プライの書き置き場

映画とゲームを勝手気ままにレビューするブログです

【まとめ】2023年 日本劇場公開の映画(11月編)

 この記事は2023年11月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)

 「2023年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。

 

 各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍

  • 公開日(日本の劇場で公開された日)
  • ジャンル
  • 監督
  • キャスト
  • 概要
  • あらすじ
  • 感想

 加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。

  • 脚本・ストーリー
  • 演出・映像
  • 登場人物・演技
  • 設定・世界観

 ⭐は最大で5つです。

 

 それでは、早速いきましょう💨

ヴォルーズ

Netflix

公 開 日  :11月1日

ジャンル:コメディ、ドラマ

監 督 :メラニー・ロラン

キャスト:アデル・エグザルコプロスメラニー・ロラン、マノン・ブレシュ、イザベル・アジャーニ

 

概要

 メラニー・ロランが主演兼監督を務めたNetflix製作のフランス産コメディ・ドラマ。

 

あらすじ

 腕利きのスナイパーであるアレックスを相棒に泥棒稼業を続けるキャロル。だが、妊娠を機に引退することを決意。アレックス、そして新たな仲間である元F1ドライバーのサムと共に最後の任務へ赴く。

 

感想

 遊びの多い台詞や演出で見せる軽妙な掛け合い。女性間で共有する愛と友情のヒューマン要素。任務の下準備から完了までをコメディとドラマといった2つのジャンルを辿る作品。と言えば響きは良いが、両方をしっかり描こうとしたことにより歪にテンションを上下させられる乗り心地の悪い仕上がりとなった。

 雰囲気づくりが上手くない。冒頭数10分ほどで温度感に戸惑う。理由はコメディをする時のユーモアな雰囲気とドラマをする時のシリアスな雰囲気がガラリと変わり過ぎるから。コメディ・パートとドラマ・パートで別作品のようなテンションになっている。テンションが変わることは悪くことではないが、問題なのは雰囲気の切り替えが全くスムーズでないこと。別のシーンへ移った瞬間に雰囲気を作り替えたり、タイミングの良さを感じない時にBGMを導入したり等、強引な切り替えが目立つ。そのため、雰囲気が切り替わった際に気分をライドさせづらい。むしろ、観る側が劇中で発生してる雰囲気に気分をチューニングさせる必要が生じている。気分の急な乗り換えを要する。作品側から雰囲気をあまり誘導してくれない以上、本作の物語に気分が乗っていかない鑑賞者が一定数はいると思われる。

 コメディ・パートは面白い。遊びのある台詞やケレンの効いた演出により、主要人物3人と同様のテンションとなって笑ってられる。逆にドラマ・パートはイマイチ。台詞だけで片付けられる事が多く、登場人物たちの背景が全く見えてこない。そのため、登場人物たちの心情が汲み取れない。コメディに振り切った方が楽しさを引き出せたと思う。女性3人のチームモノでクライム・コメディとなると類似作品が多いけど、まだ及第点に到達できたはず…。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計11個

 

ゴジラー1.0

(C)2023 TOHO CO.,LTD.

公 開 日  :11月3日

ジャンル:SF

監 督 :山崎貴

キャスト:神木隆之介浜辺美波山田裕貴青木崇高吉岡秀隆安藤サクラ佐々木蔵之介

 

概要

 ゴジラ70周年記念作品。『ALWYS 三丁目の夕日』や『永遠の0』などの名作を生み出した山崎貴監督が監督・脚本・VFXを務める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 時は第二次世界大戦終戦を迎えた日本。領土は戦争による攻撃で焦土と化し、生き延びた人々は新たな生活を手に入れるためにゼロから復興へ向かっていた。しかし、その最中に謎の巨大生物ゴジラが出現。日本国に上陸し、破壊の限りを尽くす。戦後、間もない日本に壊滅の危機が訪れ、ゼロからのスタートがマイナスに向かっていた。果たして、日本人たちはゴジラの脅威を取り除き、日本を復興へと向かわせることが出来るのか…。

 

感想

 「もし、第二次世界大戦後の日本にゴジラが出現したら?」で物語を構築した新たなゴジラ映画。

 人が豆粒に見えるほど聳え立つゴジラが巨大すぎて心を揺さぶる。劇中人物と同様に恐怖と絶望を抱くと同時に、ゴジラが繰り出す破壊のムーブに高揚感が得られる。そんなゴジラに対して立ち向かう人々に熱意が迸り、その姿勢にも高揚感がみなぎる。舞台は終戦直後の昔の日本だけど、現代に生きる我々へ向けて「いつも何とかしてくれる国や組織に頼りっぱなしになるんじゃなく、自分たち主体でやってやろうぜ!」と活力を与えてくれる作品だった。だが、キャラクターたちの説明台詞の多さや情緒だけで物語を乗り切ろうとする演技が目につき、映画への没入感を阻害しているのがネック。

 VFXで創造したゴジラが大迫力。黒々してザラつきのある肉感。鋭利に尖った背中。地表を覆う長すぎる尻尾。それらを纏った巨体が海に浮かぶ姿や高層ビルに並ぶ姿には眼前にいるような臨場感がある。その臨場感のまま、人と街を破壊で呑み込み、さらには雄叫びと熱線による音響を轟かせて心臓を振動させる。ゴジラが登場する全てのシーンで背筋を伸ばして身震いすることになり、ゴジラとの極上な遭遇体験を肌身で味わうことが出来る。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

さよなら ほやマン

(C)2023 SIGLO/OFFICE SHIROUS/Rooftop/LONGRIDE

公 開 日  :11月3日

ジャンル:ドラマ

監 督 :庄司輝秋

キャスト:アフロ、呉城久美、黒崎煌代、津田寛治松金よね子

 

概要

 自然の豊かな美しい島で生きる兄弟と、都会からやってきた問題を抱えた女性の出会いから生まれる、最高に優しくてパワフルでエモーショナルな再生の物語。

 監督を務めたのは、本作が監督デビューとなる庄司輝秋さん。故郷である宮城県石巻市への熱い想いを胸に、市内の沖に浮かぶ編地島でオールロケを敢行した。キャストには、アフロさん、呉城久美さん、黒崎煌代さんといった次世代を担う才能あふれるメンバーが集結した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 豊かな海に囲まれた美しい島に住み、一人前の漁師を目指しながら海で「ほや」を獲り続けるアキラと、船に乗れない障害持ちの弟シゲル。今も行方不明の両親と莫大な借金で人生の大ピンチに直面していた2人は、島の人々に助けられ、なんとか暮らしていた。そんな折、都会からワケありで島を訪れた女性漫画家の美晴がアキラとシゲルの前に現れる。「この家、私に売ってくれない?」。美晴の衝撃的な一言から、なぜか3人で暮らす奇妙な共同生活が始まる。だが、この出会いは最強の奇跡の始まりだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 "ほやマン"って、何?それに対して"さよなら"をするって、どういうこと?疑問ばかりが溢れるタイトルだが、"ほやマン"が何なのかは、すぐさま把握できる。把握した途端に「ああ、この作品はコメディか…」と見定めた気になって観ていくと、物語の路線は予期せぬ方向へ…。慎ましくも健気に描かれていた3人の人間模様がシリアスに傾き、タイトルにある"さよなら"の意味が身に染みてくる。そして、"さよなら"は別れの意味だけではなく、"再生"の意味でもあったのだと気付かせ、観る者の心を温かさで埋め尽くす。

以下、本作の物語に少し触れながら、本作の凄い所を記載。

 本作の凄く良いところは、東日本大震災を題材として扱っているのに、その名称や「3.11」の単語を使わないところである。それによって、東日本大震災を知らないor体験していない後世の人々が本作を観ても、予備知識ナシで被災者となった主人公兄弟の心情を汲み取ることが出来る。

