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【まとめ】2023年 日本劇場公開の映画(5月編)

 この記事は2023年5月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)

 「2023年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。

 

 各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍

  • 公開日(日本の劇場で公開された日)
  • ジャンル
  • 監督
  • キャスト
  • 概要
  • あらすじ
  • 感想

 加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。

  • 脚本・ストーリー
  • 演出・映像
  • 登場人物・演技
  • 設定・世界観

 ⭐は最大で5つです。

 

 それでは、早速いきましょう💨

ガーディアンズ・オブ・ギャラクシーVOLUME3

(C)2023 Marvel

公 開 日  :5月3日

ジャンル:アメコミ

監 督 :ジェームズ・ガン

キャスト:クリス・プラットゾーイ・サルダナ、デイブ・バウティスタ、カレン・ギラン、ポム・クレメンティエフ、ビン・ディーゼルブラッドリー・クーパー、ショーン・ガン、マリア・バカローバ、ウィル・ポールター、エリザベス・デビッキ、チュク・イウジ 他

 

概要

 2014年に第1作目、2017年に第2作目が公開された『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの第3作目にして最終作。キャスト陣は、クリス・プラットゾーイ・サルダナ等のお馴染みのメンバーが再集結。監督および脚本は、シリーズ過去作全てを担当してきた映画の鬼才ことジェームズ・ガン。シリーズ完結編として、大きな感動で彩る。

 

あらすじ

 アベンジャーズの一員として世界を救った「ガーディアンズ」の、最後にして最大のお祭り騒ぎ!サノスとの戦いで最愛の恋人を失ったショックから立ち直れないピーターが率いるガーディアンズに、銀河を完璧な世界に作り変えようとする最凶の敵が現れ、ロケットは命を失う危機に…。大切な仲間の命を救うカギは、ロケットの過去に隠されていた。全銀河の運命とチームの存続を懸けた、最強のはみ出し者チームVS最凶の完璧主義者の感動のラスト・バトルが今、始まる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 まずは、デザイン。本作で登場する宇宙人・異形な動物・敵組織のアジトのデザインは秀逸。宇宙人と異形な動物のビュジュアルに関しては、観てる我々を不快にさせないレベルで残酷性だったり、親密性を抱かせてたりと、絶妙な塩梅でデザインされている。敵組織の建物は、鉄などの人工物ではなく、人間や動物の内臓を彷彿させるデザインであり、こちらも不快にならないレベルで程よい気持ち悪さがある。ジェームズ・ガンの前作である『ザ・スーサイド・スクワッド』のデザイン・センスが本作でかなり活きている。

 シリーズ定番の面白い要素は本作も健在。ノリの良い音楽の挿入。キャラたちによるコミカルで軽妙な掛け合い。緩急ある演出は過去のシリーズ同様で安定の面白さがある。

 本作では、今まで直接的に過去が語られなかったロケットに一段とフォーカス。悲しき過去が現在軸の本編と同時並行で明かされ、ギャグやコミカル抜きでシリアスに描かれる。観る者自身もロケットと同じ目線となり、ロケットの辛さを追体験する仕上がりとなっている。

 いつもの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズの空気感で笑って楽しめ、ロケットの過去話では悲しみが胸に沈殿して感情を揺さぶられる。コミカルとシリアスの両面で面白さが光る構成となっている。だが、逆を言えば、歪なバランスにもなっている。なぜなら、本作で発生する出来事があまりにもシリアス過ぎるので、コミカルなギャグを放っているキャラクターたちに対して「ふざけてる場合なの?」とツッコミを入れる余地がシリーズにしては珍しくある。ちゃんと取り組んでいたのは、チームの真面目担当ことネビュラぐらい(笑)人によってはイライラするかもしれない。コミカルとシリアスを楽しんで一挙両得という見方もあれば、シリアスな出来事でもフザケ倒すバランスに疑問符を付けることもある。

 とはいえ、キャラクターたちによる各々の到達点やテーマ性は素晴らしい。キャラクターには、各々の最善たる居場所を提供したこと。テーマ性としては、過去作から提示されてきた家族愛の他に、人間だけでなく動物に焦点を当て、生命の尊厳を取り入れたこと。ロケットが本作でフォーカスされたり、犬のコスモが本作で前面に押し出された理由は、まさにこれである。「皆が違ってよいし、皆で生きていこうぜ!」と優しさと温かさで包み込む終幕で締めるのは、とても気持ちが良い。コミカルとシリアスのバランス加減は気になるが、包容力がある作品であることに間違いなし。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

銀河鉄道の父

(C)2022「銀河鉄道の父」製作委員会

公 開 日  :5月5日

ジャンル:ドラマ

監 督 :成島出

キャスト:役所広司菅田将暉、森七菜、豊田裕大、坂井真紀、田中泯

 

概要

 今もなお唯一無二の詩や物語で、世界中から愛されている宮沢賢治。だが、生前の彼は無名の作家のまま、37歳という若さで亡くなった。彼の死後も、その才能を信じ続けた家族が、賢治の作品を諦めずに世に送り続けたために、高い評価を得るようになった。

 そんな賢治は「ダメ息子だった!」という大胆な視点から、賢治への無償の愛を貫いた宮沢家の人々を描き、第158回直木賞を受賞した『銀河鉄道の父』。歴史のスポットライトの陰にいた賢治の家族への丹念なリサーチを実らせ、「見たこともない賢治の物語」・「深い愛に涙が止まらない」などと絶賛された傑作小説の映画化が実現。

 『八日目の蝉』や『いのちの停車場』など、人と人の触れ合いや絆を通して、人生の豊かさを描いてきた成島出監督が、何があっても信じ合い、助け合い、互いに味方であり続ける家族の強い想いに、心を揺さぶられ熱い涙があふれだす、希望の物語を完成させた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 質屋を営む裕福な政次郎の長男に生まれた賢治。家業の跡取りとして大事に育てられるが、質屋になることを拒み、農業・人造宝石・宗教・文学などに身を委ねていく。なんとか賢治に質屋を継がせたいと頭を悩ます政次郎だったが、逆に、長女のトシは賢治の文才を信じて背中を押す。トシの思いを受け取った賢治は物語の執筆活動を始める。だが、思わぬ出来事により、父・政次郎と長男・賢治の心に変化が芽生えて交錯していく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 夭折した伝説の作家・宮沢賢治、その父・政次郎、そして宮沢家の変遷を描いた笑顔と感涙のヒューマン・ドラマ。

 親バカで伝統を重んじる父の成長譚にして、伝説を残す布石としても位置付けられる物語。いくら子供に才能があろうとも、その芽を摘むか花開かせるかは親の許容が左右すると思える作品。現代の親でも子供がやりたいことに対して、「あなたには無理」や「世間体を考えて止めて」と芽を摘ませていることは変わりない。それに対して「子供を信じてみよう」となるのが本作であり、現代の子育てにも通ずるところがある。本作は「家業を継がせたい」という世間の伝統だけを考えていた父が、大切な人の死によるターニング・ポイントや家業だけを行ってきた自身の人生を顧みることによって、宮沢賢治という文才が世に知らされることになる。子供には「まずは信じてみよう」の心で好きなことを挑戦させるのが子供の為かと考える。それが全て上手くいくとは限らないけど。

