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【まとめ】2023年 日本劇場公開の映画(9月編)

 この記事は2023年9月に日本の劇場で公開された映画作品をかる~く紹介していく記事です。(私が観た作品だけ)

 「2023年って、どんな映画があったっけ?」と新たな映画に出会いたい方や振り返りたい方、「あの映画、気になってるけど実際どんな感じなの?」と鑑賞の判断をつけたい方向けの記事になっています。本当に軽く紹介するだけなので、軽く流し読みする程度で読んでください。ネタバレは絶対にしません。ご安心ください。

 

 各作品ごとに以下の項目を挙げて簡単に紹介していきます✍

  • 公開日(日本の劇場で公開された日)
  • ジャンル
  • 監督
  • キャスト
  • 概要
  • あらすじ
  • 感想

 加えて、各作品ごとに以下の観点を⭐の数で評価していきます。

  • 脚本・ストーリー
  • 演出・映像
  • 登場人物・演技
  • 設定・世界観

 ⭐は最大で5つです。

 

 それでは、早速いきましょう💨

福田村事件

(C)「福田村事件」プロジェクト 2023

公 開 日  :9月1日

ジャンル:ドラマ

監 督 :森達也

キャスト:井浦新田中麗奈永山瑛太東出昌大コムアイ、松浦祐也、向里祐香、カトウシンスケ、木竜麻生、ピエール瀧水道橋博士豊原功補柄本明

 

概要

 1923年9月1日11時58分、関東大震災が発生。そのわずか5日後の9月6日、千葉県東葛飾郡福田村に住む自警団を含む100人以上の村人たちにより、利根川沿いで香川から訪れた薬売りの行商団15人のうち、幼児や妊婦を含む9人が殺される事件が発生した。行商団が殺された原因は、讃岐弁で話していたことで朝鮮人だと疑われてしまったことである。逮捕されたのは自警団員8人。逮捕者は実刑になったものの、大正天皇の死去に関連する恩赦ですぐに釈放された。これが100年の間、歴史の闇に葬られていた「福田村事件」である。行き交う情報に惑わされ生存への不安や恐怖に煽られた時、集団心理は加速し、群衆は暴走する。これは単なる過去の事件では終われない、今を生きる私たちの物語として本作が誕生した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 大正デモクラシーの喧騒の裏で、マスコミは、政府の失政を隠すようにこぞって「いずれは社会主義者朝鮮人か、はたまた不逞の輩の仕業か」と世論を煽り、市民の不安と恐怖は徐々に高まっていた。そんな中、挑戦で日本軍による虐殺事件を目撃した澤田智一は、妻の静子を連れ、智一が教師をしていた日本統治下の京城を離れ、故郷の福田村に返ってきた。同じ頃、沼部新助率いる薬売りの行商団は、関東地方へ向かうため四国の讃岐を出発する。長閑な日々を打ち破るかのように、9月1日、空前絶後地震が関東地方を襲った。木々は倒れ、家は倒壊し、そして大火災が発生して多くの人々が命を失った。そんな中、でいつしか流言飛語が飛び交い、瞬く間にそれは関東近縁の町や村に伝わった。2日には東京府下に戒厳令が施行され、3日には神奈川に、4日には福田村がある千葉に拡大され、多くの人々は大混乱に陥った。福田村にも避難民から「朝鮮人が集団で襲ってくる」「朝鮮人が略奪や放火をした」との情報がもたらされ、疑心暗鬼に陥り、人々は恐怖に浮足立つ。地元の新聞社は、情報の真偽を確かめるために躍起となるが、その実態は掴めないでいた。震災後の混乱に乗じて、亀戸署では、社会主義者への弾圧が、密かに行われていた。そして9月6日、偶然と不安、恐怖が折り重なり、後に歴史に葬られることとなる大事件が起きる。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 その人の思想や生活感が見えるほどキャラクター像がある登場人物たちを生み出すほど練られた最高の脚本。その登場人物たちに命を吹き込んだ最高のキャスト陣によるアンサンブル。それらが相まって、事件に至るまでの人々の営みや国内外の差別を丹精に描き、事件が起こった時に「異物の排除」へと辿り着いてしまう群衆心理の恐ろしさを発火させ、観る者に大きく訴えてくる。2023年時点でも続く、人間から人間への攻撃的な差別を物理的な攻撃による惨劇として届けた本作は今こそ観るべきで、本事件を今こそ知るべきだと思う。日本人として完全なる負の歴史でありながら、「知ってる人は知ってる事件」という浸透具合である本事件の認知度を押し上げ、群衆とは何なのかを届けようとした本作および本作を作るに至った一大プロジェクトに敬意を表する。

 「被害者=善人」および「加害者=悪人」と設定しなかったキャラクター像が見事な采配。観る者の矛先が登場人物に対するヘイトに向かず、本事件がもたらした差別や群衆心理の恐ろしさへダイレクトに向かうようになっている。真偽不明の事柄でも複数人が「こうだ!」と決めつけ、真偽を確かめることをせずに防衛本能的かつ付和雷同で加害者となった村人たち。被害者とはいえ、自分たちより立場が小さい弱者から金を巻き上げていた行商団。決して、加害者である村人が悪人で、被害者である行商団が善人という二元論に分断することなく、集団の実態として提示している。「登場人物の◯◯に腹が立った」と一部の人物を名指しで「ヘイトを買った登場人物」として見てる感想があるけど、特定の登場人物に嫌悪感を抱いて感想を綴る作品ではないと思う。

 本作では差別や群衆心理のみならず、村人たちや行商団から離れた立ち位置で新聞記者たちが登場し、ジャーナリズムとは何たるかも描いている。情報元である個人や団体を鵜呑みにせず、群衆が作り上げた根拠なき主張を信じるのではなく、確かな真実を求めて伝えることがジャーナリズムの役割だと提示している。劇中で新聞記者が「福田村事件を記事にして伝えよう」という心意気は、本作で福田村事件を届けようとした制作陣の思いを感じるようだった。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

こんにちは、母さん

(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会

公 開 日  :9月1日

ジャンル:ドラマ

監 督 :山田洋次

キャスト:吉永小百合大泉洋永野芽郁宮藤官九郎田中泯寺尾聰

 

概要

 91歳を迎える名匠・山田洋次監督の90本目の監督作。主演を務めるのは、1972年に公開された『男はつらいよ 柴又慕情』をはじめ、『母べえ』・『おとうと』・『母と暮らせば』など約50年間に渡って数々の山田洋次監督作品に出演し、日本映画界を共に牽引し続けてきた吉永小百合さん。本作で映画出演123本目となり、東京の下町で暮らす1人の母を演じる。その息子を演じるのは、数々の映画やNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』での好演が記憶に新しい、国民的人気俳優・大泉洋さん。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 大企業の人事部長として日々神経をすり減らし、家では妻との離婚問題、大学生になった娘・舞との関係に頭を悩ませる神崎昭夫は、久しぶりに母・福江が暮らす東京下町の実家を訪れる。しかし、迎えてくれた母の様子が、どうもおかしい…。割烹着を着ていたはずの母親が、艶やかなファッションに身を包み、イキイキと生活している。おまけに恋愛までしてる様子。久々の実家にも自分の居場所がなく、戸惑う昭夫だったが、お節介が過ぎるほどに温かい下町の住民や、これまでとは違う母と新たに出会い、次第に見失っていたことに気付かされてゆく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 本作は2023年時点で作られるべき作品だったのか?多くの疑問符が通過するばかりだった。

 登場人物の価値観が古臭い。「離婚=不幸」・「大企業に就職=幸福」・「公務員の世話になる=悪」等の主張が飛び交う。劇中でスカイツリーの存在が明かされていることから時代設定的には平成以降だけど、若い世代ほど共感が出来ない。しかも、それらの価値観を劇中で、ほぼアップデートせずに終わる。昔の価値観にノスタルジーを感じろってこと?それって、意味あるの?

 大泉洋さん演じる昭夫の友人兼同僚で宮藤官九郎さん演じた木部の人物像が最悪だった。早期退職を勧告された際、人事部長である昭夫に対して「友人を早期退職者の候補に入れるな!」と怒りをぶつけるのは余りにも公私混同。しかも、「早期退職者の候補リストは人事部の機密事項だけど、友人なら教えろ」と昭夫に対してリスクを取らせようとする。早期退職者の候補を知ることは木部にとっては得だが、昭夫にとっては何も得せずにリスクしかない。友人に持ち掛ける行為ではない。しかも、物語が進むと、過去に木部が昭夫にキツいお願い事をしたことが明かされるし、最終的には早期退職者の件で昭夫に迷惑かけたことを大して謝罪しない。誠意なく昭夫を搾取してばかりで友人としても同僚としても最低な人間。こんな友人とは縁を切るのが吉だろう。

 大泉洋さん演じる昭夫が職場と夫婦で修羅場で沼っている以上、吉永小百合さん演じる母・福江の物語が印象に残らず、どうでもよくなる(笑)亡くなった夫や寺尾聰さん演じる萩生に対する愛が記号的で興味を失う。あと、2人が熱烈な関係であるのは見て分かるのに、田中泯さん演じる井上に進展を説明させたのはクドい。

 不自然な説明台詞が多い。冒頭で吉永小百合さんが1人で自宅に居る時、物を落とした際に「あら、落とした」と独り言。見れば分かるわ(笑)

 シリアスな話だけど、合間に笑える箇所をスムーズに挟み込む流れの良さだけは褒めたい。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐

星の総数    :計9個

 

ホーンテッドマンション

(C)2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.

