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【まとめ】2024年 日本劇場公開の映画(2月編)

 この記事は2024年2月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)

 「2024年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。

 

 各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍

  • 公開日(日本の劇場で公開された日)
  • ジャンル
  • 監督
  • キャスト
  • 概要
  • あらすじ
  • 感想

 加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。

  • 脚本・ストーリー
  • 演出・映像
  • 登場人物・演技
  • 設定・世界観

 ⭐は最大で5つです。

 

 それでは、早速いきましょう💨

熱のあとに

(C)2024 Nekojarashi/BittersEnd/Hitsukisya

公 開 日  :2月2日

ジャンル:ドラマ

監 督 :山本英

キャスト:橋本愛、仲野太賀、木竜麻生、木野花、水上恒司 他

 

概要

 新鋭・山本英監督の商業デビュー作。2019年に起きた新宿ホスト殺人未遂事件にインスパイアされ、脚本を担当したイ・ナウォンと共に構想を練ったオリジナル脚本を映像化した作品。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 愛したホスト・隼人を刺し殺そうとした過去を持つ女・沙苗。事件から6年の時が経ち、出所した沙苗は林業に従事する小泉健太とお見合いで出会い、結婚する。健太は沙苗の過去を知り、受け入れた上で結婚に踏み切ったのだった。

 平穏な結婚生活が始まったと思っていた矢先、2人の前に謎めいた隣人の女・足立が現れる。気さくに接してくる足立が抱える秘密とは。そして、全てを捧げた隼人の影に翻弄される沙苗が辿り着いた、”愛し方”の結末とは…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 「愛するホストを刺し殺そうとした」という事実から理解不能な歪んだ愛の物語を思わせるが、理解不能なのは主人公自身の価値観。だが、観客に近しい聞き手の存在と、静かながらも大きな動きのある演出が主人公の言語化不能な価値観を直感的に肌身へ染み込ませる。理解不能だった主人公の価値観が「熱のあとに」のタイトル通り、燃え尽き症候群のようなものだと感じ取り、実は普遍性を帯びた作品なのではないかと思わせる。

 「なるほど、そうきたか」と思わせる語り口。「愛するホストを刺殺しようとした」という切り口は傍目から見てホスト狂いによる歪んだ愛の物語を予期させる。水商売とは無関係である大勢の一般人には理解が難しい世界を展開して興味を惹かせるかと思いきや、理解が難しかったのはホストを刺し殺そうとした主人公自身の愛と死生観だった。いくら主人公が行動で見せたりセリフで言語化したりを繰り返しても完全に理解を得ることは容易ではない。だが、主人公の結婚相手という観客に近しい聞き手を用意したことや静かながらも大きな動きのある演出によって、完全ではないけど主人公の価値観が肌身に染みて主人公の心に触れさせる。加えて、本作は「熱のあとに」の通り、主人公を通して燃え尽き症候群の物語だと思う。その状態から主人公は無難な人生に収めようと試みたり、もう1度翔ぼうとしている。なので、本作は一見、「ホストを刺し殺そうとした」という理解が得難い内容かと思わせて、燃え尽き症候群の普遍性を表現した作品だと受け取った。燃え尽き症候群は、スポーツ選手などの誰の目にも見える結果を残す者たちが集う界隈に限定される話に思いがちだけど、誰にでも何処にでも発火して消化するものがあると感じ取ったところであった。

 「熱のあとに」というタイトルが秀逸。恋愛が完全に終了してるから「熱が冷めた」とするのではなく、主人公は相手への想いを引き摺ってることから恋心が完全に冷え切っておらず、まだ熱が抜けた状態であることから「熱のあとに」にしたのはジャストなネーミング。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

罪と悪

(C)2023「罪と悪」製作委員会

公 開 日  :2月2日

ジャンル:ドラマ、ミステリー

監 督 :齊藤勇起

キャスト:高良健吾大東駿介石田卓也村上淳、勝矢、椎名桔平佐藤浩市

 

概要

 監督を務めた齊藤勇起さんがオリジナル脚本で描く、罪の真実と正義の在り方を問うノワール・ミステリー。主演は高良健吾さんであり、その脇を大東駿介さんと石田卓也さんが固める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 何者かに殺された14歳の少年・正樹。彼の遺体は町の中心にある橋の下で発見された。同級生の春・晃・朔・は、正樹を殺した犯人と確信した男の家に押しかけて揉み合いになり、1人の少年が男を殺害してしまう。少年たちは男の家に火を放って証拠隠滅を済まし、事件は幕を閉じたはずだった。

 それから20年の時が過ぎ、刑事になった晃は父の死をきっかけに町に戻り、実家の農業を継いだ朔と再会する。そして、ほどなく、ある少年の死体が橋の下で見つかる。その光景は20年前に殺された正樹と同じだった。晃は少年の殺害事件の捜査の中で、建設会社や小売店を営む春と再会する。春は商売の傍らで不良少年たちの面倒を見ており、事件で亡くなった少年もそのうちの1人だった。20年ぶりに春・晃・朔が集い、それぞれが心の奥に閉まっていた過去の事件の扉が再び開き始める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 罪悪に向き合うとは何たるかを散りばめた物語は哲学的であり、同時に、本作が監督デビュー作となる齊藤勇起監督のカラーと展望が見える。演出と物語は荒削りだが、俳優陣の演技が光る。

 本作は、罪悪を犯す者と取り締まる者から、罪悪との向き合いを映した哲学的な作品。悪意のなさ故に正当化する罪。悪事と認めながらも罪に問わないor問われないことで成り立つ治安。法に則り、一線を越えた罪悪を全て照らせば関係者全員が報われるわけではないし、無関係の人々に何の得があるのか再認識させられる。何よりも1番は当事者たちの折り合いだと思ったところ。

