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【まとめ】2023年 日本劇場公開の映画(6月編)

 この記事は2023年6月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)

 「2023年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。

 

 各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍

  • 公開日(日本の劇場で公開された日)
  • ジャンル
  • 監督
  • キャスト
  • 概要
  • あらすじ
  • 感想

 加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。

  • 脚本・ストーリー
  • 演出・映像
  • 登場人物・演技
  • 設定・世界観

 ⭐は最大で5つです。

 

 それでは、早速いきましょう💨

渇水

(C)「渇水」製作委員会

公 開 日  :6月2日

ジャンル:ドラマ

監 督 :高橋正弥

キャスト:生田斗真門脇麦磯村勇斗、山崎七海、柚恵、尾野真千子

 

概要

 1990年、第70回文學界新人賞受賞、第103回芥川賞候補作となり注目を浴びた河林満による幻の名篇『渇水』が、刊行から30年の時を経て初の映画化。

 料金滞納家庭の水道を停めて回る水道局員と、たった二人で家に取り残された幼い姉妹。一件の停水執行をきっかけに巻き起こる心の物語を描く。

 企画プロデュースを手掛けたのは、数々の重厚なドラマを生み出して映画界にその名を轟かす白石和彌さん。主人公の水道局員・岩切を多彩な演技で人を魅了する生田斗真さんが熱演し、門脇麦さん、磯村勇斗さん、尾野真千子さんをはじめ実力派俳優陣が揃えた。音楽をカリスマ的な人気を誇る向井秀徳さんが手掛け、監督・高橋正弥さん×脚本・及川章太郎さんのタッグが、生の悲しみを描いた原作小説を、絆が紡ぐ一筋の希望を描いた感動作へと昇華させた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 県内全域で給水制限が発令された日照り続きの夏、市の水道局員に勤める岩切俊作は、同僚の木田と共に来る日も来る日も水道料金を滞納している家庭を訪ね、水道を停めて回っていた。実は岩切は、妻や子供との関係も上手くいっておらず、夏の暑さによる物理的だけでなく心理的にも渇いた日々を送っていた。

 ある日、岩切が水道料金を滞納している一軒の家を訪問する。その家は貧しく厳しい有様だった。父は蒸発。1人で姉妹を育てる母も帰って来ない。少ない金銭を握りしめた幼い姉妹が取り残されていた。困窮家庭にとって最後のライフラインである水を停めるのか否か。葛藤を抱えながらも岩切は規則に従い停水を執り行うが…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 「万物は水の如し」と言わんばかりに脚本・演出・登場人物の心情を水に準えて構成され、雨が一向に降らない渇き切った炎天下の街で潤いを求める者たちが浮き彫りとなる。人間の生命線である水を無慈悲に停めなけらばならない水道局員の義務と葛藤。料金を払えないほど困窮している上、さらに生命線を断たれる市民の苦痛。自分が善で相手を悪として対立する双方に感情移入でき、規則に縛られて渇き切った現状が辿り着く先を見届けたくなる。

 生田斗真さん演じる主人公の水道局員からは、水のように流されてばかりの人生が垣間見える。事務的に停水を執行する姿勢や親と妻子と上手く付き合えない事実に、他人と心から向き合えてない側面が伝わってくる。だが、水道料金を払えない家族を見て、停水する意味を改めたり、人としての感情を灯したり、渇いた心を満たしていく姿は感慨深い。

 門脇麦さん演じる母親とその子供達からは他人の愛を欲する渇いた心が見え、愛を受信できなかった者による負の連鎖を起こして問題提起を投げ掛けている。他人から愛をもらうことは必要不可欠であることが分かる。

 全編を通して水の描写が素晴らしい。ポスターのように潤う場面もあれば、トンネルの暗さを利用して深海を作り出したり、登場人物の心情を画面全体で表現している。また、雨が降る気配がない炎天下のジメジメ感も良い。

 総合して、脚本・演出・登場人物の心情が「渇水」のタイトルの如く、水を用いた表現が素晴らしい。そして、停水が発端となる問題提起を図り、登場人物の渇いた心が潤いで満たされていく物語は非常に感慨深い。

 だが、しかしである。ラスト10分ぐらいに主人公が起こす行動は要らない。それさえなければ文句無しの傑作だった。そもそも本作の設定に「太陽は浴びても料金は発生しない。空気を吸っても料金は発生しない。ならば、水も料金ゼロで」というトンデモ理論があり、それを肯定してはいけない。だって、水道をつたって家に水が届くのは、水道関連で働く人々の手間暇が掛かっているから。それを「0円にしろ」と肯定して、水道の維持費は何処で確保するつもりなのだろうか?0円にしたら、水を無駄遣いする輩が出てくるけど、どう対処するの?性善説を信じて、皆が無駄遣いしないことを信じる?子育て支援医療証の二の舞になるつもり?水道局員として公務を執行する立場上、選挙に当選したいだけの議員みたいな夢を語ってはならん。なんだか最終的に、政治家や自治体を叩きたい思想を持った方々が喜びそうな締め括りだったな…。そんな理論を結論に持ってくるなよ(怒)「問題提起を掲げる映画の作品は、製作者側のアンサーを出さないとダメ」と口酸っぱく発言する評論家が結構いるけど、本作こそが結論を出さなくて良いはずだった作品の例です。ラスト10分くらい前は年間ベスト級。ラスト10分くらいは年間ワースト級。ベストとワーストが入り混じる稀有な問題作。だが、これを観た者がどのような政治的思想を持っているのかを炙り出すには丁度良い。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

怪物

(C)2023「怪物」製作委員会

公 開 日  :6月2日

ジャンル:ドラマ

監 督 :是枝裕和

キャスト:黒川想矢、柊木陽太、安藤サクラ永山瑛太高畑充希角田晃広中村獅童、田中裕子 他

 

概要

 『海街diary』や『三度目の殺人』といった名作を生み出し、『万引き家族』でカンヌ国際映画祭最高賞パルムドール賞に輝いた是枝裕和監督。『花束みたいな恋をした』やTVドラマ『大豆田とわ子と三人の夫』などで圧倒的な人気を博す脚本家の坂元裕二さん。『ラストエンペラー』や『レヴェナント:蘇りし者』などの音楽を担当し、国内だけでなく海外の第一線でも活躍した音楽家坂本龍一さん。数々の名作を手掛け続けてきた監督・脚本家・音楽家が映画史上最大とも言える奇跡のコラボレーションを果たして、新たな名作が誕生した。また、是枝監督は坂元さんを「今一番リスペクトしている」と語り、今作が初のタッグとなった。

 出演は、安藤サクラさん、永山瑛太さん、田中裕子さんら変幻自在な演技で観る者を圧倒する実力派と、2人の少年を瑞々しく演じる黒川想矢さんと柊木陽太さん。その他、高畑充希さん、角田晃広さん、中村獅童さんなど多彩な豪華キャストが集結する。

 タイトルにもなった「怪物」とは何なのか。登場人物それぞれの視線を通した「怪物」探しの果てに、何が見えてくるのか。その結末に心揺さぶられる、圧巻のヒューマン・ドラマ。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 大きな湖のある郊外の町。息子を愛するシングルマザー、生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。とある学校内で起きた出来事は、よくある子供同士のケンカに見えた。しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、大事になっていく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 学校で起きた事件を親・教師・児童の視点から映し、次第に浮かび上がる「怪物」とは何たるかを描いたヒューマン群像劇。

 「怪物」とは主観で築き上げた虚像であり、無意識に他人を傷つけている可能性であることが改めて分かる作品。自分が目を向けてない箇所や他人に対して「こうあって欲しくない」という拒絶等をかき集め、自分自身で相手を「怪物」だとラベリングしてないかと人類に提起している。そして、そうやってラベリングしてる自分自身が他人から「怪物」だとラベリングされ、誰もが被害者兼加害者の立場に成り得ることを描いている。

 事の真相に関しては「まだ、そういう使い古されたネタ使うの?」と見えてしまうが、前時代的な大人がいる以上、現代社会の問題として後出しする意味はあった。本作で事の発端となるのは子供たちで、子供に向けた映画ではあるが、手を差し伸べるはずの大人が価値観をアップデート出来てない問題があるため、本作は大人に向けた映画である。

 画の作りが見事。夏の暑さやちょっとしたアイテム、登場人物の主観によって見方が変わる等、細部にまで緻密に構成する徹底ぶりである。

 出演陣の演技が見事。子供思いだけど前時代的な母を演じた安藤サクラさん。学校の圧力と自分の無自覚さに葛藤する先生役の永山瑛太さん。自身の主観ばかりに陥ってる前時代的な父役の中村獅童さん。死んだ目をして生活感が見えてない校長役の田中裕子さん。そして、本作が掲げるテーマに子供の視点で分かり合おうとする児童役の黒川想矢さん&柊木陽太さん。キャストの好演が登場人物それぞれの主観を作り上げており、色濃く心に残る作品に仕上がった。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

ウーマン・トーキング 私たちの選択

(C)2022 Orion Releasing LLC. All rights reserved.