 近年の作品だと『ハウ』・『やがて海へと届く』・『すずめの戸締り』あたりが東日本大震災を名指しで題材にしていた。だが、そのどれもが、観客側が東日本大震災を知っているor体験していることを前提条件とする描き方だった。それにより、作品を観る上で2つの弊害があった。1つ目は、東日本大震災を知らない人々やリアルタイムで体験していない後世の人々が観ても作品の核が把握しづらいこと。2つ目は、震災で起きたこと及び震災で抱いた感情をリアルタイムで震災を追った観客側の記憶と想像に頼ることを前提とし、そもそも東日本大震災とは何なのかといった概要や詳細を省いていること。(特に『すずめの戸締り』は顕著。)この2つにより、東日本大震災を知っているor体験しているのいずれかを鑑賞前に満たさなければ、劇中の重要なポイントを把握できないといった事態が人によって発生していた。東日本大震災を知らない世代が増えていくので、今後はそういった人々が年月を経るごとに増えていくだろう。

 だが、本作では前述の通り、東日本大震災を題材として扱っていても、その名称や「3.11」の単語を使っていない。それによって予備知識は不要だし、リアルタイムで震災を追った世代でなくとも本作で語られる主要部分の把握は容易である。また、これまでの作品において、観客が東日本大震災を知っていることを前提条件としており、震災の内容や登場人物の感情の汲み取りを観客側の記憶と想像にほぼ丸投げだったが、本作では1から丁寧に震災で起きたことや登場人物の感情を作り上げている。特に感情面では、ようやく劇映画の中から被災者の声を聞けた気がする。東日本大震災を扱う映画として、ようやく予備知識やリアルタイムの体験も知らずに「1つの映画」として作品の全容を把握できる作品が誕生した気がする。なので、2020年代時点では、本作が「東日本大震災映画の決定版」と称しても良いかもしれない。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

理想郷

(C)Arcadia Motion Pictures, S.L., Caballo Films, S.L., Cronos Entertainment, A.I.E,Le pacte S.A.S.

公 開 日  :11月3日

ジャンル:ドラマ、スリラー

監 督 :ロドリゴ・ソロゴイェン

キャスト:ドゥニ・メノーシエ、マリナ・フォイス、ルイス・サエラ、ディエゴ・アニード、マリー・コロン 他

 

概要

 ベネチア国際映画祭にて『おもかげ』が高く評価された新鋭ロドリゴ・ソロゴイェン監督が、スペインで実際に起きた事件をベースにしたスリラー・ドラマ。第35回東京国際映画祭にて最優秀作品賞にあたる東京グランプリのほか、最優秀監督賞・最優秀主演男優賞の主要3部門を獲得して「並外れた傑作」と絶賛された。その他にも数多くの映画賞を受賞し、フランスの大女優カトリーヌ・ドヌーヴは「今年観た作品で最も強烈な映画だった」と本作を高く評価した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 フランス人夫婦アントワーヌとオルガはスローライフに夢を抱き、スペインにある緑豊かな山岳地帯・ガリシア地方の小さな村に移住する。しかし、ある出来事をきっかけに地元の村人たちと敵対関係が激化していく…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 フランスからスペインの村に移住してきた夫婦と、生まれた時から村に住み続けている兄弟が、互いの考える村の理想像を掲げて対立するスリラー・ドラマ。

 先住者から過干渉や嫌がらせを受ける移住者。よそ者こと移住者を自分たちのカラーに染めようとする先住者。そんな人々を描き、「おら、こんな所いやだ〜」となる閉鎖的コミュニティの恐ろしさを伝える"村"作品が生まれてきた。そして、ここに"村"作品の新たな良作が誕生した。

 住み続けたい願望を強く抱える夫婦。よそ者の夫婦を追い出すべく、巧妙かつ悪質な嫌がらせを連打する兄弟。夫婦と兄弟が交わすやり取りを平坦なカメラワークで捉えるからこそ、対立構造が生々しく映る。何よりも生々しいのは兄弟が実行する嫌がらせのシーンだ。基本的に劇伴が流れない本作だが、兄弟が牙を剥く時は別。不穏な音色をリズミカルに刻む劇伴が流れ、夫婦が察知する嫌な感が観る者と同化する。そして、発動する嫌がらせ。手口の1つ1つに悪知恵が効いており、警察が真面目な捜査に踏み込まないギリギリのラインを攻めている。その様相を見て、切実な思いを募らせていく夫婦の感情を観る者は肌身で感じ取ってしまう。特に最後の嫌がらせ(もはや嫌がらせのレベルではない)は生々しさMAX。グロくはないが、「俳優さん大丈夫?…」と息を呑むレベルでむごい…。

 さて、本作では大きなストロング・ポイントが2つある。それは、対立の要因と村社会へのアンサーである。

 まず、対立の要因。村社会を題材にした作品および現実の村社会の場合、大抵は「移住者=正義、先住者=悪」の構図がベーシックだった。だが、本作は移住者である夫婦と先住者である兄弟それぞれに筋の通った正義がある。むしろ村全体の利益を考えれば、嫌がらせを働く兄弟の正義が合理的であるとさえ思えてくる。逆に、夫婦の正義が身勝手に見えたりもする。とはいえ、どちらが真の正義かジャッジすることに意味はない。対立を深めたり、相手を攻撃して解決を図ったり行為そのものが悪なのであり、正義云々を語る前に戒めるべき行為である。

 村社会に対するアンサーが良い。村社会を題材にした作品だと「こんな村いやだ〜」と吉幾三さんになって終わったり、「村社会は怖いでしょ」と警告や皮肉を伝えたり、後ろ向きな締めをよく見る。同年公開の邦画『ヴィレッジ』においても村や閉鎖的コミュニティの怖さを伝える作品であり、自己防衛おじさんの如く「自分の身を守るならさ〜、村をあてにしちゃダメじゃない。村脱出だよね!」な締めであった。だが、本作は村社会におけるベスト・アンサーを最後に残している。先住者および移住者という看板を捨て去り、1人の人間として接していくことを説いている。これは至極、真っ当なことであり、意外と盲点だったような気がする。村内で誰もが仲良くする光景は、それこそ絵に描いた理想郷である。だが、村社会は恐ろしいコミュニティとして斜に構えるのではなく、まずは自分も相手も1人の人間として向き合うのは大切なことであり、いつしか誰もが忘れ去ってしまったことだと思う。それを思い出させ、村社会という閉鎖的コミュニティから希望を見い出すことは良きアプローチ。

 惜しい点としては、平坦なカメラワークで撮影したワンカットやワンシーンが長いこと。生々しさが映る反面、リズムの悪さがある。なかなか話が進んでくれない。そのおかげで上映時間が長く感じる。どのカットも数秒ほど削った方が幾分か見やすくなったと思われる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

ナイアド その決意は海を越える

Netflix

公 開 日  :11月3日

ジャンル:ドラマ

監 督 :エリザベス・チャイ・バサルヘリィ、ジミー・チン

キャスト:アネット・ベニングジョディ・フォスター、リス・エバンス 他

 

概要

 マラソンスイマーにとって最も過酷なフロリダ海峡横断を64歳の高齢時に達成したスイマーことダイアナ・ナイアドの実話を基にしたヒューマン・ドラマ。監督を務めるのは、数々のドキュメンタリー映画を撮り、今回が初の劇映画となるエリザベス・チャイ・バサルヘリィ&ジミー・チン夫妻。主人公であるナイアドを演じるのはアネット・ベニング。ナイアドの親友ボニーを演じるのはジョディ・フォスター

 