 本作は映像の美しさが際立つ。白む空に透き通った雪、日没の薄暗さに光る火葬場の炎など、ベストショットを捉えた画づくりが素晴らしい。

 名優たちの演技も目を引く。父・政次郎を演じた役所広司さんは親バカな部分は笑えるし、子供を大切に思う心は感動する。特に「雨ニモマケズ」を読み上げるシーンは感涙。(雨ニモマケズって、こんなに感動する詩だっけ?)宮沢賢治を演じた菅田将暉さんも見事。「実は、宮沢賢治は奇人だった」の説の通り、思い立ったことを次々とやっていく多才な奇人ぶりを披露する。日蓮宗の読経が印象に残る。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

EO イーオー

(C)2022 Skopia Film, Alien Films, Warmia-Masuria Film Fund/Centre for Education and Cultural Initiatives in Olsztyn, Podkarpackie Regional Film Fund, Strefa Kultury Wrocław, Polwell, Moderator Inwestycje, Veilo ALL RIGHTS RESERVED

公 開 日  :5月5日

ジャンル:ドラマ

監 督 :イエジー・スコリモスキ

キャスト:サンドラ・ジマルスカ、ロレンツォ・ズルゾロ、マテウシュ・コシチュキェビチ、イザベル・ユペール

 

概要

 戦後のヨーロッパ映画界で最も評価の高い映画監督の一人であるイエジー・スコリモフスキの7年ぶりの新作。監督自身が「私が唯一、涙を流した映画」と語る、ロベール・ブレッソンの『バルタザールどこへ行く』をインスパイアされ、本作の主人公を務めるのは人間ではなくEO(イーオー)という名のロバ。ミハウ・ディメクによる臨場感あふれる見事なカメラワークと、世界の映画賞を席巻中のパヴェウ・ミキェティンによる印象的な音楽に連れ出され、観客はEOの旅を見守りつつも、ある時はEOの目線で予期せぬ荒波を潜り抜けることになる。人間のおかしさと愚かさを、全くの別視点から体感するような夢寐の映像体験には、”鮮烈””近年の映画にはない希少な大胆さ”と、その革新性とオリジナリティに多くの賞賛が寄せられている。

 本作は第75回カンヌ国際映画祭では審査員賞・作曲賞2部門を受賞、全米映画批評家協会賞では外国語映画賞撮影賞の2部門を受賞し、アカデミー賞国際長編映画賞ノミネートを果たした。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 愁いを帯びた瞳とあふれる好奇心を持つ灰色のロバ、EO。サーカス団のパフォーマーである女性・カサンドラのパートナーとして生活していたが、諸事情でサーカス団から連れ出され、放浪の旅へ出ることになる。そこでEOが目にしたのは、善にも悪にも見えてくる人間たちの所業だった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 凄まじい映画体験。光と影の濃淡を駆使した画の数々。真下とEOの視点に同化するアングル。場面とEOの内情(?)に合わせた荘厳で哀愁のある多種多様な劇伴。響きる動物たちの呻きのような鳴き声。極上の映像と音響の中、動物と接する人間たちが登場し、各人によって動物の見方が違うことを表現している。1つの命として大切に扱う者もいれば、心なき動物として乱暴に扱う者もいる。そして、どちらでもなく、嗜好や生きる手段として扱う者も…。(多くの人間がこれに該当するだろう。)時に生物として見なされ、最後は人のモノにもなり得る動物を捉え、動物愛護など幻想ではないかと人間の矛盾を突いている。だが、ラストに表記される字幕の通り、人間たちが出来ることは、動物がどうなろうと大切に扱うことだけなのだと思う。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

 

それでも私は生きていく

公 開 日  :5月5日

ジャンル:ドラマ

監 督 :ミア・ハンセン=ラブ

キャスト:レア・セドゥ、パスカル・グレゴリー、メルビル・ピポー、ニコール・ガルシアカミーユ・ルバン・マルタン

 

概要

 第66回ベルリン国際映画祭で銀熊(監督)賞を受賞し、今やフランス映画界を代表する存在となったミア・ハンセン=ラブ監督の8作目。自身の経験をもとに“悲しみ”と“喜び”、正反対の状況に直面する一人の女性の心の機微を繊細に描き、“人生讃歌”とも言える上質なヒューマンドラマに仕上げた。中でも光るのが主人公サンドラを演じるレア・セドゥの存在感。彼女の起用について、「人間味のある人物としてカメラで捉えたかった」と監督が語る通り、複雑な心境を見事に表現し、第75回カンヌ国際映画祭にてヨーロッパ・シネマ・レーベルを受賞した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 サンドラ(レア・セドゥ)は、夫を亡くした後、通訳の仕事に就きながら8歳の娘リン(カミーユ・ルバン・マルタン)を育てるシングルマザー。仕事の合間を縫って、病を患う年老いた父ゲオルグパスカル・グレゴリー)の見舞いも欠かさない。しかし、かつて教師だった父の記憶は無情にも徐々に失われ、自分のことさえも分からなくなっていく。彼女と家族は、父の世話に日々奮闘するが、愛する父の変わりゆく姿を目の当たりにし、サンドラは無力感を覚えていくのだった。そんな中、旧友のクレマン(メルヴィル・プポー)と偶然再会。知的で優しいクレマンと過ごすうち、二人は恋に落ちていくが……。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 レア・セドゥの演技力を再確認する作品。物語は薄味。父の病気が進行したり旧友への愛が膨らんだりするロジックやグラデーションの表現は無いに等しいほどブツ切り。ケレン味の無さも合わさって物語にパワーは感じない。だが、レア・セドゥによる表情の変化と身体の動きで程よく味付けし、物語に色を残す。設定に沿って単純な話が続くのに、主人公の人生における悲哀と幸福が十二分に行き届いている。フランス映画界そしてハリウッドにレア・セドゥが在ることを知らしめる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

ウィ、シェフ!

(C)Odyssee Pictures - Apollo Films Distribution - France 3 Cinéma - Pictanovo - Elemiah- Charlie Films 2022

公 開 日  :5月5日

ジャンル:ドラマ、コメディ

監 督 :ルイ=ジュリアン・プティ

キャスト:オドレイ・ラミー、フランソワ・クリュゼ、シャンタル・ヌービル、ファトゥ・キャバ、ヤニック・カロンボ、アマドゥ・バー、ママドゥ・コイタ、アルファ・バリー、ヤダフ・アウェル、ブバガール・バルデ 他

 

概要

 移民大国フランスに単身で辿り着いた未成年の移民たちを調理師として育成し、フランスでの安定した暮らしを手に入れさせようと奮闘した実在のシェフ、カトリーヌ・グロージャンをモデルとしたドラマチック・キッチン・コメディ。