公 開 日  :6月2日

ジャンル:ドラマ、伝記

監 督 :サラ・ポーリー

キャスト:ルーニー・マーラクレア・フォイジェシー・バックリー、ジュディス・アイビ、シーラ・マッカーシー、ミシェル・マクラウドベン・ウィショーフランシス・マクドーマンド

 

概要

 ミリアム・トウズが執筆し、2018年に出版された小説『WOMEN TALKING』。その内容は、2005年から2009年にボリビアで実際に起きた事件を基に描き、自らの尊厳を守るために語り合った女性たちの感動の物語。本作はベストセラーとなり、NEW YORK TIMESブックレビュー誌の年間最優秀書籍に選ばれた。その小説を『死ぬまでにしたい10のこと』等に出演、『アウェイ・フロム・ハー君を想う』で監督と脚本家としてデビューして数々の賞を受賞したサラ・ポーリーが監督と脚本を務めて映画化。2023年のアカデミー賞前哨戦では脚色賞を数多く受賞した本作は、アカデミー賞で作品賞・脚色賞の2部門にノミネート。脚色賞を受賞し、サラ・ポーリーは初のオスカーを手にした。

 主演はアカデミー賞で2度のノミネートされたルーニー・マーラ。その他、ドラマ『ザ・クラウン』で主演女優賞・最優秀ゲスト女優賞と2度エミー賞を獲得したクレア・フォイ。『ロスト・ドーター』でアカデミー賞にノミネートされたジェシー・バックリー。ダニエル・クレイグ版『007』シリーズでQ役を務めたベン・ウィショーアカデミー賞常連の名女優フランシスマクドーマンドといった、そうそうたるメンバーが出演。フランシス・マクドーマンドにおいてはプロデュースも担当。さらに、制作会社は『ムーンライト』や『ミナリ』を生み出した「PLAN B」であり、会社を率いる名優ブラッド・ピットが制作に携わっている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 時は2010年。自給自足で生活するキリスト教一派の村では連続レイプ事件が発生していた。これまで村の女性たちは、そのレイプを「悪魔の仕業」「作り話」であると男性たちから否定されていた。だが、ある日それが実際にレイプだったことが明るみになる。真実を知り尊厳を奪われた女性たちは自らの未来を懸けた話し合いを行う。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 レイプが横行する村において、女性たちが自分たちの今後を討議し、レイプを容認するか、闘いに挑むか、村を出ていくかの結論を導き出す寓話。

 レイプが発端ゆえに男尊女卑といった社会問題が皮切り。男性による性差別の有害性。(レイプ手段が鬼畜の所業。)女性による性差別の容認。他の作品でも繰り返し描かれる性行為の強要が本作でも浮き彫りとなる。だが、本作はそれだけではない。支配と権力を生み出す宗教の構造。男尊女卑を継承させたり、男尊女卑に反抗する機会を奪ったりする教育格差。それらの問題を権力者が容認してしまう排他的な村社会。発端のレイプから女性たちの討論を経て、現代社会でも続く複数の社会問題へ派生させる広がりを見せる脚本の構成が見事。1つの社会問題をピックアップしても他の社会問題と数珠繋ぎになってるのではと思った。

 ラストに女性たちが下す決断に賛否あるが、ひとまず、この決着で良いと個人的には思ってる。女性たちの今後がノープラン過ぎると意見はあるが、文字すら読めないレベルで教育が行き届いてない女性たちだから決断としては妥当。むしろ、この決断をしてしまうからこそ、逆に教育の必要性を感じたところである。また、現実問題で学校や社会であまりにも有害な目に遭った際は、多くの方々が一旦、女性たちと同様の決断をする確率が高いので、普遍的な決断だと思ってる。

 個人的だけど、クレア・フォイジェシー・バックリーの見分けがつきません(笑)

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

リトル・マーメイド

(C)2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

公 開 日  :6月9日

ジャンル:アニメ実写化、ラブ・ロマンス、ミュージカル

監 督 :ロブ・マーシャル

キャスト:ハリー・ベイリー、ジョナ・バウアー=キング、ダビード・ディグス、オークワフィナ、ジェイコブ・トレンブイ、ハビエル・バルデムメリッサ・マッカーシー

 

概要

 『美女と野獣』や『アラジン』を手掛けたディズニーが、あの不朽の名作『リトル・マーメイド』を全世界待望の実写映画化。世界中から愛され続けている人魚姫アリエルを演じるのは、期待の新人ハリー・ベイリー。アカデミー賞に輝く「アンダー・ザ・シー」などで知られるディズニー音楽のレジェンドことアラン・メイケンと『モアナと伝説の海』の楽曲を手掛けたリン=マニュエル・ミランダの黄金コンビにより、ディズニー・ミュージカルの新たなる金字塔が誕生する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 美しい歌声を持ち、人間の世界に憧れている人魚姫アリエル。掟によって禁じられているにも関わらず、ある日、彼女は人間の世界に近づき、航海中に嵐に巻き込まれた人間の王子エリックを救う。この運命の出会いによって、人間の世界に飛び出したいというアリエルの思いは、もはや抑えきれなくなる。そんな彼女に、海の魔女アースラが近づいてくる…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 人間に興味を持ち、人間の王子に恋焦がれた人魚姫が陸地の人間界に行くことを夢見るラブ・ロマンス&ミュージカル。 美しい海底に響き渡る歌声と動き回る海洋生物が躍動感に満ち、それに乗せて、親子・環境・異人種などの問題も盛り込んだ王道と普遍性の作品。

 海底の表現が素晴らしい。『アバター』が水辺の水面と水中にこだわるなら、深海に位置する海の底。単純にキレイな水を映すのではなく、海底の仄暗さを映し、水表現の王『アバター』とは差別化された。また、小魚1匹・海草1本・珊瑚のヒダ1つ・人魚たちの髪の動き方など、細部に渡って作り込みがあり、海底に広がる世界が鮮明に広がっている。その世界下でアリエルが海洋生物と一緒に絡み合いながら披露するミュージカルは躍動感に満ちているし、幻想感もある。 ただ、海底をリアルに表現した仄暗さで地形やキャラの表情が見づらい時もあり、諸刃の剣にもなっている。でも、海底だから仕方なし。

 アリエル役のハリー・ベイリーについて、本業が歌手のためか演技がイマイチ。表情が硬くて視覚情報から感情が伝わりにくい。日本語吹き替えにすると、表情は硬いのに声だけは若い女性らしくキャッキャしてるからアンバランス。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

M3GAN ミーガン

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

公 開 日  :6月9日

ジャンル:ホラー、SF

監 督 :ジェラルド・ジョンストン

キャスト:アリソン・ウィリアムズ、バイオレット・マッグロウ、エイミー・ドナルド、ロニー・チェン、ブライアン・ジョーダン・アルバレス、ジェン・バン・エップス 他

 

概要

 『ソウ』・『死霊館』・『アナベル』シリーズで知られる巨匠ジェームズ・ワンと、『ハロウィン』シリーズや『透明人間』を世に送り出したジェイソン・ブラム率いるブラムハウスが待望の再タッグ。心に傷を負った少女の親友になるようプログラムされたAI人形「ミーガン」の行き過ぎた愛情と狂気を描く、制御不能なSFホラーを生み出した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 おもちゃ会社の優れた研究者であるジェマは、子供にとって最高の友達であり、親にとって最大の協力者となるようにプログラムした、まるで人間のようなAI人形M3GAN(ミーガン)を開発。ある日、両親を事故で無くして孤児となった姪のケイディを引き取ることになったジェマは、ミーガンに「あらゆる出来事からケイディを守るように」と指示して力を借りるが、その決断は想像を絶する事態を招くことになる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 いずれ訪れるAIとの共生社会に対する警鐘。間違いなく映画ファンから愛される、新たなホラーアイコンの誕生。近未来の家庭とホラー映画史に足跡を残し、存在感を放つ魅力的な作品である。

 本作の登場人物たちが言及するAI技術の発展は2020年代初頭の時代性を感じさせる。AIとの共生社会に向けてロボットの技術開発が進行中である2020年代だからこそ考えつくAIの暴走と恐怖が本作にあり、きっと数10年の時を経たAI社会時代にて本作を観た者は「2020年の人々は家庭用AIがこんな風になると考えていたのか」と思うだろう。また、2021日本公開のジェームズ・ワン監督作『マリグナント 狂暴な悪夢』の脚本を執筆したアケラ・クーパーだけあって、怖がらせることよりもストーリーの展開や設定の理屈による面白さが第一になっている。後半になるほど面白さを引き上げ、『マリグナント 狂暴な悪夢』でやったように終盤でスタイル・チェンジしてメインキャラのアクションを際立たせている。相変わらずの盛り上げ上手である。

 本作で特筆すべき点はAI人形のミーガンである。デザイナー、人形技師、ミーガンを演じたエイミー・ドナルドの叡智が結集されている。デザイン面では、外見が人形と人間の中間に位置するような見た目となっており、人形として不気味に認識しながらも人間の生活に溶け込める造形となっている。終盤に差し掛かると、クレヨンしんちゃんに出てきそうな笑えるビジュアルを披露する(笑)ロボット感を出す動作をする際には、人形技師たちの合わせ技が光る。顔のパーツを遠隔操作する担当者。身体に着けた針金で動かす担当者。数人の人形技師たちがロボットらしさやミーガンの可愛げを生んでいる。そんな人形技師たちを用いても作り物の人形には限界があり、人間に近い動きは子役のエイミー・ドナルドが見事な身体能力で体現している。基本的に動作は無加工であり、公開前に披露されて話題となったキレキレなミーガン・ダンスもエイミー自身が踊っている。しかも、エイミーはダンスの世界大会で優勝した経験があり、無加工でロボット風ダンスに落とし込んでいる。デザイナー、人形技師、エイミーが各々でミーガンに息を吹き込み、見た目の不気味さと可愛げあるモーションによって、新たなホラーアイコンとして位置付けられるよう魅力を引き出している。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

