プライの書き置き場

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【まとめ】2023年 日本劇場公開の映画(12月編)

 この記事は2023年12月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)

 「2023年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。

 

 各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍

  • 公開日(日本の劇場で公開された日)
  • ジャンル
  • 監督
  • キャスト
  • 概要
  • あらすじ
  • 感想

 加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。

  • 脚本・ストーリー
  • 演出・映像
  • 登場人物・演技
  • 設定・世界観

 ⭐は最大で5つです。

 

 それでは、早速いきましょう💨

ナポレオン

© 2023 Sony Pictures Entertainment (Japan) Inc. All rights reserved.

公 開 日  :12月1日

ジャンル:伝記、ドラマ

監 督 :リドリー・スコット

キャスト:ホアキン・フェニックス、バネッサ・カービー、タハール・ラヒム 他

 

概要

 巨匠リドリー・スコット監督と『ジョーカー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したホアキン・フェニックスが『グラディエーター』以来23年ぶりにタッグを組み、フランス英雄ナポレオンの人物像を新たに解釈した歴史スペクタクル。ナポレオンの妻ジョゼフィーヌ役には『ミッション:インポッシブル』シリーズでホワイト・ウィドゥを演じたバネッサ・カービー、脚本は『ゲティ家の身代金』でもリドリー・スコットとタッグを組んだデヴィッド・スカルパなど、超一流のキャストとフィルムメーカーが集結した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 1789年。自由、平等を求めた市民によって始まったフランス革命マリー・アントワネットは斬首刑に処され、国内の混乱が続く中、天才的な軍事戦略で諸外国から国を守り、着実な昇進で頭角を現していく軍人ナポレオン。完全無欠な男の姿に軍部や国民は支持を示すが、家庭内では1人の男として最愛の妻ジョゼフィーヌと愛憎の二面性を帯びた夫婦生活を送っていた。やがてナポレオンは皇帝にまで上り詰めて更なる権力を手にし、軍を指揮していく。だが、いつしかフランスを守るための戦いが、諸外国を侵略するための戦いに変化していき、勝利を重ねる英雄となる一方で何万人もの戦死者を生み出していく。巨大なる権力を握りしめ、愛と憎しみが入り混じる夫婦生活を送ったナポレオンの生涯が綴られる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 フランスの英雄ナポレオンの台頭から最期に渡る激動の生涯を通して人物像を語る歴史スペクタクル。

 当時の栄華を示す、煌びやかな衣装・装飾品・建物の内装。数百人以上の兵士が隊列を組み、砲撃が轟くダイナミックな戦場。権力・戦場・愛する者のしがらみで心境が移ろいながらも妻に愛を捧げるナポレオンを好演したホアキン・フェニックス。ナポレオンと愛憎による静かな戦争を繰り広げ、特別な存在となる妻ジョゼフィーヌを好演したバネッサ・カービー。豪勢な美術、大迫力の合戦、キャスト陣の好演といった一流の素材を取り揃え、その場の雰囲気にピッタリなBGMを逐一導入し、見事な編集力でナポレオンの生涯をまとめ上げて人物像を浮かび上げている。本作ではナポレオンを世間的に評される英雄および戦上手として見上げる存在に描かず、「一時代を築いたカリスマも、感情を持つ1人の男だった」といった哀愁や親近感が沸いてくる。偉人ナポレオンの物語というよりも、人間ナポレオンの物語と本作を表するのが正確である。英雄や天才と称された者と言えども、同じ人間に変わりはないと思わせてくれる。凡人から一線先の立場に追いやられる偉人の見方を180度変えてくれる作品。

 ホアキン・フェニックスが素晴らしい。開幕直後からナポレオンを凡庸な人間であることを体現している。1発目の合戦シーンから、軍の役職に見合った威厳を放出しながらも「こいつ今まで運で生き残ってきただろ」と思わせる及腰な立ち回りを見せてくれる。砲撃の指示を出した後、誰よりも真っ先に耳を塞ぐ手つきの早さは、まさにそう。そんな男が権力の倍々ゲームにハマってから見え張りを膨らませていくグラデーションも見事。また、妻を演じたバネッサとの息を合わせた愛憎劇も素晴らしい。権力の渇望と愛の欲求を満たすため、共依存となる様は特別な関係性として奥深い。

 合戦シーンが素晴らしい。広大な土地の中に数千人の演者を動員し、最大11台のカメラで撮影した戦場は圧巻。何百人から成る隊列を整えて動き回る兵士たち。轟く大砲の砲撃音と着弾音。飛び散る血飛沫と部位欠損。それらが入り乱れる戦場は臨場感の塊である。ナポレオンの人間性に重きを置いた作品なのに一切の妥協がない。良質なドラマを見れる上、大迫力の戦闘も見ることが出来るのは実にリドリー・スコット監督作らしい。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

バッド・デイ・ドライブ

(C)2022 STUDIOCANAL SAS - TF1 FILMS PRODUCTION SAS, ALL RIGHTS RESERVED.