 監督を務めた齊藤勇起さんは本作が監督デビュー作。加えて、齊藤さん自身のオリジナル脚本。本作において、鑑賞後に正解を即答できないほど難しいテーマを扱ったり、北野武監督や吉田恵輔監督のようにシリアスな雰囲気にも関わらずスルッとユーモアを導入したりと齊藤監督自身のカラーや次作以降で取り組みたい展望が見えたような気がした。取り扱うテーマとユーモアの入れ方という観点から次回作も観たい。多少、荒削りや詰め込み過ぎがあったけど、齊藤さんの監督作が何本か世に出た後、本作を観返して「デビュー作って、その人のやりたいこと全てが詰まってるよね〜」となることを願いたいところ。

 俳優陣の演技が光る。中学時代に殺人を犯した男たちを演じた高良健吾さん、大東駿介さん、石田卓也さんからは消せない過去を背負って生き続ける葛藤が滲み出ている。椎名桔平さん演じる、悪人を飼い慣らす刑事からは『孤狼の血』の役所広司さん演じた刑事・大上への挑戦状が見えたり。特別出演となった佐藤浩市さんは大御所らしく、わずか数分足らずの出番で存在感を残している。

 惜しかった箇所は、音声と物語。録音の調子がイマイチだったのか聴き取りにくいセリフが何箇所もある。事件被害者の母のセリフに至っては、途中で音声が一瞬だけ小さくなっていたような気がする。総じてセリフが聴き取りにくいので、気を張らないと会話に置いていかれる。物語に関して、事件の真相の持って行き方について、ヒントから真実に行き着くまでの段階がほぼワンステップであり、興味が沸いたところで肩透かしを喰らう。また、実は伏線だったところも、前述の音声の聴き取りにくさが相まって印象に残らず、真相を知った時に驚きが減少している。1番目の事件において、主人公たちが犯人だと断定した男の印象が薄い。実物が登場するまで主人公たちの会話でしか存在を語られない上、その会話も長回しのワンシーンのみで人物像の把握が難しい。しかも、そのシーンに関して、これまた前述の音声の聴き取りにくさがある。印象が残らないまま変質者扱いされ、なんか犯人に決めつけられた感があった。あと、主人公たちは自分たちの生まれ故郷を口々に非難するけど、そもそも町の様子があまり説明されてないので、町の悪さがいまひとつ分からない。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

夜明けのすべて

(C)瀬尾まいこ/2024「夜明けのすべて」製作委員会

公 開 日  :2月9日

ジャンル:ドラマ

監 督 :三宅唱

キャスト:松村北斗上白石萌音、渋川清彦、芋生悠、りょう、光石研

 

概要

 『そして、バトンは渡された』で2019年本屋大賞を受賞した瀬尾まいこさんの同名小説を実写映画化したヒューマン・ドラマ。監督を務めるのは『ケイコ 目を澄ませて』で国内外から多大なる絶賛を受けた三宅唱監督。主演を務めるのはNHKテレビ小説『カムカムエヴリバディ』で夫婦役を演じた松村北斗さんと上白石萌音さん。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 月に1度、PMS月経前症候群)でイライラが抑えられなくなる藤沢さんはある日、会社の同僚である山添くんのとある小さな行動がきっかけで怒りを爆発させてしまう。転職してきたばかりで、仕事にやる気が無さそうに見える山添くんだったが、彼もまたパニック障害を抱えていて、様々なことをあきらめ、生き甲斐も気力も失っていたのだった。職場の人たちの理解に支えながら、友達でも恋人でもないけれど、どこか同志のような特別な気持ちが芽生えていく2人。いつしか、自分の症状は改善されなくても、相手を助けることは出来るのではないかと思うようになる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 病気を抱える主人公たちの見せ方がリアル。主人公たちの1人称視点を徹底的に排除して徹底的に3人称視点でカメラを追わせることで、一見すると病気持ちに見えない人物として映し、現実世界に居る病気持ちの方々と同等の見え方になっている。そんなカメラが追随する中、病気持ちの主人公を演じた松村北斗さんと上白石萌音さんが演技に見えない自然体な演技でリアリティの高い人物として命を吹き込み、私達が生きている世界と誤差わずか数mmレベルで同等の劇中世界を作り上げている。その世界下にて、病気を持ったことで生きづらさを抱えている方々の再生や理想の関係性を提示して、確かな人間関係の構築を促している。本作を監督した三宅監督は前作『ケイコ目を澄ませて』にて、同じような景色が違うように見えるほど観客に目を澄まさせたが、本作でも同様に観客の目を澄ませて新たな見え方を気づかせる。

 個人的な体験談だけど、私自身は適応障害を患ってパニック障害と似た症状を持っており、尚且つ、かつての職場に月経に凄く苦痛を感じる同僚が居た、私の身からすると本作における病気を抱えた主人公2人のリアリティの高さは太鼓判です。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

レディ加賀

(C)映画「レディ加賀」製作委員会

公 開 日  :2月9日

ジャンル:コメディ

監 督 :雑賀俊朗

キャスト:小芝風花、松田るか、青木瞭、中村静香、八木カトリーヌ、佐藤藍子、壇れい 他

 

概要

 石川県加賀市の温泉を盛り上げるために結成された旅館の女将たちによるプロモーションチーム「レディー・カガ」から着想を得て企画されたコメディ・ドラマ。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 加賀温泉にある老舗旅館「ひぐち」の一人娘・樋口由香。小学校の時に見たタップダンスに魅了され、上京してタップダンサーを目指したものの現実は上手くいかず、夢を諦めて実家に戻って女将修行を始めることに。何をやっても不器用な由香は女将修行に苦戦するものの、持ち前の明るさとガッツで奮闘する。そんな中、加賀温泉を盛り上げるためのプロジェクトが発足し、由香は新米女将たちを集めてタップダンスのイベントを開催することになるが…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 決して面白いとは言えない。タップダンスと加賀市のPRしか印象に残らない。登場人物全員が最後まで何者か印象付けられないほど薄っぺらな人物像で片付けられ、物語が空虚の極み。とりあえず、「加賀市に行ってみたいな」と思えただけ拾い物。ただ、作品自体は2024年のワースト候補。