逃げきれた夢

(C)2022「逃げきれた夢」フィルムパートナーズ

公 開 日  :6月9日

ジャンル:ドラマ

監 督 :二ノ宮隆太郎

キャスト:光石研、吉本実優、工藤遥、坂井真紀、松重豊

 

概要

 2012年に『魅力の人間』で第34回ぴあフィルムフェスティバル・PFFアワード2012で準グランプリを受賞、2017年に『枝葉のこと』で第70回ロカルノ国際映画祭・新鋭監督コンペティション部門に選出された二ノ宮隆太郎さんが監督兼脚本を務めたヒューマン・ドラマ。本作のシナリオで2019フィルメックス新人監督賞でグランプリを受賞して映像化が実現し、本作で商業デビューを飾る。撮影を担当するのは『ドライブ・マイ・カー』の四宮秀俊さんであり、二ノ宮さんの前2作に続くタッグとなる。主演は『あぜ道のダンディ』以来、12年ぶりの単独主演となる光石研さん。二ノ宮さん自身が光石さんをリスペクトして脚本をアテ書きし、さらには光石さんの新星を取材して、そのエッセンスを物語に注入した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 北九州で定時制高校の教頭を務める末永周平。記憶が薄れていく症状に見舞われ、元教え子が働く定食屋では食べた後に支払いをせずに店を出て行ってしまう。これまでのように生きれなくなった周平は、これまでの人生を見つめ直すために周囲の人間関係を考え直す。妻の彰子との仲は冷え切り、一人娘の由真は父親の相手をするよりスマホをいじってる方が楽しい様子。旧友の石田との時間も大切にしていない。周平は人間関係を再構築しようとするのだが…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 オモんない…。なぜなら、本作はオモんないオッサンの実態と再起を長回しで捉え、オモんない人間とは何たるかを提示しているから。それ故、オモンないことこそ本作の面白さ。このオモんない面白さは傑作級。だが、残酷。自分自身も主人公のオッサンと同様にオモンない人間なのか?それとも、オモンない人間に向かっているのだろうか?そう問われるような気がしており、見過ごせない生き方が本作に凝縮されている。反面教師的な傑作。

 主人公ことオモンないオッサンを演じた光石研さんが素晴らしい。本当にオモンない。会話の話題は、常に「◯◯さんがこうなった」といった他人の身の上話。会話の話題に対し、相手の興味を計測できない。女性に対するデリカシーなき発言や質問の数々。教師を勤めたが故に癖になった、他人への無責任なアドバイス。会話の研究をせずに生きてきた人間のオモんなさが集約されている。劇中の設定で59歳の教師となっており、物心ついた時からオモンなさを積み重ねてきたのだろうと思うほど、生きたキャラクターを体現していた。反面教師の存在となっており、他人との接し方を見つめ直させてくれる。

 カメラの長回しが残酷。光石研さん演じるオモんないオッサンを追尾し、秒単位で「この人は、このようにオモんない時間の積み重ねをしてきたんだよ」と晒している。主人公のオモんなさを見せるのに拍車を掛けている。その長回しの中で、オモんないオッサンの命を灯し続けた光石研さんの技量も凄い。

 公立の定時制教師という設定も残酷。リストラはない。ノルマはない。それらがない以上、無責任なアドバイスが出来るメカニズムが生まれやすい。成果やクビが問われない以上、アドバイス後に面倒を見る義務がない。そのため、アドバイスを言って終わりといった一方的な関係性を生徒と築きやすい。その結果、持論を語るだけの教師となり、生徒との会話は成り立たず、会話力の向上が見込めない。こうした重なりが持論ばかりのオモンない人間へと歩を進める。

 オモんない人間は家族を初めとした利害関係のない人物たちから距離を置かれていく現実も残酷。加えて、利害関係のある職場の人間は変わらずに接してくれるから「自分を相手にしてくれる人がいる」と自分のオモんなさに気付かずに時間が過ぎゆくのも傍から見れば残酷である。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

テノール!人生はハーモニー

(C)2021 FIRSTEP - DARKA MOVIES - STUDIOCANAL - C8 FILMS

公 開 日  :6月9日

ジャンル:ドラマ

監 督 :クロード・ジディ・Jr

キャスト:MB14、ミシェル・ラロック、ギョーム・デュエム、マエバ・エル・アロウシ、サミール・デカザ、マリー・オペール、ルイ・ド・ラビニエール、ロベルト・アラーニャ

 

概要

 『エミリー、パリへ行く』、『マンマ・ミーア!ヒア・ウィ・ゴー』の製作者が贈る、人生の新たなステージを駆け上がる青年とオペラ教師による感動のヒューマン・ドラマ。たった一つの出会いが人生を変え、誰にでも訪れる奇跡を描かれる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 芸術の中心地であるフランスのパリ。寿司屋でアルバイトをして生計を立てている青年アントワーヌは日々、一緒に暮らす兄貴の言いつけから会計学を勉強し、地区対抗のラップバトルに励んでいた。

 ある日、アントワーヌが寿司屋でバイトをしているとオペラを学ぶ者たちが集うオペラ座ガルニエ宮から配達の依頼が届く。配達に向かうと、1人の生徒がアントワーヌをからかってきたため、その場のノリでアントワーヌは得意のラップとオペラの真似事で仕返しをする。あまりの美声であり、その歌声を聴いて惚れ込んだオペラ教師のマリーは、アントワーヌのバイト先に押しかけて猛スカウト。アントワーヌはオペラに興味を持ち、マリーからレッスンを受けていくが、そこには前途多難が待ち構えていた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 シンプルかつシャープで見やすく感動的な作品。兄貴と地域に縛られてラップと会計学に励むだけだった日々故に、オペラという真にやりたいことに出会って励んだ結果で巻き起こる人間関係のバランス変化や生活リズムの不調といった普遍的な葛藤を描いている。本気の夢を持ったら、夢以外に時間を割くのが惜しくなる。自身で時間の調節を出来ればよいが、家族や地域が課してくる義務があると簡単ではない。夢を持つことは夢を果たす為の時間が必要であり、夢は1日を短くさせて意外と暇を消失するのが主人公を通して分かる。

 ラッパーからオペラ歌手になる、ということで才能を横断する作品に思えてしまうが、内容はそうでもない。主人公が偶然にもオペラと出会うことで新たな人生が始まるという観点から、「まずは、やってみようぜ!」という心意気と「偶然に出会ったものが自分に合ってると思ったんだろ?じゃあ、それを運命だと信じてやってみようぜ!」という"やりたいこと探し"の見つけ方やモチベの継続方法が本作の主旨と思える。なので、「やりたいことがないな〜」と悩んでいる方は本作を観て、偶然にも手にしたもので少しでも楽しければ、まずは続けてみるのが良いのではないでしょうか?おそらく、その際には本作の主人公と同様に人間関係が変化したり時間に追われたりと生活リズムの不調が生じるかもしれないが、やり続ける過程で他人の理解を得たり時間の配分を覚えたりしていけば人生に磨きがかかるのではないでしょうか?

 歌を題材にしてるだけあって俳優陣の歌声が心地よい。本物のテノール歌手も起用しており、歌声に対する余念がない。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

忌怪島

(C)2023「忌怪島 きかいじま」製作委員会

公 開 日  :6月16日

ジャンル:ホラー

監 督 :清水崇

キャスト:西畑大吾生駒里奈平岡祐太、水石亜飛夢、川添野愛、祷キララ、笹野高史、當真あみ、山本美月

 

概要

 「恐怖の村」シリーズに続く、清水崇監督作品。今度は”村”ではなく”島”を舞台に、現実世界と仮想世界を行き来するといった奇抜なホラー作品となっている。

 

あらすじ

 未だシャーマンが棲む島。この島ではVRを研究している「シンセカイ」と呼ばれるチームが存在している。だが、不可解な怪奇現象が起こり、メンバーが突然の死を迎えてしまう。脳科学者の片岡友彦はその島を訪れ、「シンセカイ」のメンバーと、島に在住して亡くなった父の遺骨を取りに来た女性・園田環と合流し、怪奇現象の解明に乗り出す。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 アイディアが斬新。ホラー映画の劇中媒体と言えばビデオが印象的だが、とうとうVRにまで手を伸ばした。現実とバーチャルを股にかけ、恐怖が行き来する新機軸を生み出した。

 ジャンプスケア等の驚かす系の恐怖演出は極小。ホラーが苦手な方には優しく、ホラー好きにとっては物足りない。前半はビジュアル的な怖さが抑えめであり、ナチュラルにジト〜ッと恐怖を染み込ませる。後半からは急にビジュアル的な怖さでクライマックスを仕掛けてくる。視覚で嫌悪感を刺激される。

 とはいえ、本作は問題が多く、観ていて楽しさを刺激する箇所が狭い。

 西畑さん演じる主人公が何者なのか明確な印象付けをしない。断片的にボソッとセリフで片付けられてしまい、天才脳科学者という肩書きに説得力がない。あらすじを事前に読んでないと、「主人公は何者なの?」や「Youは何しに島へ?」が冒頭から数十分も付き纏って置いてけぼりを喰らう。

 主人公が所属するVR研究チームのメンバー4人の人物像が定まってない。重要人物ではないけど、劇中、性格や雰囲気が伝わらない人物を4人も見続けるのは退屈。また、人物像が定まっていないためか、メンバー4人を演じるキャストの演技が乗り切っておらず、セリフが棒読みに聞こえてしまう。メンバーの構成が男女それぞれ2名ずつなら、同性間で性格が正反対の人物を用意すれば差別化が出来たはず。

 作品の要となっているバーチャル空間の仕組みやVR研究チームの概要および目的についての説明も印象付けをしてない。冒頭から置いてけぼりを喰らう。主人公やチームのメンバーから断片的にボソボソまたは棒読みで語たられるくらいなら、最低でも冒頭で主人公がナレーションで語れば少しでも多く印象付いたはず。そうすれば、物語の導入で鑑賞者の心をもっと掴めたはず。

 本作のMVPは祷キララさん。『サマーフィルムにのって』でキュートな剣道少女ブルーハワイを演じたキララさんが凄惨な立ち回りを見せてくれるとは思いもよらなかった。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計10個

 

スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース

(C)2023 CTMG. (C) & TM 2023 MARVEL. All Rights Reserved.