公 開 日  :12月1日

ジャンル:サスペンス

監 督 :ニムロッド・アーントル

キャスト:リーアム・ニーソン、ジャック・チャンピオン、リリー・アスペル、エンベス・デイビッツ、ノーマ・ドゥメズウェニ、マシュー・モディーン

 

概要

 スペイン映画『暴走車 ランナウェイ・カー』のハリウッド・リメイク。主演は本作で映画出演101本目となるアクション俳優のリーアム・ニーソン。いつも凄腕キャラが演じてきたリーアムだが、本作では全くスキルのない一般人を演じる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 いつもと変わらぬベルリンの朝。金融ビジネスマンのマットは、子供たちを学校に送り届けるため、自慢の新車のシートに腰を下ろした。運転を始めると着信があり、声の主は「その車に爆弾を仕掛けた。降りてはいけない。通報してもいけない。これから伝える指示に従わなければ爆破する」と告げる。犯人の正体、要求、目的のすべてが不明のまま。戸惑いながらもドライブを続けるマットの運命は…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 シチュエーションが良い作品。

 まずは、爆弾の設定。車の椅子に座ることで作動し、立った瞬間に即爆破。さらに、警察に通報した瞬間にも即爆破。さらに、命令通り行動しなければ即爆破。破ることの出来ない制約が3つも用意されることは、それだけ死のスイッチが在ることであり、緊張感が膨れ上がる。また、雁字搦めの状況を作り出して閉塞感を生んでいる。身動きも制約されたことにより、観る者に「この状況から、どうするの?」と展開を一切、予想させない話運びが可能となり、ひたすら展開を目で追わせる構成に仕上がっている。

 次に、犯人。声のみで一切、姿を現さない。そして、何よりも目的が一切、分からない。犯人像を形成するピースが存在せず、観る者に推理する余地を全く与えない。「お前は一体、何者だ」と疑問を抱く主人公の心情に観る者も同化させられる。それにも関わらず、犯人に繋がる伏線を実は張っている点が抜かりない。

 総論すると、爆破のルールと見えない犯人が良いシチュエーションを作り上げている。3つもある制約が緊張感、そして身動きの取れなさを生み出し、「この状況から、どうするのか?」と観る者の期待を膨らませる。犯人の姿形や目的が不明なことにより、推理させる意識を与えない。身動きの取れなさと犯人の分からなさが、先の読めない(というか読ませない)展開づくりを担っている。それにより、観る者は本作で勃発する事態を夢中で追いかけることになる。しかも、その中で家族物語にも話を広げたり、将来的に問題となる金銭による格差やコンプレックスといった社会的側面を提示させたりと、サスペンス以外にもシームレスにテーマを繋ぐ手際の良さがある。これらの繋ぎ方も、先の読めない展開づくりによる効用であろう。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

映画 窓ぎわのトットちゃん

(C)黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会

公 開 日  :12月8日

ジャンル:アニメ

監 督 :八鍬新之介

キャスト:大野りりあな、小栗旬、杏、滝沢カレン役所広司

 

概要

 第二次世界大戦が終わる少し前の激動の時代を背景に、黒柳徹子さんの幼少期を自伝的に描いた小説『窓ぎわのトットちゃん』がアニメーションとなって映画化。監督は『映画 ドラえもん』シリーズを手掛けた八鍬新之介さん。制作は『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』を手掛けてきたシンエイ動画トットちゃんを始めとしたキャラクターデザインを金子志津枝さんが担当する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 舞台は第二次世界大戦の影が忍び寄る昭和時代の東京。好奇心が旺盛すぎるうえに落ち着きがないことを理由に、小学校を退学になってしまったトットちゃん。その後、自由が丘にある「トモエ学園」という学校に新しく通うことになった。校長の小林先生はトットちゃんに「君は、本当は、いい子なんだよ」と声をかけ、トットちゃんの好奇心が向くまま自由な学校生活を送らせる。こうして、トットちゃんの元気いっぱい、すべてが初めてだらけの日々が始まる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 服も建物も明らかに昭和の装いなのに、主人公のトットちゃんを初めとする登場人物たちやトットちゃんが通う学校の方針は現代より先を進んでいるように見えた。戦時中の軍隊の名残りを引きずる現代の教育ではトットちゃんのような好奇心旺盛で落ち着きの無い個性的な子供は俗に言う"普通の子供"になるよう矯正される。だが本作では、黒柳さんの両親や恩師は個性を封殺することはしない。その結果、トットちゃんは伸び伸びと生活し、好奇心旺盛すぎるのは自主性の裏返しであり、落ち着きの無さは行動力の高さの裏返しであると感じたところだった。同時に、本作で描かれる自由自在に動き回るトットちゃんたちの姿を常とする光景は、はぐれ者を良しとしない統率的な現代教育では失われたものだと思った。そういった意味で2023年に劇場公開する意義があった。本作の物語は、トットちゃんが自由自在に生きれたから体験できた事であり、その体験が私達に感動をもたらしており、登場人物たちに感謝の思いが募る。また本作の後半では忍び寄る戦争に対する子供たちのリアクションが描かれており、その様相を見れば2度と戦争を起こしたくない気持ちが沸き立つ。本作は過去の教育と戦争を持って、子供たちに明るい未来を繋げていく作品だと思った。

 絵に関しては人間の皮膚に所々、赤みを帯びてるのがリアル。

 黒柳徹子さん自身がナレーションを務めたことで真実の物語として没入感がある。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。

(C)2023「あの花が咲く丘で、君とまた出会えたら。」製作委員会

公 開 日  :12月8日

ジャンル:青春、戦争

監 督 :成田洋一

キャスト:福原遥、水上恒司、伊藤健太郎、嶋崎斗亜、出口夏希松坂慶子

 