 1番に言及したいのは、登場人物全員が薄っぺらいところ。誰1人にも愛着や共感が沸かない。そもそも、人物像に芯が通ってない。それ以前に俳優陣へ登場人物たちの人物像を教えたのかも怪しいレベル。各登場人物の性格も背景も全てセリフで語ることだけで完結してる。俳優たちによる演技で伝えることを全くしない。口先だけの人物像では、各シーンで思いを吐き出したり持論を語り出したりしても全く響かない。YouTubeのコメント欄の端っこで「人生とは、こう生きるべき」や「人間とは、こうあるべき」と現実世界で誰からも相手にされないくせにネットで得意げに語ってるユーザー並みに思いも通じないし、持論にも説得力を感じない。加えて、女将の心得的なものも全て感情論であり、リアルの女将さん方から「女将ナメとんのか!」と怒られそうである(笑)また、登場人物の背景も「実は、こうだったのよ」という具合で後出しジャンケンばかりであり、物が進む度に「脚本を完成させた後に後付けしたの?」と制作過程の推察を起こすレベル。これほど多くの薄弱な登場人物をいっぱい出すならば、主人公と一緒に女将修行をする人物を削り、なるべく多く主人公の人物像形成に費やした方が良かったと思う。

 小芝風花さん演じる肝心の主人公も人物像が不明瞭。「タップダンサーを諦める」という踏ん切りもナレーションでサラッと片付けてられており、本当に辞める決心をしたのか伝わってこない。もはや、「タップダンサーを辞めた」というよりも「タップダンサーを辞めたっぽい」が正確。その後、女将修行に取り組もうとした理由さえも描かれない。もはや、「女将修行に取り組む」というよりも「女将修行に取り組むっぽい」が正確。なので、本作の主人公の物語をまとめると、「タップダンサーを辞めたっぽい人が、女将修行に取り組むっぽい」になり、芯が通ってない。終始一貫して、動機や行動原理が不明瞭な主人公だった。そのため、物語上での成長を実感しにくい。

 劇中のタップダンス発表までの練習期間が短すぎると思う。約2週間で発表になるのだが、練習期間のわりには完成度が高すぎる。タップダンス初心者が約2週間で本作のように技術の取得はおろか、複数人で息の合ったパフォーマンスを出来るの?おそらく、俳優陣も全員がタップダンス経験者ではないのだから、2週間以上に練習を費やしたのでは?それなら少なくとも、劇中の練習期間も実際に要した練習期間に直して脚本を書き換えれば良かったのではないか?『夜が明けたら、一番に君に会いに行く』の文化祭のダンスの時も思ったけど、こういう「披露モノ」における練習期間の不一致は止めて欲しい。期間と不釣り合いなものを披露されても嘘臭さを与えるだけ。

 唯一、本作の良かった点はエピローグがなく、劇中の絶頂期で締めてくれるところ。小芝風花さんのタップダンス姿もキレがあって良いけど、明らかに後半から同じ動きばかりでネタ切れ感が見受けられた。本作における拾い物は、加賀市の街並みが綺麗であり、ご当地名物らしき食べ物が美味しそうであり、加賀市に行ってみたいと思えたところ。あと、森崎ウィンさんが意外にも奇人変人キャラが結構イケてること。

雑賀監督の前作『レッドシューズ』で発生していた登場人物が不意に沸くというチグハグな演出は消滅しており、改善は見られる。だが、登場人物たちが他人の現在地を謎に把握して不意に登場するエスパー的な演出は健在である(笑)

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計9個

 

カラーパープル

(C)2023 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.

公 開 日  :2月9日

ジャンル:ミュージカル、歴史

監 督 :ブリッツ・バウザーレ

キャスト:ファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックス、コールマン・ドミンゴ、コーリー・ホーキンズ、H.E.R、ハリー・ベイリー、フィリシア・パール・エムパーシ 他

 

概要

 巨匠スティーブン・スピルバーグの転機となり、アカデミー賞10部門にノミネートされた伝説の映画『カラーパープル』を、同名の原作小説およびブロードウェイのミュージカル版を基に、ミュージカル映画としてリメイク。

 プロデュースを担当したのはスピルバーグ自身とオリジナル版に出演したオプラ・ウィンフリー、音楽を担当したクインシー・ジョーンズ。主人公のセリーには、ブロードウェイのミュージカル版で同役をパワルフに演じたファンテイジア。バリーノ。同じく、ミュージカル版でソフィアを演じたダニエル・ブルックスも本作にて同役で出演。さらには、『リトル・マーメイド』でアリエル役を射止めたハリー・ベイリーと、アカデミー賞歌曲賞とグラミー賞受賞の経歴を持つH.E.Rといったアーティストたちも加わる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 優しい母を亡くしたセリーは、横暴な父の言いなりとなる生活を送っていた。ある日、セリーは父が勝手に決めた相手と結婚して家を出されてしまう。その男も父と同様で横暴な性格であり、またしても言いなりの生活を送ることになった。さらには、唯一の心の支えだった最愛の妹ネティとも生き別れてしまう。そんな中、セリーは自立した強い女性ソフィアと、歌手になる夢を叶えたシュグと出会う。彼女たちの生き方に心を動かされたセリーは、少しずつ自分を愛し未来を変えていこうとする。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 白人による黒人差別ではなく、実は黒人男性が黒人女性を差別していた衝撃の歴史を語り、その差別を跳ね除けるように躍動感あるダンス・パフォーマンスに活力が満ち溢れている元気な作品。スピルバーグ版が陰惨すぎるのが、まるで嘘のよう。MVPは、主人公に初めて契機を与える1番バッターのダニエル・ブルックス

 陰惨な空気の中で素朴な力を宿したスピルバーグ版と打って変わり、躍動感ある空気が醸成されて活力に満ちた作風へと変化。ミュージカルになったことで画に動きがある分、不条理な世の中をサバイブする女性たちの気力が歌声とダンスに乗って確かな迸りを見せている。本作もスピルバーグ版と同様に約150分の長尺だが、陰惨な映像を観続けるスピルバーグ版では長さが重荷だったが、躍動感あるミュージカルが合間に挟まる本作では長さが苦にならない。