公 開 日  :6月16日

ジャンル:アニメ、アメコミ

監 督 :ホアキンドス・サントス、ケンプ・ハワーズ、ジャスティン・K・トンプソン

キャスト:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、ジェイク・ジョンソン、ジェイソン・シュワルツマンオスカー・アイザック小野賢章(日本語吹き替え版)、悠木碧(日本語吹き替え版)、宮野真守(日本語吹き替え版)、鳥海浩輔(日本語吹き替え版)、関智一(日本語吹き替え版) 他

 

概要

 コミックがそのまま動き出したような革新的映像表現と「誰でもスパイダーマン=ヒーローになれる」というメッセージが高く評価され、アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞した『スパイダーマン:スパイダーバース』。マーベル映画の中で初めて本格的にマルチバースを描いた作品として全世界を熱狂させ、「スパイダーマン映画史上の最高傑作」とも評された。続編となる本作では、ユニバースごとに異なるアニメーションスタイルを取り入れるなど、前作を遥かに超えるスケールで新たな伝説をつくる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 ピーター・パーカー亡きあと、スパイダーマンを継承した高校生マイルス。共に戦ったグウェンと再会した彼は、様々なバースから選び抜かれたスパイダーマンたちが集う、マルチバースの中心へと辿り着く。そこでマイルスが目にした未来は、愛する人と世界を同時に救えないという、かつてのスパイダーマンたちが受け入れてきた哀しい定めだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 前作より大ボリュームの続編。マルチバースの網が広がり、多種多様な見た目と能力を持ったスパイダーマンが大集結。大量に出現して縦横無尽に飛び回るスパイダーマンを目で追うことに眼福を覚える。これはアニメならではの味わい。

 アニメ表現もパワーアップ。前作同様、アメコミ原画を美麗なグラフィックで彩った絵はもちろんのこと、絵画・水彩画・紙に書いたようなペンタッチな絵も加わった。豊富な表現技法を違和感なく適材適所で使い分け、更なる映像体験を築き上げた。2023年のアニメ作品の中でも屈指の表現力となろう。

 物語としては、親子がテーマになっている。子供の将来設計を定める際、意外と親は子供を分かってないものである。子供は親に「こうなりたい」と言えない。そのことが「自分=スパイダーマン」だとカミングアウト出来ない主人公と重なり、子供を知らない親と親に自身を伝えてない子供のジレンマを普遍的に描いてる。

 また、マルチバースの網が広がり、スパイダーマンとしての運命を受け入れた少年がスパイダーマンの運命をブッ潰し、自分の運命を切り開こうとする革命譚でもある。前作は「スパイダーマンの孤独」を解消するためのマルチバースだったが、本作は「スパイダーマンの運命」の解消を試みてる。続編にストーリーが持ち越されるので、どのような決着に収まるか非常に気になる。

  圧倒される映像表現。子供の将来を考える親子の物語。そして、アンチ・スパイダーマン的な物語。2023年を代表するアニメ映画の傑作である。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

ザ・フラッシュ

(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved (C) & TM DC

公 開 日  :6月16日

ジャンル:アメコミ

監 督 :アンディ・ムスキエティ

キャスト:エズラ・ミラーマリベル・ベルドゥ、ロン・リビングストン、サッシャ・カジェ、マイケル・シャノンマイケル・キートンベン・アフレック

 

概要

 バットマン、スーパーマンなど数々の傑作ヒーロー映画を生み出してきたDCが、満を持して放つ最新作。ジェームス・ガン、トム。クルーズらが大絶賛、ヒーロー映画史上最高傑作との呼び声も高く、今後は壮大なスケールで展開していく「DCユニバース」の起点になるという超重要作がついにベールを脱ぐ。

 フラッシュを演じるのは『ジャスティス・リーグザック・スナイダーカット』に引き続き、エズラ・ミラーバットマンは『バットマンVSスーパーマン ジャスティスの誕生』からベン・アフレックが続投。スーパーガールは、400人以上の候補者の中から選ばれた新鋭サッシャ・カジェが演じる。『マン・オブ・スティール』でゾッド将軍を演じたマイケル・シャノンが同役でカムバック。そして、別次元のバットマンを1989年公開の『バットマン』および1992年公開の『バットマン リターンズ』でバットマンを演じた名優マイケル・キートンが約30年の時を経てDC世界に帰って来る。

 監督は『IT/イット』2部作を大ヒットに導いた鬼才アンディ・ムスキエティ。劇場長編4作目にして初のスーパーヒーロー超大作に挑戦する。

 ※劇場販売のパンフレットより引用および抜粋

 

あらすじ

 バットマン、スーパーマンらと共に、ヒーローチーム「ジャスティス・リーグ」の一員として活躍する地上最速のヒーロー・フラッシュことバリー・アレン。バリーは幼い頃、母・ノラが何者かに殺害され、父・ヘンリーがノラ殺害の容疑者として無実の罪で投獄された過去を持ち、心に深い傷を負っていた。バリーは「母にもう一度会いたい。父の無実を証明したい」という強い思いが抑えきれなくなり、時空を超えられる自らの能力を使って過去に遡ることにした。母が殺害された日に到達したバリーは母の死を回避するが、現在に戻ろうした矢先、突如として現れた謎の影に妨害され、別次元へと弾き出されてしまう。そこでバリーはなんと、自分よりも少し若い18歳のバリーに遭遇する。自分の行動が時空を歪めてしまったと気づいたバリーは、元の世界に戻るため、もう1人のバリーの解決策を練る。しかし、強大な事件へと巻き込まれていく。

 ※劇場販売のパンフレットより引用および抜粋

 

感想

 地上最速のヒーローことフラッシュが、殺害された母と無実の罪に問われた父を救済するため、過去へタイム・トラベルするヒーロー映画。

 スピードを活かしたアクションの見せ方が良い。フラッシュの高速能力は現実的に見れば緩急の「急」だけだが、速すぎてスローに見えるフラッシュの視点で「緩」を作り出し、スローモーション演出でユーモア溢れる能力の見せ方となっている。

 本作もアメコミ映画御用達のマルチバースを用いており、使い方は並行世界との均衡。『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』と同じ問題を取り上げてるが、結論は対極。スパイダーマンは運命の破壊に対して、本作は運命の受容である。全てを悟った先にフラッシュが決断を下す行動には感涙。時空を超えたシチュエーションにある感動ポイントを押さえている。

 マイケル・キートンバットマンが復活するとはいえ、ティム・バートン版の予習は不要。『マン・オブ・スティール』

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

忍風戦隊ハリケンジャーでござる! シュシュッと20th Anniversary

(C)2023東映ビデオ・東映AG・バンダイ東映 (C)東映

公 開 日  :6月16日

ジャンル:特撮、時代劇

監 督 :渡辺勝也

キャスト:塩谷舜、長澤奈央山本康平白川裕二郎姜暢雄陽月華

 

概要

 『忍風戦隊ハリケンジャーTVシリーズから20年。『劇場版 忍風戦隊ハリケンジャー シュシュッとTHE MOVIE』から10年。まさか、まさかの20周年で新作オリジナル作品が誕生。なんと今回の舞台は江戸時代。ありそうでなかった時代劇設定で「ハリケンジャー=忍者」のコンセプトが東映・京都撮影所の手によって実現した。メインキャストが再び集結し、現代と江戸時代のキャラクターを一人二役で熱演、時空を超えたヒーローを体現する。キャスト自ら演じるスピーディーで華麗な忍法アクションも必見。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 時は江戸時代、無限斎に仕える疾風流の忍者・鷹之介、なみ、吼太郎たちと迅雷流の一角、一牙の前にウラ七本槍のオイランダとアウンジャが出現。一角と一牙が護衛する照姫が襲われる。オイランダとアウンジャの目的は照姫が持つ「天翔石」と呼ばれる強大な力を秘めた石であり、その力を使って世界を破滅させる計画を立てていた。果たして、疾風流と迅雷流の忍者たちはオイランダとアウンジャの野望を止めることが出来るのか…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 お馴染みのガジェットからお馴染みの攻撃を見られてノスタルジーを感じ取れるし、ハリケンレッドの新コスチュームによる新たなビジュアルを堪能することが出来る。

 当時のキャストがそのまま演じ、実年齢(およそアラフォー)に合わせた中年たちの成長譚となった。かといって、ちゃんと子供たちも楽しめるファミリー映画となっている。侍または忍者の映画のツキモノとなっている「矜持の為に死を選ぶ」といった人命軽視をちゃんと否定している点が◎。また、困っていたら互いに助け合うといった普遍的な団結も子供たちに良い教育になったことでしょう。

 変身ナシの戦闘シーンが多い。なので、スーツアクターの方ではなく、生の俳優陣が縦横無尽に駆け巡るアクションを堪能できる。完全に時代劇。なんと、この映画1つで特撮と時代劇の2つの殺陣を楽しめる。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

カード・カウンター

(C)2021 Focus Features. A Comcast Company.