概要

 SNSを中心に「とにかく泣ける」と話題になり、累計発行部数90万部を突破した汐見夏衛さんによる同名小説の実写映画化。主演はNHKドラマ『舞いあがれ!』で主人公を務めた福原遥さんと、『中学聖日記』で鮮烈なデビューを果たした水上恒司さん。主題歌は福山雅治さんが務め、本作のために新曲『想望』を書き下ろし、映画のラストを彩る。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 親や学校、すべてにイライラして不満ばかりの高校生の百合。ある日、進路を巡って母親の幸恵とぶつかり家出をし、近所の防空壕跡に逃げ込む。だが、落雷の音と共に目を開けると、1945年の6月つまり第二次世界大戦下の日本へタイムスリップしていた。百合が戦時中の町を彷徨っていると、偶然通りかかった軍人の彰が救いの手を差し伸べ、なんとか住処を手に入れる。その後も彰と関わり合い、百合は段々と彰に惹かれていく。しかし、彰は特攻隊員であり、数日のうちに戦地へ飛び立つ運命だった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 これでいいのか…。タイムスリップ後の町並みが、どう見ても映画村らしきセットでスケールが極小。タイムスリップしたことに妙に納得が早すぎる主人公。あきらかに身なりが違う上に戦時中の知識もない主人公を速攻で受け入れる町の人々。特攻隊員たちのノリが明らかにキラキラ青春映画のそれであり、戦争を扱う上で若干ながら不謹慎。(特に伊藤健太郎さんが顕著。事故を起こした後に『冬薔薇』で挽回したから、こんな役しないで(笑))主人公が恋する特攻隊員による主人公への距離の詰め方がバグっており、水上恒司さん以外が実行した場合はキモ男に認定される。近年の邦画特有の説明台詞はもちろんのこと、独り言で感情を説明するのも完備。あまりにも投げやり。映画としての完成度は、ちょっと…。

 とはいえ、ティーン向け映画に設計して若者に反戦を伝えたことは良き試み。現代人の主人公が戦時中にタイムスリップして本場の特攻隊と遭遇し、主人公と一緒に戦時下の狂気と命の尊さを知る事が出来るようにはなっている。作品としての完成度は低いけど、戦争を体験した日本人が少なくなっている今、戦争の悲劇を忘れないために新作として映画館で上映することには意義がある。まあ、それなら他の戦争映画をリバイバル上映してくれよと思いもするけどね。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計9個

 

ウォンカとチョコレート工場のはじまり

(C)2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

公 開 日  :12月8日

ジャンル:ミュージカル、ファンタジー

監 督 :ポール・キング

キャスト:ティモシー・シャラメヒュー・グラント、キャラー・レイン、キーガン=マイケル・キー、パターソン・ジョセフ 他

 

概要

 ジョニー・デップ主演で大ヒットした『チャーリーとチョコレート工場』に登場した工場長ウィリー・ウォンカがチョコレート工場を建設する以前の頃を描いた前日譚。ジョニー・デップが演じたウィリー・ウォンカを本作ではティモシー・シャラメが演じる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 誰もが味わったことがない「魔法のチョコレート」を作り上げる職人ウィリー・ウォンカ。彼は亡き母と約束した「チョコレート店を開く」という夢を叶えるため、一流チョコ職人が集まる街を訪れた。ウォンカが作る魔法のチョコレートは街の人たちを虜にし、ウォンカの才能は確実に知れ渡った。だが、街の”チョコレート組合”に所属する3名の職人がウォンカの才能に嫉妬し、ウォンカを街から追い出そうと画策する。さらには、ウォンカのチョコレートを盗むウンパルンパというオレンジ色の顔をした小人が現れる。果たして、ウォンカは無事にチョコレート店を開くことができるのか?

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 チャーリーとチョコレート工場』(以下、前作)の予習は不要。1つのミュージカル・ファンタジーとして楽しめる作品。あと、邦題に騙されないで。前作に登場した工場を建設する物語ではない。

 スタイルは前作と打って変わった。前作は工場内に設置された空想科学によるアトラクション体験と、その合間に挿入されるミュージカルを楽しむスタイルだった。対して本作はバリバリのミュージカル・ドラマ。ウォンカが作る魔法のお菓子が少ない&工場というデカいフィールドが使えない以上、次から次へとキャラクターたちを歌わせては踊らさせる話運びに設計したのは賢明。前作は「この異空間な工場で次は何のギミックが発動するのか?」というワクワク感が観る者の目を引きつけていたが、それを本作では使えない以上、ミュージカルが引力となる。多人数によるキレキレのダンス。後のウォンカの片鱗を彷彿させるVFXと美術。グイグイ動くカメラワーク。バシバシかつシームレスに移り変わるカット。そして、チョコレート。多くを兼ね備え、前作以上に躍動感あふれるミュージカルを隙あらば連打し、視覚と聴覚、時には味覚や触覚を大いに刺激して観る者の目を離さない作品となった。見事、スタイル・チェンジに成功してる。ただ、日本語吹き替え版だと、吹き替え後の歌詞と俳優陣の口の形が明らかにズレている箇所が見受けられる。しょうがないけどね。