 監督を務めるのは、これまでもフランスが抱える深刻な問題を社会派コメディとして発表してきたルイ=ジュリアン・プティ。出演は、フランスを代表する女優オドレイ・ラミー、『最強のふたり』など日本でも高い人気を誇るフランソワ・クリュゼ、そしてオーディションから選ばれた40人の実際の移民の少年たちである。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 一流レストランのスーシェフとして働くカティ。彼女の夢は、いつか自分のレストランを開くことであり、働きながら構想を練る日々だった。だが、勤務先のシェフと大ケンカして店を飛び出してしまい、新たな働き口を探すことに…。ようやく見つけた職場は、移民の少年たちが暮らす自立支援施設だった。質より量、まともな食材も器材すらない。不満をぶつけるカティに施設長のロレンゾは移民の少年たちを調理アシスタントにするアイディアを提案する。フランス語がちょっと苦手な少年たちと、天涯孤独で人付き合いが苦手なカティ。料理が繋げた絆は少年たちの将来だけでなく、一匹狼だったカティの世界も変えてゆく…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 凄くハートフル。けれども、凄くシビア。ハートフルとシビアのバランスが現実世界のようであり、リアリティある仕上がりとなった作品。

 食材の知識を学んだり、厨房で調理していくシーンは笑顔いっぱいであり、活気に溢れた健全たる食育を描写している。また、料理を題材とした映像作品らしく、形を崩すのが勿体無いほど見栄えある調理品が皿の上で芳香を発している。(個人的には、フランス料理を嗜む習慣がないため、観る者に味覚や嗅覚を刺激しているかは分からないけど。)

 料理に関するシーンはポップなBGMも合わさり、熱量があってハートフルな雰囲気が前面に出ている。だが、料理を教わる移民の子供たちが強制送還の危機に晒されており、作品のトーンが変わるほどシビアな現実も前面に出ている。このハートフルとシビアの切り替えによる、山あり谷ありなムーブが現実世界における人生の波のようであり、実話を基にした故のリアリティを生み出している。オチもリアリティある締め括り。移民の立場が逆転したり、「この後も皆は料理を楽しめて幸せに暮らしたのだった」のような御伽噺的な着地にならず、「何処へ行っても楽しめる手段として、料理を身に付けたのであった」という技術と精神的支柱を取得して、料理を人生の拠り所としたのは真に幸福度が高いアプローチである。最後の最後で凄く現実的な出来事が訪れたけど、料理を指導した主人公カティが笑みを浮かべるのも納得。

 本作は食育ドラマだけでなく、主人公カティの掲げてきた信条を証明する物語でもある。カティ自身が劇中でも言及しているが、「野心」というハングリー精神が人生を変えることだと観る者に訴えている。だが、その証明を行うのは自分自身ではなく、食育を受ける子供たちである。子供たちという他人が立証したことにより、カティの信条は一個人の意見に留まらず、誰もの信条になり得ることを表現しており、非常に説得力が高いものとなっている。なので、本作はカティの歩んできた過程が正解だったことを示す生き様の物語にもなっている。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

TAR ター

(C)2022 FOCUS FEATURES LLC.

公 開 日  :5月12日

ジャンル:スリラー

監 督 :トッド・フィールド

キャスト:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルラン、ニーナ・ホス、ソフィー・カウアー、アラン・コーデュナー、ジュリアン・グローバーマーク・ストロング

 

概要

 『イン・ザ・ベッドルーム』と『リトル・チルドレン』の2作でアカデミー賞脚色賞にノミネートされたトッド・フィールドの16年ぶりとなる作品。

 主演はケイト・ブランシェット。本作で4度目となるゴールデングローブ賞ベネチア国際映画祭主演女優賞といった名誉ある賞を次々と制し、ケイト・ブランシェットの新たな代表作として呼び声が高くなっている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 世界最高峰のオーケストラの1つであるドイツのベルリン・フィルで、女性として初めて首席指揮者に任命されたリディア・ター。彼女は並外れた才能とそれを上回る努力、類稀なるプロデュース力で、自身を輝けるブランドとして作り上げることに成功する。今や作曲家としても圧倒的な地位を手にしたターだったが、マーラー交響曲第5版の演奏と録音のプレッシャー、そして新曲の創作に苦しんでいた。そんな時、かつてターが始動した若手指揮者の訃報が入り、ある疑惑をかけられたターは追い詰められていく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 権力者の苦悩を描いた映画。そのような作品は歴史上の偉人たちを中心に多々あったが、リアリティの高さが格別。前半は緩急の急が付いた演出が皆無であり、音楽界の専門用語を用いた台詞がズラズラ並んで理解しにくい。だが、逆を言えば、意味が分かれば解像度が格段に高くなる。(そう思っても、私自身はよく分かってない。)加えて、鑑賞中に意味が分からずとも、最高位にして権力者である天才指揮者を演じるケイト・ブランシェットの自然体すぎる有害な立ち振る舞いが観客の目をリードしてくれる。後半はホラー調の演出が随所に差し込まれ、前半の分かりづらさを吹き飛ばし、天才かつ最高権力者という稀有な人間が陥る不安感へとリンクしやすい。前半と後半のペース配分が、最高位に君臨して権勢を振るう者という共感が難しい人間に対して興味を引くようになっている。指揮棒を振っても権力を振るうなと言わんばかりに、権力を振るう当事者の目線から権力を持つ怖さが伝わる。

 さらに本作のリアリティを底上げしてるのは音楽界最高位の指揮者ターを演じたケイト・ブランシェット。本物の指揮者にしか見えない。流れるようにピアノに手をつけては弾き始めるし、指揮棒を振る姿は誰もが1度は目にしたことがある楽団の指揮者そのもの。女優ケイト・ブランシェットを忘れて音楽家ターが君臨していた。また、権力を振るっては権力に溺れていく自然体すぎる立ち振る舞いと堕落っぷりは現実世界に居る権力者の苦悩が垣間見えるようだった。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

デスパレート・ラン

(C)2021 LAKEWOOD FILM LLC. ALL RIGHTS RESERVED.

公 開 日  :5月12日

ジャンル:スリラー

監 督 :フィリップ・ノイス

キャスト:ナオミ・ワッツ、コルトン・ゴボ、シエラ・マルトビー、クリストファー・マラン、アンドリュー・チャウン、ジェイソン・クラーク、デビッド・リール、デブラ・ウィルソン、ウッドロウ・シュリーベル

 

概要

 数々の受賞歴を持つナオミ・ワッツが「スマホだけ」で事件解決に挑むワン・シチュエーション・スリラー。監督はアンジェリーナ・ジョリー主演の『ソルト』やデンゼル・ワシントン主演の『ボーン・コレクター』を手掛けたオーストラリア出身の巨匠フィリップ・ノイス。脚本はライアン・レイノルズ主演のワン・シチュエーション・スリラー『リミット』でナショナル・ボード・オブ・レビュー賞等を受賞したクリス・スパーリング。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 愛する夫を交通事故で亡くしたエイミー・カーは、高校生の息子ノアと小学生の娘エミリーのために、自然あふれる小さな町レイクウッドで、平穏な生活を取り戻そうと懸命に働き、自身の悲しみとも向き合いながら日々を過ごしていた。