あらすじ

 60歳を迎えるマラソンスイマーのダイアナ・ナイアド。彼女は20代の頃にフロリダ海峡を横断することに挑戦し、力及ばず途中リタイアしたことを心残りにしていた。クリアできないまま終わらせたくないと思ったナイアドは、フロリダ海峡横断に再挑戦することを決意する。親友のボニーはナイアドの身を心配しながらも、フロリダ海峡に向かう最高のスタッフを揃える。数十年以来の挑戦が幕を上げる。

 

感想

 命に関わる超危険なフロリダ海峡を横断したスイマー、ダイアナ・ナイアドの実話を精神性の高い劇映画にしたヒューマン・ドラマ。

 終始に渡って静かな雰囲気ながらも「挑戦を成し遂げるとは、こういう事だ!」と檄を飛ばすパワフルな物語。死に近づいて生を得ようとするナイアド。ナイアドの死とナイアドの夢に揺れる親友とサポート・メンバー。個人間および対人間による相反する感情の鬩ぎ合いを徹底して口に出し、1人の人間の夢を実現するには、挑戦者の突き抜け過ぎた狂気と、その狂気を呑み込んで目標に向かわせる周囲の理解が必要だと受け取れる。

 ナイアドを演じたアネット・ベニングが素晴らしい。ナイアド本人が言語化して説いてると思われる挑戦の価値観を自然にセリフへ落とし込んでいる。何よりも海中に居る時の演技のリアリティが高い。極限状態に陥っている疲労感が伝わってくる。長時間に渡って海水を飲み続けて具合が悪くなる様に、観てる側の胃袋にも海水が溜まるような錯覚に陥る。
 ナイアドの親友であるボニーを演じたジョディ・フォスターが素晴らしい。死地へ飛び込む親友に対して、宥めと応援の気持ちが入り混じる葛藤が伝わってくる。サポート・メンバーの第一人者として要所で決断を下す姿を見て、「この人が居なければナイアドはフロリダを横断できなかったかも」と思わせる。
 CGが残念。しょっぱい。海の生物が全く生きてるように感じず、即座に「あっ、これCGだ」と思わせて映画の世界から引き離される。実話を基に俳優陣がドラマに息を吹き込んでいる以上、不要に思えた。本作の監督がドキュメンタリー出身と聞いて、不慣れだったのかなと考えてしまった。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

正欲

(C)2021 朝井リョウ/新潮社 (C)2023「正欲」製作委員会

公 開 日  :11月10日

ジャンル:ドラマ

監 督 :岸善幸

キャスト:稲垣吾郎新垣結衣磯村勇斗佐藤寛太、東野絢香山田真歩、潤浩 他

 

概要

 第34回柴田錬三郎賞を受賞した、朝井リョウさんによる同名小説の実写映画化。監督を務めるのは『あゝ、荒野』で数々の映画賞を受賞した岸善幸監督。俳優陣には稲垣吾郎さん、新垣結衣さん、磯村勇斗さんといった名優人が揃い踏み。音楽は『レッドクリフ』シリーズや『殺人の追憶』を担当した岩代太郎さんが務める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 横浜に暮らす検事の寺井啓喜は、息子が不登校になり、教育方針を巡って妻と度々衝突している。

 広島のショッピングモールで販売員として働く桐生夏月は、実家暮らしで代わり映えのしない日々を繰り返している。ある日、中学の時に転校していった佐々木佳道が地元に戻ってきたことを知る。

 大学の準ミスターに選ばれるほどの容姿を持つ諸星大也は、ダンスサークルに所属してダンスに励む一方、他人は言えない秘密を持っていた。

 諸星と同じ大学に通う神戸八重子は、学園祭でダイバーシティをテーマにしたイベントを企画し、諸星が所属するダンスサークルの出演を計画していた。その一方、諸星のことを気にかける日々が送っていた。

 同じ地平で描き出される、家庭環境、性的指向、容姿。様々に異なる背景を持つ5人。だが、少しずつ、彼らの関係は交差していく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 朝井リョウさんの原作らしく、日常に浸透して看過されている問題を抽出して実体化させた普遍的な作品。普通を汲み取り、異常を排除する。この2択で物事を考えたり他人を振り分けたりする世界にメスを入れた作品。

 LGBTといった性的指向等には言及して多様性だから認めて欲しいと主張される世界になりつつあるが、その他の指向は言及されずに「普通じゃない。異常だ」という一方的なラベリングで封殺する世界は未だに平行線のまま。そんな世界を本作では主に稲垣吾郎さんのマジョリティ視点と新垣結衣さんのマイノリティ視点といった2つのケースで切り込みを入れていく。(他に東野絢香さんと佐藤寛太さんのケースもあるけど、後述の通りストーリーが薄味なので省略。)観る者がマジョリティ寄りかマイノリティ寄りかで鑑賞後の感想は違ってくる。自分寄りの指向が抱く苦悩に共感もすれば、相反する指向の苦悩に発見を見出すことが出来る。意見交換会のような内容である。最終的には現実世界と同様に相反する指向の分断が続くような突き放した幕切れだが、現実世界では本作を観た方々が自身と異なる指向への理解が深まればと願いを捧げたいところである。また本作では、マイノリティを掲げれば全てが許されるわけではなく、公共の福祉に反していないかの線引きをしっかりと残している。

 作品のテーマ自体は良いが、全体の完成度から見劣りしてしまう箇所として、東野絢香さん演じる神戸と佐藤寛太さん演じた諸星の存在感が薄いことが挙げられる。原作通りなのかもしれないが、2人の物語は無くても良かった。無くても成立する。2人の物語も稲垣吾郎さん・新垣結衣さん・磯村勇斗さんと同時並行で進むのだが、言葉足らずで印象に残らず埋もれている。薄味な物語を積み重ねた挙句、終いにはセリフで全てを片付けてしまう。東野さんも佐藤さんも1人で居ることが多く、小説と違って登場人物の心情を文章で伝えられない以上、映像化には不利な要件だったと考える。だったら、2人の物語を削除し、稲垣さんたちの物語に傾注すれば完成度が上がったと思う。テーマが良いだけに惜しい。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

法廷遊戯

(C)五十嵐律人/講談社 (C)2023「法廷遊戯」製作委員会

公 開 日  :11月10日

ジャンル:ミステリー

監 督 :深川栄洋

キャスト:永瀬廉、杉咲花北村匠海柄本明筒井道隆大森南朋

 

概要

 弁護士でありながら小説家でもある五十嵐律人さんの第62回メフィスト賞を受賞した同名小説を実写化したミステリー映画。

 

あらすじ

 久我清義、織本美鈴、結城馨の3人は法律家を目指すべくロースクールに通っていた。そのロースクールでは学生たちによる模擬裁判、通称「無辜ゲーム」と呼ばれる遊びを行っており、校内で起きた事件を断罪していた。

 時が経ち、3人は司法試験を合格して各々の道を進んでいた。ある日、弁護士となって働いていた清義に馨から指定の場所に来て欲しいと連絡が来る。その場所に向かうと血まみれになった美鈴がうろたえ、ナイフを刺されて死体となった馨が横たわっていた。美鈴は泣きながら清義に「私の無罪を主張してほしい」と頼み込む。果たして、この場で一体、何が起こったのか?清義は美鈴の弁護人となり、裁判にて真相を明かしていくが…。

 

感想

 作品全体が謎の濃霧に覆われ、良い意味で分かりにくい作品。発生する事件は他の作品同様に謎に満ちているが、本作は主要人物の背景や人物像も謎に満ちて靄がかかっている。探偵役である永瀬廉さん、加害者役である杉咲花さん、被害者役である北村匠海さんの誰一人さえ全容を掴ませてくれない。加えて、発生した事件もノーヒントに近く、何を証明していくかも予想がつかない。事件も登場人物も謎の濃霧に覆われ、作品の全容がなかなか把握しづらい。だが、それが本作の面白さである。濃霧を段階的に払い除け、ようやく見えてくる事件の真相と登場人物の背景。そして、本作が伝えたい司法の在るべき姿。濃霧が晴れた先にある全容の種明かしと司法の課題に触れる終盤こそが本作の醍醐味である。事件も登場人物も謎に覆って物語の展開を予想しづらくさせ、尻上がりな面白さと最後に司法の現実を残していく手法はTVドラマ『エルピス 希望、あるいは災い』に近い。