公 開 日  :9月1日

ジャンル:ホラー、コメディ

監 督 :ジャスティン・シエミン

キャスト:ラキース・スタンフィールド、ティファニー・ハディッシュ、オーウェン・ウィルソン、ダニー・ビート、ロザリオ・ドーゾン、チェイス・ディロン、ジェイミー・リー・カーティスジャレッド・レト

 

概要

 ディズニーランドの人気アトラクション「ホーンテッドマンション」の実写映画化。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 舞台はアメリカのニューオリンズ。この街にある豪華な館を破格の条件で手にしたシングルマザーのギャビーは、息子のトラヴィスと共に引っ越してくる。だがその館は、999人のゴーストたちが住む”呪われた館”であり、2人は何度も怪奇現象に遭遇する。そんな2人を救出するため、超常現象専門家のベン、神父のケント、霊媒師のハリエット、歴史学者のブルースといったクセの強い4人の心霊エキスパートが集結。皆で力を合わせ、館に住むゴーストたちの謎を解明していく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 蝋燭が頼みになるほどの薄暗さと、中世に建立して風化したようなアンティークな質感に満ちた洋館内。動き回るスケスケのゴーストたちと、洋館そのものが生きてるような怪奇現象。入り口の扉の先には異空間の世界が広がっており、アトラクションに入り込んだ楽しさがある。ホラー映画特有の五感のどれかを刺激する不快感はなく、無邪気にキャッキャしてられる。むしろゴーストよりも、不意打ちで目の前に人間が出現するシーンの方が心臓に悪い(笑)「あんたがジャンプスケアを使うのかよっ!」とツッコミを入れてしまった(笑)

 ゴーストと闘う登場人物が個性的。怪奇現象に見舞われながらも、皮肉やアメリカン・ジョークが飛び交う掛け合いがユーモラス。美術面や映像面以外でもエンタメに富んでいる。加えて、主人公と主人公の仲間となる少年の過去がゴーストたちが住む洋館とマッチしているドラマ性も持ち合わせている。

 残念な点は全体的にゴチャゴチャしてるところ。姿を現してないゴーストたちの名前が会話で次々と登場して整理が大変。(しかも、登場人物たちの喋る台詞が長いし、合間にジョーク等の本筋とは関係ないユーモアが挟まれるから尚更。)覚えてないと、いざ該当のゴーストが登場した瞬間、「これは誰だっけ?」という状態に陥りやすい。あと、ゴーストの退治方法をはじめとする怪奇現象を操ったり破ったりするロジックが味気ない。「◯◯をすれば、◯◯が出来る」と、一文の台詞にまとまるほど簡素すぎるロジックであり、本当にその通りやれば発動するため、襲ってくるゴーストたちに脅威を抱かないし、物語が全体的にまとまりのない印象で残ってしまう。

 とはいえ、「ホーンテッド・マンション」の世界に入り込んでアトラクション的に体験したり、登場人物のユーモラスな掛け

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく

(C)2023「夜が明けたら、いちばんに君に会いにいく」製作委員会

公 開 日  :9月1日

ジャンル:青春

監 督 :酒井麻衣

キャスト:白岩瑠姫、久間田琳加箭内夢菜、吉田ウーロン太、上杉柊平鶴田真由

 

概要

 シリーズ累計発行部数55万部を超える汐見夏衛さん原作の大ヒット小説の実写映画化。JO1の白岩瑠姫さんと久間田琳加さんをダブル主演に迎え、注目の新鋭・酒井麻衣さんが監督を務める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 マスクが手放せず、周囲の空気ばかり読んでしまう「優等生」の茜。自由奔放で絵を描くことを愛する、銀髪のクラスメイト・青滋。何もかもが自分とは正反対の青滋のことが苦手な茜だったが、彼が描く絵と、まっすぐな性格に惹かれ、息苦しかった茜の世界はカラフルに色づき始める。次第に距離を縮めていく2人の過去は、やがて重なり合い、初めて誰にも言えなかった想いが溢れ出す。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 主人公2人がそれぞれ心に閉じ込めていた想いの放出を台詞に頼らず、青と赤を中心とした絵の具と、主演2人の演技による心の重なり合いと、自然の美しさを再確認するほどキレイな空模様で世界を彩っていく映像は解放感と躍動感に溢れている。ティーン映画だけど、絵画を題材にしただけに芸術の部類へ片足を突っ込んでいる。ただ、視覚的な表現に比重を置いた分、伝聞や台詞で物語が大きく動くと、味気の無さを感じる。主人公が装着したマスクが良い働き。空気の読解を要する人間社会において、仮面の下に押し殺す自分自身を物理的に表現している。

 白岩さん演じる青滋が優しくなったり急にキレたりと情緒を心配したけど、ちゃんと前フリになっていて安心した。ツッコミどころとして、学校側が美術部に寛容すぎ。屋上をいいように使われ過ぎ。てか、屋上に大量の美術道具を置きっぱなしにして、雨が降ったらどうするんだ(笑)

 あと、クラスメイトたちが文化祭で踊るダンスが素人とは思えないほど上手すぎる。「ダンスの練習、部活で出れないよ~」とか「再来週の文化祭まで日数ないよ~」とか「てか、練習ダリ~」とか言うレベルじゃないほど振り付けがキレキレ(笑)とても2週間で仕上げた練度には見えない。まあ、白岩さんがJO1所属だから、妥協したダンスをするわけないか。

 欲を言えば、ラスト5分ぐらいは無くて良かった。主演2人の最高のパフォーマンス、最高の空模様を映して、ボルテージが温まったところで閉じていれば大きな余韻を残せたと思う。同年公開の『交換ウソ日記』もだったけど、わざわざ「その後も登場人物の幸せは続いてます」みたいなエピローグの付け足しは蛇足。エピローグで時間を飛ばしてしまうと、せっかく上映時間をフルに使って想いが重なり合った2人の最高かつ永遠の瞬間がブチッと切れてしまった感が否めない。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

ステロイド・シティ

(C)2022 Pop. 87 Productions LLC

公 開 日  :9月1日

ジャンル:コメディ、SF

監 督 :ウェス・アンダーソン

キャスト:ジェイソン・シュワルツマンスカーレット・ヨハンソントム・ハンクスジェフリー・ライトティルダ・スウィントンエドワート・ノートン、ウィレム・ディフォー、マーゴット・ロビー

 

概要

 アカデミー賞4部門、ゴールデングローブ賞作品賞を受賞した『グランド・ブタペスト・ホテル』などで、世界に1つだけのウェス・ワールドを披露し、映画ファンのここを歓喜で満たしてきたウェス・アンダーソン監督の最新作。本作は2023年カンヌ国際映画祭でプレミア上映され、6分間のスタンディング・オベーションで讃えられ、アメリカでの先行公開では3日間で1劇場あたり13.2万ドルの興行収入を得て『ラ・ラ・ランド』以来の最高記録を樹立した。

 出演は、ウェス・アンダーソン監督作の常連で本作で主演を務めるジェイソン・シュワルツマンを筆頭に、トム・ハンクススカーレット・ヨハンソンマーゴット・ロビーなどのハリウッド・スターが大集結。スペインのチンチョン郊外に実際に建てられた壮大かつポップな街並みも必見。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 時は1955年、アメリカ南西部に位置する砂漠の街、アステロイド・シティ。隕石が落下して出来た巨大なクレーターが最大の観光名所であるこの街に、科学賞の栄誉に輝いた5人の天才的な子供たちとその家族が招待される。

 子供たちに母親が亡くなったことを伝えられない父親。マリリン・モンローを彷彿とさせるグラマラスな映画スターのシングルマザー。それぞれが複雑な想いを抱えつつ授賞式は幕を開けるが、祭典の真っ最中にまさかの宇宙人到来!?この予想もしなかった大事件により人々は大混乱。街は封鎖され、軍は宇宙人出現の事実を隠蔽しようとし、子供たちは外部へ情報を伝えようと企てる。果たしてアステロイド・シティと、閉じ込められた人々の運命は…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 従来のウェス監督作同様で、豪華ハリウッドスターが集結し、ライト・トーンでキレイに彩ったセット内で劇を繰り広げる箱庭感は健在。前作の雑読斜め見映画こと『フレンチ・ディスパッチ』同様、情報過多かつ登場人物たちの無機質に近い感情表現により、鑑賞には苦労を要する。おまけに、劇中作を行き来して複雑である。だが、登場人物たちがミニチュアのような世界の中で、無機質な会話劇とユーモアあるアクションを繰り広げる様は人形劇のような可愛らしさがある。物語に身が入らずとも、眼福な美術と人形劇的な可愛らしさが、最後まで鑑賞する意欲を焚き付ける。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

爆竜戦隊アバレンジャー 20th 許されざるアバレ

(C)2023東映ビデオ・東映AG・バンダイ東映 (C)東映

公 開 日  :9月1日

ジャンル:特撮

監 督 :木村ひさし

キャスト:西興一郎、富田翔いとうあいこ阿部薫田中幸太郎西島未智、大友花恋、関智一

 