 MVPはソフィアを演じたダニエル・ブルックス。主人公の考え方を180度変えるキーマンにしてストロングな女性として存在感が際立つ。主人公に契機を与える1番バッターとして、物語における転換点のスタートダッシュを決めたのは大きな功績。また、白人や黒人男性に対して勝気で尖った性格が丸くなることで差別の被害者と加害者の分かち合いを強調している。良キャラにしてダニエル・ブルックス自身も良い働き。

 ※これ以降、若干のネタバレあり
 アメリカで語られる差別と言えば、白人による黒人差別。白人たちの仕打ちに対して黒人たちは皆で肩を寄せ合って耐え忍んでいた…ということではなく、黒人女性は黒人男性からも虐げられて二重の差別を受けていたという認知度が足りない負の歴史を改めて知らしめる作品。原作小説、スピルバーグ版、ブロードウェイ版が既に存在するけど、2020年代になった今、認知度の足りなさから新たな映画として上映し、繰り返し語ることに意義を感じる。差別を題材とした作品は最終的に被害者が加害者に復讐を果たすことでイライラやモヤモヤをスッキリさせるリベンジ・ムービーが多いけど、本作は加害者を倒さずに差別の構造を倒し、被害者も加害者で調和を図るという健全性な解決をしている。これはスピルバーグ版も同様。「罪を憎んで人を憎まず」的な感じで、差別する者を倒すという人間における善悪の問題ではなく、差別の構造自体を破壊することが課題だと提示し、「リベンジする前に、こちらの考えがあるよ」と現実世界における最良の選択を伝えている。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

身代わり忠臣蔵

(C)2024「身代わり忠臣蔵」製作委員会

公 開 日  :2月9日

ジャンル:時代劇、コメディ

監 督 :河合勇人

キャスト:ムロツヨシ永山瑛太川口春奈林遣都寛一郎森崎ウィン星田英利柄本明北村一輝

 

概要

 『超高速!参勤交代』や『引っ越し大名』といった大ヒットコメディ時代劇を生み出した土橋章宏さんが執筆した同名小説の映画化。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 嫌われ者の旗本・吉良上野介赤穂藩主・浅野内匠頭へ陰湿なイジメを行っていた。だが、とうとう堪忍袋の緒が切れた匠頭は、刀を抜くこと自体が御法度とされている江戸城内で上野介に斬りかかる。上野介は逃げようとしたが重傷を負って瀕死となり、寝床へ伏せてしまった。敵から逃げて斬られたと知れれば、武士の恥としてお家取り潰しの沙汰を喰らう可能性もある。吉良家を存続するため、家老・斎藤宮内は上野介にそっくりな弟の坊主・孝証を身代わりとして幕府を騙すことを企てる。一方、赤穂藩では、藩主の匠頭は江戸城内で刀を抜いて斬りかかったことを罪に問われて切腹していた。匠頭の無念を晴らすため、赤穂藩は家老・大石内蔵助を中心に仇討ちへと燃えていた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 題材は、歴史上の出来事を基にした創作物「忠臣蔵」だけど予備知識は不要。誰が観ても物語を把握できるようシンプルに整理されており、目の前にいる俳優陣の演技を観てるだけで楽しめる。セリフに関して、難しい言葉や当時の言い回しが少なく、ほぼ現代語で聞き取りやすい。何よりも、歴史モノで覚えるのに苦慮しがちな登場人物の名前も吉良上野介・吉良孝証・大石内蔵助の3人ぐらい覚えていれば大丈夫なレベル。他の登場人物は名前を覚えずとも名優たちの顔だけで区別すれば誰が誰だか分かって物語が飲み込める。もはや時代劇という意識すら不要であり、純粋なコメディとして誰が観ても楽しめる。

 吉良孝証が上野介の身代わりをする設定の妙が効いてる。史実通り上野介の討伐を思案する大石内蔵助と単なる敵対関係ではなく、立場上は敵対だが感情的には友達といった身代わりならではの葛藤を生んで見所と大きなアクションを作っている。また、敵対関係でありながらも友好を望む孝証と大石内蔵助の信条からは「主君の仇討ちを果たして武士の一分を通す!」という美徳に扱われがちな危険な武士道精神への批判が示されている。未だに無条件で侍や武士の全てが美化されがちな現代にアップデートを促している。身代わりの設定から物語や演出の幅を広げたり、アンチ・サムライズムへ繋げたりと設定の妙が効いている。忠臣蔵を知っていても「そうきたか」と唸る。

 吉良上野介および孝証を演じるムロツヨシさんのパワーが炸裂。ふざけ倒す時には全身を使ってパタパタと動き回る様は軽快。シリアスなシーンは、一気にキメ顔を作ってはピシッと空気を引き締める。その場のテンションに合わせた声色を駆使し、演技の振れ幅を見せつける。最初から最後までムロツヨシさんの演技力を堪能することが出来る。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

梟 フクロウ

(C)2022 NEXT ENTERTAINMENT WORLD & C-JES ENTERTAINMENT & CINEMA DAM DAM. All Rights Reserved.

公 開 日  :2月9日

ジャンル:サスペンス、スリラー

監 督 :アン・テジン

キャスト:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン 他

 

概要

 17世紀の朝鮮王朝にて”怪奇の死”と記録される死亡事件に、斬新なイマジネーションを加え、盲目の目撃者が謎めいた死の真相を暴くために常闇を奔走する予測不可能なサスペンス・スリラー。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 盲目の天才鍼師ギョンスは、病の弟を救うため、誰にも言えない秘密を抱えながら宮廷で働いている。しかし、ある夜、王子の死を目撃し、恐ろしくも悍ましい真実に直面する。見えない男は常闇に何を見たのか?追われる身となったギョンスは、制御不能な狂気が迫る中、昼夜に隠された謎を暴くために闇夜を駆ける。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 痺れる面白さ。真実の暗黙が自分と家族の身の安全となり、真実の明言が自分と家族の身の危険となる主人公の立場を活用し、修羅場をすり抜けて真実を証明しようと右往左往する主人公の状況が常にサスペンスフル。主人公をはじめとする登場人物が何かに気付いたり勘づいたりハッとするシーンでバシッと決めて肝を冷やさせる。常にハラハラドキドキ。また、時代劇だけど、事前に知っておくべき用語や歴史の背景が飛び交うことがなく、予備知識が一切不要なのは親切設計。全世界共通で直感的にハラハラドキドキできるエンタメとして仕上がっている。そして何よりも、元ネタの事件と常闇の空間を活かし、隠蔽したい事ほど鮮明に見えてしまうという本質に繋げた話し運びが精密で上手い。夜の暗闇で視界が良くなる鳥のフクロウに掛けて『梟 フクロウ』というタイトルにしたのはナイス・ネーミング。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