公 開 日  :6月16日

ジャンル:ドラマ

監 督 :ポール・シュレイダー

キャスト:オスカー・アイザックティファニー・ハディッシュ、タイ・シェリダン、ウィレム・ディフォー 他

 

概要

 『タクシードライバー』、『レイジング・ブル』など、これまで数々の傑作を手掛けたポール・シュレイダーが監督と脚本を務め、ポールの盟友である巨匠マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めたドラマ。ポールが脚本を務めたロバート・デ・ニーロ主演の『タクシードライバー』や、監督を務めたイーサン・ホーク主演の『魂のゆくえ』と同様に、本作でも怒りと罪の意識に苛まれる孤独な男の魂が描かれる。

 主人公ウィリアム・テル役に『DUNE/デューン 砂の惑星』に出演したオスカー・アイザック。主人公と行動を供にするギャンブル・ブローカーのラ・リンダ役に人気番組『サダデー・ナイト・ライブ』で、アフリカ系アメリカ人として初めてホストを務めたティファニー・ハディッシュ。主人公と疑義親子のような関係を結ぶ若者カークを『レディ・プレイヤー1』のタイ・シェリダン。さらに物語のカギとなる主人公の元上司ジョン・ゴードを名優ウィレム・ディフォーが務め脇を固める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 ギャンブラーであるウィリアム・テルは元アメリカ軍兵士でイラク戦争に派遣されていたが、作戦中に罪を犯して米国刑務所で10年間服役していた。服役中に独学で「カード・カウンティング」と呼ばれるカードゲームの勝率を上げる裏技を学び、出所後はカジノを渡り歩いて生計を立てていた。腕はあるものの「小さく賭けて小さく勝つ」をモットーを信条に、目立たないようにしていた。

 ある日、ウィリアムはギャンブル・ブローカーのラ・リンダと出会い、大金が稼げるというポーカーの世界大会への参加を持ち掛けられる。さらにその直後、2人の男と遭遇する。1人は、かつて軍人時代の自分に消えない罪を背負わせた元上官ジョン・ゴード。もう1人は、ゴードに恨みを持ち、供に復讐を持ち掛ける若者カークだった。ラ・リンダとカークとの運命的な出会いによって、謎につつまれたウィリアムの人生が徐々に明らかとなり、人生を賭けた復讐と贖罪のゲームの終章が幕を開ける。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 イラク戦争時に起きていた、アブグレイブ刑務所における捕虜虐殺事件が背景にある作品。その当時に捕虜を拷問した罪悪感と憤怒を隠し持つ主人公の機微をポーカーフェイスのオスカー・アイザックがシャープに画面へ残していく。そして、ポーカーフェイスから徐々に表情の変化を見せ、人間として感情に突き動かされる変遷を体現する。また、カードを操作する手つきがスムーズかつスタイリッシュ。本物のカードのプロに見える。もはや、オスカー・アイザックの演技を眺めるだけで十分である。

 出番は少ないがウィレム・デフォーが存在感を残す。『スパイダーマン』や『ライトハウス』といい、益々、悪に染まるキャラクター性が似合っている。

 正直、本作のストーリーがあまり面白いとは感じなかった。主人公が捕虜虐殺事件の贖罪を抱えて向き合うシンプルなストーリーなのだが回りくどい。会話のセリフが長い影響かもしれんが、字幕の端折り感が強い。ざく切りの単語と話し言葉をくっつけられ、ダイレクトにストーリーが頭に入ってこなかった。その上、ストーリー自体が複雑でも難解でもないため、回りくどいとしか言いようがない。難しいことを簡潔にすることは良いことだが、その逆はダメ。あと、演出が淡々としてるため、オスカー・アイザックの動作が少なくなると退屈になる。そもそも、意味はあるのか不明だが、なぜ現在の主人公の職業をギャンブラーにしたのかは最後まで分からなかった。

 総論すると、捕虜虐殺事件の暗部を知り、オスカー・アイザックの演技を嗜む作品。ストーリーは回りくどいが、オスカー・アイザックの好演が鑑賞意欲を保ち続け、なんやかんやで最後まで見届ける。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

青いカフタンの仕立て屋

(C)Les Films du Nouveau Monde - Ali n’ Productions - Velvet Films – Snowglobe

公 開 日  :6月16日

ジャンル:ドラマ

監 督 :マリヤム・トゥザニ

キャスト:ルブナ・アザバル、サーレフ・バクリ、アイユーブ・ミシウィ 他

 

概要

 モロッコの伝統的な民族衣装であるカフタンを作る仕立て屋にスポットライトを当て、さらには戒律と法律により異性愛しか許さないモロッコ社会の下で芽生える同性愛を題材とした作品。

 センシティブな問題を踏まえた本作は、2022年カンヌ国際映画祭「ある視点部門」に出品され、国際映画批評家連盟賞を受賞。さらに、2023年アカデミー賞ロッコ代表として国際長編映画賞に選出され、国際的に高い評価を受けている。

 監督は『モロッコ、彼女たちの朝』のマリヤム・トゥザニであり、同作に出演したルブナ・アザバルが仕立て屋の妻・ミナとして主演を務める。さらに、『迷子の警察楽隊』のサーレフ・バクリがルブナと共に仕立て屋ハリム役として同じく主演を務める。そして、若手俳優のアイユーブ・ミシウィが仕立て屋の助手ユーセフとして映画初出演を飾る。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 父から受け継いだ仕立て屋で、極上のカフタンを制作する職人のハリム。昔ながらの手仕事にこだわる夫を支えるのは、接客担当の妻・ミナだ。25年間連れ添った2人に子どもはいなかった。積み上がる注文をさばくために、2人はユーセフと名乗る若い男を助手に雇う。余命わずかなミナは、芸術家肌の夫を1人残すことが気がかりだったが、筋がよく、ハリムの美意識に共鳴するユーセフの登場に嫉妬心を抱いてしまう。湧き出る感情をなだめるように、ミナは夫に甘えるようになった。ミナ、ハリム、そしてユーセフ。3人の苦悩が語られる時、真実の愛が芽生え、運命の糸で結ばれる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 刺繍職人の如く、丁寧かつ精微な作品。前半は建前の言動や登場人物の目線等による本音を胸に隠す様相を、後半は妻・ミナの命のタイムリミットが迫るにつれて皆の本音が漏れ出す様相を至近距離で映し、必要最低限のセリフと動きだけで登場人物の内面を体現したキャスト陣の演技により丹精が込められた仕上がりになっている。

 夫婦を越え、雇用の関係を越えた主要人物3人の強固な絆には特別な感慨深さがある。何と言っても刺繍を題材にしただけに、登場人物の手つきを映す描写が良い。布に針を通す手つき、愛する者へ触れる手つきが繊細であり、温もりが刷り込まれてくる。特に妻のミナが夫のハリムの左胸を執拗以上に触りまくるのが情熱的であり、後半で触りまくる理由が明かされて腑に落ち、更なる熱が生じる。

 本作は刺繍だけでなく同性愛にもテーマを置いている。本作を観て、ようやく異性同士の夫婦のうち片方が、同性愛にも手を伸ばすことも1つの愛の形としてナチュラルに表現できたと思う。大抵の作品では夫婦で対立が生じたり、異性愛主義者のキャラが登場したり、世間からの差別といった描写が常だが、本作では一切用いることがない。親しい者だけが事情を知って受け入れるといったミニマムな世界の良さが出ている。だが、事前に「モロッコ=戒律および法律によって同性愛禁止」という仕組みを分かってないと、なぜ同性愛を貫くことに躊躇っているのか理解しづらい側面もある。本国ロッコを越えて国外の映画祭に出品したのであれば、「この国で同性愛はダメだ」という感じのセリフが1つぐらい出しても良かったと思う。

 終始に渡ってテンポが同じで抑揚がないため、人によっては退屈に感じたり、実際の上映時間より長く感じてしまう可能性もある。とはいえ、登場人物たちを丁寧かつ精微な情景描写で紡いだ傑作。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

大名倒産

(C)2023映画「大名倒産」製作委員会

公 開 日  :6月23日

ジャンル:時代劇、コメディ

監 督 :前田哲

キャスト:神木隆之介杉咲花松山ケンイチ小日向文世小手伸也宮崎あおい石橋蓮司勝村政信浅野忠信佐藤浩市

 