概要

 スーパー戦隊シリーズ第27作として放送された『爆竜戦隊アバレンジャー』の20年ぶりとなる最新作。オリジナルキャストが集結し、放送時のメインライターである荒川稔久さんが脚本を務め、TVドラマ『警視庁アウトサイダー』や劇場版『99.9-刑事専門弁護士-』の木村ひさしさんが東映特撮で初の監督を務める。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 爆竜戦隊アバレンジャーが、地球を守り抜いてから20年。アメリカに渡っていた伯亜舞の帰国が決まり、伯亜凌駕と三条幸人・笑里夫婦がパーティの準備を始めていた。だが、そこへトリノイド第24号アバレンゲッコーが出現。凌駕と幸人、ダイノアースから駆けつけたアスカの3人がこれに立ち向かうが、久しぶりのアバレンジャーの活躍に対し、若き社会学者・五百田葵はなぜか、テレビ番組を通じて痛烈な批判を浴びせるのだった。一方、アバレンゲッコーはアバレキラーを復活させ、さらに地球を人間の住めない死の星にするための驚くべき作戦を進めていた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 特撮ではあるが、コメディ・バトル作品として楽しめる。主人公たちの言葉遊び、実在の人物が本人役で登場、メタネタをブチ込むギャグ・センスは下ネタ無き『劇場版クレヨンしんちゃん』に近い。敵のネーミング・センスと野望を実現させる行程も同様。アバレッド役の西興一郎さんが年齢不相応にわんぱくキャラだったが、やはりアバレンジャーのノリならヘンに大人びる必要性はない。

 TVシリーズの20年後を舞台にしただけに、現代のネット社会を風刺した世界観へグレードアップしている。また、アバレンジャーが生み出した功罪との向き合いが描かれ、改めて自分たちが戦う理由(アバレる理由)を提示したのは20周年記念として相応しい。やっぱり、時を経ても「アバレた数だけ強くなれて、アバレた数だけ優しさを知る」のは変わらない。しかも、この過程がシリアス過ぎず、『劇場版クレヨンしんちゃん』に登場するオリジナル・キャラが抱えがちな少し笑ってしまうぐらいの葛藤なのがスマートで丁度良い。程よく笑えて、程よく熱くなれるバランスを保っている。

 フィッシャーズの2人が本人役にも関わらず、シレッとアバレンジャーの世界に溶け込んでいる。YouTuberとして、アバレンジャー世代の代表としてオイシイ台詞を並べている。

 20年の時を経て、オリジナル・キャスト陣が年齢相応のカッコよさとキレイさが光る中、アバレブラック役の阿部薫さんは顔が変わらずに当時のイケメン青年のままで驚きである。アバレンジャーTVシリーズがクランク・アップしてから20年間、冷凍保存庫で眠っていたのですか?

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計16個

 

ほつれる

(C)2023「ほつれる」製作委員会&COMME DES CINEMAS

公 開 日  :9月8日

ジャンル:ドラマ

監 督 :加藤拓也

キャスト:門脇麦、田村健太郎染谷将太黒木華、古館寛治 他

 

概要

 第30回読売演劇大賞優秀演出家賞、第67回岸田國士戯曲賞を受賞するなど演劇界で注目を集める気鋭の演出家であり、2022年公開の『わたし達はおとな』で映画監督デビューを果たした加藤拓也さんによる長編映画2作目。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 関係が冷め切っている夫婦の綿子と文則。そんな中、綿子は友人の紹介で知り合った木村という男性と不倫関係を持って頻繁に会っていた。だが、ある時のデートの帰り道、綿子の目の前で木村が交通事故に遭って帰らぬ人となってしまう。心の支えとなっていた木村の詩を受け入れることができないまま変わらぬ日常を過ごす綿子は、木村との思い出の地を辿っていく…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 近年の『宮松と山下』や『ケイコ目を澄ませて』のように台詞で多くを語らず、演出・画づくり・キャストの演技で語る観て感じ取る作品。

 何と言っても門脇麦さんが素晴らしい。終始に渡って出ずっぱりでワンカット長回しの固定カメラの前で、相対する人物と長い会話を交わし合い、観る者に向けて心情の機微に触れさせる。愛した者が不倫相手であるが故に人前で悲しみを露にすることが出来ず、表面上は普段と変わらない日常を装いながら内面では亡くなった相手にまた触れようと追いかける気持ちを言葉で説明することなく態度で繊細に表現していた。また、夫役の田村健太郎さんも執拗なまでに妻を詮索する姿勢に夫婦の訳アリ感、なぜ夫婦関係が冷え切ったのかをジワジワ与えてくる。夫の給料で飯を食べていける妻と妻の行動1つ1つに裏を取って詮索する夫の双方にヘイトが溜まるが、最後の最後で夫婦共々、なぜ、そのような行動を取っているのか腑に落ちる。不倫および束縛が絶対的な悪とされる風潮が常となっているが、不倫と束縛を実行した先にある感情は案外、同情できる部分もあると知った。不倫および束縛を絶対的な悪と認識してる方には届きづらい作品だと思うけど…。あと、恋人離れや結婚離れが加速する2020年代には刺さる層が少ないかもしれない。とはいえ、不倫と束縛に足を踏み入れドップリ浸かった世界観を知るには良い作品。

 門脇さんと田村さん以外のキャスト陣の出番は少ないが、妻の不倫相手である染谷将太さんやスルリと登場する古舘寛治さんが門脇さん演じる妻に対して心を満たしたり刺し傷をつけて爪跡を残している。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

劇場版シティーハンター 天使の涙(エンジェル・ダスト)

(C)北条司コアミックス・「2023 劇場版シティーハンター」製作委員会

公 開 日  :9月8日

ジャンル:アニメ

監 督 :竹内一義

キャスト:神谷明伊倉一恵一龍斎春水玄田哲章小山茉美沢城みゆき関智一木村昴堀内賢雄

 

概要

 漫画家・北条司さんが週刊少年ジャンプで連載していた同名タイトルの劇場版。主人公である冴羽リョウの原点とシリーズ最終章へと始動していく展開が描かれる。

 

あらすじ

 裏社会ナンバーワンの実力を持つ始末屋(スイーパー)ことシティーハンターである冴羽リョウはパートナーの槇村香と共に、新宿を拠点に依頼をこなす日々を送っていた。ある日、リョウと香のもとへ、動画制作者であるアンジーと名乗る女性から、逃げた飼い猫を捜して欲しいと依頼される。2人は猫を捜すために街を散策に向かうが、思いも寄らぬ事実が発覚する。

 一方、警視庁の野上冴子は海坊主と美樹の協力を得て、バイオ企業ゾルティック社の発明品について捜査していた。その発明品は、謎の組織の依頼で作られた戦場の兵士を超人化する闇のテクノロジーで、かつて投与されたリョウの身体を蝕み、パートナーにして香の兄である槇村秀幸を死に追いやった「エンジェル・ダスト」と呼ばれるものだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 飼い猫の捜索依頼が冴羽たちの過去の因縁へと繋がり、最終章の幕開けを感じさせる。

 アクションがパワーアップ。劇中で身体能力の超人化が描かれてたことによって、前作までの地に足を着けたアクションから、宙を舞うように身体浮かせて殴り合ったり銃を撃ち合ったりとダイナミックになった。ハリウッドのアクション映画のようである。また、カーチェイスもハリウッド映画を彷彿とさせるシークエンスとシチュエーションであり、風が身体を切っていくような感覚がある。全体的に音の響きが良く、逐一、ドスンと脈打つ臨場感がある。

 ストーリーは難あり。冴羽と新キャラ・アンジーを特別な関係にしたかったようだが、雑になっている。最初の猫の捜索依頼の真意についても、結局、どこまで冴羽に求めていたかフンワリしてる。さらに、辻褄は合ってるけど、中盤から冴羽に対する態度が変わり過ぎで記号的。アンジーの立ち位置を形成したい制作側の意図は分かるけど、魅力の引き出しになっていない。そのおかげで、せっかくの新キャラであるアンジーがどうでもよくなる。

 本作で闘うことになるボスキャラが事件を起こした動機が興醒めレベル。要約すると自己承認欲求でしかなく、名探偵コナンだったら「ひどい犯行動機ランキング」に入る。目暮警部が居たら「そんな理由で、あなたは人を殺したんですか!?」と説教を喰らうことだろう(笑)

 香の猫の捜索方法が普通に街中を歩き回っているだけで笑った。まずは手元にあるスマートフォンからSNSに接続して、捜索依頼を拡散しろよ(笑)まあ、その後の展開的を考えたら仕方ないけど。

 前作から続く野暮なことだけど、歳を重ねた声優さんの声がキャラクターの見た目にマッチしていないことがある。前作では飯豊まりえさんの続き、本作では沢城みゆきさんと声が並ぶと顕著に出る。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

赤ずきん、旅の途中で死体に出会う。

Netflix

公 開 日  :9月14日

ジャンル:ミステリー、ファンタジー

監 督 :福田雄一

キャスト:橋本環奈、新木優子、岩田剛典、夏奈、若月佑美ムロツヨシ桐谷美玲山本美月キムラ緑子、真矢ミキ、佐藤二郎 他

 

