすじ

 特になし。

 

感想

 本作を鑑賞する前提条件として字幕をオンにすること。一部、音声が聞きづらい。また、全編インタビュー故に話し言葉だらけ。言いたい事を整理してから発言を行なっていない為、事件概要が伝わりにくい。レビューサイトを見る限り、「事件概要が伝わらず、分かりにくい」との意見が多数あった。おそらく、インタビューの話し言葉だけを頼りにすると頭に事件が入らず、そのような事態に陥る。なので、字幕をオンに設定し、視覚からも情報を入れば事件の解像度が格段に上がる。そういう点では、字幕設定があるNetflixで制作したのは結果オーライだった。

 事件の予備知識はゼロでもオッケー。単なる失踪と思われていた事件が凶悪犯罪へと辿り着いた際にはインタビューの語りだけでも震撼するし、事件の全貌が明かされていく更なる身震いを起こす。そして、事件の顛末にインタビューを受けている当事者の方々と一緒に怒りと悲しみに苛まれる。そういう点では「ルーシー・ブラックマン事件」の入門編として最適だと思われる。

 事件の過程や全貌が紹介されるが、メインは当事者たちが事件に対して感じた心境である。当時の指揮能力に限界を感じ、上層部に逆らって捜査を進め、事件が解決に向かっても煮え切らない思いが沸き立った担当刑事。ルーシーに会えることを願い、メディアを巻き込んで行動に移したブラックマン家の方々。ルーシーと同業者である六本木のホステスの方々。事件を追って驚きの連続を体験したジャーナリスト。この事件に関わって良い気分になった者は誰もおらず、どんなに手間暇を掛けても凶悪犯罪に及んで貫き通そうとする者が存在することの恐怖や悲哀を実感する。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

658km、陽子の旅

(C)2022「658km、陽子の旅」製作委員会

公 開 日  :7月28日

ジャンル:ドラマ

監 督 :熊切和嘉

キャスト:菊地凛子竹原ピストル黒沢あすか、見上愛、浜野謙太、吉澤健、風吹ジュンオダギリジョー

 

概要

 ハリウッド映画『バベル』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされ、その後も『パシフィック・リム』シリーズ等の海外作品に出演し、国際的に活躍する菊地凛子さんが日本映画で初めて単独主演を務める作品。本作では、引きこもり生活から外に出て、久しぶりに他人と関わることで長年の自分への公開を露わにしてゆく繊細な難役を見事に好演する。さらには、竹原ピストルさん、オダギリジョーさんをはじめとする豪華キャストに支えられ、切ないまでの生きる痛みと躊躇い、そして絞り出す勇気を熊切監督と共に渾身の力で表現している。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 42歳。独身。青森県弘前市出身。人生を諦めて、なんとなく過ごしてきた就職氷河期世代のフリーター陽子は、かつて夢への挑戦を反対されて20年以上も断絶していた父が突然亡くなった知らせを受ける。従弟の茂とその家族に連れられ、渋々ながら車で弘前へ向かうが、途中のサービスエリアでトラブルを起こした子供に気を取られた茂一家に置き去りにされてしまう。陽子は弘前に向かうことを逡巡しながらも、所持金がない故にヒッチハイクをすることに。しかし、父の出棺は明日の正午。北上する一夜の旅で出会う人々、そして立ちはだかるように現れる若き日の父の幻により、陽子の止まっていた心は大きく揺れ動いてゆく。冷たい初冬の東北の風が吹きすさぶ中、はたして陽子は出棺までに実家に辿り着くことが出来るのか…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 他人と会話が出来ないほどの引きこもりである主人公が道中で出会う人々を通して、コミュニケーションを取り戻す再生の物語。長年に渡るパソコン主体の引きこもり生活の反動で、会話に苦労する主人公を演じた菊地凛子さんの好演が作品を大きく牽引している。道中の人々の出会いを通し、コミュニケーションの主体がチャットによる機械文字から生身の肉声へと移り変わり、オドオドしながらも喉から声を振り絞って、失われた人付き合いを吸収して殻を破っていく姿勢は見守りたくなる。

 道中で出会う人々のシーンは大きく分けて、コミュニケーションの会得と人生の想起になっている。黒沢あすかさん演じる立花からは言葉のコミュニケーション。見上愛さん演じる小野田からは言葉以外のコミュニケーション。浜野謙太さん演じる若宮からは、おそらく過去に一悶着あった異性関係の重なり。吉澤健さん風吹ジュンさん演じる夫婦に、立花と小野田から得たコミュニケーションを実践、そして夫婦を両親と重ね合わせて実家へ帰る決意を強くしたと思われる。1つずつロジックが立っていく秀逸なシークエンスである。