 夫の一周忌を目前に控えたある朝、エイミーはスクールバスに乗り込むエイミーを見送り、「学校へ行きたくない」とベッドに横たわるノアにコーヒーを届けると、スマホ1台を携えて趣味のランニングに出発するのだった。

 エイミーが森の奥深くを走り続けていると、勢いよく走行する数台のパトカーとすれ違う。さらには、スマホに地域の全ての学校が封鎖されたという緊急速報を受信する。スマホで情報収集をするうち、エイミーは息子のノアが通う高校で事件が発生したことを知り、自宅に居たはずのノアが事件に巻き込まれている可能性があることを掴む。エイミーは愛する息子の安否を確認するため、スマホを片手に考え得るあらゆる機能を駆使しながら走り続け、町から何マイルも離れた場所で必死に時間との闘いに挑む。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 日課のランニングで遠出中、息子の高校で立てこもり事件が発生し、息子の安否を確認すべくランニング・ママが自分の足とスマホ1台で奮闘するワン・シチュエーション・スリラー。

 84分の短尺にして、無人の地からスマホの機能を使って息子の安否に接続していくエンタメ性を発揮しながら、アメリカの銃社会を風刺する社会的メッセージ性も兼ね備えたスリラー作品に仕上がっている。

 本作の特筆すべきポイントは主人公を演じたナオミ・ワッツの一人芝居。本作の大部分のシーンは無人の地に居るナオミ・ワッツ演じる主人公しか映らず、それ以外の登場人物はデンマーク映画『ギルティ』や邦画『マンホール』のように電話の声のみ。声だけの登場人物を相手に、足を引きずながら息子の元へ走り続け、息を切らしながら電話口の相手を頼りに息子の現況確認を急ぎ、最後は腹を括って覚悟を決めるナオミ・ワッツの姿に息子を思う必死さが伝わってくる。子供が事件に巻き込まれた時、これほどまでに親心は鬼気迫るのかと思わせ、そのような事態へ簡単に接続してしまう銃社会に警鐘を鳴らしている。『ギルティ』や『マンホール』はエンタメ作品としての色が強いが、本作は現実世界への繋がりが強くなっている。だから、社会問題を取り扱って差別化したのは英断である。

 『ギルティ』や『マンホール』同様に、観る者に対して見えない電話の向こうの世界を想像させる楽しさがある。だが、エンタメとしての楽しさは劣る。『ギルティ』や『マンホール』は電話の相手が見えないことを利用して観る者の先入観を覆す驚きの仕掛けがあったが本作は皆無。捻りがない。また、息子の高校で起きてる事態が現在進行形で把握することが出来ず、想像を楽しむ範囲が狭い。しかも、結果的には電話の向こうの世界を想像する必要性がない決着である。社会性を帯びさせる以上、エンタメ的な展開を作れず、社会的なメッセージ性に着地することが諸刃の剣となってしまった。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

フリークスアウト

(C)2020 Goon Films S.r.l. - Lucky Red S.r.l. - Gapbusters S.A.

公 開 日  :5月12日

ジャンル:SF

監 督 :ガブリエーレ・マイネッティ

キャスト:クラウディオ・サンタマリアアウロラ・ジョビナッツォ、ピエトロ・カステリット、ジャンカルロ・マルティニ、ジョルジョ・ディラバッシ、フランツ・ロゴフスキ 他

 

概要

 長編デビュー作『皆はこう呼んだ、鋼鉄ジーグ』にてイタリアのアカデミー賞7冠受賞の快挙を成し遂げた新星ガブリエーレ・マイネッティの2作目。「特殊な異能力を持つが故に世間に馴染めず肩を寄せ合って生きてきたサーカス団が、ナチス・ドイツの悪党に立ち向かう」という、設定だけでもワクワクするような極上のエンターテインメント。

 本作は、ベネチア国際映画祭ではコンペティション部門に選出。ロッテルダム国際映画祭では観客賞。イタリアのアカデミー賞では16部門でノミネートされ、そのうち6部門を受賞。そのほかに55の映画賞にノミネートされ、34の受賞を獲得している。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 第二次世界大戦下のイタリア。ユダヤ人の団長イスラエルが率いる5人の小さなサーカス団には、光と伝記を操る少女マティルデ、アルビノの虫使いチェンチオ、多毛症の怪力男フルヴィオ、磁石人間の道化師マリオが所属しており、彼らは特殊能力のせいで普通に暮らすことが出来ず、家族のように肩を寄せ合って暮らしてきた。イタリア国内でもナチス・ドイツの影響が強まる中、なんとか戦火を逃れ皆をアメリカへ脱出させようとしていたイスラエルが、突然と姿を消してしまう。マティルデがどうにか団長を探し出そうと奔走する一方、フルヴィオら3人は仕事を求めてベルイン・サーカス団の門を叩く。ド派手なパフォーマンスが話題のナチス・ドイツの陽気な広告塔。しかし団長のフランツは、裏でナチスを勝利に導く異能力者を探して人体実験を繰り返す恐ろしい男だった。フランツとの危険な出会いは、サーカスの仲間たちをナチス・ドイツ軍との壮絶な戦いへと導いていく…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 サーカス団員たちが良い動き。まずは、能力が程よく地味で絶妙。電気少女。怪力男。虫使い。磁石人間。無双するほどパワーがないため、ここぞというタイミングとアイディアで刹那の輝きを見せ、活躍時の印象を残していく。とはいえ、磁石人間の応用力の狭さに不遇な面を感じるが…。次に、本作はイタリア映画だが、団員たちの掛け合いがハリウッド映画のチームモノのような詰り合いであり、聴いていて非常に小気味よい。最後に、他人にはない能力や外見を持つマイノリティの立場でイジられる場面もあるが、本人たち自身および製作サイドから可哀想な人たち扱いをしておらず、「この人たちはマイノリティだ!」とツッコミを入れることすら野暮なレベルで堂々としたキャラクターになっているのが好印象。時を経てマイノリティが解消されても時代に迎合できるキャラクターおよび作品になった。

 サーカス団員の仲間となる、身体の一部を失った傭兵たちも良き存在。サーカス団員と同様に「この人たち、体の一部がない。可哀想」とツッコミを入れることが野暮レベルで堂々と生きている。
 異能力者を集めることを企む敵のボスが悪役として魅力的。異能力者を見世物として捉えるレイシズム的な思想があり、サーカス団員たちが打倒する意義および現実世界の差別者の代わりに浄化される立ち位置になっている。
 総論すると、見世物と見なされていた者たちが"見世物"に留まらず、"魅せ者"として輝く堂々とした作品である。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

それゆけ!ゲートボールさくら組

(C)2023「それいけ!ゲートボールさくら組」製作委員会

公 開 日  :5月12日

ジャンル:スポーツ、コメディ

監 督 :野田孝則

キャスト:藤竜也石倉三郎大門正明森次晃嗣小倉一郎田中美里本田望結山口果林

 