 ジョニー・デップからティモシー・シャラメに変わっても、ウィリー・ウォンカがちゃんとウィリー・ウォンカしてる。前作にあった、言葉を発して後すぐさま訂正を入れてくる独特な喋り方が健在。ジョニー・デップ特有の話術かと思ったが、ティモシーにも継承されてウォンカのキャラクター像を維持している。前作になかった点としては、チョコレートに対する熱意が確かに感じられること。亡き母親とのヒューマン・ドラマを絡め、初期衝動やオリジンを描いたことでウォンカのキャラクター像が深まった。そして、工場を建設する説得力になっている。ただ、前作にあった、他人に対する無情な仕打ちは見受けられず、何処で闇落ちするのだろうと気になるところである。

 ウンパルンパを演じたヒュー・グラントが相変わらず、面白おじちゃまを好演してる。2023年は『ダンジョンズ&ドラゴンズ』、『オペレーション・フォーチュン』と続いてユーモラスな存在感を放っている。(どれも似たような感じだろとか言うな(笑))前作で多種多様なウンパルンパを器用に演じたディープ・ロイと打って変わり、ちょこまか動き回ったり難易度が低そうなダンスを披露したりと、ヒュー・グラントの面白おじちゃまにピッタリなキャラクターとなっている。

 名女優オリビア・コールマンにも着目。童話にで目にかかる、ふてぶてしい意地悪クソババアを演じている。賞レースを席巻する女優がここまでやってくれるとは誰もが夢に思わなかっただろう(笑)

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

市子

(C)2023 映画「市子」製作委員会

公 開 日  :12月8日

ジャンル:ミステリー、ドラマ

監 督 :戸田彬弘

キャスト:杉咲花若葉竜也森永悠希、倉悠貴、中田青渚、渡辺大知、宇野祥平中村ゆり

 

概要

 監督を務めた戸田彬弘さんが主宰する劇団チーズtheater旗揚げ公演作品にして、サンモールスタジオ選定賞2015にて最優秀脚本賞を受賞した『川辺市子』の実写映画化。

 痛ましいほどの過酷な家庭環境で育ちながらも、「生きること」を諦めなかった主人公・川辺市子を演じるのは杉咲花さん。抗えない境遇に翻弄された彼女の壮絶な反省を凄まじい熱量で体現。芝居を超えて役を生き抜く姿を鮮烈に観る者の心に焼き付ける。共演者は若葉竜也さん、森永悠希さん、渡辺大知さん、宇野祥平さん、中村ゆりさんたちが名を連ね、市子の底知れない人物像や過去が第三者の目線から描かれていく。どのような環境下であっても、自分の”存在”と向き合い続けたひとりの女性の生き様が、観る者の心を打ちのめす衝撃作。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 川辺市子は、3年間一緒に暮らしてきた恋人の長谷川義則からプロポーズを受けた翌日に、突然と失踪。途方に暮れる長谷川の元に訪れたのは、市子を捜しているという刑事・後藤。後藤は、長谷川の目の前に写真を差し出し「この女性は誰なのでしょうか?」と尋ねる。市子の行方を追って、昔の友人や幼馴染、高校時代の同級生と、これまで彼女と関わりがあった人々から証言を得ていく長谷川は、かつての市子が違う名前を名乗っていたことを知る。果たして、「川辺市子」とは何者なのか…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 失踪した市子が本当は全くの別人かもしれないというスタートは『ある男』的。真相に近づくほど社会的側面が浮き上がるのは『さがす』的。失踪した女性の得体の知れなさに呑み込まれていく感覚は『ゴーン・ガール』的。ミステリーの体で風呂敷を広げ、畳む際に人間から生まれた暗部が付着する系良作たちの混合体。故に本作も良作だった。

 杉咲花さん演じる市子の真相に触れる手札の切り方や後出しジャンケンが巧妙。手が届かなそうな痒い所を掻けたと思いきや、また痒みを催し、ずっとムズムズを残して市子の謎にのめり込ませる。ちゃんと痒い所をピンポイントで掻けるのは後半になってから。それまでの時系列操作や小出しの情報が良き塩梅。誰もが食い入るように市子の真相に吸い込ませていく。

 何と言っても、本作を大きく牽引したのは市子役の杉咲花さん。表情やセリフ、そして行動の見せ方が市子は何者なのかという核心に触れられそうで触れられないムズムズを植え付ける。また、目力が強い。眼光がギラギラしてるのではなく、『死刑にいたる病』の阿部サダヲさんのように空虚な黒目であり、その目が渦を巻く穴に見えて観る者は吸い込まれていく。劇中で「市子とは…」という謎は解けるのに、観終わっても「市子とは…」と脳内で反芻してしまう。杉咲花さんが市子を演じたのではなく、市子という人間が確実に居た。そう思わせるほどリアリティの高い演技だった。若葉竜也さん、宇野祥平さん、中田青渚さんは安定した存在感を残していた。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

VORTEX ヴォルテックス

(C)2021 RECTANGLE PRODUCTIONS - WILD BUNCH INTERNATIONAL - LES CINEMAS DE LA ZONE - KNM ARTEMIS PRODUCTIONS - SRAB FILMS - LES FILMS VELVET - KALLOUCHE CINÉMA Visa d’exploitation N° 155 193

公 開 日  :12月8日

ジャンル:ー

監 督 :ギャスパー・ノエ

キャスト:ダリオ・アルジェント、フランソワーズ・ルブラン、アレックス・ルッツ、キリアン・デレ 他

 

概要

 新作のたびに実験的な試みと過激描写で世界中を挑発し続けてきた鬼才ギャスパー・ノエが、「病」と「死」をテーマに自身の経験から、誰もが目をそむけたくなる死ぬことの現実を真正面から冷徹に描いた新境地。

