この記事は2024年9月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)
「2024年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。
各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍
- 公開日(日本の劇場で公開された日)
- ジャンル
- 監督
- キャスト
- 概要
- あらすじ
- 感想
加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。
- 脚本・ストーリー
- 演出・映像
- 登場人物・演技
- 設定・世界観
⭐は最大で5つです。
それでは、早速いきましょう💨
夏目アラタの結婚
公 開 日 :9月6日
ジャンル:サスペンス、ラブ・ロマンス
監 督 :堤幸彦
キャスト:柳楽優弥、黒島結菜、中川大志、丸山礼、佐藤二郎、市村正親 他
概要
漫画家・乃木坂太郎さんが執筆した同名漫画を『SPEC』などの名作を手掛けた堤幸彦さんを監督に迎えて実写映画化したサスペンス&ラブ・ロマンス。
あらすじ
連続バラバラ殺人遺棄事件を起こし、日本中を震撼させた死刑囚・品川真珠。逮捕時にピエロの化粧を施していたことから、彼女は”品川ピエロ”と呼ばれるようになった。事件から数年が経過していたが、品川が遺棄した死体の中で、未だに発見されていない被害者の部位があった。児童相談所に勤める夏目アラタは、亡くなった被害者の息子から「お父さんの首が見つかってないから、埋めた場所を知りたい」という相談を受け、品川が居る刑務所に向かう。面会室で出会った品川は、あどけない少女のようであり、とても3人の人間を殺害した人間には見えなかった。品川に好かれて首の在り処を教えてもらうため、夏目は品川に結婚を申し出る。品川は結婚を了承し、夏目は何度も面会を重ねていくが、その度に彼女の言動に翻弄されていた。やがて、何が真実だが分からなくなった挙句、品川は衝撃の事実を告白する。それは、「本当は誰も殺していない」と無罪を主張するものだった…。
感想
珍作。サスペンスという外皮を捲るとラブ・コメディが飛び出すトリッキーな作品。芸達者なキャスト陣の熱演。二次元的で突き抜け過ぎた演出。それら全てが剛腕な編集によって、スリリングあるサスペンスとしての怖さがありながらも、視聴者目線ではコミカルなコメディにも見えて笑えてくる。サスペンスとコメディが互いを打ち消し合うことなく、ある意味、相乗効果として面白さを届けている。これほどまでスリリングとコミカルが混合しながらも同時並行で面白さを届けている本作は、絶妙な珍作である。さらに、本作の監督は堤幸彦さんであり、客ウケがイマイチだった過去作にして本作の類似作品でもある『ファーストラヴ』のリベンジではないかと勝手に推測してる。
編集の腕前が剛腕。BGMやナレーションの導入などのあらゆる手法を用いて、サスペンスからラブコメ及びラブコメからサスペンスへと剛腕に舵取りをしている。舵の切り方が半ば強引だったとしてもサスペンスではサスペンスらしい楽しさ、ラブコメではラブコメらしい楽しさといった具合に各ジャンルにおける楽しさを提供している。
サスペンス映画として、スリリングなシーンは黒島さんによる怪演の影響でしっかり怖い。二転三転もする供述全てに真実味を帯びた演技を披露し、登場人物および視聴者を翻弄する。何をしでかすか分からない存在感そのものがスリル値を上昇させている。また、照明の加減を調整して映し出す黒島さんの表情は一枚絵として怖い。
だが、同時に本作はコミカルでもあり笑えてくる。と言うもの、ホラー映画において演出が突き抜け過ぎていると怖いを通り越して笑いになってしまう現象があり、本作も同様のルートを辿っている。まずは、演出。おそらく原作漫画においてインパクトがある絵は、そのままド派手に実写へと落とし込んでる。そのため、どんなに黒島さんが怖くとも突き抜け過ぎてギャグの領域に片足を突っ込んでいる。そのため、黒島さん演じる死刑囚が、ラブコメに登場するメンヘラ気質な道化キャラにも見える。(劇中でピエロと異名を付けられているが、本当の意味でピエロになっている(笑))次に、柳楽さん演じる主人公によるツッコミが笑える。黒島さんの嘘くさい供述に対し、心の中で「なわけねーだろ」と冷静かつスピーディに返しまくるのが1人漫才のツッコミのようである。さらに極め付けは、佐藤二郎さんが平常運転であること。そりゃあ、佐藤二郎さんが平常運転したら面白おじさんになるしかなく、本作も例外ではない。ストーリー展開や演出に関係なく、1人で勝手に喋らせるだけで笑いを生んでいる(笑)。原作漫画のような(?)突き抜けた演出と芸達者なキャスト陣の熱演が、サスペンス映画の内側でコメディを帯させている。このヘンテコなバランスは本作の世界観を破綻させておらず、逆に珍妙で面白い。
本作の監督は堤幸彦さんであり、客ウケがイマイチだった過去作にして本作の類似作品でもある『ファーストラヴ』のリベンジではないかと勝手に推測してる。近年の映画作品だと他にも『望み』などを手掛け、真面目なサスペンス路線だった。『ファーストラヴ』も『望み』も原作がサスペンス小説であり、映像化にあたっては真面目な路線を進むしかなかったと思う。それらのウケがイマイチだったため、原作が漫画である本作では、そのまま漫画っぽい表現で突っ切ってやろうと開き直りがあったのかと思われる。それ故、思い切りの良い珍作になった気がする。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐
星の総数 :計15個
公 開 日 :9月6日
ジャンル:SF、ホラー
監 督 :フェデ・アルバレス
キャスト:ケイリー・スピーニー、デビッド・ジョンソン、アーチー・ルノー、イザベラ・メルセド、スパイク・ファーン、エイリーン・ウー 他
概要
1979年に名匠リドリー・スコットが監督したSFホラーの傑作『エイリアン』のその後を描いた新たな作品。リドリー・スコットは制作に名を連ね、監督は『ドント・ブリーズ』で注目され自らもエイリアン・シリーズのファンだと称するフェデ・アルバレス。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
植民地で搾取されて人生の行き場を失っている6人の若者たち。新たな世界と生きる希望を求めて宇宙に飛び立ち、宇宙ステーション「ロムルス」を発見して乗り込む。だが、そこで彼らを待っていたのは、恐怖と名の絶望。寄生した人間の胸を突き破り、異常な速さで進化する未知の生命体・エイリアンだった。しかも、エイリアンの血液は全ての物質を溶かすほど酸性のため、攻撃は不能。宇宙最強にして最恐の生命体から、彼らは逃げ切れるのか?