概要

 ベストセラー作家・浅田次郎さんの同名小説の映画化。監督は『老後の資金がありません』や『そしてバトンは渡された!』を手掛けた前田哲監督が務め、現代にも通じる痛快エンターテインメントとして仕上げている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 越後・丹生山藩の鮭売りとして暮らしていた間垣小四郎は、ある日突然、父・作兵衛から衝撃の事実を告げられる。それは、作兵衛は実父ではなく、本当の父は徳川家康の血を継ぐ丹生山藩主こと松平であり、小四郎は藩主の後継者だった。小四郎は藩主となり、庶民から一国の主となってしまった。だが、小四郎は藩主となってから更に重大な事実を知らされる。なんと、丹生山藩主は25万両(現在だと100億相当)の借金を抱えていたのだ…。藩の危機に実父であり先代藩主である一狐斎は小四郎に、藩の借金を踏み倒して幕府に肩代わりさせる一計として「大名倒産」を進言する。果たして、小四郎は藩を救うことが出来るのか…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 時代劇でありながらも現代にも通ずる「企業エンタメ」とも受け取れる。藩を子会社とするなら幕府は親会社。商人は取引先。子会社は親会社からの重圧で下手に出るしかない。加えて、取引先からヤバいものを掴ませられると親会社に顔向け出来ない。これらが藩・幕府・商人で本作は成立しており、現代の企業と同様である。

 さらには、「会社の為に自死する」が「藩や幕府の為に切腹する」となっており、命を粗末にしないことを訴えると同時に、死を美化する侍の悪習をキッチリと否定している。かつて、現代企業エンタメ映画である『七つの会議』で野村萬斎さん演じる主人公が「現代の日本人は藩を守る侍と同様で会社の為に命を賭け過ぎている」と発言しており、その発言をそのまま表現したのが本作である。また、野村萬斎さん演じる主人公は「会社がある限り、この慣習は消えずに続くであろう」とも発言しており、本作も同様の着地点である。

 本作は侍の悪習を用いて現代の働き方や生き方に是正を訴えかけ、誰もが命あっての幸せを得られるような願いを感じ取れる作品である。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

トゥ・レスリー

(C)2022 To Leslie Productions, Inc. All rights reserved.

公 開 日  :6月23日

ジャンル:ドラマ

監 督 :マイケル・モリス

キャスト:アンドレア・ライズボロー、アンドレ・ロヨ、オーウェンティーグ、スティーブン・ルート、マーク・マロン、マリソン・ジャネイ 他

 

概要

 アメリカ国内では単館での公開ながらも、主演アンドレア・ライズボローの圧巻の演技が話題を呼び、グウィネス・バルトロウ、シャーリーズ・セロンエイミー・アダムスなど実力派俳優たちが次々と称賛。そして、アンドレア・ライズボローがアカデミー賞主演女優賞にノミネートを果たし、賞レースへと躍り出た感動のヒューマン・ドラマ。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 テキサス州西部のシングルマザーであるレスリーは宝くじに高額当選するが、数年後には酒に使い果たしてしまい、失意のどん底に陥る。6年後、行き場を失ったレスリーは、かつての友人ナンシーとダッチのもとへ向かうが、やはり酒に溺れて呆れられてしまう。そんな中、スウィーニーという孤独なモーテル従業員との出会いをきっかけに後悔だらけの過去を見つめ直し、母親に失望した息子ジェームズのためにも、人生を立て直すセカンド・チャンスに手を伸ばし始める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 宝くじで大金を獲得したのに、酒に溺れて使い果たしてしまったダメダメなシングルマザーによる再生の物語。

 ダメ節全開な序盤から、再起を図る中盤および終盤の過程にて、簡単には済まない人生の教訓が浮かぶ。自分を理解してくれる第一人者は家族や友人でもなく、自分の立場に近しい者であること。他人に迷惑をかけないこと。再び立ち上がるのを諦めないこと。さらには、主人公が再起を会得していく最中で主人公自身が、他人の人生を批評して楽しむことへのカウンターを喰らわせる。取り返しのつかない失敗をしても再び前進する温かみが本作には詰まっている本作の温かみが大きいのは、主人公を務めたアンドレア・ライズボローを中心に形成した序盤と中盤以降のギャップである。とにかく序盤は主人公レスリーのダメっぷりが炸裂。隙あらば酒と悪態である。おそらく「あなたは、この人と付き合うことが出来ますか?」と100人に聞いたら100人が「無理です」と答えるほど他人に迷惑をかけるダメっぷり。他人から距離を置かれて孤立し、外で冷風を浴びるのも当然の報い。だが、中盤からスウィーニーとロイヤルが登場して物語に介入してから温かみが灯る。逆境であることに変わりないが、利害の関係ではなく、理解の関係に結ばれ、心は変わっていく。邦画だと『すばらしき世界』に近く、刑務所から出所して更生する主人公を演じた役所広司さんが俳優パワーで変遷を体現したが、本作でも同様にアンドレアの俳優パワーが作品を形成したと称しても過言ではない。

 物語のスピードが平坦だったり、カメラワークが単調で映し方に楽しみがなかったりするが、物語を振り返ってみれば良作。アメリカ国内で単館上映からスタートしたが、最終的には賞賛されてアンドレアがアカデミー賞ノミネートまで到達するのも納得である。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

リバー、流れないでよ

(C)ヨーロッパ企画/トリウッド2023

公 開 日  :6月23日

ジャンル:コメディ

監 督 :山口淳太

キャスト:藤谷理子、鳥越祐貴、永野宗典、久保史緒里、早織、本上まなみ近藤芳正

 

概要

 『夜は短し歩けよ乙女』・『四畳半タイムマシンブルース』の脚本や『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の日本語吹き替え版の脚本を手掛ける上田誠さん率いるヨーロッパ企画の作品。本作は、世界27か国53の映画祭で上映&23もの賞を受賞した第1弾の作品『ドロステのはてで僕ら』に続き、上田さんが原案・脚本を、映像ディレクターの山口淳太さんが監督を務め、ヨーロッパ企画制作の長編映画として第2弾にあたる。

 出演者の多くはヨーロッパ企画メンバー。また、乃木坂46の久保史緒里さんが友情出演する。

 ロケは、貴船神社と料理旅館「ふじや」の全面協力を得て、撮影している。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 京都・貴船の老舗料理旅館「ふじや」で働く仲居のミコトは、別館裏の貴船川のほとりに佇んでいたところを女将に呼ばれて仕事へ戻る。だが2分後、なぜか再び先ほどと同じく貴船川に立っていた。だがそれは、ミコトだけではなかった。番頭や仲居、料理人、宿泊客までも同じ現象に遭って異変に気付き、誰もがタイムイループしていることを実感する。その後も、2分経つと時間が巻き戻り、全員元いた場所に戻されるタイムループが繰り返される。だが、時間が戻っても、各々の記憶だけは引き継がれていた。人々はタイムループからの脱出を試みようと原因究明に臨むが、ミコトは複雑な思いを抱えていた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 斬新。2分間を繰り返すだけで86分の長編が成立してる。しかも、その2分間全てが綿密。登場人物の記憶が引き継がれることを活用し、イムループを認知する登場人物のリアクション大喜利・過ぎ去った2分間を堆積して生まれる設定冥利な笑いは観る者を大いに楽しませる。特に最適な語彙を選択したセリフはセンスが高過ぎる。

 カット割ほぼない。それにより、2分間で起こった登場人物たちの喜怒哀楽をリアルタイム感覚かつ肌身に受け取って没入できる。

 タイムループ解明の流れが形式的になってしまったが、タイムループと向き合う人々の意思がキモだから、変にループ要件の設定や見せることに拘らず、あっさりテイストで締めるのが丁度良いぐらい。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

山女

(C)YAMAONNA FILM COMMITTEE

公 開 日  :6月23日

ジャンル:ドラマ

監 督 :福永壮志

キャスト:山田杏奈、森山未來、二宮隆太郎、三浦透子山中崇川瀬陽太、白川和子、品川徹、でんでん、永瀬正敏

 

概要

 民族やルーツにフォーカスを当てた作品を生み出す福永壮志監督が、柳田國男さんの名著『遠野物語』から着想を得たオリジナル・ストーリー。主人公を演じるのは、『樹海村』・『ひらいて』・『彼女が好きなものは』などで主演を務めた山田杏奈さん。ダンスや演劇などカテゴライズに縛られない表現者である森山未來さんが「山男」の役で驚くべき変貌を遂げた姿を見せる。他にも、永瀬正敏さんや川瀬陽太さんなどの実力派俳優が勢揃いし、大飢饉に襲われた人々の様相を形成する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 舞台は18世紀後半、冷害による食糧難に苦しむ村。その村に住む凛とその家族は、先代が犯した罪から咎人扱いされて他の村人たちから蔑まれているが、逆境に負けることなく、たくましく生きていた。そんな彼女の心の救いは、盗人の女神様が宿ると言われる早池峰山だった。ある日、飢えに耐えかねた凛の父親・伊兵衛が盗みを働いてしまう。家を守るため、凛は村人たちから責められる父親をかばって、自ら村を去る。決して越えてはいけないと言い伝えられる山神様の祠を越え、山の奥深くへと進む凛。狼たちから逃げる凛の前に現れたのは、伝説の存在として恐れられる”山男”だった…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 灰色で薄暗い集落。土や草木の匂いが鼻につく山間。趣ある自然の風景とそれにマッチした劇伴が流れる中、豪華出演者たちのアンサンブルが貧困・差別・信仰・村社会といった現代でも提起される普遍的な問題が頭角を現す。そんな閉塞感がある中、山田杏奈さん演じる主人公から、現在のコミュニティから自分に適した別のコミュニティを選び取って生きる強さと儚さが伝わってくる。自分で道を選ぶ主体性は大切だが、それが正解とは限らない。今の共同体で相互扶助の関係を続けた方がまだ幸せかもしれない。しかし、悪習が原因でコミュニティから人が去らざるを得ないのは問題であることに変わりない。本作は、去ることと居続けることの苦難と幸福が入り混じる社会の構造を映した普遍的な作品である。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