概要

 童話の主人公・赤ずきんを探偵役とし、他の童話の世界に入り込んで事件を解決していく青柳碧人さんの同名小説の実写映画化。監督は『銀魂』をはじめとする数々の原作を実写化してきた福田雄一監督。福田監督作の常連である橋本環奈さんが主演を務め、お馴染みのキャストも勢ぞろいする。

 

あらすじ

 赤いずきんを被ることを好み、その名が通称となった少女・赤ずきん。彼女は人生を豊かにするべく世界各地を旅していた。ある日、家族ぐるみでイジメに遭い、ボロボロの服を着させられて靴も没収され少女・シンデレラと出会う。シンデレラは王子様の妃を決める舞踏会に参加したかったが、王様の式典に見合うドレスを持っていなかった。その時、突如として魔法使いが現れる。魔法で赤ずきんとシンデレラの服を煌びやかなドレスに変え、さらにはカボチャの馬車まで出現させた。赤ずきんとシンデレラはカボチャの馬車に乗り、舞踏会の会場である王族の城を目指すが、道中で1人の男性を轢いてしまう。そして、この死体が思わぬ事態を呼び起こす。

 

 

感想

 福田雄一監督のニュー・スタイル。コメディ少なめ。その代わり、ミステリーの成分高め。豪華絢爛な世界で起こる事件の先に反ルッキズムを問う。

 いつもと一味違う福田雄一監督作品。ビジュアル面が見違えるほど強化。俳優陣の衣装にコスプレ感はなく、プロの劇団で使用されそうな本格的なデザイン。ロケ地に関しては、現世で存在しないような雰囲気を放つ城や森であり、真面目なファンタジー作品でも通用するほど空想的。従来のコント劇的な世界観は消失し、本格的なファンタジーの世界観を作り上げている。これがNetflixによる予算パワーなのか…。

 元ネタである童話が設定の妙を生んでいる。赤ずきんを探偵役とし、シンデレラの元ネタからミステリーと福田監督流のコメディに昇華させている。ミステリーに関しては、真面目な路線である。従来の福田作品の雰囲気と比べるとシリアスで空気が張り詰めている。人が死んでる事もあり、福田作品特有のおふざけ演出は極力控えている。橋本環奈さん演じる赤ずきんが、シンデレラの元ネタの引用を含めた犯人探しを真面目に行うし、ちゃんとミステリー作品らしく伏線を張っている。とはいえ、真相を追求するシークエンスはガバガバだけど(笑)コメディに関しては、従来の福田作品に比べて大幅に減少した。これにより、福田作品のギャグが苦手な方でも楽しく観れると思う。とはいえ、福田作品を追いかける者に対しての供給を忘れていない。橋本環奈さんと夏菜さんの顔芸、佐藤二郎さんの早口芸、ムロツヨシさんのキャラ芸は健在。張り詰めるミステリーの空気を和らげる作用となっている。『ヒロイン失格』で顔芸を披露した桐谷美玲さんの顔芸も見たかったな(笑)ただ、福田作品のコメディが好きな方にとっては打席の少なさで物足りなさを感じる。あと、CGや効果音によるギャグ演出が少なめ。

 美しさが正義で醜さは悪という舞台であるが故に反ルッキズムを促す。とはいえ、あまり印象に残らないけど。結局、人間の見た目に関する事柄だけで終わっており、見た目以上に大切な事を代わりに提示した方が良かったのではなかろうか。抽象的だけど、心の美しさが大事である等を入れた方が良かったのではなかろうか。せっかく反ルッキズムを促したのに、ラストで「見た目が美しいから愛してる」という主張に片付けてしまったのは詰めが甘いように思える。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

アリスとテレスのまぼろし工場

(C)新見伏製鐵保存会

公 開 日  :9月15日

ジャンル:アニメ

監 督 :岡田磨里

キャスト:榎木淳弥上田麗奈久野美咲佐藤せつじ林遣都瀬戸康史

 

概要

 『あの日見た花の名前を僕達は知らない』などのアニメの脚本を手掛け、『さよならの朝に約束の花をかざろう』で監督デビューを果たした岡田磨里さんの第2作目。

 

あらすじ

 製鉄所がシンボルである町・見伏。この町に暮らす14歳の菊入正宗は自宅で同級生と遊んでいた。いつもの日常と変わらぬ時間を過ごしていたが、突如、地鳴りが響く。窓を開けると、町の製鉄所が爆発を起こして煙が昇っていた。しかも、それだけで空がひび割れが出来ていた。しばらくすると、何事もなかったように元の日常へ戻った。しかし、元通りではなかった。この町から外に出る道は全て塞がれ、さらに時間までも止まり、永遠の冬に閉じ込められてしまったのだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 劇中の物理的に時間が止まった世界の下で、「今のままがいい」や「変わってしまうのが怖い」といった理由で変化を拒んで現状維持を求める者、将来の実現や後世の子供が生きるために変化を望み未来を求める者の対立構造は、確かに時間が進んでいる我々の現実世界の保守と革新の映し鏡になっている。同時に、劇中で起こる「痛みの鈍化」は現状を良く変えない代わりに傷つかない保守の状態を指し、主人公たちが行う「痛みの確認」は現状を良くする代わりに痛みを伴う革新を指し、現状の維持と打破で人間に発生することを表現している。劇中の時間の停止と痛みの鈍化といった概念を引き合いにして、現状を変えて未来を切り開くには痛みが生じることを、今を生きる人々へ伝えている。

 ストーリーが進むにつれて内容が複雑となり迷子になりやすいが、ひび割れゆく世界の圧倒的な映像表現と未来へ進むエモーショナルな感動が最後まで導いてくれる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

ミステリと言う勿れ

(C)田村由美小学館 (C)2023 フジテレビジョン 小学館 TopCoat 東宝 FNS27社

公 開 日  :9月15日

ジャンル:ミステリー

監 督 :松山博昭

キャスト:菅田将暉原菜乃華松下洸平、町田啓太、萩原利久柴咲コウ滝藤賢一

 

概要

 累計発行部数1800万部を突破している田村由美さんによる大人気漫画を原作とし、2022年1月期のフジテレビ月曜9時枠にて放送された連続ドラマの劇場版。劇場版では、原作でも人気が高く、通称・広島編と呼ばれるストーリーを豪華キャストで描いていく。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 天然パーマでおしゃべりな大学生・久能整は、お目当ての美術展へ行くために広島を訪れていた。美術展を出た直後、犬堂我路の知り合いだという1人の女子高生・狩集汐路と出会い、あるバイトの話を持ち掛けられる。そのバイトは、汐路の一族である狩集家の莫大な遺産相続を巡るものだった。当主の孫にあたる、汐路、狩集理紀之助、波々壁新音、赤峰ゆらの4人の相続候補者たちと狩集家の顧問弁護士の孫・車坂朝晴は、遺言状に書かれたお題に従い、遺産を手にすべく謎を解いていく。ただし狩集家の遺産相続は死人が出るほど代々いわくつきであり、汐路の父親も8年前に他の相続候補者たちと共に交通事故で死亡していたのだった。

 次第に紐解かれていく遺産相続に隠された真実。そして、そこには世代を超えて受け継がれる一族の闇と秘密があった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 一見、何の関連性もない物品や事態が共通事項として次々に収束され、真相に近づいたかと思いきや、新たな謎が発生して真相までの距離が伸びたりと、観る者を飽きさせないよう翻弄してくれる。ミステリー作品は基本的に同様の流れを辿るけど、本作における強みとしては菅田将暉さん演じる主人公・久能整が要所で名言を残していく点である。そのどれもが自分も他人も客観的に見たメタ的な視点から論理を並べるており、非常に説得力の高い台詞となっている。それにより、ストーリーの本筋から外れても、久能整の語録集を作って残しておきたいほど聞き入る魅力がある。

 ツッコミどころとしては、久能が訪れた一族である狩集家の孫たちが客人である久能に対して速攻でタメ口を使ったり、君付けをするのは社会人的には馴れ馴れしい。そもそも、原菜乃華さん演じる孫が久能に遺産相続の立ち合いを依頼する初対面の時からタメ口であり、家に連れてきて強引に宿泊させるという流れから押し込みが強すぎる。一応、孫たちを演じたキャスト陣の演技により終始、違和感が残ることなく自然体ではある。良く言えば剛腕、悪く言えば強引ではあるが。ただ、原さん演じる孫が涙ぐむほど落ち込んだ数時間後に主人公を煽り散らかす心情の激変には違和感を拭えない。とはいえ、キャスト陣の演技力と観る者を翻弄させるミステリーが相殺して、最後まで観て楽しめる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

グランツーリスモ

ソニー・ピクチャーズ・デジタル・プロダクションズ

公 開 日  :9月15日

ジャンル:スポーツ、ドラマ

監 督 :ニール・ブロムカンプ

キャスト:デビッド・ハーバー、オーランド・ブルーム、アーチー・マデクウィ、ジリ・ハリウェル・ホーマー、ジャイモン・フンスー平岳大

 