※公式サイトより引用および抜粋
感想
初期2作にある面白さを多量にオマージュして『エイリアン』という作品は何たるかを今一度示し、本作の監督を務めたフェデ・アルバレスの過去作『ドント・ブリーズ』のような静と動の切り替えを駆使した新たなホラー演出を加えて、新旧の合わせ技としてエンタメが完備されている。物語については、悪しき大人たちが作り上げた世界の下で搾取される若者および来たるべきAI社会の過渡期といった我々が生きる現代社会で起きることを彷彿させ、2020年代で描くに相応しい。過去作の面白さに、新たなホラー演出と2020年代の社会風刺を取り入れ、古くも新しい良作となっている。
宇宙船にて未知の生命体に襲撃されるストーリーは1作目を彷彿させ、銃器を用いたエイリアンとのバトルは2作目を彷彿させる。物語が終わりそうになってもエイリアンが牙を剥いてくるのは1作目および2作目の両方を彷彿させる。初期2作のオマージュを多量に導入した本作は、エイリアン・シリーズ未見者並びに映画へあまり触れない人々へ向け、現代技術を用いてエイリアンという作品は何たるかを改めて伝えようとしている。
さらに、静と動の切り替えを駆使したホラー演出は、本作の監督を務めたフェデ・アルバレスの大ヒット作『ドント・ブリーズ』を彷彿させ、アルバレス独自のテイストが加えられている。加えて、大人たちが作り上げてしまった世界で搾取される若者という設定も『ドント・ブリーズ』を彷彿させる。大人たちの支配から逃れるために浮き足立たざるを得なかった若者たちを悲劇に遭わせることで、大人たちへ向けて後世に残すべき平和な社会構築を促しているように思える。昨今、悪しき大人たちが作り上げた世界から脱出を試みたら、別の悪道へ踏み入れてしまう若者たちも存在していることから、植民地を脱出しようとした若者が攻撃的な生命体に襲撃される様は現代的な構図といえる。
また、アンドロイドの描写も現代的である。人間がアンドロイドを"使うこと"及び立場が逆転してアンドロイドから"使われること"を描いており、来たるべきAI社会の過渡期を映している。
総論すると、初期2作の鉄板的な面白さを多量に盛り込みながら、大人から搾取される若者や人間と アンドロイドの構図は2020年代で描くに相応しく、古くも新しい作品となっている。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計16個
公 開 日 :9月6日
ジャンル:ドラマ
監 督 :山中瑶子
キャスト:河合優美、金子大地、寛一郎、唐田えりか 他
概要
わずか19歳という若さで撮影および初監督した『あみこ』でPFFアワードで観客賞を受賞し、第68回ベルリン国際映画祭のフォーラム部門に史上最年少で招待された山中瑶子さんの本格的な長編作品。主演は『あみこ』を鑑賞して衝撃を受け、山中さんに熱烈なアプローチを行った河合優美さんが務める。
本作はカンヌ国際映画祭にて「若き才能が爆発した傑作」と絶賛され、女性監督として史上最年少となる国際映画批評家連盟賞を受賞する快挙を成し遂げた。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
世の中も人生もつまらないと感じ、やり場のない感情を抱いたまま毎日を生きている、21歳のカナ。カナは、優しいけど退屈なホンダという男性と恋人関係になっていた。だが、自信家で刺激的なハヤシに乗り換えて新しい生活を始める。しかし、逆にカナは追い詰められていく。もがき、ぶつかり、彼女は自分の居場所を見つけることが出来るのだろうか…。
※公式サイトより引用および抜粋
感想
2020年代を生きる21歳女性の生活を描いたヒューマン・ドラマであり、現代を生きる若者に照射した作品。現代の若者は昭和世代と平成世代という2つの異なる世代から、それぞれの異なる主義・主張および価値観を浴びせられていると思う。結婚や出産を人生のゴールとしてきた昭和世代は恋愛を推進してくるし、個の時代が到来することに勘づいた平成世代は「何者かにならないとダメだよ」と結果を求めてくる。そんな二世代の主義・主張および価値観を、デジタル・ネイティブ世代ゆえに次々と摂取してしまい、何を信念に置いたら分からなくなった挙句にグチャグチャしたものを抱え込み、相反する感情が入り乱れているのが現代の若者に多い。本作は、そのような背景がある若者の成れの果てではないかと勝手ながら思ったところである。
そんな私の妄想はさておき、本作1番のキモは主人公を務めた河合優美さんの演技力。複雑極まりない感情を宿した現代の若者像を200%体現していた。名演。だが、本作は演出が平坦な点がネック。河合さんにオンブしてるようであり、河合さんの動きが少ないシーンは退屈を覚える。(特にキャンプのシーン)。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計17個