 残念なポイントは終盤で登場人物に感情移入させようとベタベタ頑張り過ぎるところ。前述の通り、本作は序盤から作品全体を謎の濃霧に覆い、観る者を突き放して物語を見せていく構造になっている。登場人物の背景や信念も謎に包まれているため、感情移入させる人物像に積み上げて輪郭を形成することは基本的に不可能。思いの丈を吐露するシーンは控えて形式的にすべきだった。おまけに、邦画特有の茶番である絶叫演技を喰らう。その人が絶叫しなくとも、どんな気持ちかぐらい分かるのに(笑)その影響もあって、本作で提示した司法の現状と課題解決への問いかけでキレイに締めれたのに、キレイに締めれない後味となってしまった感がある。作品全体を濃霧で覆った構造がハマっていただけに、最後の最後でコケてしまって惜しい。ただ、霧が晴れた状態の本作を知ってから、もう一度観直す気持ちはある。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

マーベルズ

(C)Marvel Studios 2023

公 開 日  :11月10日

ジャンル:アメコミ

監 督 :ニア・ダコスタ

キャスト:ブリー・ラーソン、テヨナ・パリス、イマン・ベラーニ、ゾーイ・アシュトン、パク・ソジュン、ゲイリー・ルイス、サミュエル・L・ジャクソン

 

概要

 マーベル・シネマティック・ユニバースの第33作品目にして『キャプテン・マーベル』の続編。ディズニー+の配信ドラマ『ワンダヴィジョン』からモニカ・ランボー、『ミズ・マーベル』からミズ・マーベルことカマラ・カーンが合流する。

 

あらすじ

 キャプテン・マーベルことキャロル・ダンバースとの”ある過去”の因縁から復讐を誓う敵ダー・ベンが現れる。ダー・ベンの狙いは、地球をはじめ彼女が守ってきた全てを滅ぼすことだった。そんな危機が迫る中、キャロルの親友マリアの娘である敏腕エージェントであるモニカ・ランボー、キャロウに憧れるアベンジャーズ・オタクの高校生ヒーローであるミズ・マーベルことカマラ・カーン、そしてキャロルの3人の現在地が次々と入れ替わるという謎の能力が発現してしまう。運命共同体となった3人はチーム”マーベルズ”を結成し、ダー・ベンと戦うことを決意する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 つまらない。面白い部分を探す方が大変。見づらいアクション。芯が通らずガチャガチャな物語。テキトーすぎる主要人物たちの言動。歴代MCU作品の中でもワースト・クラス。1番つまらない可能性もある。

 本作のキモとなる、主要キャラ3人が入れ替わりながら戦う能力ことスイッチ・アクションの魅力が少ない。まず、全体的にカメラが近すぎる。ただでさえ人物の入れ替わりでカシャカシャと場面が転換する上に、戦闘でワチャワチャしてる人物を近間で撮影したら見づらいに決まってる。そもそも本作はスイッチ・アクションに限らず、本作のアクション・シーン全般がカメラに近すぎる。本作の雰囲気的にドタバタ感を出したかったかもしれないが、見づらかったら元も子もない。でも、キャロル、モニカ、カマラの3人の現在地が同じ時のスイッチ・アクションは良く出来てる。3人をカメラのフレーム内に収めるため近間ではなくなる上、スイッチ・アクションならではの大喜利がある。ただ、個人的に面白かったのは戦闘以外でのスイッチかな…。

 物語は穴だらけ。「謎の敵」と銘打ったヴィランが謎な存在ではなく、背景の説明が遅すぎるだけ。劇中、テンションの振れ幅に差が大き過ぎて生命の価値基準がブレブレ。キャラクターたちの呆気ない顛末やアッサリ片付けられるドラマ。それらにより、キャロルやカマラやフューリーといった主要人物たちの言動が原理のないテキトーなキャラクターに見えてしまっている。MCUを追いかけた方々には「キャロル・ダンバースって、こんなキャラだっけ?」と疑問符まみれになることだろう。また、ヴィランとの決着や事件の収拾が最悪レベルのオチである。

 配信ドラマは観なくてもよい。モニカは『ワンダヴィジョン』、カマラは『ミズ・マーベル』でドラマが初登場になったが、配信ドラマの内容に深く言及してない。モニカとカマラの能力さえ知っておけば良いが、本作の劇中で説明はあるから大丈夫。「配信ドラマを観ないと本作の物語は追えない」という感想が出回ってるけど、結構なウソ。そもそも元来、一部を除いたMCUの作品は公開順に観なかったり、未見である前作の物語に触れたりしても劇中の物語は理解できるような仕上がりに施されている。『スパイダーマンNWH』の影響で「関連作品を全て観なきゃダメだ」や「過去作を観てないと過去作のネタバレを喰らう」という異常現象が起きただけであり、本作の物語は平常運転である。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計10個

 

花腐し

(C)2023「花腐し」製作委員会

公 開 日  :11月10日

ジャンル:ドラマ

監 督 :荒井晴彦

キャスト:綾野剛柄本佑さとうほなみ、吉岡睦雄、川瀬陽太、奥田暎二 他

 

概要

 第123回芥川賞に輝いた松浦寿輝さんの同名小説の実写映画化。『Wの悲劇』や『ヴァイブレータ』などを手掛け、日本を代表する脚本家のひとりである荒井晴彦さんが、数多くの賞を受賞した『火口のふたり』に続く自身4作目の監督作となる。”ピンク映画の斜陽”という原作にはないモチーフを脚本に取り入れ、映画作家としての”超訳”に挑んだ。主人公役に綾野剛さん、主人公と相対する男役に柄本佑さん、そして、ふたりの奇縁を結ぶ女優役にさとうほなみさんが扮し、ふたりの男とひとりの女が織りなす、切なくも純粋な愛の物語が誕生した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 斜陽の一途にあるピンク映画業界。栩谷は監督だが、もう5年も映画を撮れていなかった。梅雨のある日、栩谷は大家から、とあるアパートの住人への立ち退き交渉を頼まれる。その男・伊関は、かつてシナリオを書いていた元・脚本家志望だった。映画を夢見たふたりの男の人生は、ある女優との奇縁によって交錯していく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 過去を語り合う男たちを綾野剛さんと柄本佑さんといった名優が演じており、2人に用意されたセリフ及び2人の話し方に惹きつけられる。1つ1つの出来事を細部にまで作り込み、綾野剛さんと柄本佑さんの喋りと漏れ出る感情がセリフに息を吹き込み、劇映画なのに本当に地球上の何処かで起きた過去話に思えてしまうほど生々しく愛おしい。過去に囚われた男たちの浸りが身に染みる。

 そんな男たちが愛した共通の女を演じた、さとうほなみさんの名演が光る。劇中人物の中で1位を争うほど存在感を残している。「柄本佑さん演じる男→綾野剛さん演じる男」と時系列に付き合い、それぞれの過去話で見えてくる側面を発見したり、明らかな価値観の変遷を感じたりと、人生の歩みを感じる。特に価値観の変遷が、その時その時の男でミスマッチなのは痛切。巡り合わせの悪さに胸が締め付けられる。また、濡れ場が鮮烈。『愛なのに』でも官能的な濡れ場を見せたが、本作は行為の手順を逐一見せる上、男女共に思いを満たすために全力投球するため、生々しさが段違い。切り取りによってはAV並みである。