概要

 プレイステーションが手掛ける大人気ドライビングゲーム「グランツーリスモ」。2008年、日産、プレイステーションポリフォニー・デジタルが協力して新たなプログラム「GTアカデミー」を実施。その内容は「グランツーリスモ」をプレイするゲーマーの中から数名を選抜し、本物のプロ・レーサーへ転身させる前代未聞のプログラムだった。本作では1人のゲーマーがレーサーと同等の訓練を受けてレースへ出場し、他のプロ・レーサーたちと渡り合うといったウソのような実話を映画化したものである。大迫力のレース・シーンと共に、奇跡の瞬間を目撃する。

 

あらすじ

 世界的大ヒットのドライビングゲーム「グランツーリスモ」のプレイに夢中なヤン。父親からは「レーサーにでもなるつもりか。現実を見ろ」とあきられる日々。そんなヤンにビッグチャンスが訪れる。世界中から集められた「グランツーリスモ」のトッププレイヤーたちを、本物の国際カーレースに出場するプロレーサーとして育成するため、競い合わせて選抜するプログラム「GTアカデミー」だ。プレイヤーの並外れた才能と可能性を信じて「GTアカデミー」を立ち上げたひとりのマーケター・ダニーと、ゲーマーが通用する甘い世界ではないと思いながらも指導を引き受ける元レーサー・ジャック、そしてバーチャルなゲームの世界では百戦錬磨のトッププレイヤーたちがそこに集結。彼らが直面する、想像を絶するトレーニングやアクシデントの数々。不可能な夢へ向かって、それぞれの希望や友情、そして葛藤と挫折が交錯する中で、いよいよ運命のデビュー戦の日を迎える。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 最高の映像体験ならぬドライブ体験。エンジン音の唸り。風を切り裂くように爆走する車体。レーサー視点と同一化し、左右に揺れる画面。そして、そのまま対戦相手の車を抜き去る気持ちよさ。思わず手でハンドルの動きをしたくなる。2022年では『トップガン マーヴェリック』が座席をコックピットに変えたが、2023年では『グランツーリスモ』が座席を運転席に変えた。

 レース・シーンの編集が良き采配。上下左右から映す車体、起動中のエンジン・パーツのアップ、レーサーの顔や両手のアップ、レーサー視点との同一化等をスパスパ切り替えて、多方面の動きを見せて臨場感を与えている。この編集は『ラッシュ プライドと友情』に近い。また、実際のレースとゲームのレースが重なり合うシーンの作りは『アライブフーン』を思わせる。だが、本作ではゲーミングチェアに座る主人公が実際の車の運転席に切り替わっていくという特殊な演出において、キレイかつ精密なCGの動きを見る事が出来る。それらに加え、本作独自の編集はレース中の主人公の車の上に順位が表示される事であり、主人公の優劣が非常に分かりやすい。実際の「グランツーリスモ」がそのような順位表示を施しているからこそ出来たものである。

 物語のカラーは少年漫画的で単純明快。レースに関する専門用語は少なめ。難しい用語は登場しない。登場人物たちに実際の人間のような複雑性はなく、基本的に一貫性のあるキャラクター性になっている。優しいレーサーは優しいままだし、憎たらしいレーサーは憎たらしいままである。基本的に「ゲーマーにレーサーが務まるのか」と周囲から怪訝に扱われている主人公がレースの腕を磨いて周囲の不安を覆し、ステップ・アップしていくといったスポーツ少年漫画的な流れを辿っている。

 主人公ヤンの父であるスティーブが良き立ち位置。eスポーツに嫌悪感を抱く様はヤンのバネになっていた。また、スティーブがプロのサッカー選手であることから遺伝子学的にヤンがゲームとレースをやり抜いて結果を出すことの説得力にもなっている。1番はヤン自身の努力ではあるが。

 オーランド・ブルーム演じる設立者ダニーはレーサーたちと違って、スポンサーやメディアの反応を気にしており、勝敗やレーサーの気持ちよりもマーケティングを優先事項にしてしまう決断がリアル。選手たちを指導するデビッド・ハーバー演じる指導者ジャックが掲げるレーサー第一主義との対比が描かれる。だが、その場のノリで気持ちがコロコロ変わってしまうため、せっかくオーランド・ブルームを起用したのに物語の形式に沿ったような動きしか映らなかったのが残念。

 デビッド・ハーバー演じる指導者ジャックが1番良いキャラだった。「ゲーマーがレーサーになれるかよ」という偏見から徐々に主人公ヤンを認めていく心境変化にはギャップを感じて熱くなれる。また、常にヤンをサポートし、1番大事な時にヤンの気持ちを和らげる姿には感動する。ヤンとジャックの2人のシーンがとにかく温かいものばかりである。オーランド・ブルームと違って、この役はデビッド・ハーバーで良かった。

 主人公ヤンの恋人が要らない。特に役立つ要素が無かった。ヤンはゲームやレースを自発的に頑張っているから、ヤンの行動原理に変化を及ぼしてない。ヤンにとって肝心な人間関係は確執を生んでる父と共にレースへ挑む指導者兼メンターであるジャックなので、恋人として精神支柱になってる感は薄い。恋人を出さない方が尺を削れたか、レース・シーンやヤンと父orジャックとのシーンが増やせたかも。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

名探偵ポアロベネチアの亡霊

(C)2023 20th Century Studios. All Rights Reserved.

公 開 日  :9月15日

ジャンル:ミステリー

監 督 :ケネス・ブラナー

キャスト:ケネス・ブラナー、カイル・アレン、カミーユ・コッタン、ジェイミー・ドーナンティナ・フェイ、ジュード・ヒル、アリ・カーン、エマ・レアード、ケリー・ライリーリッカルド・スカマルチョ、ミシェル・ヨー

 

概要

 ケネス・ブラナーが監督兼主演を務めた、アガサ・クリスティ原作の実写映画『オリエント急行殺人事件』と『ナイル川殺人事件』に続く『名探偵ポアロ』シリーズ第3作目。本作は小説『ハロウィン・パーティ』を基に、亡霊の仕業と思わしき数々の怪奇現象を解いていくホラー・ミステリーとなっている。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 数々の難事件を解決してきた名探偵エルキュール・ポアロ。現在は探偵業を引退し、水上都市・ベネチアで悠々自適の隠遁生活を送っていた。だが、ある日、旧友である小説家オリヴァが訪問してきたことで事態は変わる。オリヴァが言うには、今度のハロウィンの日に、とある屋敷にて有名な霊媒師が亡くなった者の霊を呼び起こす降霊会を行うらしく、その降霊術が本物かどうかを確かめに行くとのことだった。興味を持ったポアロは、霊媒師のトリックを見破るためオリヴァに同行することに決めた。

 そして、当日、降霊会の招待客が人間には不可能と思われる方法で殺害される。さらには、ポアロ自身も命を狙われることに…。果たして、この殺人事件の真犯人は、人間か、それとも亡霊か…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 前2作と打って変わってテイストが変化。ヒューマン・ドラマを乗せたミステリーから、かなりホラー色を強めたミステリーとなっている。前2作は90年代中期の趣を感じる街並みと美しい自然を舞台にして綺麗な雰囲気だった。ところが本作は真逆。90年代中期の趣は同様だが、本作では視界が狭まるほど薄暗い屋敷を舞台にしただけにゴシック・ホラーな雰囲気となっている。さらにはジャンプ・スケアを取り入れて心臓を握り、演出においてもホラー色を強めている。舞台の雰囲気と演出の面でホラーとしての体裁を整え、前2作とは一味も二味も違うミステリーの世界へ誘われる。前2作の地味感を払拭するためのテコ入れかな。(小声。)だが、それが全て良い方向に働いたわけではなく、むしろ中途半端な出来栄えを生んでいる。

 ジャンプ・スケアが良くも悪くも働いている。良い面としては、退屈防止である。ケネス・ブラナーが手掛ける『名探偵ポアロ』シリーズは良く言えばシームレスで滑らかな話運び、悪く言えば緩急や抑揚がなくてテンポが一定な話運びである。悪い方に感じてしまう方にとっては退屈に陥りやすい。今回も話運びの調子は前2作と同じなのだが、ジャンプ・スケアを適宜、導入することで心拍数を上げ、退屈を吹き飛ばすための気付薬として働いている。だが、見せ方は致命的に下手。前フリなくワーッと来たり、ガッシャーンと音を出す不意打ちばかり。観る側からすれば怖さと楽しさが共存せず、単純にビックリするだけ。退屈防止にはなるけど、面白さに直結してない。ジャンプ・スケア名人ことジェームズ・ワンの土踏まずにすら及ばない気がする。

 犯人へのヒントが少なすぎて謎解き感がほぼない。観る側に推理をさせてくれない。元々、本シリーズは容疑者たちとの対話が主体で物的証拠などの視覚的なものが映らないことも原因だが、今回に至っては容疑者たちとの対話にピンと来るものがなくて有効的に機能してない。結局、解明されるトリックにおいても、観る側にヒントを与えてないため、ポアロが勝手に脳内で片付けた感が否めない。なので、ミステリーとして機動力は低い。ここまで来るとミステリーではなく、ミステリー"風味"かもしれない。また、犯行動機にほぼ前フリがなく、終盤のわずか数分で話し終えるため、前2作で帯びていた人間の精神性や哲学的なところはない。単純に「幽霊は存在すると思う?」という古典的なホラー・エンタメの粋に落ち着いている。