レベル・リッジ
公 開 日 :9月6日
ジャンル:スリラー
監 督 :ジェレミー・ソルニエ
キャスト:アーロン・ピエール、ドン・ジョンソン、アナソフィア・ロブ 他
概要
『ブルー・リベンジ』や『グリーンルーム』を手掛けたジェレミー・ソルニエが監督および脚本を手掛けたスリラー映画。9月6日よりNETFLIXにて配信開始。
あらすじ
従弟の保釈金を支払うため、田舎町シェルビー・スプリングスを訪れたテリー。だが、自転車に乗って保釈金の申請先である裁判所に向かう途中、警察官が運転するパトカーが故意にテリーの自転車へ衝突。さらには、難癖をつけられて取り調べが始まり、さらなる難癖で従弟の保釈金が押収されてしまう。裁判所で出会った職員サマーと一緒に従弟の保釈を試みるテリーだったが、シェルビー・スプリングスの町内は汚職まみれの警察組織によって腐敗しており、次第に巨大な闇の中に呑み込まれていくのだった。
感想
極限の緊張状態が持続する良作スリラー。不意打ちで登場しては牙を剥く汚職警察官。何か打開策を練ろうとしても既に汚職警察の手が回っている恐怖。何処へ行っても何かやろうとしても汚職警察の息がかかっており、何度も何度も緊張の糸を張りまくる。糸の張りを重ねていくうちに、目に映るもの全てに警察の影を感じるようになり、主人公と一緒に暗黒の世界を肌身で感じる体験が出来る。また、随所に導入されるBGMの音色が素晴らしい。弦の鳴る音が緊張の糸を張らせる。物語、演出、BGMといった要素が緊張感を醸成してスリリングな仕上がりになっている。
本作は、コーマック・マッカーシーが手掛けた『ノーカントリー』や『悪の法則』の世界観に近いものがある。普通の日常を送っていた主人公が金銭関係でシレッと暗黒の世界へ接続する物語の切り口は似ている。本作における「実は主人公は元◯◯だった」という能力設定も『ノーカントリー』のジョシュ・ブローリンと同じであり、物語を展開させる役割を担っている。敵との駆け引き時、ケレン味を控えてリアルな演出をすることで緊張の糸を張り続ける雰囲気も同様。(ただ、本作はBGMも緊張感ある雰囲気づくりに貢献している。)
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計18個
公 開 日 :9月11日
ジャンル:ドラマ
監 督 :ジョアン・バイネル
キャスト:マリア・ボマーニ 他
概要
ブラジル最大の貧困街ロシーニャを舞台にしたクライム・ドラマ。ロシーニャに生まれて現在も住み続けているラケル・デ・オリベイラの原作本を基に制作された。9月11日よりNETFLIXにて配信開始。
あらすじ
ブラジルの悪名高い貧困街ロシーニャに生まれ、ギャングに所属しているレベッカ。他のギャングとの危険な対立、仲間の裏切りといった波乱の中で彼女は大いなる権力を手に入れようと試みるが…。
感想
事実を基にした原作本があるらしく、事実を基にした故なのか全編がドキュメンタリー風な撮影になっている。登場人物たちを超至近距離で捉えて記録映像のようになっており、薬物や犯罪と隣り合わせでしか生きられないロシーニャの人々の実態が生々しく伝わる。ただ、全編に渡って至近距離なのは見づらく、人によっては食傷になる。登場人物の顔も近すぎて、なかなか顔を覚えられない。また、抗争シーンで流れるポップなBGMが一見すると本作の作風ではミスマッチに聴こえるけど、闘うことでしか希望を見出せないギャングたちの心情に照らせば良い塩梅なのかもしれない。個人的にはBGMを無しにした方が生々しさを出せて良いと思うけどね。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐
星の総数 :計12個
公 開 日 :9月13日
ジャンル:コメディ
監 督 :三谷幸喜
キャスト:長澤まさみ、西島秀俊、松阪桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、宮澤エマ 他
概要
三谷幸喜さんが『記憶にございません!』以来5年ぶりに監督および脚本を手掛けたコメディ作品。
あらすじ
著名の詩人・寒川しずおの妻・スオミが先日から行方不明になった。知らせを聞いた刑事・草野は、後輩の小磯と共に寒川の屋敷へ訪れる。実は、この草野は寒川のスオミと結婚していた元夫だった。草野は、すぐに正式な捜査を開始すべきだと主張するが、大ごとにしたくない寒川は首を縦に振らない。その後、スオミの過去を知る元夫たちが続々と屋敷に集まって来る。誰が一番スオミを愛していたのか。誰が一番スオミに愛されていたのか。スオミの安否そっちのけで、男たちは語り合う。だが不思議なことに、彼らの思い出の中のスオミは、見た目も性格も別人だった…。果たして、スオミは何処へ消えたのか?そして、スオミとは一体、何者なのか?