 主演は80歳にして初主演を果たしたホラー映画の帝王ダリオ・アルジェントと、『ママと娼婦』の娼婦役で鮮烈な映画デビューを飾り伝説的な女優となったフランソワーズ・ルブラン。演技とは思えないふたりの奇跡の名園に魔を奪われずにはいられない。スプリットスクリーンの画面分割によって、老夫婦の日常が2つの視点から同時進行で映し出されていく。心通わぬ家族、不測の出来事、やがて訪れる死。我々は、暴力なき恐怖の渦に吸い込まれ、”死ぬまで”を追体験する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 映画評論家である夫と元精神科医認知症を患う妻。離れて暮らす息子は2人を心配しながらも、家を訪れ金を無心する。心臓に持病を抱える夫は、日に日に重くなる妻の認知症に悩まされ、やがて、日常生活に支障をきたすようになる。そして、ふたりに人生最期の時が近づいていた…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 心臓病を患う夫。認知症を患う妻。着実に死出の旅立ちへと向かう2人を2分割のスプリット・スクリーンで捉えた「死」の映画。

 死ぬとは孤独である。自分の死には、家族だろうと他人は介在せず、誰もが孤独に死出の旅立ちを迎える。それは誰もが平等に訪れる。本作は、老いて死ぬとは何たるかを観る者に知らしめる驚愕のデス・シミュレーションである。作品の完成度として傑作ではあるが、覚悟を要する。

 老夫婦を演じたダリオ・アルジェントとフランソワーズ・ルブラン、そして2人の息子を演じたアレックス・ルッツの演技が素晴らしい。本作の台本に台詞はほぼ存在せず、カメラがワンカット長回しで撮り続ける中、それぞれが即興で作り上げており、本当に実在するような家族に仕立て上げている。

 本作は2つの意味で楽しくない作品である。(酷評ではない。)
 1つ目の楽しくない意味は、観てて辛くなること。本作は、老夫婦の死にゆく姿を2時間以上の尺を十分に使って「死の孤独」を冷徹に映している。自身の心臓病と妻の認知症に悩まされ、人生1度きりの死を華々しく遂げられそうにない夫。認知症により、死の距離感はおろか死の概念さえも消滅してしまったかのように死に向かう妻。死に対する意識の有無で夫婦といえども異なる死の向かい方を描き、「あなたの死に方も、こうなるかもよ」と静かに突き付けてくる。そして、死ぬことは孤独であることも提示している。本作は、ほぼ全てが2分割のスプリット・スクリーンで展開される。登場人物1人1人をカメラで追わせることで、いくら家族で一緒に時間を過ごそうとも結局は自分の時間を生きて死ぬだけという孤独を追随させている。加えて、劇中の物語において、夫は意識が働く上での周囲との孤独、妻は認知症による無意識での傍から見た孤独をそれぞれ用意し、老いたる者としての孤独も描かれている。「老いて死に向かうとは、こういうことだ」と将来の自分を見てるようで辛くなる内容である。だが、死は誰にも平等に訪れるため、向き合いは避けられない。身体の自由が効くうちに、やりたいことは今のうちにやっておこうと思った。
 2つ目の楽しくない意味は、ストーリーに劇的な展開がなく淡々としており、些か退屈になってしまうことである。現実世界と同等の日常会話を長回しで映すため、画の動きが少ない。同じ絵面を眺め続けて飽きてくる。でも、本作は楽しさを全面に出す作品ではないので問題はない。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

終わらない週末

Netflix

公 開 日  :12月8日

ジャンル:スリラー

監 督 :サム・エスメイル

キャスト:ジュリア・ロバーツマハーシャラ・アリイーサン・ホーク、マイハラ、ケビン・ベーコン、ファラ・マッケンジー、チャーリー・エバンス 他

 

概要

 特になし

 

あらすじ

 休暇中、別荘を借りてバカンスに訪れた一家。だが、突如として謎の事象および電波障害が発生し、携帯電話やパソコンが機能不全に陥る。しかも、その電波障害がサイバー攻撃らしく、実感はないがアメリカが”何か”に攻撃されているらしい。不安となる一家のもとに、別荘の持ち主である父子が訪問してくるが…。

 

感想

 一家揃って休暇日を別荘でゆっくり過ごそう!そう意気込んでいた家族の前に得体の知れない"何か"が着実に侵略していくリアル志向スリラー映画。

 全ての電波が遮断され、登場人物たちが"何か"の情報収集が出来ない&視聴者に"何か"の情報を全く与えない設定が極限の緊張感を作っている。"何か"が近づいている。その"何か"が何かを起こしている。そして、"何か"は着実に何かへ向かっている。でも、"何か"の全容は掴めず、事象だけが現れる。あまりの情報量の少なさに「日常を奪うものが現実に起きたら、こんな感じになるのか…」と不穏なまま極限状態に陥っていく体験をする事が出来る。

 "何か"による事象が発生するタイミングが全く読めない。現実世界の災害やテロのように不意打ちで襲い、耳を突き刺す音響・今にも世界に激震が走りそうな劇伴・壁をも越えていく縦横無尽なカメラワークを用いて不安感を大いに煽って身震いを起こさせる。また、発生する事象が現実世界で見たことないけど、現実世界でも起こせそうな事象ばかりで逆に嫌悪感を帯びている。特に聴覚に対する嫌悪感は大きい。