 前2作もだが、ケネス・ブラナー演じるポアロのカッコよさが鼻に付くことがある。

 少しだけだが、屋外の風景を綺麗に映す撮影の手腕は相変わらず。今回は水上都市・ベネチアを映しただけに、透き通った美しい街並みが堪能できてプチ旅行気分になれる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計13個

 

燃えあがる女性記者たち

(C)BLACK TICKET FILMS. ALL RIGHTS RESERVED

公 開 日  :9月16日

ジャンル:ドキュメンタリー

監 督 :リントゥ・トーマス、スシュミト・ゴーシュ

キャスト:カバル・ラハリヤ新聞社の方々 他

 

概要

 インド北部で被差別カースト・ダリトの女性たちが立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」に所属する女性記者たちの奮闘を追ったドキュメンタリー映画。監督はインド出身のリントゥ・トーマスとスシュミト・ゴーシュであり、本作が初の長編ドキュメンタリー映画となった。また、本作の完成までに5年の歳月を費やした。

 本作は、2021年サンダンス映画祭ワールド・シネマ・ドキュメンタリー部門の観客賞と審査員特別賞受賞を皮切りに、山形国際ドキュメンタリー映画祭2021市民賞、第94回アカデミー賞長編ドキュメンタリー映画賞ノミネートなど、40もの映画賞を受賞した。また、アメリカ放送界での最高の栄誉とされるピーボディ賞のドキュメンタリー賞も受賞している。ワシントン・ポスト紙には「おそらく、これまでで最も感動的なジャーナリズム映画」と評された。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 インド北部のウッタル・プラデーシュ州で、アウトカーストとして差別を受けるダリトの女性たちが立ち上げた新聞社「カバル・ラハリヤ」。独立した草の根メディアとして、大手メディアが注目しない農村の生活や開発など地方自治の問題を紙媒体で報道を続けてきた。だが、今後の時代を見越してSNSYouTubeの発信を主とするデジタルメディアへなろうと新たな挑戦を始める。ペンをスマートファンに持ち替えた彼女たちは、貧困と階層、そしてジェンダーという多種の差別や偏見、さらには命の危険すらある暴力的な状況の中、怯まず粘り強く人々の声を取材していく。やがて、彼女たちの発信するニュースは、インド各地へ波紋ような広がりを見せるのだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 ジャーナリズム、フェミニズム、インドの情勢といった三本柱が連なっており、「世界よ、これがジャーナリズムだっ!フェミニズムだっ!そして、インドの情勢だっ!」と言わんばかりに熱を帯びたメッセージが伝わる作品。

 記者たちの姿を記録した作品として、弱者救済を果たして幸福な世界へと導くといった確かなジャーナリズムを映している。女性記者たちは被差別者として力は弱いが、声を大にして発信することで、力ある者や権威ある者を動かしている。不条理な不幸に見舞われた者を救済するといった世論を形成し、世界を変える影響を与えることがジャーナリズムであり、持続可能な民主主義の在るべき姿だと思わせてくれる。

 本作は女性が主役になる作品としてフェミニズムが描かれる。インドでは「女は主婦業やってろよ!」と男たち、さらには夫からも言われるほどの男尊女卑が敷かれている。それに加えて、カースト制度による差別も追加されており、性別と身分による二重の差別を女性たちは受けている。そんな弱い立場に位置する女性たちが記者となり、同じく弱い立場に位置する者たちに取材をして光を当てる。これは自分たちも弱い立場に居るからこそ、同じ境遇の者たちの気持ちが理解できるのであり、弱者救済を掲げる行動原理に大きな説得力を帯びている。また何よりも、「お前は女だろ」と冷や水を浴びせられても記者活動における情熱の炎が全く縮まない記者たちの胆力に感服する。どれほど蔑視を受けようとも行動に勝るものはない。

 本作は女性記者たちの活動が主体となるが、インドの情勢も伝わる作品である。カースト制度にて、どの階層にも割り当てされない最下層の更に下に位置する人間がいる。新聞記者になることを許されるのは基本的にカースト上位の"男性"。差別や男尊女卑といった強烈なインド情勢が皮切りに過ぎないといった驚きがある。さらに、選挙の候補者の公約や信条がバリバリの宗教思想に基づいていることもあり、党の争いが宗教の争いにもなっている。日本の戦国時代における仏教徒キリスト教の争いのようである。加えて、インドでは陰でジャーナリストが抹殺されることもあり、劇中の女性記者たちが如何に危険地帯で駆け回っているかが分かる。

 民主主義の為にジャーナリストが存在すること。差別を受けた女性だって世の中と闘えること。インドの情勢は過酷であること。ジャーナリズム、フェミニズム、インドの情勢の3つを身に染めらせる快挙的なドキュメンタリーである。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

ジョン・ウィック:コンセクエンス

(R), TM & (C)2023 Lions Gate Entertainment Inc. All Rights Reserved.

公 開 日  :9月22日

ジャンル:アクション

監 督 :チャド・スタルスキ

キャスト:キアヌ・リーブスドニー・イェン、ビル・スカルスガルド、ローレンス・フィッシュバーン真田広之、シャミア・アンダーソン、リナ・サワウマ、スコット・アドキンスイアン・マクシェーン

 

概要

 大人気アクション映画『ジョン・ウィック』シリーズの4作目。1作目で愛犬を殺されてロシアン・マフィアを壊滅、2作目で亡き妻との思い出がつまった我が家を爆破されてイタリアン・マフィアも壊滅、3作目で殺し屋業界の掟を破って粛清の包囲網から生還した最強の殺し屋ジョン・ウィックが、遂に裏社会を支配する組織との決着に始動する。

 3作目から4年、切れ味鋭い超絶アクションを追求するキアヌ・リーブスに加え、ジョンを追い詰める盲目の達人・ケインにドニー・イェン、日本の旧友・シマヅに真田広之さんと、各国のリアル・アクションのレジェンドが集結。パリ、ベルリン、ニューヨーク、そして大阪と舞台も大幅スケールアップ。世界77か国で初登場NO.1、シリーズ最大ヒットを記録して、ノン・ストップ・キリング・アクションが帰って来る。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 裏社会の掟を破り、粛清の包囲網から生還した伝説の殺し屋、ジョン・ウィック。彼は地下に身を潜め、とうとう全てを牛耳る組織:主席連合から自由になるために立ち上がった。

 主席連合内での権力を得た若き高官グラモンは、聖域としてジョンを守ってきたニューヨークのコンチネンタルホテルを爆破し、支配人のウィンストンを追放。さらに、ジョンの旧友でもあった盲目の達人ケインを強引に配下へ引き入れ、ジョン・ウィック狩りに乗り出す。そんな中、ジョンは日本の友人シマヅの協力を求めて大阪のコンチネンタルホテルを訪問する。果たしてジョンは、かつて忠誠を誓った世界との決着をつけて、真の自由を手にすることができるのか…。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

 

感想

 開幕から景気よく殺しまくり。キアヌ・リーブス演じるジョン・ウィックが武器と体術と地の利を活かし、笑えるほどのスピード感でノン・ストップに死体を築いていく。本作のキル数は、おそらくシリーズ最多。真田広之さんとドニー・イェンもバシバシ敵を倒していくが、キアヌだけで50人以上は倒してるはず。コーエー無双シリーズのようにキル・カウンターを付けて欲しい(笑)放った銃弾も、おそらくシリーズ最多。本作のアクションの質も、もちろん高いが量も凄まじい。物量作戦に踏み切っている。あまりの敵とアクションの多さにジョンがゼーハーと息を切らしているが、もはや演じるキアヌ自身が本当に息を切らしているかのようである。

 本作は、広大なロケーションの中、大量のザコ敵とボス級の風格を持つ強者たちが集い、他のアクション映画だったらクライマックスに当てるぐらいの迫力と引き出しの多さが光る。新武器としてヌンチャクやドラゴン・ブレスがあるが、武器大喜利は控えめ。俳優たちの銃と刃物と体術といった身のこなしに力を注いでいる。また、本作ではキアヌとドニーと真田さんの3名が旧友同士という設定を付けたことより、単に敵味方として闘うのではなく、友人兼同業者としての葛藤を生んでいる。前作でマーク・ダカスコス演じたジョンを抹殺にきた刺客ゼロはドニーや真田さんのようにキレキレのアクションを披露していたが、ジョンと因縁は無かった。だが、ドニーや真田さんを旧友にしたことで、「キレキレのアクション+友人兼同業者としての葛藤」を乗せて、闘いに感情を持たせている。

 本作では日本の大阪が舞台として登場するが、やはりナンチャッテ・ジャパンである(笑)ビジュアルは『ブレット・トレイン』に似ている。タイなどの繁華街のように出店が通路に立ち並び、やたらとネオンライトが街と人を照らす。

 真田広之さんのガチなアクションが見られる。『アベンジャーズ:エンドゲーム』ではチョイ役ゆえ、たった数分のアクション。『モータルコンバット』ではCGを用いたアクション。『ブレット・トレイン』のアクションはスロー・モーションのみ。真田さんによる生身のアクションに手が届かないことが続いたが、本作では長回しで特殊なエフェクトを使わずに、生の身のこなしで銃撃と斬撃を決めてくれる。