オレンジ・ランプ

(C)2022 「オレンジ・ランプ」製作委員会

公 開 日  :6月30日

ジャンル:ドラマ

監 督 :三原光尋

キャスト:貫地谷しほり和田正人、伊嵜充則、山田雅人赤間麻里子、赤井英和中尾ミエ

 

概要

 39歳で認知症と診断されながら、10年後の現在も会社勤務を続けつつ、認知症本人のための相談窓口活動や自身の経験を語る講演などを行っている丹野智文さんの実話を基づく物語。

 認知症本人や家族が、認知症とどのように向き合えば笑顔で生きられるのか?認知症になっても安心して暮らせる社会とは?その1つの指標となり、より良く生きるためのヒントに満ちているのが本作である。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 妻・真央や2人の娘と暮らす39歳の只野晃一は、充実した日々を送るカーディーラーのトップ営業マン。そんな彼だったが、顧客の名前を忘れるなどの異変が訪れる。あまりの物忘れの頻度が心配になって病院に行ったところ、下された診断は「若年性アルツハイマー型認定証」だった。驚き、戸惑い、不安に押しつぶされていく晃一。心配のあまり何でもしてあげようとする妻の真央。しかし、ある出会いがきっかけで2人の意識は変わる。そして、「人生を諦めなくていい」と気づいた彼ら夫婦を取り巻く世界が変わっていく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 認知症の見方が180度変わる作品。実際の認知症は、メディアの報道やエンタメ・コンテンツでの表現よりも修羅場ではないこと。認知症は人生終了の宣告ではなく、物忘れをカバーする仕組みを作ったり、周囲の方々から理解や物忘れのサポートを受けたりして向き合っていけること。認知症を患ったことが、決して暗闇の入り口では無いことを強く証明している。登場人物たちがハートフルなところもあって、本作を観れば、認知症の方には希望になるし、認知症でない方にとって認知症の方へ手を差し伸べたくなることに違いない。

 なぜ認知症患者が理解し難い行動を取るかの説明や認知症となった家族との向き合いについて、大御所の中尾ミエさんを起用して語るところが抜かりない。貫禄が説得力を生んでる。

 欲を言えば、もっと予算を掛けて欲しかった。本作に登場する、夫の関係者(夫の両親・夫の友人・夫の職場の方々・市役所職員)が『すばらしき世界』の登場人物並みのレベルで心温かい方々ばかりだったので、もっと画の力があればハートフルな感動が上がったと思う。劇中の建物がモデルハウスみたいで生活感がなく、安っぽい画になったのが悔やまれる。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

探偵マリコの生涯で一番悲惨な日

(C)2023「探偵マリコの生涯で一番悲惨な日」製作委員会

公 開 日  :6月30日

ジャンル:ドラマ

監 督 :内田英治、片山慎三

キャスト:伊藤沙莉北村有起哉宇野祥平、久保史緒里、中原果南、島田桃依、竹野内豊

 

概要

 日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した『ミッドナイトスワン』などを手掛ける内田英治監督と、『さがす』や『ガンニバル』で大きな話題を呼んだ新鋭・片山慎三監督が共同監督としてタッグを組んで作り上げた奇想天外なドラマ。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 ”東洋の魔窟”や”アジア最大の繁華街”と称される「新宿・歌舞伎町」でバーを経営しながら探偵業も営むマリコ。ある日、アメリカからFBIの捜査官が店を訪れ、捜索依頼が受け渡される。その捜索対象は、なんと宇宙人だった。FBIの捜査によると、歌舞伎町に潜伏している可能性が高いと判明し、歌舞伎町内で腕の立つ探偵がいると聞いてマリコに依頼したのだった。マリコはFBI捜査官から宇宙人をかくまっている人物の顔写真を貰い、町を歩き回り始める。そんなマリコと同時に、別れた娘を捜す落ちぶれたヤクザ、ホスト狂いのキャバ嬢、暗殺者として育てられた姉妹といった多くの者たちの物語が動き出していく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 ヤクザ・水商売・殺し屋といった日本の闇夜を現す要素に忍者・宇宙人といった日常に馴染みが少ない要素を絡め合わせた異色作。闇夜の世界に生きる人々が抱える孤独を登場人物それぞれのケースで写したり、登場人物の掛け合いや宇宙人によるSF要素などで笑いを届けたりと本作ならではの世界観がある。漫画的な装いをしながらも、劇映画として人間のリアルな心情を形にしている。

 しかしながら、『ミッドナイトスワン』の内田監督と『さがす』の片山監督がダブル監督を務めた作品として鑑賞すると微妙な出来栄えである。個人的には小説家の伊坂幸太郎さんと阿部和重さんがタッグを組んで執筆した『キャプテン サンダーボルト』の読後感に似てる。その心は、ひとりの新人が作った場合なら次回作に期待する出来だけど、名のある作り手2人による出来栄えとしてはイマイチ極まりない、ということである。2人の作家性が特に見えることがなく、タッグを組んだ必要性が分からない。互いの作家性が反発しないようにしたのか、登場人物が表面的にしか映ってない。そういったことが伺える。本作が作家性を確立していない新人が監督した場合は、孤独を抱えた登場人物を多く出しながらも交通整理がしっかりしてるし、「自分が思ってることをいろいろ主張したいんだな」と希望の新鋭として見える。だが、名作『ミッドナイトスワン』を世に送り出した内田監督とポン・ジュノの助監督を務めて頭角を現した片山監督が手を合わせて作ったとなると「ん?」となる。企画の意図が最後まで分からなかった。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計12個

 

東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 決戦

(C)和久井健講談社 (C)2023映画「東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編」製作委員会

公 開 日  :6月30日

ジャンル:漫画実写、青春

監 督 :英勉

キャスト:北村匠海山田裕貴杉野遥亮今田美桜、眞栄田郷敦、清水尋也永山絢斗村上虹郎高杉真宙間宮祥太朗吉沢亮

 

概要

 和久井健先生が原作の同名漫画を実写映画化した『東京リベンジャーズ』の続編。原作で屈指の人気を誇る「血のハロウィン編」を前後編の二部作で実写化し、本作は後編。2023年4月21日に公開された『東京リベンジャーズ 血のハロウィン編 運命』の直後から物語が始まり、闘いを締めくくる完結編となっている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 タイムリープを駆使して、犯罪集団・東京卍會から殺された元恋人・ヒナタを救ったタケミチ。だが、ヒナタが東卍によって再び殺されてしまった。彼女を救う鍵は、1人1人が仲間のために命を張れる東卍結成メンバー6人の絆を引き裂いた過去の悲しい事件にあった。タケミチは再び、東卍が地元の一大暴走族だった高校時代へタイムリープする。

 かつての親友たちは何故戦わなければならない運命になったのか。そして、10月31日のハロウィンにて始まる東卍崩壊の危機をもたらす、かつての親友同士の壮絶な戦い。交錯する過去の悲劇と分裂していく仲間との絆。果たして、タケミチは最悪の結末を止め、ヒナタと仲間の未来を救えるのか。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 恋人を救出するタイムリープ劇の第2幕にして2部作の後編。

 物語は前編で大方進んだ。なので、本作は「決戦」の名の通り、戦闘がメインでアクション多め。そして、殴り合いの最中、登場人物それぞれの思いが爆発して交錯するドラマが魅力。実力派揃いの俳優たちが目の前にいる敵を全力投球で倒すと同時に、心中にある思いを吐露したり体で表現したりする姿に熱くなる。

 特に馬地を演じた永山絢斗さんの存在が大きい。暴走族チームの立ち上げから掲げたスローガンを初志貫徹し、感極まって仲間の為に選択したラストの行動に感涙。本作の主役は馬地である。加えて、高杉真宙さんが演じた馬地の弟分・千冬による馬地への敬愛も併せて色濃く映る。

 村上虹郎さん演じる一虎は好みが分かれる。逆恨みを越え過ぎてる行動原理は、見た感じだとサイコ的で理解し難い。精神鑑定を推奨する。とはいえ、村上虹郎さんの話し方や殺意を纏ったオーラはビジュアル的に目を見張るほどカッコいい。

 吉沢亮さんは持ち前のキャラクター投影能力を活かした存在感がある。闇を纏って豹変する際のスイッチの切り替えが見事。

 眞栄田さん演じる三ツ谷は出番が少なく目立たない。原作では重鎮なんだけどね。

 三ツ谷とは逆に、原作より目立ったのは半間。原作だとヌルッと登場してヌルッと場に溶け込む人物だが、清水尋也さんの熱気で存在感を増している。

 間宮祥太朗さん演じる稀咲は相変わらずミステリアスで、山田裕貴さん演じる龍宮寺は相変わらず義理人情ポイントが高い。

 北村匠海さん演じる花垣の出番は後編で少なかった。だが、最後まで喧嘩ではなく、心情で全てを語る主人公としてドラマを担っている。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

インディ・ジョーンズと運命のダイヤル

(C)2023 Lucasfilm Ltd. & TM. All Rights Reserved.