 どんな事象に見舞われても、いけしゃあしゃあな登場人物たちが逆にリアル。案外、こういう事象が現実に起きた際はエンタメ作品のように緊張しっぱなしではない。事象が収まった後は会話を重ね、また事象が起きた際に緊張と不安の世界に戻されていく。現実世界でも同様のサイクルが劇中で行われている。

 観終わった後、無性に地下室を作りたくなる映画でもある。さては住宅会社の陰謀だな(笑)

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

屋根裏のラジャー

(C)2023 Ponoc

公 開 日  :12月15日

ジャンル:アニメ、ファンタジー

監 督 :百瀬義行

キャスト:寺田心鈴木梨央安藤サクラ仲里依紗杉咲花山田孝之高畑淳子寺尾聰イッセー尾形

 

概要

 長編第一作『メアリと魔女の花』が150の国と地域で公開され、世界で高い評価を獲得したスタジオ・オポノックが、イギリスの詩人兼作家のA.F.ハロルドの小説『ぼくが消えないうちに』を基に映画化した新たな長編アニメ。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 子供たちの想像が生み出す、誰にも見えない空想の友達「イマジナリ」。その1人であるラジャーは少女アマンダの想像が生んだ少年だった。そんなイマジナリには逃れられない運命があった。それは、子供たちに忘れられると存在が消えていくことだった。驚愕の真実を知って失意に陥ったラジャーだったが、道中で出会ったイマジナリのジンザンの導きにより、かつて人間たちに忘れ去られたイマジナリたちが身を寄せ合って暮らす街に辿り着く。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 圧巻の映像体験。いや、"想像"体験。想像という概念を十二分に活かし切っている。想像ゆえに狭い建物の一室から想像上の広大な街や自然の世界を創造でき、想像ゆえに想像上の生き物・建物・自然の生命が芽生えて動き出す光景は躍動感に溢れている。無限大に生まれてくる想像の産物を楽しめる。また、現実の世界が形を変えて想像の世界に移行するシームレスな切り替わりはアニメならでは。アニメのパワーを感じる。

 私自身、もう子供ではないから計り知れないが、子供と大人で見方が大きく変わる作品だと思う。作品の設定自体、想像力を膨らませ続ける子供と現実を知っていくうちに想像力を失った大人といった対比があり、各々の視点を丁寧かつ感覚的に描いている。それゆえ、子供たちは想像上の世界や生き物を創造する劇中の子供たちに、大人たちは想像を忘れてしまった劇中の大人たちに共感が傾くと思う。現代の子供たちが想像上の世界を創造してるかは知らないし、大人である私自身も子供時代に想像上の世界を創造していたかは不明だけど。

 とはいえ、子供も大人も共通して受け取れるのは、想像上の世界は決して自分を裏切らないことである。今この瞬間に世界があっても、大人になって世界の存在すら認知してなくとも、想像は誰もの如何なる時に裏切らない癒しを与えてくれることを提示し、想像の普遍性を伝えている。現在、想像上の世界を認識してるか認識してないかの違いはあれど、本作は、人間の機能として想像力を持つ誰もの物語になっている。

 若干、気になったのは「人間がイマジナリを忘れる→イマジナリが消滅する」という設定。消滅の兆しが発動してから消滅するまでのタイムリミットが不明であり、消滅の危機が訪れても全く焦りを感じない。タイムリミットがなくてもいいから、完全消滅する細かな条件があった方が良かったと思う。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

ウィッシュ

(C)2023 Disney. All Rights Reserved.

公 開 日  :12月15日

ジャンル:アニメ、ミュージカル

監 督 :クリス・バック、ファウン・ビーラスンソーン

キャスト:アリアナ・デボーズ、クリス・パイン、アラン・テュディック、生田絵梨花(日本語吹き替え)、福山雅治(日本語吹き替え)、山寺宏一(日本語吹き替え) 他

 

概要

 ウォルト・ディズニー・カンパニーが創立100周年を迎え、その記念として『アナと雪の女王』のスタッフ陣が手掛けたミュージカル・アニメ。ディズニー作品が描き続けてきた”願いの力”を真正面からテーマとして描く集大成的な作品。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 どんな願いでも叶えてくれる魔法の王国・ロサス。その国で暮らす少女アーシャは、100歳を迎える祖父の願いが叶えられることを待ちわびていた。だがアーシャは、ロサスの王・マグニフィコが魔法の力で国民の願いを管理しており、誰の願いを叶えるか、その願いは国にとって有益なのかを独断で決めており、多くの願いが叶えられないという衝撃的な事実を知ってしまう。みんなの願いを取り戻したい。そう決心したアーシャの目の前に、魔法を使える”願い星”のスターが助けに現れる。さらには相棒である子ヤギのバレンティノと共に、アーシャはマグニフィコに立ち向かう。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 躍動感に満ちたミュージカル・シーン。画面を自由自在に動き、煌びやかに彩る魔法の演出。大義名分が整備され、一理に適った悪役。多くの魅力が詰まって作品に浸れる一方、物語には疑問符が…。