WILL

(C)2024 SPACE SHOWER FILMS

公 開 日  :2月16日

ジャンル:ドキュメンタリー

監 督 :エリザベス宮地

キャスト:東出昌大服部文祥、石川竜一、アフロ、UK 他

 

概要

 2020年の騒動後、東京を離れて狩猟や田舎暮らしを始めた名優・東出昌大さんの生活に密着したドキュメンタリー。

 

あらすじ

 特になし。

 

感想

 東出昌大さんや関係者を撮り続けた映像を、編集にて大量のカットを導入しては繋ぎ合わせて見せていくスタイルは鑑賞していて非常に小気味よい。その小気味よく流れてくる映像から、死生観を模索する東出さんの思考が感覚的に伝わり、同時に鑑賞者にも死生観を考えさせる思考を与えてくれる。

 狩猟の領域に入ることで死と隣り合わせになり、死に近づくからこそ逆に生きていることを実感するという考え方には驚き。数々のコンテンツに登場するキャラクターから同様のセリフを聞き続けてきたけど、本作を観れば、それが本当だったことが分かる。また、動物の死と人間の死を分け隔てることなく同じものとして扱う東出さんや猟師さんの哲学からは、改めて地球上における人類の立ち位置だったり、人類も動物も同じ命を持ってたりすることを実感する。個人的に、東出さんが獲物を仕留めた時、亡き家族を思い出したのですが、本作を観て、亡くなった家族を思い浮かべた方は居ないでしょうか?

 了承を取れなかったかもしれないが、東出さんが狩猟を始める前に彼の身に何が起きたかの説明がなかったので、東出さんをよく知らない方にとっては若干とっつきにくさがあるかも。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

マッチング

(C)2024「マッチング」製作委員会

公 開 日  :2月23日

ジャンル:サスペンス

監 督 :内田英治

キャスト:土屋太鳳、佐久間大介金子ノブアキ片山萌美片岡礼子杉本哲太斉藤由貴

 

概要

 『ミッドナイトスワン』を手掛けた内田英治さんが原作・脚本・監督したサスペンス・スリラー。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 ウェディングプランナーとして仕事が充実している一方、恋愛に奥手な輪花は、同僚の尚美の後押しでマッチングアプリに登録する。早速、アプリ内でマッチングした男性・吐夢とのデートに臨む。だが、デート当日に現れた吐夢はプロフィールやチャットのやり取りの時とは別人のように暗い男だった。なんとかデートをやり過ごしたが、その後も吐夢は執拗にメッセージを送り届けてストーカーと化す。恐怖を感じた輪花は、取引先でマッチングアプリ運営会社のプログラマーである影山に助けを求めることに。しかし、時を同じくして”アプリ婚”した夫婦が惨殺される事件が連続して発生する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 ゾクッとする演出および画づくり。ストーリーにツッコミどころがあれど、何度も何度もクライマックスを起こして転がし続ける物語終盤の圧倒的パワー。そんな映像の数々に土屋太鳳さんによる渾身の絶叫が見事にマッチングしている。そして、本作の鑑賞後、「そういや、そんなにマッチングアプリを使ってねえぞw」と大きなツッコミを誰もが入れる(笑)

 本作で1番に特筆すべきはゾクッとする演出および画づくり。透き通った画を作り、その空間に迸る狂気の演出が何度も劇中の空気にスパイスを与えてくれる。殺人事件の現場は意味ありげな構図で脳に残る。『インファナル・アフェア』や『ファニーゲーム』を彷彿とさせる演出もある。本作を務めた内田監督は前作『サイレント・ラブ』で演出と画づくりの強さを無駄遣いしてたが、本作は原作も担当しただけあって、監督本来のパワーが遺憾無く発揮されている。

 「人間は誰しも複数の顔を持つ」という言葉の意味の通り、キャスト陣の顔が変わりに変わる。身内と他人との顔の切り替え。真相が剥がれ落ちた際の表情の変化。強く表現されるわけではないけど、キャスト陣が幅を効かせ、言葉の意味の通りに人間の複雑性を生成している。人間は複数の顔を持つ意味を再確認させられる。

 ストーリーはツッコミ・ポイントが多々ある。まず、物語の流れが全体的にご都合主義。原作および脚本も務めた監督自身が描きたいシーンを作りたいが為に都合よく省略を用いたり、都合よく偶然と偶然が1本に繋がっていることが最初から最後まで多々ある。鑑賞時には演出と画づくりの上手さで力技的に物語を展開させてるけど、脚本だけ読んだら所々でツッコミを入れながら笑っているだろう(笑)次に、殺人事件の犯人が分かりやすいかも。登場人物が少ないこともあり、根拠もなく肌感で当てられそう(笑)とはいえ、本作は犯人探しがゴールではないから深く追求する必要はない。最後に、物語の構造を冷静に考えるとマッチングアプリがそんなに題材として活きてない。あくまで物語を転がす1つのピースに留まっている。本作の鑑賞後、冷静になった途端に「そういや、そんなにマッチングアプリ使われてねえぞw」と大きなツッコミを入れてしまう(笑)