概要

 『スペース カウボーイ』や『マルタのやさしい刺繍』、『ジーサンズ はじめての強盗』のジーサン&バーサンたちのように、シニアが奮闘するスポ根人情コメディ。

 主演は、『愛のコリーダ』や『龍三と七人の子分たち』等で昭和・平成・令和と活躍し続ける名優・藤竜也さん。脇を固めるのは、石倉三郎さん・大門正明さん・森次晃嗣さん・小倉一郎さんといった歴戦の強者揃いで、藤竜也さんと一緒にスクリーン狭しと大暴れする。さらに、山口果林さんと田中美里さんもゲートボール・チームの一員として物語に華を添える。他にも、本田望結さん・毒蝮三太夫さん・生前はゲートボール愛好家として知られていた落語家の三遊亭円楽さんが名を連ねる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 約60年前、高校生だった織田桃次郎は学友たちと共にラグビーに打ち込み、輝かしい青春時代を送っていた。76歳となる現在では、妻が遺したカレー専門店を経営する日々であるが、ラグビーに捧げていた学生時代と比べて、どこか寂しさと物足りなさを痛感していた。

 ある日、かつてラグビー部でマネージャーを担当していた木下サクラと再会。現在、サクラはデイサービス施設を経営しているが、倒産の危機を迎えていた。桃次郎は、元ラグビー部の仲間たちを集結させ、何か手立てはないか模索する。そこで思いついたのが、社内にゲートボール部を設立し、大会で目立って施設の知名度を上げることだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 「ゲートボールをする→会社を立て直せる」という実証なき根拠の設定にツッコミ。ゲートボールって、老人を呼び込む1番の手段なの?余りにも話の組み立てが飛躍し過ぎている。しかも、発足したチームが認知される媒体がTVだけ。若年および中年のテレビ離れが進む昨今を考えれば、本作はシニア向けだったのだろうか?

 演出がアニメ的またはマンガ的過ぎて舞台劇っぽくなっている。そのため、登場人物が放つ数々のギャグは、観てる側が気恥ずかしくなる。あと、ロケーションが少ない&狭いため、画に動きがない。画面がほぼ固定で教材動画のやり取りを見てるようである。なお、放つギャグの多くが子供騙しかセクハラなので、笑いに縁のない人以外を笑わせるのは厳しい。とある敵チームの強さに説得力があるのに、狡いことして寒いギャグになるのが惜しい。あと、そのチームのキャスト陣も教材動画のような演技になっている。

 本田望結さんのキャラ付けが『テニプリ』のタカさんや『こち亀』の本田の劣化版。人格が変わるスイッチが不明で、人格ごとの振り切りが不足。

 効果音の種類がYouTuberが使う音声ばかりでショボい。

 CG合成は、画像を切り取って貼り付けた後が見えてる。

 ゲートボールはバスケや野球のようにルールの認知度が低いので、ルール説明をして欲しい。ルールが分からない人にとって、点数以外で、どちらのチームが優勢か劣勢か把握できない。そのため、何がピンチで何がファインプレーなのか伝わらない。 歳を重ねても挑戦を忘れない心意気や藤竜也さんの枯れて渋みのある雰囲気は一級品。幽霊と称された影薄い男を演じた小倉一郎さんの位置どりが面白い。 難点が多い作品だが、これからも人生を謳歌したいと考えるシニア層には一見の価値あり。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計10個

 

最後まで行く

(C)2023映画「最後まで行く」製作委員会

公 開 日  :5月19日

ジャンル:サスペンス、コメディ

監 督 :藤井道人

キャスト:岡田准一綾野剛広末涼子磯村勇斗駿河太郎、清水くるみ、杉本哲太柄本明

 

概要

 韓国で2014年に公開され、5週連続NO.1観客動員数の大ヒットを記録し、中国・フランス・フィリピンでリメイクされたクライム・サスペンス映画『最後まで行く』が日本でも同名タイトルでリメイク。

 陰謀に巻き込まれていく刑事とそれを追う謎の監察官が織りなす、年の瀬96時間=4日間の物語が、圧倒的な緊張感とスピード感、そして思わずクスッと笑ってしまうコミカルさがスパイスされて進行していく。

 監督は『新聞記者』で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞、『余命10年』で30億の興行収入を大ヒットさせた、現在の日本映画界をリードする藤井道人監督。主演の刑事・工藤役は、現代劇・時代劇問わず多くの大ヒット作を持つ岡田准一さん。工藤と対決する監察官・矢崎役は藤井道人監督作品の常連である綾野剛さん。

 危機、裏切り、罠、そして衝撃のラストが待ち構える作品が、ついに邦画でも描かれる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 年の瀬も押し迫る12月29日の夜。刑事・工藤は危篤の母のもとに向かうため、雨の中で車を走らせていた。その途中、妻の美沙子から電話で母が亡くなったことを告げられ、工藤は言葉を失ってしまう。だが、その時、工藤の乗る車は目の前に突如として現れた1人の男を撥ね飛ばしてしまう。男は絶命。工藤は難を逃れようと轢き逃げの隠蔽を図る。しかし、この事件が思わぬ陰謀へと進み、工藤は絶体絶命のピンチに陥ってしまうのだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 轢き逃げの隠蔽を試みる刑事。その刑事を追う警察官。次々と降り掛かるピンチに翻弄される2人の行く末を巡るノン・ストップ・クライム・エンタメ。

 数分に1度のペースでピンチが発生する話運びが秀逸。悪運強く打開したり、惨事を招いて新たなピンチを生産したりと無尽蔵に沸き続けるスピーディな展開の行く末にタイトルの「最後まで行く」に到達するシークエンスが見事。また、ピンチの発生や打開について、緊張の糸がピンと張ったり、コミカルな演出でユーモアに移行したりと緩急が効いている。

 「リメイクだから二番煎じに見える」や「運が良すぎて、ご都合主義」等の意見も分かる。ツッコミどころが多く、2回3回と見直す度に粗が露になると思う。だが、ノワール調またはポップで軽快な音楽、クズで執念深くて切羽詰まった主人公たちを形成した岡田准一さんと綾野剛さんの演技、ワンシーンの印象を観る者へ鮮明に与える藤井監督の洗練された画づくりといったストロング・ポイントが前のめりに押し出されている。剛腕にして豪速球である。強みを全力で投げてしまえば勝ちなのである。

 藤井監督は何らかの主義や主張を掲げる作品が多いが、バリバリのエンタメ作品のリメイクこそ向いてると思った。オリジナル脚本や小説を基にするよりも、2時間の尺にまとまったヒット作を、洗練された画づくりとキャスティングの力でリメイクを続けた方が良作を生み出せると考える。だが、藤井監督自身は今後、リメイク作品を撮るつもりはないらしい。気が変わったら、またヒット作のリメイクを待ってます。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

ソフト/クワイエット

(C)2022 BLUMHOUSE PRODUCTIONS, LLC. All Rights Reserved.