 ドニー・イェンは、演じるキャラクターが盲目であり、目が見えない中での闘い方を十二分に披露する姿が素晴らしい。視覚が使えない分、杖を床にカンカンさせたりと手で周辺を触ったりと触覚を活かし、さらには聴覚と気配で敵を捉えて倒す姿がハンディ・キャップを持ちながらもスタイリッシュなアクションになっている。何と言っても、剣で敵を突き刺す時に相手の方向を見てないのは、盲目という設定を徹底したアクションになっている。当のドニー・イェンは盲目ではないし、サングラスで誤魔化せるのに感心する。

 シャミア・アンダーソン演じる殺し屋トラッカーも良いキャラ。『ジョン・ウィック』の動物と言えば犬であり、1作目はジョンの愛犬として、3作目では武器として登場。トラッカーは飼い犬を引き連れており、1作目の愛犬ポジションと3作目の犬たち同様に戦闘に参加する武器として両方の役を担っている。さらに、トラッカーと飼い犬だけの関係にあらず、かつて愛犬を飼っていたジョンとも犬関連で関係性を結び付けるのはシリーズ・ファンにとって感動モノである。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

バーナデット ママは行方不明

(C)2019 ANNAPURNA PICTURES, LLC. All rights reserved.

公 開 日  :9月22日

ジャンル:ドラマ

監 督 :リチャード・リンクレイター

キャスト:ケイト・ブランシェット、ビリー・グラタップ、エマ・ネルソン、クリスティン・ウィグ、ローレンス・フィッシュバーン

 

概要

 2012年に出版され、ニューヨーク・タイムズ紙のベストセラーに約1年間リスト入りした、アメリカの作家マリア・センプルによる小説『バーナデットをさがせ!』の実写映画化。監督を務めるのは、『6才のボクが、大人になるまで』で世界中に唯一無二の感動を巻き起こしたリチャード・リンクレイター。リチャード自身も原作小説の物語に魅了されたファンであり、念願こなっての抜擢となった。そして、主演を務めるのは、リチャード同様に原作小説に魅了され、自ら主人公を演じたいと熱望した名優ケイト・ブランシェット。ケイトは本作の主人公を破天荒ながらも深い共感を得られるキャラクターとして命を吹き込み、本作で10度目となるゴールデングローブ賞ノミネートを果たした。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 シアトルに暮らす主婦のバーナデット・夫のエルジーは一流IT企業に勤め、娘のビーとは親友のような関係を築いて円満であり、幸せな毎日を送っているように見えた。だが、バーナデットは極度の人間嫌いであり、隣人やママ友たちと上手く付き合えない。実はバーナデットは、かつて天才建築家として活躍していたが、途中で夢を諦めた過去があって引きずっていた。日に日に息苦しさが募る中、ある事件をきっかけに限界を感じたバーナデットは忽然と姿を消し、なぜか南極へと旅立っていた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 天才や我が道を行く者は孤独である。対極に位置する凡人や我が道を踏み出さぬ者には分かり得ない苦悩を今日に至るまで数多のコンテンツで語られてきた。だが本作は、今まで語られてきた天才や我が道を行く者の孤独および苦悩を解消するアンサーとなっている。数多のコンテンツのパターンとしては、天才または我が道を行く者による「人生で何も成し遂げようとしない凡人や我が道を踏み出さぬ者に、私の思考は一生理解できないのだ」という苦悩を凡人または我が道を踏み出さぬ者たちは傲慢や病的と見なして対立し、溝を埋めぬまま一線を隔てた関係として、距離感を近づける試みをせずに物語を着地していた。しかし本作では、天才や我が道を行く者が傲慢さを捨てる事や自分の成すべき役割を見つける事で、誰からも理解してもらえない孤独や苦悩を解消している。天才や我が道を行った者が、周囲の人々に対する思いやりと自身の感性を活かし続けることに努め、天才および我が道を行く者の辿るべき新たな宿命を示した道標的な作品である。天才も我が道を行く者も、もう孤独ではない。なので本作を観れば、「私は天才だから他人から理解されづらいんだよね」と発言して周囲の人々が離れていく者は自称天才に過ぎないし、「こういうことするヤツはバカ!」と見下す発言を繰り返す成功者は自ら敵を生成するバカとして淘汰されていくことが間接的に分かるような気がする。

 引退した天才建築家の主人公バーナデットを演じたケイト・ブランシェットは、本作の原作小説のファンであり、「私に主人公を演じさせて!」と熱望した。その熱量のままケイトが演じたバーナデットは、かなりの自然体で天才的な人物像を体現し、天才的であるが故の変わり者ぶりを発揮していた。ケイトが演じている感覚はなく、その場に元・天才建築家バーナデットが存在していた。ケイトと言えば、映画界で数々の賞を獲得した天才的な女優である。そう考えると、おそらく、ケイトはバーナデットに対し、同じ天才として共感する部分があったと推察する。もしかしたら、ケイトは女優業や私生活について、バーナデットと同様の苦悩を抱えていたかもしれない。バーナデットに自分自身を見たのかもしれない。でなければ、バーナデット役を熱望することはないはず。そして、ケイトという天才とバーナデットという天才が重なり合った結果、ある意味、本作のバーナデットというキャラクターは天才の普遍性を提示した人物に思えてくる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計18個

 

ミュータント・タートルズ ミュータント・パニック!

(C)2023 PARAMOUNT PICTURES.TEENAGE MUTANT NINJA TURTLES IS A TRADEMARK OF VIACOM INTERNATIONAL INC.

公 開 日  :9月22日

ジャンル:アニメ、アメコミ

監 督 :ジェフ・ロウ

キャスト:ニコラス・カントゥ、ブレイディ・ヌーン、マイカ・アビー、シャモン・ブラウン・Jr、ジャッキー・チェン、アヨ・エビデリ、アイス・キューブ

 

概要

 アニメや映画など幅広いメディア進出を続ける大人気アメコミ『ミュータント・タートルズ』の新たなアニメ映画。監督を務めるのは『ミッチェル家とマシンの反乱』のジェフ・ロウであり、またしても爽快感あるアニメ作品を提供する。

 

あらすじ

 ミュータントになってしまう液体「ミュータンジェン」を浴びてしまった4人のカメことレオナルド、ラフェエロ、ミケランジェロ、ドナテロと同じく液体を浴びてミュータントと化したネスミことスプリンターは人間から化け物呼ばわりされて毛嫌いされており、人目がつかぬよう地下で静かに暮らしていた。だが、4人のカメたちは人間の世界に憧れを抱き、地下から抜け出して人間たちと共に暮らして人生を楽しみたい願望を持っていた。

 ある日、スクーター泥棒の被害に遭っていた女学生オニールを見て、泥棒退治をやってのける。そのおかげでオニールは他の人間たちとは違い、カメたちと友好的に接するようになる。オニールに他の人間たちからも認められて共に暮らしたいことを相談すると、彼女から「ヒーロー活動をして人間の味方だと思ってもらえれば認めてもらえるはず」と案が出る。それに従い、4人のカメとオニールは巷で犯罪を起こしている謎の集団を退治に向かう。だが、その集団は人間ではなく、スーパーフライと名乗るハエ型のミュータントをリーダーとしたミュータントの集団だった。

 

 

感想

 『スパイダーバース』シリーズと同様にアメコミ原画をそのままアニメにしたような絵であり、『スパイダーバース』シリーズよりも手描きに近い質感を生み出している。また新たなアメコミ原画調のアニメが誕生といったところ。上下左右と奥行きにグイグイ動き回る疾走感を持つ『スパイダーバース』に対し、本作はコンパクトなスペースで手際良く且つ丁寧に細かくアクションを次々と決めていく爽快感がある。集団戦においては1人1人の敵を武器と体術で破茶滅茶に撃破していくし、強敵相手にはチーム全員の心意気とギミックの発動で段階的に倒していく楽しさがある。しかも、4人のカメたちが口喧しくユーモアを言い合う楽しみもある。(その点においては吹き替えで鑑賞した方が得策かも。あまりにも同時に登場人物が話し過ぎる。)また、ノリノリなBGMが導入され、かなりゴキゲンな映画鑑賞となる。

 監督が『ミッチェル家とマシンの反乱』のジェフ・ロウ故に敵味方の設定がしっかり整備されている。本作のヴィランはカメたちと同様にミュータントであり、どちらも人間の手によってミュータントの力を得た者同士。その中でカメたちは人間との共生、ヴィランは人間への復讐に目標を定め、同じ力を持つ者たちによる使い道の対比を描いている。もはや、この対比は科学によって得た力で善か悪のどちらかに染まってしまう『スパイダーマン』である。それ故、本作のヴィランあっさりしているが、『スパイダーマン』シリーズのヴィランと同様に悲劇性を持ち合わせて同情の余地がある。根っからの悪ではなく、人間の手が生み出してしまった悪であり、科学の功罪として受け取れる。この辺りも『ミッチェル家とマシンの反乱』でAIの利便性と支配性で功罪を描いたジェフ・ロウなりのヴィランへの配慮なのかと思われる。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計17個

 

沈黙の艦隊

(C)かわぐちかいじ講談社 (C)2023 Amazon Content Services LLC OR ITS AFFILIATES. All Rights Reserved.