 とはいえ、物語の流れについては終盤から始まる転がし方が良い。何度転がせば気が済むのやら。「これにて真相が解明されて終わりか…」と思いきや、たった1回階段を踏み外しただけ。その後も何度も何度も階段から突き落とされてはクライマックス級の修羅場を生成している。何度も転がす展開は引き延ばしにも見えるけど、前述の通り演出と画づくりが何度も何度も観客をライドさせてくれる。修羅場が起きる度に「あー面白い面白い」となる。加えて、土屋太鳳さんが丁度良い絶叫を披露してくれる。邦画で頻繁に見かける煩わしい絶叫になっておらず、場面にマッチした感情表現となっている。

 土屋太鳳さんは『累』→『哀愁しんでれら』→本作と狂気的なスリラー作品に身を投じることを繰り返し、スリラー界の住民になっている。狂気に蝕まれる様が板に付いてる。それ故、邦画お約束の絶叫シーンもノイズにならない。そういや、マッチングアプリのプロフィール用に撮影した顔写真がどことなく芳根京子さんに似てる。やはり、『累』で互いに体を入れ替えるダブル主人公で共演しただけはある(?)。

 佐久間大介さん演じたキャラクターの人物像は公開された2024年において理解できる範囲が狭いかも。厨二語録を並べ、意中の相手に被害を加えず、執拗に追い続けるストーカー手前の性格は、多様性が求められる今後の世界にて、どう受容されるかで見え方が変わっていくかもしれない。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

ネクスト・ゴール・ウィンズ

(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

公 開 日  :2月23日

ジャンル:ドラマ、コメディ

監 督 :タイカ・ワイティティ

キャスト:マイケル・ファスベンダー、オスカー・ナイトリー、カイマナ、デビッド・フェイン、レイチェル・ハウス、ビューラ・コアレ、エリザベス・モス、ウリ・ラトゥケフ 他

 

概要

 サッカー史に残る実話をベースに『ジョジョ・ラビット』や『ソー:ラブ&サンダー』を監督したタイカ・ワイティティが、全ての”負けを知る”人々にエールを贈る、感動と興奮のスポーツ・コメディ・ドラマ。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 米領サモアのサッカー代表チームは、2001年に「0対31」というワールドカップ予選史上最悪の大敗を喫して以来、1ゴールも決められずにいた。次の予選が迫っている中、破天荒な性格でアメリカを追われた鬼コーチであるトーマス・ロンゲンが就任。果たして、ロンゲンはチームの立て直して奇跡の1勝…ではなく、奇跡の1ゴールを挙げることが出来るのか?

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 まずは1歩踏み出すことや初心の大切さが伝わる。格差や結果至上主義が蔓延して落胆と焦燥感に抱く現代人へのエールとなっており、本作を2020年代で映画化して届ける役割は十分にあった。また、奇跡と感動の実話にも関わらず、コメディを導入したことが多方面で功を奏している。だが、選手たちの実力に説得力が足りてないのが惜しい。

 まずは1歩踏む出すことや初心の大切さが伝わる。本作におけるサッカーチームの目標は1勝することではなく、1ゴールを決めること。優勝を目指すチームに比べたら目標設定は遥かに小さい。だが、勝負の世界というより世の中の全体が、成績を残すか残さないか、つまり0か100かの二元論が蔓延している。何も始めてないのに「自分には能力がない…」と決めつけて勝手に落ち込んだり、「早く成果を上げなきゃ…」と焦って近道ばかりを選んでしまったりすることは珍しくもないし、同様の他人を発見することも珍しくない。それ故、まずは基礎を踏むことや成績に値しないけど小さな成果を出して成績に繋げる過程を疎かにしがちである。本作では、1勝する前に1ゴールを決めるという小さな目標から順番にクリアしていく過程を描き、成績を収めるには1歩ずつ進んでステップアップしていくことが必要不可欠であることが分かる。2020年代の到来後、格差社会の広がりや結果史上主義の蔓延があり、結果を出せないことによる落胆や結果を早く出したい焦燥感が入り混じる現代にて本作のように「まずは1歩踏み出すこと」の大切さを伝える作品を映画として公開したのはエールになったと思う。それから、劇中にて「なぜ、サッカーをしているのか?」というアンサーというか初心こそが本作の最終的なメッセージであり、そのメッセージは『テニスの王子様』の最終話に同じ。

 奇跡と感動の実話なのにコメディにしたのは英断。コメディが良い役割を果たしている。サモアチームの弱さ、各選手の強味、マイケル・ファスベンダー演じる鬼コーチとオスカー・ナイトリー演じる会長の人物像が、笑いと同時に印象を与えてくれる。また、随所に笑いを沸き起こすことで、昭和時代に流行した「鬼コーチの猛特訓でチームが強くなり、勝利を掴んで感動が巻き起こる」という古さや嘘臭さが帯びた熱血美談モノになっておらず、説教臭さがない。危険な思想観もない。非常に清々しい。さらには、最終的にチームが掲げる信条がコメディで醸成された作風とマッチしている。本作をコメディ・ドラマにしたのは良き選択だった。正確なところを突けば、不要なブラック・コメディもあったけど(笑)

 物語として描写不足だったのはサモアチームの実力。鬼コーチ就任後の練習メニューについて、実力がアップする根拠が提示されておらず、最終的に各選手の実力は上がったのか把握できない。(鬼コーチ就任から試合までの期間が2週間だから、おそらく変化してないと思うけど。)なので、試合で見せる選手たちの強さに説得力がない。むしろ、鬼コーチ就任から試合までの期間が僅か2週間だったことから、そもそも選手たちのポテンシャルが元々高かったのかとさえ見えてしまう。サッカーに詳しい方、実際のサモアチームがどんなものかを教えてください(笑)まあ、実力の変化を重要視する物語でないし、最終的にメッセージが伝わったのであればいいか。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

犯罪都市 NO WAY OUT

(C)ABO Entertainment presents a BIGPUNCH PICTURES & HONG FILM & B.A. ENTERTAINMENT production world sales by K-MOVIE ENTERTAINMENT

公 開 日  :2月23日

ジャンル:アクション

監 督 :イ・サンヨン

キャスト:マ・ドンソク、イ・ジュニョク、青木崇高國村隼

 