 とはいえ、本作は人を選ぶ作品。菊地凛子さん演じる主人公の経歴について、些か描写不足は否めない。主人公の過去が明示されず、主人公に興味を持てない場合は物語自体の興味も消失するだろう。なお、主人公を背後から客観的に見守るような作品の構造なので、尚更、その傾向に拍車を掛ける。リアリティ・ラインを大事にしたいのは分かるけど、あと少し回想シーンに頼っても弊害は無かったと思われる。

 総論すると、名優・菊地凛子さんの好演を目当てにするなら十分に観る価値アリ。あとは、主人公の人格と物語に興味を持てるか否かが本作を楽しめるかどうかの瀬戸際。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

キングダム 運命の炎

画像1

公 開 日  :7月30日

ジャンル:漫画実写化、アクション

監 督 :佐藤信

キャスト:山崎賢人吉沢亮、橋本環奈、清野菜名、杏、山田裕貴高嶋政宏要潤片岡愛之助山本耕史玉木宏佐藤浩市大沢たかお

 

概要

 原義久さんの大ヒット漫画『キングダム』の実写映画化3作目。2022年の『キングダム2 遥かなる大地へ』から2年連続の劇場公開となった。前作および前々作と同様に原作者である原義久さんも脚本に参加。本作の物語は、原作にある「馬陽の戦い」と「紫夏編」。兵卒から武将になった信、中華統一を掲げるエイ政、引退の身から戦場に舞い戻った王騎の3人を中心に新たな戦いが描かれる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 500年に渡り、七つの國が争い続ける中国春秋戦国時代戦災孤児として育った信は、亡き親友と瓜二つの秦の国王・エイ政と出会う。運命に導かれるよう若い王と共に中華統一を目指すことになった信は、「天下の大将軍になる」という夢に向けて突き進んでいた。

 そんな彼らを脅威が襲う。秦国への積年の恨みを抱く隣国・趙の大軍勢が、突如、秦への侵攻を開始。残忍な趙軍に対抗すべく、エイ政は、長らく戦から離れていた伝説の大将軍・王騎を総大将に任命する。決戦の地は馬陽。これは奇しくも王騎にとって因縁の地だった。

 そして、出撃を前に、王騎から王としての覚悟を問われたエイ政が明かしたのは、かつて趙の人質だった時に命を賭けて救ってくれた恩人・紫夏との記憶だった。その壮絶な過去を知り、王騎および信は想いを胸に趙の軍勢が待ち構える戦地へ向かう。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 シリーズ3作目。前半は、秦王・エイ政が中華統一を決心した理由を回想する過去編。後半は、攻め込んできた隣国・趙と戦うバトル編。

 マンガ・チックな俳優陣の演技、上手く存在感を残せない登場人物が一部いる点は相変わらず。だが、夢を掲げる信とエイ政のの熱意、戦術に戦術を返す駆け引き、縦横無尽に駆け回る山崎賢人さんと清野菜名さんの殺陣は安定して面白さを供給している。

 前半では、吉沢亮さんが一作目とは違った一人二役を披露。やはり演じ分けの名手。とはいえ、1番目立ったのは杏さん。吉沢亮さんのキャラを突き動かす丁度良いパーツとなっている。「誰にでも善意を与える人物」という設定は他人を動かすのに打ってつけの人物像に思えた。見ず知らずの他人にこそ優しさを与えられるのが本当の優しさなので、他人を動かす説得力として機能するものだと納得感を覚えた。浅利陽介さんは若干、無駄遣いだったかも。

 後半では、前作と同様に戦術の駆け引きと同時に大規模なアクションが見られる。橋本環奈さんともう1人の俳優さん(名前が分からん)が戦地から離れ、陣形図を使いながら両軍の動きを解説してくれたおかげで情勢や全体図が伝わりやすかった。アクションでは、山崎賢人さんと清野菜名さんの1人あたりの相手数が増えた。1人で同時に数十人を相手し、バッサバッサと切り捨てていく様はコーエーの『無双シリーズ』と同様の爽快感がある。そして、山崎賢人さんの十八番であるジャンピング殺法は過去2作よりも物理的に飛んでいる。このままシリーズ化する毎に飛距離を伸ばすつもりだろうか(笑)あと、相変わらず清野菜名さんの服は汚れずに真っ白なまま(笑)片岡愛之助さんと山本耕史さんの白い鎧も汚れてない気が…。

 前作までは「武力に任せて突っ込む」ばかりだった主人公・信が、本作では「考えてから突っ込む」という成長を見られたのが良い。

 大沢たかおさんは相変わらずマンガ・チックな演技になっているが、巨軀な体格から丁寧語で戦場を語る姿は誰よりも存在感が大きい。

 前作同様、告知では名前が挙がってないサプライズ・キャストの登場もあり、劇場でリアルタイムで追いかける楽しさも施されている。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個