 ミュージカル・シーンは大人数の振りと歌声が入り混じったり、キラキラした魔法の演出が施されたりと、視覚と聴覚を大いに刺激して楽しませてくれる。

 魔法で国民の夢を奪う悪役マグニフィコ王が良い。夢に対する思想がリアル。現実世界の大人同様、夢を叶えることの過酷さを理解しており、年を重ねた人ほど共感を抱く。そのため、先天性な根っからの悪ではなく、後天性な悪となっており、夢を奪う行為が一種の救済に思えるようになっている。現実を知ってきた大人の写し鏡のようなキャラである。それにより、奪ったの利用法を決める理由も納得を生んでいる。その他にも、ミュージカル・シーンでは意気揚々と歌って踊る姿が気持ちいい。あと、魔法を使う為かマーベルのドクター・ストレンジに似てる(笑)髪型も近いし、毛色がツートンカラーなのも共通点。その顔で腕を大きく振るって魔法を操る姿は、まさにドクター・ストレンジ(笑)なんなら、自身の胸先三寸で夢を叶えてくれる姿勢は『スパイダーマンNWH』のドクター・ストレンジを思わせたり(笑)

 楽しいシーンやキャラはあるのだが、本作の物語は数々の疑問符が沸く。

 広告や宣伝において本作は「国王から奪われた夢を取り戻す」という触れ込みをしている。間違いではないのだが、正確に言えば「国民は一定の年齢を越えたら国王に叶えたい願いを預け、国王が認めてくれば夢を叶えられる」となっており、国民たちは「国王から選ばれたら夢を叶えてくれるんだー。キャッホー」と不満を募らせている様子はない。むしろ、他力本願で夢を叶えてもらうことに疑問を持ってない。100歳になる主人公の祖父ですら疑問を持たず、「ワシの夢が叶うのは、まだかのぅ〜」と待ちの姿勢である。そのため、いざ主人公が国王から国民の夢を取り戻すとなってもノリにくい。「夢を預けられるって嫌だな」や「国王という他人が夢の実現の可否を決めるの嫌だな」という雰囲気づくりが整えられないので勢いがつかない。そもそも、国民全員が自力で夢を叶えようとしなかったことに対して反省をせずに王様を悪者扱いしてる。しかも、先述の通り国王ことマグニフィコが夢を預かる大義名分が整備されて牙城を成しており、それに対する主人公側の大義名分に突き崩すインパクトがない。その上、その大義名分を掲げた勧善懲悪モノになっている。自分なりに夢と向き合って国を治めようとしたマグニフィコに対して国民側が一切の調和を図らない。長年、マグニフィコを側で支えてきた妻でさえ夫の意志を汲み取らない。そもそも、マグニフィコから夢を叶えてもらった人もいるため、恩を仇で返している。互いに「自分の夢は自力で叶えよう」と持っていけば妥結が出来たはずなのに。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計12個

 

枯れ葉

© Eurospace 2023

公 開 日  :12月15日

ジャンル:ラブ・ロマンス

監 督 :アキ・カウリスマキ

キャスト:アルマ・ポウスティ、ユッシ・バタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイブ 他

 

概要

 2017年、『希望のかなた』のプロモーション中に監督引退宣言をしたアキ・カウリスマキが6年ぶりに帰還して作り上げたラブ・ストーリー

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 舞台はヘルシンキ。家族を亡くして独りで暮らしてアンサはスーパーで働いていたが、理不尽な理由からリストラされる。アンナと同じく家族のいないホラッパは、工事現場でなんとか生計を立てたいたが、酒に頼る生活を送っていた。ある夜、ふたりはカラオケバーで出会い、互いの名前も知らぬまま惹かれ合う。だが、不運な偶然と現実の過酷さが、彼らをささやかな幸福から遠ざける。果たして、ふたりの愛の行方は…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 洗練された匠の業を感じ取る作品。ライトトーンおよび脱色したような色調を組み合わせた室内の内装および登場人物の服装クリーンで雰囲気を醸成し、ベスト・ポジションを徹底した精緻な画づくり。少ないセリフだけでユーモアと恋の波打ちを伝えるシャープな物語。俳優陣の小さな動きだけでユーモアと恋の波打ちを魅せる全てがベストバウトな演技および演出。劇中の空気感を代弁するかのように絶妙なタイミングで流れる楽曲の数々。相手を一目見て始まる古典的なラブ・ストーリーなのに、一級品に研ぎ澄まされた匠の業が最後まで観る者の感性を引きつけ、味わい深さを残していく。他のカウリスマキ監督作は未見である私だが、カウリスマキの凄さが分かったような気がする。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

エストロ その音楽と愛と

Netflix

公 開 日  :12月20日

ジャンル:ドラマ

監 督 :ブラッドリー・クーパー

キャスト:ブラッドリー・クーパーキャリー・マリガン、マヤ・ホーク、ギデオン・グリック 他

 

概要

 ブラッドリー・クーパー監督作の2作目。実在の世界的な作曲家にして指揮者であるレナード・バーンスタインの人生を基にしたヒューマン・ドラマ。ブラッドリー・クーパー自身がレナードを演じ、レナードの妻にして女優であるフェリシアキャリー・マリガンが演じる。プロデューサーにはマーティン・スコセッシスティーブン・スピルバーグが名を連ねる。

 

あらすじ

 特になし。

 

感想

 夫婦それぞれが別々の業界に所属しても生じる夫婦格差とそれに伴う夫婦なのに孤独感を抱いてしまう苦悩が伝わり、いかに成功を収めた業界人とはいえ誰でも同様に人間関係で苦慮することを実感する。

 レナードを演じたブラッドリー・クーパーのメイクが素晴らしい。髪型はもちろんのこと、鼻までも本人に寄せている。『アメリカン・スナイパー』のクリス・カイルの時もだけど、ブラッドリーの顔面は応用力が高い。