公 開 日  :5月19日

ジャンル:スリラー

監 督 :ベス・デ・アラウージョ

キャスト:ステファニー・エステス、オリビアルッカルディ、ダナ・ミリキャン、メリッサ・パウロ、エノレア・ピエンタ、シシー・リー、ジョン・ビーバーズ 他

 

概要

 『ハロウィン』シリーズや『ゲット・アウト』の製作スタジオであるブラムハウスが贈るクライム・スリラー。大胆な撮影手法とセンセーショナルなテーマを融合させた衝撃的な問題作。92分の全編をワンショットで映像化し、アメリカで社会問題化しているヘイトクライム憎悪犯罪)の狂気を抉り出す。わずか4日間のリハーサルで撮られたとは信じがたい完成度を誇る本作は、アメリカの映画レビューサイトにて高評価を獲得。このうえなくリアルな没入感と息詰まる緊迫感に圧倒されずにいられない体感型クライム・スリラーとなっている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 とある郊外の幼稚園に勤める教師エミリーが、「アーリア人団結をめざす娘たち」という白人至上主義のグループを結成する。教会の談話室で行われた第1回の会合には、エミリーの友人であるキムやキムが経営している食料品店で働くレスリーといった面々で、その他の者たちや主催者のエミリーを含めて6人の女性が集まった。多文化主義や多様性が重んじられる現代の風潮に反感を抱き、有色人種や移民を毛嫌いする6人は、日頃の不満や過激な思想を共有して大いに盛り上がる。やがて彼女たちはエミリーの自宅で二次会を行うことにするが、途中立ち寄ったキムの食料品店でアジア系の姉妹との激しい口論が勃発。腹の虫が治まらないエミリーたちは、悪戯半分で姉妹の家を荒らすことを計画する。しかし、それは取り返しのつかない理不尽でおぞましい犯罪の始まりだった…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 「赤信号、みんなで渡れば怖くない!いや、やっぱり、やらん方がよかった…」と言わんばかりに威勢と後悔が次々と移り変わっていく情緒不安定な作品。やる前の無敵感。やった後の狼狽。胸に秘めていたor声高々に口にしていた思想を共有することで思いが膨張し、本性が暴走したり、惨劇を呼び起こすのに時間を要しないことが観て分かる。その時間の不必要性を証明するために、本作をワンショットで撮影した意味がある。

 『ソフト/クワイエット』というタイトルが実に秀逸。本作では、主人公たちが白人至上主義を敷くには、声高々かつ過激に吠えるのではなく、まずはソフト(優しく、柔らかく)に声を出し、クワイエット(静か)に支持者を広めることを戦略にしている。だが、これは多文化および多様化の浸透させる手順を逆説的に語っていることになる。多文化や多様化を浸透させる場合も、まずは「マイノリティなアナタも、今後は社会的に認めますよー」と肯定してソフトに訴える。その後、多文化や多様化を名目に「マジョリティなアナタは、今後、マイノリティな方々を認めないダメだよー」と無言の圧力を強制力をクワイエットに強要させる。多文化と多様化の受容も最初は強引な訴えではなく、小さな声から始まっている。なので、結局は多文化や多様化を容認しようとも非難しようとも浸透方法は同じで「ソフト&クワイエット」の戦略をどちらにせよ辿るという意味合いで、タイトルが実に秀逸である。

 約90分のワンショットで感情が鬩ぎ合う様相を見せつけた俳優陣の演技には拍手喝采。現在地の建物から車に乗って別の建物へ、そして、また車に乗って別の建物へ移動しながら行われるシークエンスをわずか4回のリハーサルで完了させたとは思えない。1番目立ったのはレスリーを演じたリビアルッカルディ。惨劇が起きて誰もがワーキャー喚く中、2023年公開の『最後まで行く』の岡田准一さんや綾野剛さん以上に「起きてしまったら、最後まで行ってやる!」と言わんばかりに怒号を発しながら豹変する姿には気概があった。(彼女の取った行動の全てに肯定できないけど。)

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

波紋

(C)2022 映画「波紋」フィルムパートナーズ

公 開 日  :5月26日

ジャンル:ドラマ

監 督 :荻上直子

キャスト:筒井真理子光石研磯村勇斗江口のりこ柄本明木野花キムラ緑子

 

概要

 荻上直子さん監督および脚本を務め、自身が歴代最高の脚本と自負する絶望エンターテインメント。劇中に登場する一家「須藤家」を通して、現代社会の闇や不安と女性の苦悩を淡々とソリッドに描き出す。放射能、介護、新興宗教、障害者差別といった、誰もがどこかで見聞きしたことのある現代社会の問題に次々と翻弄されて地獄に遭う須藤家は社会の縮図を表現してる上、単なる絶望で終わらせない締め括りで荻上監督の新境地が見える。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 須藤依子は、”緑命会”という新興宗教を信仰し、日々祈りと勉強会に勤しみながら、ひとり穏やかに過ごしていた。だが、ある日、義父の介護を依子に押し付けたまま失踪した夫の修が突然、家に帰って来る。その理由は、自分がガンになり、その治療に必要な高額の費用を依子から援助してもらうためだった。加えて、進学を機に家を離れた息子の拓哉が彼女を連れて帰省し、結婚したいと申し出る。だが、その彼女は聴覚障害を患った者だった。さらには、パート先のスーパーでは癇癪持ちの客から大声で怒鳴られてばかりだった。依子は自分ではどうにも出来ない辛苦が降りかかる中、沸き起こる黒い感情を宗教にすがり、必死に理性で押さえつけようとするのだが…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 介護。放射線新興宗教。障害者差別。そして、問題を持ち込む夫と息子。あらゆる問題を結集した混合体をブラック・ユーモアに仕立てたダークなヒューマン・ドラマ。

 これだけ多くの問題をボーダーレスに繋いだ脚本が見事。家族映画は基本的に1家庭につき1問題といった様式だが、現実世界は違う。1家庭が2つや3つ、それ以上の数を抱えてることはザラにある。そういった意味で本作はリアル路線であり、映画の様式的には実験的。ただ、多くの問題を取り揃えて120分の尺にまとめた分、それぞれの問題を深掘りする事はなかった。介護と放射能はスルー気味。そういった点では諸刃の剣だった。とはいえ、1人の主婦があらゆる問題に揉まれるエンタメとして十分な面白さがある。

 夫婦を演じた筒井真理子さんと光石研さんの演技、そして演出が素晴らしい。まず、光石さん演じる失踪から帰還した夫の無頓着ぶりが光る。「家に居るの嫌になって失踪したけど、ガンになって治療費を工面して欲しいから帰ってきた。金くれや」と話す動機から他人に対する思いやりの無さが説明的に分かる。だが、食事の際のクチャクチャ音や自分で治療費を稼ぐ事はせずにグータラしてる姿勢で更に他人に対する配慮の無さを体現している。ちょっとした嫌悪感が孕む仕草を筒井さんの視線と共に捉え、筒井さんの胸中と同化される。筒井さん演じる主人公の妻からは世間や家族から複数の問題を抱え込まされ、それに対する疲弊・怒り・宗教への縋りが言葉なくとも表情と素振りでヒシヒシと伝わってくる。その変遷を経て、内側に溜め込んだ感情がラストでスパークしてる。

 登場人物たちがCGの水上にて口論する映像が逐一笑える。言葉を発する度にタイトルの通り波紋が広がり、ジョジョ顔負け(?)のビートを刻んでいる(?)。

 主人公がのめり込む新興宗教も笑える。劇中の出来事的に成金臭が強いし、皆で踊る謎のダンスは『ウォンカ』のウンパルンパ演じるヒュー・グラントにでも踊らせておけよと思えるぐらい笑える。