 そんな2人の男たちと1人の女の斜陽気味な現在軸をモノクロ、どこか人生に彩りがあった過去軸をカラーに色分けして対比を表現しており、3人の交錯する愛が染みてくる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

駒田蒸留所へようこそ

(C)2023 KOMA復活を願う会/DMM.com

公 開 日  :11月10日

ジャンル:アニメ

監 督 :吉原正行

キャスト:早見沙織小野賢章内田真礼細谷佳正堀内賢雄井上喜久子中村悠一

 

概要

 『花咲くいろは』・『SHIROBAKO』・『サクラクエスト』・『白い砂のアクアトープ』など、「働くこと」をテーマに、日々奮闘するキャラクターを描いてきたスタジオ「P.A.WORKS」によるお仕事シリーズの作品。本作の舞台は、世界でも注目されるジャパニーズウイスキーの蒸留所。蒸留所を経営する家族、蒸留所の職員、ニュースサイトの記者が手を取り合い、「家族の絆」と呼ばれる幻のウイスキーの復活を目指す姿が描かれるお仕事&家族物語。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 自分が本当にやりたいことが見つからないまま、ニュースサイトの記者として働く高橋光太郎は、どこか不満を募らせた毎日を送っていた。そんなある日、上司の安元から「駒田蒸留所」と呼ばれるウイスキー製造会社に密着取材をするよう指令が下る。その会社は、駒田琉生という名の若い女性が亡き父の跡目を継いでおり、現在、震災の影響で製造不可能となってしまった自社の名物商品「KOMA」を復活させるべく悪戦苦闘していた。だが、取材を機に、惰性の日々を生きていた光太郎に心境の変化が、琉生には「KOMA」復活に向けた転機が訪れる。

 

感想

 2020年代以降における、好きなこと及びやりたいことの見つけ方の決定版。ほんのり温かくなる家族の絆。他社の人間に対してタメ口を使う等の気になる点はあるが、お仕事映画と家族物語を地続きに結び付けた手腕が見事なハートウォーミング・アニメ。そして、透明感ある劇中のウイスキーが実に美味そうである🥃

 本作のお仕事映画としての魅力は「好きを仕事に!」のアンチテーゼ。好きなこと及びやりたいことを定めて実行するのではなく、日々の出来事や何かしら実行していれば好きなこと及びやりたいことが流れてくることを主張している。YouTuberが職業として認められた頃から「好きを仕事に!」の文言が広まり、趣味などを仕事に出来るよう努める者が出始めた。また、インド映画の傑作『きっと、うまくいく』においても、「好きなことを仕事にしよう」という主張があった。だが、これらの「好きを仕事に!」は初期衝動の域に過ぎなかった。「◯◯が好きだ!これを仕事にしよう!」と挑戦した後、その◯◯を仕事に出来たor出来なかったの2択で片付けられることが多く、成功or失敗の二元論の片付けられていた。また、「好きを仕事にする=幸福」、その反対に「好きでない仕事をしている=不幸」といった印象が強まり、「好きを仕事に!」が一種の強迫観念のようになっていた。だが、本作は時代と共に生まれてしまった理念に対し、それが主流ではないことを伝えている。好きなこと及びやりたいことを定めて実行するのではなく、日々の出来事や何かしら実行していたら好きなこと及びやりたいことが流れてくることを示している。どんなスタートになるか、どんなルートを辿るか分からないが、まずは何でもいいから行動していけば好きなこと及びやりたいことを掴めてくることを説いている。本作は、好きなことを掲げて初志貫徹することを美徳や幸福と捉える先入観を覆している。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

ザ・キラー

Netflix

公 開 日  :11月10日

ジャンル:サスペンス

監 督 :デビッド・フィンチャー

キャスト:マイケル・ファスベンダー、アーリス・ハワード、チャールズ・パーネル、サラ・ベイ、カーティルダ・スウィントン

 

概要

 『セブン』や『ファイト・クラブ』を生み出した鬼才デビッド・フィンチャーの最新作であり、『Mank マンク』に続くNetfrix配信作品。第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品作。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 ある夜のパリ。目立たない服に身を包み、空きオフィスの一室から向いの高級アパートに住むターゲットを狙う暗殺者。ライフルを手に、仕事を確実にやり遂げるため、落ち着いて計画通りにあらゆる段階を進めていく。ところが、ニアミスが発生。暗殺者は冷静な行動で逃亡する。しかし、雇用主が望むのは彼の死。自宅を襲われ、自分を見失いそうになりながら彼は抗う。ドミニカ共和国と米国を股にかけた、決死の追跡劇が幕を開ける。

 

感想

 無機質かつシステマチックに暗殺へ取り組む職人感を出しながらも、1人の人間として『ジョン・ウィック』のように人の心を持つ男。その男に密着し、男の背中を追いながら自己語りを聞かせられる『最強殺し屋伝説国岡』のような作品。だが本作は『ジョン・ウィック』のように派手なアクションはなく、コーマック・マッカーシー映画の『ノーカントリー』や『悪の法則』のように必要最低限の駆け引きによるワンショット・ワンキルを試みるシャープな動きとなっており、それを絶妙なショットとカメラワークでスタイリッシュに収めている。また『最強殺し屋伝説国岡』が主人公にカメラマンが密着するモキュメンタリーに対して、本作は主人公のナレーションが多いため自己語りとなっており、『最強殺し屋伝説国岡』のように「殺し屋の仕事ぶりを見学する」ではなく、観てるうちに心身へ暗殺者の流儀が染み込まれて感覚を刺激する作品となっている。そのため、自身が掲げる仕事の信条と自身がミスをした後に取った行動が相反していることが明確であり、暗殺者ながらも完全なる一貫性がなく複雑性を帯びている一般人であることがよく分かる。本作は暗殺という非日常な光景を追いながら複雑な心を持つ1人の男を追い、日常と隣り合わせのような擬似的な職業体験を得ることが出来る。

 主人公の暗殺者を演じたマイケル・ファスベンダーが素晴らしい。暗殺者が掲げる信条を基に、徹底した用心と計画性を無駄のない動きで見せ、主人公の性格を完璧に体現していた。張り込み中の身体的な管理、移動中でも準備と事後処理を並行して実施する行動1つ1つが効率厨である性格を表していた。そして、仕事でミスをした後は信条を心の声で唱えながらも信条に相反している行動を起こし、複雑性のある一人の人間としても体現していた。

 演出が逐一、精微である。マイケル演じる主人公の用心深さと効率厨な部分を一挙一動、近距離でカメラに収めている。そのおかげで主人公の性格が強く印象づけられる。尚且つ、その写し方がスタイリッシュで目を引かせる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

クレイジークルーズ

Netflix

公 開 日  :11月16日

ジャンル:コメディ、ミステリー

監 督 :瀧悠輔

キャスト:吉沢亮宮崎あおい、吉田羊、菊地凛子永山絢斗泉澤祐希蒔田彩珠、潤浩、安田顕高岡早紀

 

概要

 映画『怪物』でカンヌ国際映画祭脚本賞を受賞した坂元裕二さんが新たに脚本を手掛けたコメディ&ミステリー。吉沢亮さんと宮崎あおいさんがダブル主演を務める。

 

あらすじ

 舞台は、42日間に渡る船旅を目的に出航する豪華クルーズ船。船のバトラーとして務める冲方優は、今回の旅で恋人を乗せてプロポーズをすることを試みていた。だが、恋人に急な予定が入って船に乗れなくなってプロポーズ作戦は中止。ガッカリしながら船の出航を待っていた矢先、盤若千弦と名乗る女性が冲方の目の前に現れて慌てて乗船する。千弦が船に乗り込んできたのは冲方に会うことであり、その目的は冲方の恋人と千弦の恋人が密会を繰り返して浮気していることを伝え、2人で浮気を止めようと画策するためだった。突然の出来事に動揺する冲方。どうしようか迷っている最中、船の中で殺人事件が起きてしまう…。