感想
三谷監督のコメディ作品は調子の好不調が激しい監督であり、本作は不調な作品。とにかくギャグの打率が低い。ギャグを放つ前フリが上手く作られてなかったり、物語の流れに乗らず強引にギャグを放ったりしており、観てる側からすればギャグの軌道に乗ることが困難。企画や脚本執筆の段階で閃いた思いつきをそのまま練り込まずに放出してしまった感がある。個人的に、予告編で映されているセスナのシーンだけは、前フリを活かす及び物語の流れに乗ることが出来ており、多少の笑いはあった。
長澤まさみさんの"演技力だけ"は観ていて素晴らしいものを感じる。「5人の男性と結婚し、その5人に見せた性格がそれぞれ全く違う」という設定に負けないレベルで演技を使い分けている。まさに七変化。だが、性格の使い分けが作品の物語や面白さに直結してるかというと、そうでもない。特に驚きの真実もなければ深掘りもない。なので、長澤まさみさんという名の宝の持ち腐れ。故に、長澤まさみさんの"演技力だけ"が素晴らしい。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐
星の総数 :計11個
ぼくのお日さま
公 開 日 :9月13日
ジャンル:ドラマ
監 督 :奥山大史
キャスト:越山敬達、中西希亜良、若葉竜也、山田真歩、潤浩、池松壮亮 他
概要
デビュー作『僕はイエス様が嫌い』でサンセバスチャン国際映画祭の最優秀新人監督賞を受賞した奥山大史さんの2作目となる監督作。ハンバートハンバートの楽曲『ぼくのお日さま』を基に、吃音を持つ少年、フィギュアスケートに勤しむ少女、少女のコーチを務める青年の人間関係を描いたヒューマン・ドラマ。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
雪が積もる田舎町に暮らす、吃音持ちの小学6年生のタクヤ。タクヤが通う学校の男子は、夏は野球、冬はアイスホッケーの練習に取り組んでいた。ある日、タクヤはアイスホッケーを練習する施設の中で、フィギュアスケートの練習をする少女・さくらと出会う。氷上を滑るさくらの姿に、タクヤは目と心が奪われてしまった。その日以降、タクヤはアイスホッケーの靴でフィギュアスケートの真似事をするようになった。その様子を見ていた、さくらのコーチ・荒川はタクヤにスケート靴を貸し、本格的にフィギュアスケートを学ぶよう勧誘する。
※公式サイトより引用および抜粋
感想
あまりにも映像が美しい。フィルム風でレトロな映像が、最先端のキレイなデジタル映像では出せない色や輪郭を引き出し、心が奪われるほど鮮明な映像を作り上げている。風光明媚な白銀の世界。アンティークな香りが漂ってきそうな部屋。光の輝きと透明感が入り混じったスケートリンク。屋内外問わず、万物がレトロな色調で彩られて見惚れる。そして、見惚れた分だけ主要人物である3人を巡るドラマに没入できるようになっており、本作の美しい映像には多大なる引力が働いている。本作のストーリーは語りが最小限であるが故に余白が多いため、その余白を噛み砕かせるための引力として美しい映像が大いに機能している。まさに妙技。
ただ、終盤を迎えると悪い意味で物語に色が付く。というのも、主要人物が持つ病気やセクシュアリティの部分が若干ながら劇的に扱われ、絶妙な余白を保っていた序盤および中盤と比べて噛み砕く楽しみが大きく後退する。また、障害とセクシュアリティによる劇的な展開の先に辿り着くラストについても、今後の類似作品と比べれば結びとして弱い。というか、一昔前の作品を見てるかのよう。ステレオタイプに近く、2020年代に見る意義が感じられない。本作の主要人物たちが到達したアンサーよりも優れたアンサーを提示する類似作品なら他にあるし、これからも登場すると思う。本作は障害とセクシュアリティに凄くスポットライトを当てたわけではないが、終盤から劇的になった以上、そんな印象が残る。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計16個
アグリーズ
公 開 日 :9月13日
ジャンル:SF
監 督 :マックG
キャスト:ジョーイ・キング、チェイス・ストークス、キース・パワーズ、ブリアンヌ・チュー、ラバーン・コックス 他
概要
9月13日にNETFLIX限定で配信されたSFアドベンチャー映画。
あらすじ
美しさが絶対となった遠い未来の世界。15歳以下の子供たちは施設の管理下に置かれ、誰もが16歳になると顔を整形して大人の世界へ巣立つという体制が敷かれていた。16歳の誕生日を目前に控えたタリーは理想の顔を手にすることを楽しみにしていた。そんな時に、同じ施設で生活するシェイという少女と出会う。シェイは美しさこそが絶対である世界に疑惑を抱いていた。やがてタリーも、この世界でどう生きるかを考え直し始める。
感想
遠い未来を舞台にしたSF作品らしく、文明が発達した街並みが美しい。空飛ぶスケボーが、縦横無尽に高速で駆け巡るアクションには疾走感と躍動感がある。(ただし、川の上を飛ぶ光景は合成感が半端ない(笑))また、スケボーの走行音が良い音を出している。このビジュアルと音響を劇場で浴びれないのは勿体無いと思いきや、物語が進行するほど「配信だけで十分だったな」という評価に落ち着く。なぜなら、せっかくのSF的なデザインと音響が物語に全く活かされてないからである。というのも、ルッキズムなシステムに隠された陰謀や、ディストピアな世界で何が起きているのかといった物語のキモがセリフによる説明で済まされている。SF的なビジュアルを大いに披露した手前、世界の秘密を伝聞ばかりで説明されてもインパクトがない。加えて、1ミリも真実味がない。そのくせ、主人公は全ての伝聞を疑うことなく鵜呑みにしている。そして、勝手に葛藤している。視聴者から見て信憑性がない真実に基づいて葛藤されたところで、主人公の気持ちは理解しづらい。結局、伝聞の内容が全て真実であるため、SF的なビジュアルを整備する必要がない。遠い未来ではなく、近未来または少し進んだ現代レベルのビジュアルにすべきだった。SF映画における物語の進行は、映像で語らなければ意味がないことを知れた面では勉強になった気がする。