 何か事情がありそうなクレーマーを演じた柄本明さんに対する主人公の扱いには納得いかない。いくら事情を汲んだとしても、つけ上がらせる行為だけは許されない。一度許した途端に要求がエスカレートする。現実世界では絶対にやってはいけない。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

岸部露伴 ルーヴルへ行く

(C)2023「岸辺露伴 ルーヴルへ行く」製作委員会 (C)LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社

公 開 日  :5月26日

ジャンル:漫画実写化、ミステリー、ドラマ

監 督 :渡辺一貴

キャスト:高橋一生、飯豊まりえ、長尾謙杜、安藤政信、美波、木村文乃

 

概要

 シリーズ累計発行部数1億2千万部を誇る荒木飛呂彦先生の大人気コミック『ジョジョの奇妙な冒険』から生まれた傑作スピンオフ『岸部露伴は動かない』。2020年末に高橋一生さんを主演に迎えて実写化し、大きな反響を呼んだ。その制作チームがフランスと日本を股にかけ、劇場長編映画に挑んだのが本作。ルーヴル美術館を舞台に展開される岸部露伴最大の事件であり、最高潮の芸術とエンターテインメントが融合した極上サスペンスが誕生した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 特殊能力を持つ漫画家・岸部露伴は、青年時代に淡い想いを抱いた女性から、この世で「最も黒い絵」と称される一枚の絵の噂を聞く。時が経ち、新作執筆の過程で、その絵がルーブル美術館に所蔵されていることを知った露伴は取材とかつての慕情のためにフランスを訪れる。そして、露伴は「黒い絵」が引き起こす恐ろしい出来事に対峙することになる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 この世で最も邪悪で最も黒い絵なるものを深掘りしていく怪奇的なミステリー・ドラマ。

 非常に静かな作品。だが、ダークな劇伴が物音少ない世界観に色を付ける。特に、ピアノのメロディが耳に残る。劇伴の助力により、絵に秘められた物語を解き明かすシークエンスにグイグイと引き込む。

 だが、肝心の物語や演出は、原作からの脚色にイマイチ対応出来なかったことが見受けられる。シレッと何か起きて、その何かがフワッと終わることの繰り返しが目立つ。やはり、荒木飛呂彦先生の画力で見るからこそ面白いのでしょうか?

 主要キャスト陣は概ね満足。高橋一生さんはクールだけど内側にちょっと熱い心を灯したキャラが似合う。キャッキャしてる飯豊まりえさんとの漫才的な掛け合いも面白い。木村文乃さんは薄幸感が板に付いてる。残りは覚えてない。

 物語の見せ方は「う〜ん」だが、劇伴と主要キャストの好演が功を制した。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

雄獅少年 ライオン少年

(C)BEIJING SPLENDID CULTURE & ENTERTAINMENT CO.,LTD (C)Tiger Pictures Entertainment. All rights reserved.

公 開 日  :5月26日

ジャンル:アニメ

監 督 :ソン・ハイペン

キャスト:花江夏樹桜田ひより山口勝平落合福嗣山寺宏一甲斐田裕子

 

概要

 格差社会の底辺でもがく主人公の成長を厚く激しい獅子舞バトルを通して描いた中国発のCGアニメ。中国公開時に空前の大ヒットを飛ばし、2021年度公開作品の映画満足度ランキング第1位を獲得。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 片田舎で出稼ぎをしている父母の帰りを待つ貧しい少年チュン。彼は本国発祥の伝統芸・獅子舞バトルが好きだった。ある日、街で開催された獅子舞バトルにて、同じ名を持つ少女チュンから、獅子舞バトルに必要な獅子頭を譲り受ける。チュンは仲間のマオとワンと共に獅子舞バトルの全国大会を目指すことを決意する。元獅子舞バトルの選手だったチアンを口説き落として師匠に迎え、特訓の日々に励んでいたのだが…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 映像が超絶ハイクオリティ。次世代ゲーム機並み。登場人物は一目でアニメだと認識できる造形だが、それ以外はアニメの体裁を保ちながらも実写に近い。地形、建物、雨粒、散らばる品々、風に揺れる木々など全てにおいて現実世界のような質感がある。何よりも質感が伝わるのは登場人物たちが被る獅子舞の頭(かしら)。毛の生え方に至るまで本物に思える作り込みを感じる。遠目から見れば実写と見間違えるほどで、徹底したリアリティが注ぎ込まれている。かといって、登場人物が画から浮くことはない。絶妙なバランスで構成されている。中でも獅子舞を披露するシーンでは、実写のような映像とアニメならではのモーションが合わさり、アニメだからこそ表現できる本物感を見せてくれる。超常現象である。

 ストーリーは良く悪くも期待を裏切らないベッタベタのベタ。主人公たちが成長する根拠の見せ方は薄い。ギャグも古典的。だが、本作の映像美に注目することや、獅子舞は言葉ではなく体を使って表現するものであることから、変化球やロジックの太さは不要に思えた。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

aftesun アフターサン

(C)Turkish Riviera Run Club Limited, British Broadcasting Corporation, The British Film Institute & Tango 2022

公 開 日  :5月26日

ジャンル:ドラマ

監 督 :シャーロット・ウェルズ

キャスト:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ローソン=ホール 他

 

概要

 11歳の少女が父親とふたりきりで過ごした夏休みを、その20年後、父と同じ年齢になった彼女の視点で綴る本作。2022年カンヌ国際映画祭での上映を皮切りに話題を呼び、A24が北米配給権を獲得。多くのメディアがベスト・ムービーに挙げるなど、勢いはとどまらず、父親を演じたポール・メスカルがアカデミー賞にて主演男優賞のノミネートを果たす。監督・脚本は、瑞々しい感性で長編デビューを飾った、スコットランド出身の新星シャーロット・ウェルズ。

 多くを語らず、ミニマリスティックな演出で観る者に深い余韻をもたらす本作は、誰しもの心の片隅に存在する、大切な人との大切な記憶を揺り起こす。もし、あの頃、ひとりの人間として、内なる”あの人”を知ることができたなら…と本作を観た後に誰もが感じてしまう。

 クイーン&デヴィッド・ボウイの『アンダー・プレッシャー』、ブラーの『テンダー』等のヒットソングに彩られながら、まばゆさとヒリヒリとした痛みを焼きつける、いつまでも忘れ得ぬ一編がここに誕生した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 思春期真っ只中である11歳の少女・ソフィは、離れて暮らす若き父・カラムとトルコのひなびたリゾート地にやってきた。輝く太陽の下、カラムが入手したビデオカメラを互いに向け合い、親密な時間を共にする。20年後、カラムと同じ年齢になったソフィは、ローファイな映像の中に大好きだった父の、当時は知らなかった一面を見出してゆく…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 1人の女性が、幼き頃に父と一緒に過ごした20年前の夏休みを収めたビデオを見返し、改めて父の内面を探っていく回想録としては、圧巻の説明不足と情報不足。全編を通して、曖昧模糊。だが、それでいい。観終わった後、どんなに大切な人でも、実はその人のことを知らないまま見落していることに気づけば、本作を観る意味は十分に成している。そして、今いる大切な人達との関係を保つため、他人を知る事を始めればいいと思う。