公 開 日  :6月30日

ジャンル:アクション、アドベンチャー、SF

監 督 :ジェームズ・マンゴールド

キャスト:ハリソン・フォードフィービー・ウォーラー=ブリッジ、ジョン・リス=デイビストビー・ジョーンズ、イーサン・イシドール、マッツ・ミケルセン

 

概要

 ハリソン・フォードが主人公を務める人気アクション・アドベンチャー映画『インディ・ジョーンズ』の5作目であり、4作目の『インディ・ジョーンズ クリスタル・スカルの王国』から15年ぶりの最新作。過去4作の監督を務めたスティーブン・スピルバーグジョージ・ルーカスと共に製作総指揮となり、『LOGAN ローガン』や『フォードVSフェラーリ』のジェームズ・マンゴールドが新しく監督として抜擢された。

 主演はもちろん、ハリソン・フォード。70歳を越えた体でも大掛かりなアクションに挑戦する。敵役には、デンマークが誇るハリウッド・スターことマッツ・ミケルセン。新たなヒロイン役にはフィービー・ウォーラー=ブリッジ。音楽担当は、過去作でも手掛けたジョン・ウィリアムズが続投する。

 

あらすじ

 かつて世界各地を飛び回り、秘宝や歴史の遺物を収集する冒険家だった考古学者のインディ・ジョーンズ。老境となった現在は冒険家を引退し、大学で考古学の授業を惰性的に続ける身となっていた。

 ある日の授業終わりにインディはヘレナと名乗る女性から、伝説の秘宝「運命のダイヤル」に関する話を持ち掛けられる。その秘宝は2つに分離しており、両方を揃えると人間の想像を超える力が発動する強大な力を秘めており、片方は若き頃のインディが冒険の友・バジルと共に手にして大学へ保管していた。ヘレナの事情を聞いた後、インディはダイヤルを狙う者たちから襲撃を受ける。その正体は、若き頃にダイヤルを争奪し合った元ナチスの科学者だった。長年の時を経て、再びダイヤル争奪戦の幕が上がる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 陸・海・空の広大なロケーションの下、車両・船・飛行機で発生するアトラクション型アクションは健在。現代の映画技術の進歩により、過去作より鮮明でリアルな映像が作られ、その場に居るような没入感がある。かといって、昨今の他のアクション映画より抜き出た箇所はない。暗い場面でアクションが起こると見づらい。仕方ないけど、主人公役のハリソン・フォード年齢的に激しい動きが出来ないため、格闘戦が少ない。そのため、過去作と比べてアクションのバラエティ幅は狭い。だが、乗り物中心のアクションは疾走感があって楽しめる。

 物語は過去作と比較して真面目すぎるかも。過去作のキャラに比べて、仲間のキャラと敵のボスに過去を持たせて人物像を説明するため、会話してるだけのシーンが過去作より多くて尺が増えている。かといって、人物像が深くなるわけではない。特に、敵のボスはマッツ・ミケルセン本人が持つカリスマ性がなかったら存在感が激薄だったかも。過去作のボスと比べてアクションや意表を突いた行動を取らないし。総じて、説明で人物像を作り上げたところで、キャラ立ちはしないし、観てる側も面白さを見出せない。そもそも、本シリーズはキャラを大きく立てる作品ではないし。人物像の形成が説明的になったのは、シリーズ通して用いた、回想を挟まないでシームレスにストーリーを展開させる手法を存続させようと考えたからだと思う。だが、本作に至っては仇となった。

 本作では、トラップや遺跡を冒険する楽しさがない。そもそも、トラップはない。だが、『魔宮の伝説』のようなゾッとするビジュアルが用意されている。

 終盤でインディが下す決断について、賛否あるようだが、個人的には良いと思ってる。インディの気持ちは分かる。だが、前フリが少な過ぎてイマイチ説得力がない。突飛すぎる。締め括りも突飛なものがあり、ファースト・インプレッション的に過去作(特に1作目)を観た方へのファン・サービスになってしまった感がある。(キャラのセリフ的には本作で動きがあったことを捉えられるけど。)

 総論として、個人的には面白い。ハリソン・フォードの高齢化、監督がスピルバーグから変更されたことにより過去作の良さは消えた。だが、ジェームズ・マンゴールド監督作の別物として、純粋にアトラクション型のアクション映画として楽しめる。何より、ハリソン・フォードの頑張る姿に好感。

 

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

マルセル 靴をはいた小さな貝

(C)2021 Marcel the Movie LLC. All Rights Reserved.

公 開 日  :6月30日

ジャンル:アニメ

監 督 :ディーン・フライシャー・キャンプ

キャスト:ジェニー・スレイト(声のみ)、イザベラ・ロッセリーニ(声のみ)、ディーン・フライシャー・キャンプ、レスリー・スタール 他

 

概要

 実写映像とストップモーションを組み合わせ、監督自身が本人役で出演するなど、フィクションでありながらもドキュメンタリーのように見せかけたモキュメンタリー手法で、”たった2.5センチの、靴をはいたお喋りな貝”マルセルの姿をコミカルかつエモーショナルに描き、かつてない映像体験を贈るアニメ作品。

 本作は、2010年から2014年にかけてYouTubeで順次公開された短編作品を長編映画化したものである。短編作品では監督とマルセルの声を担当したジェニー・スレイトがふたりだけで作り上げ、今回の長編映画化に際しては多くのスタッフたちと共に7年の歳月をかけて完成させた。2022年6月24日に全米6館限定で公開され、館アベレージ2.8万ドル(初動3日間)という高稼働率を記録。さらに、第95回アカデミー賞長編映画賞ノミネート、第80回ゴールデングローブ賞アニメ映画賞ノミネート、第50回アニー賞3部門受賞など名実ともに輝かしい評価を獲得した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 体長2.5センチでお喋りな好奇心あふれる貝・マルセルは、祖母のコニーと一緒に空き家となった一軒家で暮らしていた。ある日、その家に映像作家のディーンが引っ越してきて、初めて人間から認知されるようになった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 主人公マルセルの一挙一動が可愛い。ピョコピョコ歩くだけで愛おしい。マルセルのおばあちゃん・コニーもだけど、人間の生活用品を工夫してライフラインを確保したり、遊びの道具にしたりする大喜利任天堂のゲーム『ちびロボ』的または小規模な『ピタゴラスイッチ』的で面白い。「そういう用途があったか!」と合点しながら、懸命に生きるマルセルとコニーを応援したくなる。

 本作はマルセルを愛でるだけでは終わらない。SNS通じたネット社会、出会いと別れといったテーマも含まれる。テーマの提示方法は普遍的。人間社会でもあり得る出来事にマルセルは遭遇し、人間と同等の感情を抱く。マルセルが生きる世界は、人間の生きる世界と変わらないことがよく分かる。こうして、視点が人間と一緒になることでマルセルに共感し、マルセルが本当に実在して生きてるかのように思えたり、マルセルへ更なる愛着を沸かせたりする。可愛い見た目だけのペットやマスコットに収まらず、意思を持った生物として我々は認識する。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

ニモーナ

Netflix

公 開 日  :6月30日

ジャンル:アニメ

監 督 :ニック・ブルーノ、トロイ・クエイン

キャスト:クロエ・グレース・モレッツリズ・アーメッド、ユージン・リー・ヤン 他

 

概要

 第96回アカデミー賞にて長編アニメーション賞にノミネートされたアニメ映画。

 

あらすじ

 騎士学校の課程を経て騎士となり、騎士の就任式に臨むバリスタ。しかし、式の最中、女王が何者かに殺害され、バリスタは女王殺しの容疑者として国から追われる身となってしまう。国王軍の追跡を振り切ったバリスタは真犯人を突き止め、誤解を晴らすことを決意する。その時、様々な動物に変身できる能力を持った少女・ニモーナが現れる。

 

感想

 『泣いた赤鬼』等のように人間と人間以外の生物による対立という構図を作り、「モンスター=恐ろしいもの」や「モンスター=人間から狩られるもの」という世間一般的なイメージを劇中の物語にて破壊している。それに伴い、伝統的排斥を破壊している。また、「こういう事は昔から悪いことだと決まっている」という伝統的な固定概念の呪縛から解放している。そして、自分自身が解放を願う時に、他の誰かも同じことを願っているという希望を与え、人々の価値観のアップデートを促す作品。それゆえ、本作で描かれたポリコレ表現に突っ込むこと自体も野暮。

 ニモーナが次々と動物に姿を変えるモーションが快活。動作および動き回る姿が1つ1つに遊び心が満載。あまりにも自由自在であり、目で追いかける楽しさがある。とはいえ、自由自在なのはニモーナだけではなく、本作のアニメーションそのもの。バリスタとニモーナが一緒に歩いたり一室に居たりするシーンでさえ、会話をしながら常にキャラクターや周囲の物品が動き回っている。自由自在なモーションが、エンタメとしての楽しさを大きく引き上げている。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個