 

感想

 突如として発生した殺人事件の解明。曲者揃いな登場人物たちの恋路。本作には気になる行く末が2つ…いや、登場人物たちの恋路は登場人物のカップル数だけ用意されている。そして、それら全てがミステリーにもロマンス・コメディにも順応したユーモラスなセリフで紡がれる。多くのセリフから語彙力とテンポの良さが光り、言葉選びのセンスが高い。それらを自然体で放つ演出や俳優陣のコミカルな演技も見事。セリフに傾聴しながらミステリーもロマンス・コメディも楽しめる。そう評すれば、聞こえはいい…。

 だが、本作のミステリーとロマンス・コメディは噛み合わせが悪い。なぜなら、本作のキモである殺人事件と登場人物たちの恋路に強い接点がないからである。2つのジャンルを出したことによる掛け算が発生してない上、足し算にすらなってない。殺人事件と登場人物たちの恋路があまりにも結び付きが少ない&印象が薄いおかげで、それぞれがほぼ独り歩きしている。殺人事件は殺人事件として、ほぼ一本の線。登場人物たちの恋路は登場人物たちの恋路として、ほぼ一本の線。ミステリーとロマンス・コメディによる化学反応が全くなく、2つの線を交互に映してるだけ感が強い。まるで、2冊の小説を用意して数十ページおきに交互に読んでいるかのようである。話が進めば進むほどミステリーとロマンス・コメディの接点が薄味である実感が大きくなり、本作の世界観の定まりが見えなくなって鑑賞意欲は落ちていく。それにより話が進めば進むほど結末がどうでもよくなる。加えて、物語を強く展開させるギミックもない。観れば観るほどジャンルの組み合わせを活かして切れてないことが明白になっていき、作品のメッキが剥がれ落ちる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計12個

 

鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎

(C)映画「鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎」製作委員会

公 開 日  :11月17日

ジャンル:アニメ

監 督 :古賀豪

キャスト:関俊彦木内秀信、種﨑敦美、白鳥哲、小林由未子、沢城みゆき野沢雅子

 

概要

 長年に渡ってきた日本のカルチャーのひとつとも言える国民的アニメ『ゲゲゲの鬼太郎』の原作者である水木しげるさんが2023年で生誕100周年を迎え、その記念として制作された作品。主人公である鬼太郎の誕生の秘密、かつての目玉おやじと水木との出会いを描いた長編アニメとなっている。

 監督は『劇場版ゲゲゲの鬼太郎 日本爆裂!!』の監督を務めた古賀豪さん、脚本はTVアニメ『マクロスF』などで知られる吉野弘幸さん、キャラクターデザインを『シン・エヴァンゲリオン劇場版』で副監督を務めた谷田部透湖さんが担当する。キャスト陣は、鬼太郎の父役に関俊彦さん、水木役に木内秀信さんが務める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 昭和31年。日本の政財界を裏で牛耳る龍賀一族によって支配されていた哭倉村。血液銀行に勤める水木は当主・時貞の死の弔いを建前に野心と密命を背負い、また鬼太郎の父は妻を探すために、それぞれ村へと足を踏み入れた。村では時貞の跡継ぎについて龍賀一族内で醜い争いが始まっていた。そんな中、村の神社にて一族の一人が惨殺される。それは恐ろしい怪奇の連鎖の始まりだった。鬼太郎の父たちの出会いと運命、圧倒的絶望の中で二人が見たものは…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 横溝正史さんの推理小説を彷彿とさせるジメ〜ッとした昭和の空気。画面から漏れ出てきそうな妖気。2つの気が交わる世界観の中、複数に跨るジャンルの楽しさが光る。2人の主役がそれぞれ及び共通して向かう道を描いたドラマとしての楽しさ。その2人がバディとなって段階的に謎を解き明かしていくミステリーとしての楽しさ。妖怪と妖怪がぶつかり合うバトルモノとしての楽しさ。複数の楽しさがミックス及び切り替わりで提供される中、妖怪モノとしての演出やビジュアルの怖さがある。そして何よりも恐怖なのはミステリーの果てに待ち受ける驚愕の真実の数々。もはや恐怖を通り越して胸糞の域である。対象年齢がPG12になるのも納得。だが、「劇中で起きたことを未来の子供たちに体験させるなよ!」と主役2人から現代の我々へ向けて、強く重いメッセージが届く。

 目の描写が全て怖い。眼球を動かすだけで恐怖を覚えさせる。そして何より、目が大変な状況になるシーンが多々ある。『ラピュタ』のムスカ大佐のように「目が〜、目が〜」なんぞ言ってる場合ではない。PG12である以上、保護者同伴ならお子様も観れるけど、絶対トラウマになるぞ…。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

コーポ・ア・コーポ

(C)ジーオーティー/岩浪れんじ

公 開 日  :11月17日

ジャンル:ドラマ、コメディ

監 督 :仁同正明

キャスト:馬場ふみか、東出昌大、倉悠貴、笹野高史前田旺志郎、北村優衣、藤原しおり、片岡礼子

 

概要

 昭和レトロな雰囲気を醸し出す大阪の安アパートを舞台に、年齢も性別も職業もよく知らないながらも、縁あって一つ屋根の下に暮らすワケあり同士、ゆる~く連帯しながら飄々と生きる住民たちの生態を、全編にわたってオフビートな笑いを漂わせつつ、リアリティショーをのぞき見しているかのような生々しさで描いた群像ライフストーリー。芥川賞作家の西村賢太さんが生前「得体の知れぬ日常を底知れぬ生命力で渉る。そんな人たちが、ここにいる」と絶賛し、「今読むべき!」と話題沸騰中の漫画家・岩浪れんじさんによる初の同名漫画を原作に、個性豊かなキャストを迎え、脚本を近藤一彦さん、監督を仁同正明さんで実写映画化した作品。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 大阪。スカジャン姿で自転車に乗る辰巳ユリが、とある安アパートへと帰って来る。そのアパートは、住人たちがゆる~く繋がりながら暮らす「コーポ」という名のアパート。お湯も出ないし、風呂もなし。だが、個性豊かな住人同士が顔を合わせる度に、何かと声を掛け合っている。そんな彼らの人間模様が照らされる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 2人の少年が売れっ子漫画家を目指す少年漫画『バクマン。』に、こんな感じのセリフがあった。平凡な日常…、例えば中学生が朝起きて飯食って学校に行くという普通の生活を面白く描けたら凄いですよね。本作は、その言葉を具現化したような作品である。劇的なストーリー進行やケレン味の効いた演出は一切なく、いつもと変わらない日常と、いつもと少し変わった出来事を組み合わせ、我々が生きる現実世界の日常と同等の日常を描いている。それなのに面白おかしく楽しめるし、鑑賞後はほんのりと良い気分になって満たされる。

 何気ない日常を現実世界と同じ温度感で描いているのに、本作へ引き込まれる要因としてはアパートに住む者たちの関係性が魅力的であることが考えられる。互いに助け合いをする。だが、過干渉はしない。聞こえが良すぎるかもしれないが、助けて欲しい時や一緒に居たい時だけ近くに居てくれる。個人としてのプライベートと同じアパートに住む者としての共同体の棲み分けを線引きし、擬似家族・宗教団体・町内会といった固い結び付きの集団から若干、緩んだ絶妙な距離感を保っている。これは集団組織における一種の理想形ではないかと思える。きっと、本作を観て好きになった方は、本作の舞台であるアパート「コーポ」に引っ越して、劇中に出てきた住人たちのように生活を送ってみたくなった方もいると思う。そういった入居希望が芽生えてしまうのが本作の魅力だと考える。

 あと本作は、2022年に公開された邦画『川っぺりムコリッタ』に似てる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

スラムドッグス

(C)UNIVERSAL STUDIOS. All Rights Reserved.