概要

 ”怪物刑事”マ・ソクトが、拳ひとつで最狂の悪党たちを撃ち破っていく人気シリーズ『犯罪都市』の3作目。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 怪物刑事マ・ソクトが、ベトナムで凶悪犯を一斉検挙してから7年後。マ・ソクトはソウル広域捜査隊に異動し、ある転落死事件を捜査していた。捜査を進めるうち、事件の背後に新種の合成麻薬と、日本のヤクザが関わっているという情報を掴む。一方、日本のヤクザである一条親分は、麻薬を盗んだ組織員たちを処理するため、極悪非道な”ヤクザの解決屋”リキを密にソウルへ送り込んでいた。さらに、汚職刑事チュ・ソンチョルが麻薬の奪取を目論む。マ・ソクトは2人を相手に三つ巴の激戦に身を投じていく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 安定の続編。暴力描写の見せ方は相変わらず。マ・ドンソクの暴力はコメディとなり、敵キャラの暴力はサスペンス・スリラーとなり、マ・ドンソクと敵キャラがぶつかり合う暴力はバトル・アクションとなる。ただ、本作はマ・ドンソクが映ってる分量が多く、敵の狂気や恐怖はあまり感じない。

 作品のベースは、アクションを多く取り入れて視覚的および直感的に楽しめる2作目に近い。4作目以降もこのノリで行くんだろうなと察する。後に『ミッション・インポッシブル』と同様に「1作目が1番の異色作」と言われそう。なので、1作目が1番好きな方にとっては寂しい流れかも。だが、敵味方の相関図はマ刑事vs悪役といったシンプルな1on1ではなく、1作目のような三つ巴。「2作目のようにアクションとコメディが中心になっても1作目のような構図を作れるぜ!」といった意気込みを感じる。とはいえ、マ刑事がローラー作戦のようにターゲットたちを踏破していくから構図が活きることはない。むしろ、その分だけ人間関係がゴチャゴチャして前作よりストーリーが頭に入りづらいさがある。とはいえ、本作はストーリーの展開力が凄く働くことはないため、とりあえず、2人のボスキャラを用意できたというボリュームアップに繋がっている。そして、マ・ドンソクとボス2人の死闘をメインに据えるため、マ・ドンソク演じる主人公を異動させて2作目までの同僚たちを出演させなかったのは英断。出演させたらキャラに対するスポットライトの分量を調節できなかったと思う。

 アクション面について、マ・ドンソクにファイティング・ポーズをピシッと決めさせることで強さの説得力が上がっている。また、刀という凶器を持った青木さんに拳のみで闘う姿にも強さの説得力を感じる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

コヴェナント 約束の救出

(C)2022 STX FINANCING, LLC. ALL RIGHTS RESERVED

公 開 日  :2月23日

ジャンル:戦争、ドラマ

監 督 :ガイ・リッチー

キャスト:ジェイク・ギレンホール、ダール・サリム、エミリー・・ビーチャム、ジョニー・リー・ミラーアントニー・スター 他

 

概要

 『スナッチ』や『コードネームU.N.C.L.E』などの痛快なアクション・エンターテインメントを世に送り出して大ヒットを記録してきたガイ・リッチーが、アフガニスタン問題とアフガン人通訳についてのドキュメンタリーを鑑賞して着想を得た、キャリア初の社会派作品。主人公のアメリカ兵をジェイク・ギレンホール、主人公の部隊に同行するアフガン人通訳をダール・サリムが演じる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 2018年、アフガニスタンイスラム主義組織タリバンの武器や爆弾の隠し場所を探す部隊を率いる米軍のジョン・キンリー曹長は、アフガン人通訳としてアーメッドを雇う。アフガニスタンの軍事作戦において、米軍部隊に追従したアフガン人通訳にはアメリカへの移住ビザが報酬として渡されていた。

 キンリーはアーメッドと部隊の隊員たちと共に現地にて武器や爆弾の隠し場所の調査に向かうが、予期せぬ事態に遭遇する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 数多の演出と編集を駆使し、静けさから物音をスイッチとして、静から動へ切り替わる緊迫感とスタイリッシュに満ちた極限の戦闘シーン。米軍曹長とアフガン人通訳による国境を越えた絆に感動を覚え、それだけでなく社会問題へリンクして早急な解決を願う思いが伝わり、2024年に送り出す意義を感じ取れる。エンタメ重視だったガイ・リッチー監督が社会派作品に手を染め、転換点を予期させる。

 戦争映画の戦闘シーンとしては斬新な出来栄えである。物音がなく何処に敵が潜んでいるかも分からない静けさが生み出す緊迫感。そして、銃声などの物音をスイッチに静から動へ切り替わる空気。動に切り替わった後のクールな銃撃シーンの構図。動に切り替わった後に見せる無我夢中な肉弾戦。さらには、静の状態を保ちつつも幾ばくかの動が滲み出ているステルスシーン。脳内でアドレナリンが放出されたかのようなスロー演出。数多の演出と編集を駆使して、逐一スタイリッシュに魅せつける。もはや戦争映画というよりもアクション映画やシューティング・ゲームの戦闘シーンに近く、従来の戦争映画が表現してきた血生臭さだけが見せ方の全てではないと思わせる。というよりも、監督を務めたガイ・リッチーは、どのジャンルを選んでも見栄えのよい映像を作り出していると言及した方が正確か。

 米軍曹長とアフガン人通訳の国境を越えた絆が温かい。本作で目を見張るのは戦闘シーンだが、2人の絆にも着目すべきポイント。言葉で語り合うことは極小であり、互いに身体の動きだけで示し合う光景に胸熱。何よりも2人の絆を温かくしている要因は、実際のアフガニスタン紛争におけるアフガン人通訳の実態。通訳として米軍部隊に追従すれば報酬としてアメリカへの移住ビザが渡されるが、なかなか申請が通らないままアフガニスタンに取り残され、命を狙われる状態になっている。つまり、コヴェナント(契約)が不履行になっているのが現状である。その現状を本作では危険行為で打破することによって、現実世界におけるアフガン人通訳への敬意やコヴェナントを必ず履行する訴えを強めている。なので、本作で描かれた米軍曹長とアフガン人通訳の絆は、現実世界の米軍兵士とアフガン人通訳の声であり魂でもある。2人による純粋な友情劇として機能しているが、現実世界の背景によって更に絆を強く感じるし、アフガン人通訳の取り残され問題を提示して早急な解決を願う姿勢が見える。本作は2024年に世に送り出す意義があった。