主人公が生活する施設のシステムがザル過ぎる。主人公および施設に居住している者たちの人力でセキュリティが破られている。施設管理者が「世界を良い方向へ傾かせる」という目的を語るけど、これほど杜撰なセキュリティでは説得力がない。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐
星の総数 :計9個
武道実務官
公 開 日 :9月13日
ジャンル:アクション、サスペンス
監 督 :キム・ジュファン
キャスト:キム・ウビン、キム・ソンギュン 他
概要
9月13日にNETFLIX限定で配信されたクライム・アクション・サスペンス。
あらすじ
父親が経営するチキン屋の配達をしながら過ごす青年イ・ジョンド。配達以外では柔道・剣道・合気道を極め、3人の仲間たちと共にeスポーツに勤しんでいた。
ある日、ジョンドは道端で2人の男が取っ組み合いをしている光景を目撃する。2人の1人は前科者で、もう1人は前科者を管理する保護観察官を護衛する職業こと武道実務官の人間だった。ジョンドは武道実務官の代わりに前科者を成敗する。その強さを見込んだ保護観察官のキム・ソンミンは、ジョンドに武道実務官を勧める。ひとまず、臨時で雇われたジョンドはキムと一緒に数々の前科者たちを対処していく。しかし、超凶悪な性犯罪者が刑期を終えて出所し、街に魔の手が忍び寄っていた。
感想
アクション、サスペンス、クライム、お仕事といった数多のジャンルが詰まっており、毎分毎秒が面白いタイプの作品。次から次へと前科者による事件が発生して主人公たちの活躍を提供しまくる。休み知らず。きっと、実際の武道実務官の方々も主人公たちと同様に休む間もないのだろう。また、敵(前科者)がステージ制ゲームのように段々と強くなってスリル値が右肩上がりするという娯楽的な盛り上がりを完備している。
主人公の能力設定が功を奏している。戦闘スキルが高いことに加えて頭脳明晰であるが故、主人公によるバリエーション豊かな活躍を大いに提供している。また、そういった活躍を見せられる主人公の能力に説得力がある。というのも、開幕で主人公が武道の達人兼eスポーツ・プレイヤーであることを数10分でまとめ上げ、主人公の背景を網羅したことに起因する。しかも、主人公役のキム・ウビンが柔道、剣道、合気道、ゲームといった全てを練度高めに体現しているため説得力が大きい。
本作は、韓国における犯罪の内情を知れる作品でもある。タイトルの通り、武道実務官という職業のことを知れるし、前科者の足首にGPSが搭載された電子足輪が装着されることを知れて、ちょっとだけ詳しくなれる。何より恐ろしいのは、韓国では性犯罪者に下される刑罰が軽いこと。そのため、何度も何度も再犯を繰り返し、罪もない人々が怯えて暮らす現状が伝わる。その現状から人々を守る為に武道実務官という職業があり、その存在意義を本作で示している。また、劇中にて武道実務官の人手不足も描かれており、武道実務官の地位向上を掲げたお仕事映画としても見て取れる。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐
星の総数 :計15個
ぼくが生きてる、ふたつの世界
公 開 日 :9月20日
ジャンル:ドラマ
監 督 :呉美保
キャスト:吉沢亮、忍足亜希子、ユースケ・サンタマリア、烏丸せつこ、でんでん 他
概要
耳がきこえない両親のもとで育った作家・五十嵐大さんの自伝的エッセイを基に実写映画化したヒューマン・ドラマ。監督を務めるのは『そこにのみ光輝く』や『きみはいい子』を手掛けた呉美保さん。五十嵐大さんを演じるのは吉沢亮さん。母・明子役を務めるのは、ろう者俳優として知られる忍足亜希子さん。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
宮城県の小さな港町に暮らす五十嵐大。大の両親は共に耳がきこえず、幼い頃から手話や通訳をすることが当たり前の生活だった。しかし次第に周囲から特別視されることに戸惑いや苛立ちを覚え、大好きだった両親を疎ましく思ってしまう。心を持て余したまま20歳になり、逃げるように東京へ旅立つ大だったが…。
※公式サイトより引用および抜粋
感想
耳がきこえない人への特別視。コーダであるが故に注がれる周囲からの特別視。そのように感じたり受信したりすることで無意識的に生じてしまう特別視を払拭する作品。劇中で主人公の父親が「どこの家族にも悩みがあり、我が家の悩みは父親と母親の耳がきこえなかっただけの話だ」と語っている通り、本作では耳がきこえないという題材をギミックにせず、親子の物語を淡々と自然に映し続けることで、特別扱いされてしまう人々および題材を普遍的なものに変換している。最初に提示した題材を段々と普遍性に浸透させ、最終的には題材自体が雲散霧消し、一家族の物語として感動できるところが本作のストロング・ポイントである。ただ、淡々と描いたが故に、反抗期気味な主人公と母親の心的距離がイマイチ掴みづらいのが難点。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計17個
あの人が消えた
公 開 日 :9月20日
ジャンル:?