公 開 日  :11月17日

ジャンル:コメディ

監 督 :ジョシュ・グリーンバウム

キャスト:ウィル・フェレルジェイミー・フォックスアイラ・フィッシャー、ランドール・パーク、ウィル・ホーテ 他

 

概要

 下ネタ満載の下劣なコメディ映画『テッド』のユニバーサル・スタジオが贈る、新手の下劣コメディ映画。

 

あらすじ

 ある日、犬のレジーは飼い主のダグに家から遠い場所に捨てられてしまう。しかしピュアなレジーは、これを遊びだと勘違いしながら家を目指して彷徨っていた。その道中、ノラ犬界のカリスマ・バグと出会う。これまでの経緯を話した後、バグから「お前は飼い主から捨てられたんだぞ」と言われ、ようやく自分が置かれた状況を理解。ダグに対して怒りが沸き上がり、「ダグのチ〇ポを嚙みちぎってやる!」と復讐することを決意。バグもレジーに賛同し、復讐を手伝うことに。さらにはバグの友達であるハンターとマギーも仲間に加わり、4人の犬たちはダグの家へ向かう。果たして、この復讐チン道中の行方はいかに…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 「飼い主のチ◯ポを噛みちぎってやる!」のセリフ以上に下ネタとブラック・ユーモアが炸裂。しかも、絵面のインパクトがクソすぎて強烈。現実世界で実行したら間違いなく気分を害する光景や行為の数々をソフト化し、なんとか見れるレベルで笑いを届けまくる。(とはいえ、それでもキョーレツだけど。) クソクソ言いまくるセリフとクソな映像ばかり続くけど、犬社会をここまで下ネタとブラック・ユーモアに落とし込んだ発想力は犬を題材にしただけにワンダフルである。(私のコメントはスベりましたが、映画本編のギャグはスベることを知りません。)

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

翔んで埼玉 琵琶湖より愛をこめて

(C)2023 映画「翔んで埼玉」製作委員会

公 開 日  :11月23日

ジャンル:コメディ

監 督 :武内英樹

キャスト:GACKT二階堂ふみ、杏、加藤諒益若つばさ高橋メアリージュン、アキラ100%、天童よしみ川崎麻世藤原紀香片岡愛之助

 

概要

 「埼玉県人には、そこらへんの草でも食わせておけ!」・「埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ!」といった数々の埼玉ディスを連発するも、埼玉の寛容さに助けられて、まさかの大ヒットした『翔んで埼玉』の続編。スケールもパワーも格段にアップし、磨きのかかった”ディスり”と”郷土愛”で「んなアホな!」とツッコミながら楽しめる茶番劇が再び繰り広げられる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 東京都民から迫害を受けていた埼玉県人は、麻実麗率いる埼玉解放戦線の活躍によって自由と平和を手に入れた。次いで「日本埼玉化計画」を推し進める麗は、埼玉県人の心を一つにするため、越谷に海を作ることを計画する。そのために、海を作る材料となる白浜の美しい砂を求め、未開の地・和歌山へと向かった。だが、その地では大阪を筆頭とする関西地方の者たちが、かつての東京都民から埼玉県人への迫害同様、地域による差別や通行手形制度による取り締まりを行っていた。やがて、恐るべき大阪の陰謀は日本全土を巻き込む地方対決へと展開していく…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 ディスりの応酬。溢れる郷土愛。笑いと感動(?)の茶番劇コメディ2作目。

 舞台が関西でも、地方ネタを絡めた演出と台詞のユーモアは相変わらず爆笑必至。ファンタジックなビジュアルはスケールアップ。だが、やれる幅が広がる続編ゆえの穴もある…。

 まずは、演出と脚本について。地方ネタを絡めたアイテムとボキャブラリーで笑わせる演出と台詞は相変わらず。舞台を関西に移動しても、その地方に住んでない方orその地方をよく知らない方でも笑えるようなネタのチョイスとセリフの構成も相変わらず。前作の埼玉県で数々の珍事や珍言が飛び出したように、本作では滋賀や大阪をネタに珍事や珍言を作り出している。さらに本作では前作において爆笑のピークとなったシーンを恒例行事と化して関西バージョンを作り上げた。加えて、演出がパワーアップしており続編の意気が感じ取れる。また、本作の劇場公開日から数週間後に某洋画の続編が公開されるわけだが、その某洋画を明らかに狙ったオマージュがある。それに合わせて狙った?それとも、運命のイタズラ?どちらにせよ、本作の物語も凝り性が伺える。

 とはいえ、前作から劣る点や続編ゆえの弊害が目につく。前作の「埼玉なんて言ってるだけで口が埼玉になるわ」のようにインパクトを残して浸透する名言はなかった。原作には完全オリジナル脚本だったこと、予告編の映像に珍言を取り入れなかったことが要因とされる。また、前作より登場人物とロケーションが増えたことで物語に渋滞が生じていた。前作はGACKTさん・二階堂ふみさん・伊勢谷友介さんの3人の出番に注力しており、残りの人物は脇役として割り切っていたため交通整理が成されていた。だが、本作は主要人物が多く、出番の尺が分散しまくった結果、前作のGACKTさんたちのようなインパクトを残してない。GACKTさん自身も前作より目立ってない。加えて、脇役の方々も前作より出番の回数が増えたことで主要人物の尺は更に割かれる。そのため、交通渋滞が起きる。さらには前述の通り、印象に残る珍言がないため、若干だが物語が散漫してる。続編ゆえに、やれることが増えた分、四方八方に手を出し過ぎて散漫になるという「続編あるある」の沼にハマっている。

 つぎに、ロケーション。前作よりもビジュアルが強化された。前作は現代と変わらない風景でのロケ地が多かった。(本作でも、そのようなロケ地は健在だが。)だが、本作はセット作りに注力。豪華絢爛で煌びやかな意匠を施したセットで撮影され、ファンタジックな世界観への没入度が前作より増している。しかし、セットが世界観を構築が強く出過ぎたため、ロケ地でのシーンになると急にファンタジックな世界観は切れる。セットとロケ地で世界観を表現するビジュアルに温度差が生じている。確かにセットの作り込みは見事だが、ファンタジー世界と現代の世界を行き来してる錯覚に陥る。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

(C)2023KADOKAWA (C)T.N GON Co.,Ltd

公 開 日  :11月23日

ジャンル:歴史、コメディ

監 督 :北野武

キャスト:北野武西島秀俊加瀬亮中村獅童木村祐一遠藤憲一浅野忠信大森南朋岸部一徳小林薫

 