 本作は説明的な台詞や演出が一切ない。洗練された画に映る父と娘を観て、観る者が能動的に情報を取得して構築するスタイル。かといって、小難しい作品ではない。最後まで観ても全容が見えてこない作品だが、印象に残る映像・演出で構成され、最後まで観る者の目を釘付けして心を揺らす映像体験となっている。青々とした水に満たされた綺麗なリゾート地。点滅するダンス・フロア。ヒットソングの挿入。大人の行為に憧れる娘の思春期。時折、態度がブルーになる父。兄と妹に見間違えられる父と娘。映像美、そして父と娘の人物像を成すヒントの欠片が置いてあり、不明確な話でも見せる力が十分に備わっている。 本作の物語は、女性がビデオを元に形成した記憶である。おそらく、何度もビデオを見返して定着させたことは想像に難くない。その結果、あの結末だから、観た者は重く受け止めることだろう。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計20個

 

THE KILLER 暗殺者

(C)2022 ASCENDIO Co., Ltd. all rights reserved

公 開 日  :5月26日

ジャンル:アクション

監 督 :チェ・ジェフン

キャスト:チャン・ヒョク、ブルース・カーン、イ・ソヨン、チェ・ギソプ、イ・スンジュン 他

 

概要

 10年以上にわたりボクシングやテコンドーを嗜んで肉体を作り上げ、近年はアクション俳優として目覚ましい活躍が続くチャン・ヒョクが自ら企画して主演を務めたアクション映画。伝説の殺し屋という、これまで積み重ねてきた実力を存分に発揮するチャン・ヒョクの集大成ともいえる史上最高のキャラクターが誕生し、スタントマンなしの様々なアクションを披露する。また、香港とハリウッドで活躍してきたベテラン俳優ブルース・カーンがチョン・ヒョク演じる殺し屋と敵対する犯罪組織のメンバーに扮し、最強のライバルとして迎え撃つ。

 監督を務めるのは『剣客』に続いてチョン・ヒャクと二度目のタッグを組むチェ・ジフン。原作である同名のWEB小説を独創的でスタイリッシュなアクション作品へと昇華させる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 引退した最強の暗殺者ウィガンは財テクで成功を収め、派手な生活を送っていた。そんな中、友人と旅行に行く妻から友人の娘である女子高生ユンジの面倒を見てほしいと頼まれる。短期間だけ保護者の役割だけいいと軽く考えていたウィガンだったが、ユンジが人身売春を企む犯罪組織の標的となってしまう。ユンジを守るべく、暗殺者としての本能が再び覚醒していく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 アクションの系統はキアヌ・リーブス主演の『ジョン・ウィック』シリーズ。「銃(ガン)+格闘技(カンフー)=ガンフー」をベースに、その他の物品を用いたりロケーションの地形を利用したりと主演のチャン・ヒョクが多彩なアクションを披露。『ジョン・ウィック』シリーズの中で本作のアクションに1番近いのは3作目。『ジョン・ウィック』シリーズよりもロケーションが狭いが故にカメラは近距離となり、敵1人1人の死に様を凝視できる。敵の99%が主人公よりも遥かに弱いため、戦闘の光景は無双アクション。チャン・ヒョクが余裕ある態度から敵を倒しまくり、爽快感を与えてくれる。攻撃を喰らった敵からは漏れなく血が噴き出し、現場は文字通り血祭りとなる。最終的に床は血で染まって死体で埋まり、主人公同様に倒しまくった高揚感が得られる。『ジョン・ウィック』シリーズと比較すれば、敵の数・ロケーションの広さ・アクション時間の長さはスケールダウンするが、95分の短尺で『ジョン・ウィック チャプター3』に近いアクションを堪能できる「コンパクト型ジョン・ウィック」と位置付けすれば存在意義はある。それでも私はジョン・ウィック』を選ぶけど(笑)あと、本作の主人公は例え敵が女や改心の余地がある若者相手でも容赦しない。全ての人間を平等にボコす(笑)

 物語としては、子供を持ったことない中年男性と実父を知らずに育った少女による擬似親子である。物語の導入時に妻の友達が「旅行に出かけるから、顔見知りでもないけど友達の夫に娘を預ける」と少し非常識な思考があったり、預けられた娘は娘で他人との距離感がバグっていたりとツッコミどころはあるが、最終的には剛腕な話運びでなんとか成立している。アクションがメインとなる作品だから物語にツッコミを入れるのが野暮かもしれんけどね。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

ぼくたちの哲学教室

(C)Soilsiú Films, Aisling Productions, Clin d'oeil films, Zadig Productions,MMXXI

公 開 日  :5月27日

ジャンル:ドキュメンタリー

監 督 :ナーサ・ニ・キアナン、デクラン・マッグラ

キャスト:ケビン・マカリービー、ジャン・マリー・リール 他

 

概要

 アイルランドで最も有名なドキュメンタリー作家であるナーサ・ニ・キアナンとデクラン・マッグラの2人が、北アイルランドベルファストに位置するホーリークロス男子小学校の哲学の授業を2年間カメラに収めたドキュメンタリー映画

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 北アイルランドベルファストにあるホーリークロス男子小学校。この学校では「哲学」が主要科目となっている。哲学の授業を指揮するのは校長先生のケヴィン・マカリービー氏。「どんな意見にも価値がある」と掲げるケヴィン校長の主義のもと、子供たちは異なる立場の意見に耳を傾けながら、自らの思考を整理し、言葉にしていく。かつての紛争の影響で、未だに宗教的および政治的対立の記憶・分断・暴力が残る街で、ケヴィン校長は哲学思考と対話による問題解決を探ることを子供たちへ教授していく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 誰もが今、観るべき映画の決定版と称しても大袈裟ではない作品。考えること。対話すること。自分の意見を出すこと。相手の意見を聞くこと。そんな当たり前のことが非暴力や子育てへ大きく接続する重要性を説いている。誰もが同じ考えを持つことがないからこそ、対話して、自分と相手の意見を出し合って、互いに歩み寄るという健全な思考を教授してくれる。

 背景にある北アイルランド紛争での宗教間の対立を人間関係の対立に当てはめ、対話を経て互いを知り合おうとしないからこそ暴力が生まれることを共通事項として映している。『イニシェリン島の精霊』でも国の内戦と人間関係の喧嘩は同様であると結び付けていたが、本作では前述の通り、どう変えるべきかという非暴力のアンサーを用意している。

 生徒たちが何かをやらかした時、先生たちが怒ることなく詰め寄ることなく、生徒から気持ちを聞き取り、今後どうすべきかを一緒に考える光景が素晴らしい。多くの場合、やらかした人を批評したり持論を語ったりするだけで終わってしまうところを、互いの意見が擦り合うまで丁寧に対処している。現代の人間関係に不足してることは、これじゃないでしょうか。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個