監 督 :水野格
キャスト:高橋文哉、北香那、坂井真紀、袴田吉彦、中村倫也、染谷将太、菊地凛子、田中圭 他
概要
2023年に放送され、社会現象化した人気ドラマ『ブラッシュアップライフ』で国内外の名だたる賞を総なめした最注目クリエイター・水野格さんが、完全オリジナル脚本で挑んだ劇場長編作品。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
※あらすじを読まずに鑑賞した方が楽しめるので記載しない。
感想
本作の存在を知ったら、とりあえず観ましょう。何も調べずに観た方が絶対的に面白いので。
ジャンル横断映画ではあるのだが、「序盤は◯◯だけど、中盤からは◇◇になる」と移行するのではなく、序盤から終盤まで複数のジャンルが瞬時かつ不意打ちに切り替わり続ける。「◯◯だけど◇◇に変わり、◇◇で続くのかと思いきや今度は★★になる。そしたら、また◯◯に戻り、またしても◇◇になるかと思いきや★★になる」と次々に球種を変えてくる。野球のピッチャーだったら名投手。これを瞬時かつ不意打ちに切り替えるものだから、切り替え時の ジャンルに心を一気に掴まれ、そのジャンルに対する感情が瞬く間にピークへ達する。本作を観る者は、作品という名の掌で転がせられ、良い意味で感情を弄ばれる。とはいえ、鑑賞後の興奮が冷めた後はストーリーに対して細かいツッコミを入れたい気持ちが出てくる(笑)でも、鑑賞中に視聴者の心を掴み続ければ、作品の勝利であろう。
洋画好きならニヤニヤ出来るネタもある。とある洋画を知っていたら、"衝撃"的なシーンが"笑撃"に変わる。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計17個
ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
公 開 日 :9月27日
ジャンル:アクション
監 督 :阪本裕吾
キャスト:髙石あかり、伊澤彩織、水石亜飛夢、中井友望、かいばしら、大谷主水、前田敦子、池松壮亮 他
概要
超低予算映画でありながら、日本映画界に”殺し屋”ジャンルを確立させ、ガールズアクションに革新をもたらした奇跡の傑作『ベイビーわるきゅーれ』。脱力系殺し屋コンビのちさととまひろは、続く第2弾『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』で殺し屋業界にその名を轟かし、そして第3弾となる本作では”史上最強の敵”と激突する。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
殺し屋協会に所属するプロの殺し屋コンビ、杉本ちさとと深川まひろが宮崎県に出張。到着早々ミッションをこなし、バカンス気分を満喫していたが、ちさとはとあることに気づく。今日は相棒まひろの誕生日、しかしこの後は次の殺しの予定が入っていてプレゼントを用意する暇もない!内心の焦りを隠しつつ、ターゲットがいる宮崎県庁に向かう。チンピラを1人消すだけの簡単な仕事のはずが、指定された場所に居たのはターゲットに銃を向けてる謎の男。この男の正体は一匹狼の殺し屋、冬村かえで。150人殺しの達成を目指す”史上最強の敵”が、ちさととまひろを絶体絶命のピンチに追い詰めるのだった…。
※公式サイトより引用および抜粋
感想
シリーズの中で最も豪勢な作品。低予算映画からアクション大作へ位置付けられるほどに大進化したアクション。2作目の友情劇から続く、シリーズ随一のシチュエーションで描かれる主人公2人による友情。シリーズ随一に主人公2人と戦う理由を備えた最高のメイン・ヴィラン。1作目および2作目から繰り返し提供していたアクション、友情劇、強敵との戦いのどれもがグレードアップされたシリーズ最高傑作。
アクションが大進化した。2作目を観た時も1作目より格段にパワーアップしたけど、第3作となる本作は更にパワーアップ。2作目では神村兄弟とのラストバトルが『ジョン・ウィック』のガン・フーを彷彿とさせるスタイリッシュかつダイナミックなアクションが最高潮だったが、本作では序盤のアクションから2作目のラストバトルを超えてくる。その後も質量ともに落ちることなく、むしろ研磨されていく。「ベイビーわるきゅーれ=低予算のアクション映画」という位置付けだったけど、本作は「アクション大作」として君臨する。
アクションがパワーアップした理由として3つある。
1つ目はロケーション。過去作と比べ、本作は上下左右・奥行きのあるロケーションとなった。それに伴い、俳優陣が動ける範囲・ワンカットおよびワンシーンで登場させられる敵の数・2作目にもあった立地や設置物を活かしたアクションが増大し、アクションが質量ともに上昇した。
2つ目はカメラワーク。2作目では、ある程度離れた位置から俳優陣をカメラで捉え、滑らかなカメラワークで動き回る俳優陣を横スクロール気味に捉えていた。だが、本作のカメラワークは1作目のラストバトルや、阪元監督の過去作『ある用務員』に近い。俳優陣を捉えるのではなく、追いかけるスタンス。前後上下左右に動き回る俳優陣を追いかけ、さらには前述の通りロケーションの広さもあって画面外へ出ようとする俳優陣も追いかける。それをベストなアングルとキレキレなムーブで追いかけており、アクションがスタイリッシュかつダイナミックに見えるよう撮っていた。
3つ目は、1つ目でも触れたけど敵の増量。数えるまでもなく過去作よりキル数が増え、その分、アクションのレパートリーを楽しむことが出来る。(アクション監督を務めた園村健介さんの引き出しの多さに度肝を抜かれる。)また、主人公たちが戦う敵が殺し屋オンリーとなり、戦闘のプロ集団を無双することで改めて主人公2人の戦闘力の高さが証明された。同時に、その2人と対等かそれ以上の戦闘力がある強敵・冬村(池松壮亮さん演じる人物)の強さにも説得力が乗る。(とはいえ、池松さんのアクションとオーラで十分に強敵として認知できる。)