概要

 構想30年。北野武監督が放つ前代未聞の”本能寺の変”。裏切りに次ぐ裏切り。大スケールの合戦。刷り込まれた歴史観を覆す展開。まさかの黒幕。戦国時代の常識を根底からブッ壊す、とてつもない狂った映画となった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 天下統一を掲げる織田信長は、毛利軍、武田軍、上杉軍、京都の寺社勢力と激しい戦いを繰り広げていたが、その最中、信長の家臣・新木村重が反乱を起こして姿を消す。信長は羽柴秀吉明智光秀ら家臣を一堂に集め、自身の跡目相続を餌に村重の捜索を命じる。秀吉の弟・秀長、軍師・黒田官兵衛の柵で捕らえられた村重は光秀に引き渡されるが、櫃比ではなぜか村重を殺さず匿う。村重の行方が分からず苛立つ信長は、思いもよらない方向へ疑いの目を向け始める。だが、それはすべて仕組まれた罠だった。果たして、黒幕は誰なのか?権力争いの行方は?史実を根底から覆す波乱の展開が、”本能寺の変”に向かって動き出す。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 広告やポスターのファースト・インプレッションからは、北野武監督の作品だけに「バイオレンス時代劇」や「戦国時代版アウトレイジ」を彷彿させる。ところがどっこい。お笑い芸人"ビートたけし"さんが前面に出たコメディである。
 あの群雄割拠だった戦国時代にシニカルなユーモアを入れ込みまくり、お笑いコント及びお笑いバラエティ番組風に大胆な脚色を施したブラック・コメディへと昇華させている。ビートたけしさん演じる後の天下人こと羽柴秀吉をバラエティ番組の雛壇に座る総合司会者的なポジションに据え、他の芸人(武将)たちをイジったりツッコミを入れたりしてコントロールしている。大森南朋さん演じる羽柴秀長浅野忠信さん演じる黒田官兵衛雛壇芸人的なポジションとなって秀吉からイジられたり、他の芸人(武将)イジったり傍観してツッコミを入れたりしている。加瀬亮さん演じる織田信長西島秀俊さん演じる明智光秀遠藤憲一さん演じる荒木村重木村祐一さん演じる曽呂利、荒川良々さん演じる清水宗治などはイジられ役またはVTR映像であり、雛壇に座る秀吉たちの見せ物と化している。この構図について、歴史好きなら承知だが「後に天下人となった秀吉は、その裏付けとして歴史上で起きた多くの出来事の黒幕だった」の一説にマッチしている。また、秀吉は「鳴かぬなら鳴かせてみせようホトトギス」の如く、他人を動かす事に長けた人たらしだった一説も重なり、秀吉を総合司会者に据えてお笑いバラエティ風なブラック・コメディにした本作は奇抜な脚色のように見せかけて、実は歴史的研究を網羅するには最適な脚色だったと考えられる。加えて、小林薫さん演じる後の総合司会者(後の天下人)である徳川家康は次の総合司会者になるべく、雛壇に座ったりイジられたり織田軍の皆から少し距離を置き、自分の活動範囲内で虎視眈々と生き延びようとする姿も家康の粘り強さ(または狡猾さ)を表している。お笑い界の売れる売れないの様相も戦国時代のようなものであり、芸人"ビートたけし"として最も戦国時代を表現できたのは、この形態だったのであろう。

 本作が生み出す笑いはアンチ・サムライズムを説くブラック・ユーモアとなっている。何かと美化されがちな戦国武将だが、本作では全員が野蛮人。他人の生命および人生を何とも思ってない。すぐに道具として利用するし、殺しもする。人命軽視も甚だしい。「侍」というのは結構ヤバい人種であることを痛烈に披露している。それ故、何かと美化する為に使われがちな「侍の国・日本」や「サムライJAPAN」は凄く恐ろしい使い方なのである。「侍=良いもの」という慣習を改めさせる。もはや、中村獅童さん演じる難波茂助の「オラは侍になりたいんだ」という役柄だけで凄く皮肉。本作は「侍の世界」という過去の悪習を見せつけ、アンチ・サムライズムを説くブラック・コメディとして大いに機能している。
 首だけに、首に関する描写に力を入れ、その描写が凄まじい。首なし死体なんて序の口レベル。名優たちの首に刃が入り、首がぶっ飛び落ちる。そして、一瞬で複数人の首が血飛沫を吹きながら斬り落とされる光景もある。斬られる瞬間をカメラワークで隠したり、暗転させたり、モザイクで加工したりしない。刀を振り下ろしてから首が斬り落とされるまでをワンカットで納めている。マジで人の首が斬り落とされたようにしか見えない。どんな撮影技術を使ったんだ…。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

ロスト・フライト

(C)2022 Plane Film Holdings, LLC. All Rights Reserved.

公 開 日  :11月23日

ジャンル:アクション、スリラー

監 督 :ジャン=フランソワ・リシェ

キャスト:ジェラルド・バトラー、マイク・コルター、ヨーソン・アン、ダニエラ・ピエダ 他

 

概要

 『ハンターキラー潜航せよ』のジェラルド・バトラーとマーベルのドラマシリーズ『ルーク・ケイジ』のマイク・コルターのコンビが主演を務めるサバイバル・アクション・スリラー。監督は『アサルト13』などのジャン=フランソワ・リシェ、脚本は元MI6の経歴を持つ小説家チャールズ・カミングが担当する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 悪天候が予想される中、会社の指示で難しいフライトを任されたトランス機長。さらに、離陸直前でガスパールという名の犯罪者を移送のために搭乗する事態になり、予定外だらけのフライトで不安を抱えていた。離陸後、その不安は的中。数十人の客たちを乗せて悪天候を飛行する旅客機は激しい嵐と落雷に巻き込まれる。徐々に機内はトラブルが発生して命の危機が訪れる。果たして、トランス機長と乗組員、そして乗客たちの命運はどうなるのか…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 不測の事態が次々と起こる疾風迅雷のパニック・ムービー。鑑賞前のあらすじ確認は"非"推奨。登場人物たちと一緒に不測の事態に呑まれ、一緒に時間を溶かすのが吉。目の前に訪れる不測の事態に向き合っているだけで107分の上映時間があっという間に過ぎ去っていく、疾走感バツグンの良作。

 本作はあらすじを知らずに観た方がいい。本作は「悪天候に見舞われた旅客機はどうなるのか…」の後に続く不意打ち的な展開が生命線となっている。だが、各種宣伝や公式サイトのあらすじにて、劇中の旅客機が悪天候に見舞われた後の展開どころか全容をほぼ言及してしまっており、あらすじを読んでから本作を観ると「あらすじの通りだな〜」となり、単なる確認作業に陥ってしまう。そもそも、「旅客機が悪天候に見舞われる」こと自体が不測の事態であり、その事態の後に待ち受けているのも不測の事態しかなく、その不測の事態をあらすじで提示してしまっては意味がない。登場人物たちが「この後、何が起きるのか?」と知らない状態に陥ってるのに、観客である我々が何が起こるか知っていては楽しめる範囲が狭まるに決まっている。そのため、あらすじを知らない方がいい。知ってしまったのなら忘れた頃に観た方がいい。

 本作のストーリー展開は(あらすじを知らなければ)怒涛の連続。疾風迅雷である。劇中のキーワードで「1つ1つ着実に」なんて言葉が出てくるが、やってることは「1つ1つテキパキに」である。それを生んでいるのは登場人物の描き方にある。まず、不足の事態が起きても登場人物たちが即断即決で行動に移す。そのため、画面に映るのは命の救出と窮地の脱出に繋がるアクションのみ。そして、窮地に陥って登場人物の心境が乱れても過度な感情移入の描写はなく、時間がスローになることがない。9割9分の映像が事態を前進させており、止まることを知らない。本作を表す四字熟語として「疾風迅雷」が実に相応しい。

 また、本作における物語の時間経過はリアル志向である。劇中の物語は旅客機が悪天候に見舞われてから数時間ポッキリの時間経過であり、状況が状況だけに出来事が地続きに起きてリアルな時間経過を体感できる。また、ずーっと窮地に向き合う出来事やシーンばかりで常に観客の意識を画面に向けさせ、物語を追っているだけで一気に時間が過ぎていく。確実に体感速度が加速され、本作は(あらすじを知らなければ)上映時間の107分が一瞬で溶ける。個人的には体感1時間もなかった。

 惜しい点は編集。全体的にワンシーンにおけるカットの繋ぎが雑になることが少々ある。不測の事態を切れ目なく映してるとはいえ、起きてる事態のシークエンスがザク切りになっている。これが発生すると、せっかくリアルな時間経過で積み重ねてきた展開がキング・クリムゾン状態っぽくなるため、リアル感が少しだけ削がれてしまう。とはいえ、次々と登場人物たちが行動を起こして物語を前進させるから、すぐさまリアルな時間経過の物語に帰っていく。ストーリーの展開自体にスピード感があるため、もう少しワンカット毎の尺を伸ばして良かったと思う。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個