 本作の監督を務めたガイ・リッチー監督作として観ると、かなり硬派になった印象。ガイ・リッチーのことをスタイリッシュな演出と編集を駆使した軟派なエンタメ作品が得意技だと勝手に思っていたが、本作ではユーモアを全て削ぎ落とし尚且つ戦争における社会問題を導入して領域の広さを感じた。演出と編集のキレは相変わらずだけど、ガイ・リッチーの底が知れぬ。本作だけ、こうなったのか。それとも、今後は更に作風の範囲を広げていくのだろうか。本作が転換点となるかは次回作以降も要チェック。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

マダム・ウェブ

(C) & TM 2024 MARVEL

公 開 日  :2月23日

ジャンル:アメコミ、スリラー

監 督 :S・J・クラークソン

キャスト:ダコタ・ジョンソンシドニー・スウィーニー、セレステ・オコナー、イザベラ・メルセド、タハール・ラヒム、アダム・スコット

 

概要

 『ヴェノム』シリーズと『モービウス』に続く「ソニーズ・スパイダーマン・ユニバース」シリーズの第4作目。

 

あらすじ

 2003年のニューヨーク。救急救命士として働くカサンドラ・ウィブことキャシーは、1人でも多くの命を救うため日々奮闘していた。ある時の救命活動中、キャシーは生死を彷徨う大事故に巻き込まれてしまう。それ以来、デジャブのような奇妙な体験を重ね、自身に未来を予知する能力が発現したと自覚する。突然にも手にした能力に戸惑うキャシーだったが、偶然にも出会った3人の少女たちが、黒いマスク男に殺される悪夢のようなビジョンを見てしまう。それが未来に起きる出来事だと確信したキャシーは、少女たちを助けることを決意する。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 アメコミ映画らしくヴィランと戦うけど、アメコミ映画らしいアクションは皆無に等しい。敵が忍び寄るスリラー調な展開から予知能力を駆使し、危機的状況の打開を主軸とした異色作。後半になるほど状況の危険度は上がり、打開策が大胆かつダイナミックになって見栄えは右肩上がり。多少、力技だけど。今までのアメコミ映画では定番であるCGやアクションをゴリゴリ用いて魅せることはないけど、コレはコレであり。従来のアメコミ映画とスリラー映画の中間のような感じで楽しめる。それでいて、母性の物語として絡めていくのが用意周到。アメコミ映画というより、スリラー&母子映画に近い。

 現在と未来を混在させる演出が功を奏している。バシッとカットを割ったり、効果音を突っ込んだりして緩急が効いている。予知能力という本作の特色を爪痕として残していく。

 世界観には若干ながらツッコミどころがある。主人公は正義の心を持った人物なのだが、ピンチ時には窃盗や器物損害を繰り返す(笑)あと、アメリカから国外へ渡る際にTVゲームのファストトラベル並みにアッサリと移動している(笑)本作はマフィア系のオープン・ワールド・ゲームだったのでしょうか(笑)

 日本語吹き替え版の主人公の声は大島優子さんが担当。セリフを聴いてる間は大島さんの顔が浮かぶけど、海外作品の吹き替えをメインとする声優の声質に近い。全然、聴ける。けれど、感嘆符が付く声は声優さんとの技量の差が如実に出る。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

パレード

Netfilx

公 開 日  :2月29日

ジャンル:ドラマ

監 督 :藤井道人

キャスト:長澤まさみ、坂口健太郎横浜流星、森七菜、田中哲司寺島しのぶリリー・フランキー

 

概要

 現世に未練を残したまま亡くなってしまい、現世に留まり続ける人々の人間模様を描いたヒューマン・ドラマ。監督は『新聞記者』でアカデミー賞を受賞した藤井道人監督。主演は長澤まさみさんであり、その他のキャスト陣では坂口健太郎さんや横浜流星さんといった藤井監督の過去作に出演した”藤井組”の方々が集結。

 

あらすじ

 ある日、テレビ局の記者を務める美奈子は災害に遭い、瓦礫が散らばる海岸で目を覚ます。はずれてしまった一人息子の良を探して彷徨いながら人々に声をかけるが、誰一人も自分の声に反応してくれない。さらには、他人に触れることすら出来なくなっていた。ようやく自分の声が聞こえる男性・アキラと出会い、アキラの案内で4人の人々が暮らす集落のような場所に連れてこられる。そこで知ったのは、既に自分は亡くなっており、アキラとそのほかの4人の人々も亡くなっている事実だった。「未練を残したまま亡くなった人間は魂が現世に留まり続け、この空間に案内される」という説明を受け、話を飲み込めずにいた美奈子だったが、今いる状況を受け止めて心境に変化が生まれていく。

 

感想

 もう2度と触れたり言葉を交わしたり出来ない大切な者を影から見守る葛藤や思い出浸りにキャスト陣の熱演と藤井監督の透き通った美しい画づくりが、鑑賞者に脈動を起こす…はずだった?死後の世界のルールが明確にされておらず、制約や出来ることが今ひとつ掴みにくいため、どういう価値観を基に鑑賞したらよいのか分かりづらい。また、じっくりドラマを描く藤井監督の味があるからこそ「あれ?こういうことは出来ないの?」とツッコミを連打する余白というか隙がある。さらには「こういうことも出来るのよ」と後出しジャンケンが多く、最後まで謎のルールや世界設定に振り回されて鑑賞を終えてしまう。

 キャスト陣の多くが藤井監督の過去作出演者であり、記者やヤクザといった過去の藤井監督作と同じ要素を持ってきたりと、藤井監督の過去作が集約されたような感じがした。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計12個