他の点でアクションを評価するなら、銃がちゃんと弾切れしていること。アクション映画の乱戦ではリロードを省略することがあるけど、本作は装填段数にちゃんと向き合っている。リロード大喜利というかスライドの引き方大喜利を披露しており、そのどれもがスタイリッシュ。細部までエンタメを追求している。
主人公2人による友情の描き方がシリーズ随一。1作目および2作目でも2人の友情が描かれており、両作とも殺し屋稼業以外の仕事で描かれ、喧嘩して仲直りする2人を見てホッコリしていた。加えて2作目では、ラストバトルで共に死線を潜り、まひろからちさとへ友情のギフトがあった。本作は、そのアップグレードであり、逆バージョン。まひろをボコボコにした冬村を圧倒的な強者にしたことで、死線を共に潜ることに対して更なる友情の真価が問われる構造になっている。加えて、2作目とは違って、ちさとからまひろへ友情のギフトがあった。おそらく、当初は2作目と3作目をカップリング的に同時公開する予定だったことによる名残かと思われる。それ故、2作目も3作目も戦う相手に実力者が設定され、2作目ではまひろから、3作目ではちさとから友情ギフトがあったのであろう。
1作目と2作目以上に、本作のメイン・ヴィランには主人公2人(特に、まひろ)と戦う理由がある。なぜなら、本作のメイン・ディランである冬村は、まひろの成れの果てだった可能性があるからである。というのも、まひろと冬村は大きな共通項が2つある。1つ目は腕利きの殺し屋であること。2つ目は社会的コミュニケーションが苦手であること。同じ能力と同じ性格を持っているが、2人が辿り着いた人生は対極である。まひろは壁にぶつかりながらも満たされた生活をしているが、冬村は壁にぶつかりながらフラストレーションを溜め込んだ生活になっている。なぜなら、冬村は孤独だったことに対し、まひろには、ちさとという友人が存在してたからである。友人の有無が、まひろと冬村の行く末を左右している。つまり、冬村は、ちさとが居なかった場合のまひろでもある。それ故、まひろにとって冬村とは、ちさとの存在を改めて知らせる役割を担っている。そのため、まひろと冬村が戦う理由は大きい。冬村の存在が主人公2人の友情劇に多大な影響を与えている。まひろ演じる伊澤さん&ちさと演じる高石さん自身も「自分たちは2人で1つ」と述べている以上、互いに互いを主張できる敵として冬村の設定は相応しかった。
作品の主体となる要素以外のことで言及しておくと、阪元監督作あるある「現代の若者(Z世代)による主張」が言いっぱなしで終わることがなくなった。阪元監督の『ベイビーわるきゅーれ』および『最強殺し屋伝説国岡』では、伊澤さん演じるまひろと伊能さん演じる国岡のセリフから、上の世代が常識として決め付けた価値観への反発が漏れていた。だが、本作は言いっぱなしで終わることなく、前田敦子さん演じる入鹿(主人公たちより一回り以上ほど上の世代の人物)を通して、上の世代との結び付きがあった。他人から勝手にレッテルを貼られた者たちによる団結があり、現実世界でもこうやって誰もが手を取り合っていければと思う。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計18個
公 開 日 :9月27日
ジャンル:スリラー
監 督 :黒沢清
キャスト:菅田将暉、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、赤堀秀秋、吉岡睦雄、三河悠冴、荒川良々、窪田正孝 他
概要
『スパイの妻』で第77回ベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞した黒沢清監督が、日本映画界を牽引する若手俳優・菅田将暉さんとタッグを組んだスリラー映画。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
世間から忌み嫌われる”転売ヤー”として真面目に働く主人公・吉井。彼が知らず知らずのうちにバラまいた憎悪の粒はネット社会の闇を吸って成長し、どす黒い”集団狂気”へとエスカレートしてゆく。誹謗中傷、フェイクニュース、悪意のスパイラルによって拡がった憎悪は、実体をもった不特定多数の集団へと姿を変え、暴走を始める。やがて彼等が始めた”狩りゲーム”の標的となった吉井の「日常」は、急速に破壊されていく。
※公式サイトより引用および抜粋
感想
まず、スリラー映画として最高に面白い。光量の加減でホラー的な不穏感を生み出す画づくり。どう転ぶか読めないストーリーというか、どう転ぶか読めない登場人物たちの曲者ぶり。そんな2つの要素から、菅田将暉さん演じる主人公こと転売屋の何気ない日常が地獄めいた非日常へとシフトしていくのが最高にスリリングで面白い。主人公の行き着く先を前のめりになりながら追いかけるエンタメ。ただ、パケ写にある通り、菅田将暉さんが拳銃を握ってからの展開(というよりもジャンルの混入)は賛否両論がある。(個人的には後述の通り賛。)
また、本作は面白いスリラー映画の域だけに留まらない。主人公の転売屋という職業(自称だけど)から現代における過激なネット社会の現況へと手を伸ばし、現代のネット民たちが創出する終わりなき地獄を劇中の登場人物たちで描いている。というのも、劇中の主要人物たちが、現代のネット社会において不幸を生む者たちばかりである。苦労せず幸せになろうとする者。故意に他者を不幸へ引き摺り込む者。他者の幸福をズルいと思ってる者。危ない橋を危なくないと勘違いしてる者。本作では、そんな者たちが集結して戦争を勃発させ、ネットの世界に浸かり過ぎて過激になってしまった者たちの末路を通して、ネットの利用が無間地獄の入り口とならぬよう警鐘してるように思える。過激なネット社会が構築された挙句、他者へ対して異様に厳しくて攻撃的になった現代において、本作が2024年に誕生したことは凄く意義がある。