 そんな小並感ある感想はこれぐらい。

 正直、本作は面白いとも興味深いとも思えない。なぜなら、脚本と用意したシーンが悪い。シーンが変わる度にストーリーが前に進み過ぎてる。前のシーンまで何も脈略がない出来事が突如として多発する。脈略がない以上、出来事の原因もよく分からないままだし、結果だけセリフで聞かされても観客は物語に乗りづらい。前のシーンまで何の脈絡や人物の素振りがないのに、「◯◯に苦悩してる」なんて言葉にされたところで登場人物の心情に観客が追い付けるわけがない。そのおかけで、ストーリーが壊滅に近い状態で面白みがない。ブラッドリーをレナードそっくりに仕立て上げ、名優キャリー・マリガンを妻役に起用したことが全く活かされてない。宝の持ち腐れ。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

PERFECT DAYS

(C)2023 MASTER MIND Ltd.

公 開 日  :12月23日

ジャンル:ドラマ

監 督 :ヴィム・ベンダース

キャスト:役所広司柄本時生、アオイヤマダ、仲野有紗石川さゆり田中泯三浦友和

 

概要

 ウォルト・ディズニー・カンパニーが創立100周年を迎え、その記念として『アナと雪の女王』のスタッフ陣が手掛けたミュージカル・アニメ。ディズニー作品が描き続けてきた”願いの力”を真正面からテーマとして描く集大成的な作品。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 東京渋谷でトイレ清掃員として働く平山は、静かに淡々とした日々を生きてきた。同じ時間に目覚め、同じように支度をし、同じように働いていた。その毎日は同じことの繰り返しに見えるかもしれないが、同じ日は1日としてなく、平山は毎日を新しい日として生きていた。そんな平山の日々に思いがけない出来事が起きる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 毎日のルーティンを守って生きるトイレ清掃員の日常を映したヒューマン・ドラマ。

 自分の意識で行うルーティンゆえに変わらないこと。自分の意識外およびルーティン外ゆえに気づく些細な変わり事。変わらずに提供される楽しさと変わっていくことで刺激を受ける楽しさ。2つの異なる楽しさを日々味わっていくのがルーティンに生きることの醍醐味だと分かる作品。本作の監督を務めたヴィム・ヴェンダースキネマ旬報のインタビューでコメントした「映画は生きる上での理想像をみつける手助けである」の持論の通り、毎日を楽しく生きる理想の生活スタイルの1つを十二分に提示している。

 役所広司さんの映し方が秀逸。1つ1つの所作を様々なアングルで映すことで1つ1つの所作に奥行きが生まれ、人間の営みを感じさせる。時折、役所広司さんの1人称を映すことで、観客は役所広司さん演じる主人公の世界と同化する。セリフが少ないのに、今を生きる人間としての存在感を際立たせている。

 「トイレ清掃員という汚れ仕事なのに、出てくるトイレがキレイ過ぎる。便器に汚物が一欠片も付着おらず、リアリティに欠ける」とのレビューもあり、私自身も「確かに」と頷く。だが、本作の主人公はトイレ掃除を汚れ仕事と思っておらず、楽しく取り組んでいるように見受けられ、主人公自身にとってトイレはキラキラ光る聖地ゆえに便器を汚す必要性はなかったと思われる。それに、もし「汚れ仕事でも頑張るよ!」を信条に掲げるならば、嫌々ながらもトイレ清掃員を続ける主人公の同僚役の柄本時生さんを主人公にした成長譚になってたはず。なので、トイレがキレイなのも「これもこれで有りだろう」と思ってる。

 田中泯さん演じるホームレスの存在が歯痒い。主人公が田中泯さんを見て「今日も相変わらずだなー」と微笑んでる姿が上から目線に見えなくもない。せめて会話を交わして、ホームレスが自身の生き方を肯定する発言をしていればと思った。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

脱・東京芸人

(C)2023「脱・東京芸人」製作委員会

公 開 日  :12月23日

ジャンル:ドキュメンタリー

監 督 :安達澄子

キャスト:本坊元児、水口清一郎 他

 

概要

 吉本興業が2011年より、地方創生を目的として始めた「あなたの街に住みますプロジェクト」。そのプロジェクトの一環として、お笑いコンビ「ソラシド」の本坊元児さんが2018年10月に山形県へ移住。縁もゆかりもない土地に移住して奮闘する中、コロナ禍が始まったころの2020年3月に本坊さんは畑付きの古民家を「月100円」の家賃で借り、独学で始めた農作業の悪戦苦闘の様子をYouTubeで配信し始め、全国的に注目される。本作では、そんな本坊さんに密着し、お笑いと農業に向き合って生きている姿を追ったドキュメンタリー映画となっている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 特になし。

 

感想

 コロナ禍でお笑いの仕事が減って不安が蔓延する最中、未知なる土地で未経験の農業に挑む度胸に感銘。無の状態から道を切り開いていく本坊さんが素敵。途方もない苦労や絶望的な状況を笑い話にしたり、自分に関わる誰もがプラスになることを念頭に考えたりと、本坊さんの人柄に触れられる。そんな本坊さんに対し、誠心誠意を込めてサポートするスタッフ、芸人仲間の方々、山形県西川町の方々に温かみを覚える。多くの方々に囲まれる光景を見て、本坊さんの積み重ねてきた人徳を感じたドキュメンタリーだった。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個