本作の銃撃戦は現代の映像作品と比較すればショボい。だが、本作で銃撃戦に身を投じる人物たちは、ネット空間の相手に対して悪質な行為に及ぶという人生における下手な立回りを行って下手な銃弾を撃ち続けている人間性を持っているため、ショボい銃撃戦の方が彼等に似合っている。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
憐みの3章
公 開 日 :9月27日
ジャンル:サスペンス、コメディ
監 督 :ヨルゴス・ランティモス
キャスト:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・ディフォー、ホン・チャウ、マーガレット・クアリー、ママドゥ・アティエ、ジョー・アルウィン、ハンター・シェイファー 他
概要
世界を見たい件の興奮と感動に導いた、アカデミー賞4部門受賞作『哀れなるものたち』の監督・キャスト・スタッフが再集結。
選択肢を取り上げられた中で自分の人生を取り戻そうと格闘する男、海難事故から帰還するも別人のようになった妻を恐れる警官、奇跡的な能力を持つ特別人物を懸命に探すカルト教団の女という3つの奇想天外な物語からなる、映画の可能性を更に押し広げるダークかつスタイリッシュでユーモラスな未だかつてない映像体験を贈る作品。
2020年カンヌ国際映画祭にてジェシー・プレモンスが男優賞を受賞した。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
概要に同じ。
感想
危ない会社に所属し、危ない上司から危ない指令を受ける男。久しぶりに再会した妻を別人だと疑い、危うさに呑み込まれる夫。危ないカルト教団に所属し、教団の意のまま人探しをする女。第三者から見れば明らかに危ないことへ首を突っ込んでいるのに、それでも離れることなく、しがみついてしまう者たちを3本の中編で描いたサスペンス&ブラック・コメディ。『哀れなる者たち』の記憶が新しいうちにヨルゴス・ランティモスが世に放った監督作であり、やはりヨルゴスは人間の哀しさや愚かしさを伝えたいのだと実感する。特に本作は物語が3つもあるから3倍増で感じる上、逆に3つも物語がある分、どんな環境に居ても人間はやらかしてしまうことが強調されるから「明日は我が身」と迫られる。本作がブラック・コメディとはいえ笑ってるだけでは済まされない。現実世界において、しがみつきたいと思う欲求はサスペンスの入り口なのだと思う。
3つの中編に登場する俳優陣が同じであり、俳優陣の演技の振り幅を堪能できる。特に主演のジェシー・プレモンスとエマ・ストーン、助演のウィレム・ディフォーとホン・チャウが各章で違った存在感を放っている。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
傲慢と善良
公 開 日 :9月27日
ジャンル:ミステリー、ラブ・ロマンス
監 督 :萩原健太郎
キャスト:藤ヶ谷太輔、奈緒、倉悠貴、桜庭みなみ、菊池亜希子、西田尚美 他
概要
直木賞を受賞した小説家・辻村深月さんが執筆し、第7回ブクログ大賞を受賞した同名小説の実写映画化。藤ヶ谷太輔さんと奈緒さんがダブル主演を務める。
※公式サイトより引用および抜粋
あらすじ
仕事も恋愛も順調だったビール会社の若き社長・西澤架。だが、長年に渡って付き合っていた彼女にフラれてしまい、マッチングアプリで婚活を始める。そこで出会った控えめで気の利く真実と付き合い始めるが、1年経っても結婚に踏み切れずにいた。しかし、真実からストーカーの存在を告白された直後、彼女を守らなければと婚約する。架のプロポーズに歓喜する真実だったが、どういうわけか謎の失踪を遂げてしまう。架は真実の両親、友人、同僚、過去の恋人を訪ねて探すうちに、知りたくなかった真実の過去と嘘を知るのだった…。
※公式サイトより引用および抜粋
感想
マッチングアプリで知り合って婚約した恋人が謎の失踪を遂げ、その失踪から現代人が囚われている結婚観の呪縛を炙り出すミステリー&恋愛ドラマ。とは言うものの、ミステリー要素は物語を持っていくための潤滑油であり、主体となるジャンルは恋愛ドラマ。タイトルにある「傲慢」と「善良」という2つの単語で結婚に関する普遍性というよりも結婚相手の選び方を総合的かつ皮肉に集約したのは、まとめ方が上手い。「傲慢と善良」からなる呪縛に囚われた現代人を劇中人物たちが体現しており、その中でも主演である奈緒さんと藤ヶ谷太輔さんが巡る恋路において、結婚相手は選ぶというより理解するというのが本質であることが見えてくる。なんとなく婚活に手を伸ばしてしまった方にとっては本作から観て学べるものがある。
前述の通り、全体な物語は良い。現代の結婚観を「傲慢」と「善良」の2つの単語で皮肉に集約、その意味を劇中人物が漏れなく体現し、その中でも主人公2人は「傲慢」と「善良」を越えようと成長が見える。物語を通して伝えたいことが整備されている。だが、表現に惜しい箇所がある。と言うもの、昨今の邦画のようにセリフが説明的である。タイトルにある「傲慢」と「善良」などの抽象的な単語の意味をセリフで説明するのは、まだいい。けれど、登場人物の感情を全てセリフで説明してしまうと、登場人物の人物像が上っ面までしか見れず記号的になる。そのため、登場人物の背景(特に奈緒さん演じるキャラクター)は語られるのに、背景から形成された人物像に全く興味が持てない事象が発生する。形式上は物語として描けているのだが、登場人物(特に主人公である奈緒さんと藤ヶ谷さんのキャラクター)が記号的であるため、視聴者の感情を動かすのは厳しいかと思われる。
⭐評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計13個