公 開 日  :9月29日

ジャンル:戦争

監 督 :吉野耕平

キャスト:大沢たかお玉木宏ユースケ・サンタマリア水川あさみ笹野高史、酒向芳、橋爪功夏川結衣江口洋介

 

概要

 タブーに鋭く切り込んだテーマ性。世界規模の予測不能なストーリー展開。かつて各方面で論争を呼び社会現象となった、かわぐちかいじさんの大ヒット・コミック『沈黙の艦隊』が連載から30年の時を経て満を持して実写化。

 主演を務める大沢たかおさんはプロデューサーも兼任。製作は、日本の劇場版映画は初となるAmazonスタジオ。また今回、防衛省海上自衛隊の協力により、邦画では初めて実物の潜水艦を撮影に使用。臨場感あふれる海中バトルの具現化に成功している。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 日本の近海で、海上自衛隊の潜水艦がアメリカの原子力潜水艦に衝突して沈没した。艦長の海江田四郎を含む全76名が死亡との報道に衝撃が走る。だが実は、乗員は無事生存していた。なんと、この衝突事故は、日米政府が極秘に建造した高性能原子力潜水艦「シーバット」に彼らを乗務させるための偽装工作だったのだ。その艦長に任命されたのが海上自衛隊随一の操艦を誇る海江田だった。

 ところが、海江田はシーバットに核ミサイルを搭載し、突如として反乱を起こして逃亡。アメリカ政府は、海江田を含むシーバットの乗員たちを格保有のテロリストと認定してシーバットの撃沈を図る。日本政府は、アメリカより先にシーバットを捕獲すべくディーゼル艦「たつなみ」を向かわせる。たつなみの艦長である深町は、過去の海難事故により海江田に並々ならぬ想いを抱いていた。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 CGではなく本物の潜水艦を使っている場面もあり、海上に姿を現した時は本物ならではの存在感と臨場感がある。おそらく海中でのシーンはCGではあるが、見やすさよりも海中の仄暗さを徹底している。暗闇の中で潜水艦や魚雷が水圧を構わず行き交い、静かで荘厳な臨場感を醸し出している。

 本作の潜水艦の描写でキモとなるのは音。ソナーを頼りに音声解析をしたり敵艦の位置を知ったりと、終始に渡って潜水艦の外側にある音を静かに聴く行為は没入度を上げている。また、音関連として音楽の使い所が素晴らしい。BGMとしてではなく、劇中の戦闘に直結した使い所になっている。これには驚く。本作の独自性を物語るほどである。そして、潜水艦同士の戦闘について、ちょっと賢くなれる。

 大沢たかおさんの存在感が顕著。あまりに大きい。他の名優陣を喰っている。本作では潜水艦を奪取した理由や背景について全てを語ることはなかったけど、日米両政府から幾度となく勧告や攻撃を迫られても感情を出さずに泰然自若とした態度で全てを対処し、ひたすら目的に突き進む姿勢は冷静にして豪胆。堂々かつ優雅に海域を巡る大きな鯨のようであった。もはや、「ンフ」を言わない『キングダム』の王騎将軍。劇中の全てを大沢さんの存在感が呑み込んでいた。

 編集が冴えている。軍人たちが海で戦闘中であっても、政府の要人たちが会議中でもあっても交互に場面が切り替わり、同じ絵面で飽きないよう徹底した編集が施されている。また、主要人物の初登場に名前と職位をテロップで表示したのも親切。軍隊モノおよび政府モノあるある、登場人物が多すぎて区別がつかない問題を解決している。加えて、本当に必要不可欠な登場人物に名優たちを当て、それ以外の者達は極力喋らないようにしており、覚えるべき人物を最小限にしたのも親切である。原作の漫画がそうなのかもしれないけど。

 原作未読だから知らないけど、本作のストーリーは原作でいう序盤までしか進んでないらしい。本作の物語は原作と比較すると、起承転結の「起」であるらしい。それ故、本作が伝えたいことに関して言及する段階ではない。「日本は独立国家として、どうあるべきか?」や「武力や抑止力はどうあるべきか?」という問いかけをしただけであり、それ以降を制作して劇中人物の回答を聞かなければ深い議論が出来ない。なので、本作における伝えいことに対する意見や見解は続編を待つか原作を読むしかない。そもそも、映画ではなくて数話に分けたドラマ配信で良かったのでは…。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個

 

BAD LANDS バッド・ランズ

(C)2023「BAD LANDS」製作委員会

公 開 日  :9月29日

ジャンル:サスペンス

監 督 :原田眞人

キャスト:安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久、吉原光夫、渕上泰史、サリngROCK、江口のりこ、宇崎竜童 他

 

概要

 第151回直木賞を受賞した『破門』や『後妻業』などで人間を突き動かす欲望を描いてきた黒川博行の重厚な傑作小説を、名匠・原田眞人監督が待望の映画化。監督の熱意が伝播し、歳月を懸け実現した本作の主演は、数々の映画賞を獲得してきた安藤サクラさん。日本映画界を牽引する両名が初タッグを組み、大胆かつ疾走感ある映像をスクリーンに焼き付ける。そして、安藤サクラさん演じる主人公ネリの弟・ジョー役には山田涼介さん。映画『燃えよ剣』以来の原田眞人監督作品に出演し、気迫のこもった演技で新境地を魅せる。

 ネリの”生きにくい世界を生き抜く美しさと強さ”を映し出す安藤サクラさんと、ジョーの抱える異常な愛と衝動に狂う姿を表現した山田涼介さんの2人が魅せる化学反応。さらに、犯罪組織や警察といった姉弟の周囲で蠢く登場人物に、生瀬勝久さんや江口のりこさん、吉原光夫さん、宇崎竜童さんといった多くの豪華俳優陣が脇を固め、名実ともに日本映画界の最前線を駆け抜ける傑作が誕生した。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 大阪を拠点にする特殊詐欺グループ『名簿屋』の下でオレオレ詐欺の仕事を請け負うネリと、血の繋がらないサイコパス気味な弟のジョー。過酷な子供時代を共に生き抜き違法な手段で生活を送る日々が続いている中、事態が急変。界隈でのアクシデントと大阪府警の捜査により、2人は目をつけられ狙われることになる。新たなに迫ってきた過酷な状況で姉弟は生き抜くことが出来るのか…。

 

感想

 概要の説明の無さ。主人公すら何者か深く語らない登場人物の説明の無さ。説明を置いてけぼりにするスピーディなストーリー展開。カット過多な編集で組み上がった物語。それらが合わさって生み出された物語の把握のしづらさ。だが、軽妙な演出や逐一こだわりのある画づくりが鑑賞者の目に引力を宿す。しかも、それらがシームレスに次々と川の下流の如く気持ちよく流れてくる。観続ければ物語の展開や軽妙な演出を直感的に受信し、登場人物の名前すらどうでもよくなるほどスパスパと突き進む疾走感がクセになる。相変わらずの原田眞人監督節が炸裂している。むしろ、今回は原田監督スタイルに馴染み切った作品。過去作の、戦場を舞台にした『関ヶ原』や極道の世界を舞台にした『ヘルドッグス』に比べ、特殊詐欺という犯罪一色な世界を舞台にした本作は命の重さが軽いし、違法行為が中心となることから、劇中で何をやっても許される幅の広さがある。その為、身が震えるほど命の駆け引きが行われても軽快なアクションに転じれるし、すぐさまブラック・ユーモアな台詞や演出を挿入できる。違法に物怖じしないアウトローな世界ゆえに何でも織り交ぜられ、それら全てを原田監督流のシームレスな話運びが巻き取っており、原田監督流の1つの到達点として見て取れる。

 安藤サクラさんの主人公が魅力的。原田監督の前作『ヘルドッグス』の岡田准一さんのように一挙一動がスタイリッシュ。何度も見せる帽子の被り方や掌で転がすようなナイフ捌きが逐一、決まっている。それらのスタイリッシュさに加え、『ヘルドッグス』の登場人物には不在だったユーモアを織り交ぜている。さらには、凄惨な過去を少ないカットの繋ぎだけで表現し、その経験から過酷な犯罪社会に身を置いても物怖じしない冷静かつ豪胆さを持っている。幅広いキャラクターとして十二分に魅力を放つ主人公となっている。

 山田涼介さんが新境地を見せる。今まで出演した作品では好青年や、何かと感情を口に出して表現する役が多く見られたけど、本作は行動で語るキャラクターを形成していた。台詞で語ることは少なく、肝心な所はアクションで語り、自己実現や安藤サクラさん演じる主人公に対する思いを体現していた。主人公の相棒にしてサイコパスなキャラクターとして、原田監督の前作『ヘルドッグス』の坂口健太郎さん的な立ち位置になるが、本作の山田さんの方が姉弟としての距離感が近く、無計画に犯罪に手を伸ばす姿勢がサイコパス的であり、主人公の相棒兼サイコパスなキャラクター像は山田さんに軍配が上がり、原田監督作品としてアップグレードされたように思える。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

コカイン・ベア

(C)2022 UNIVERSAL STUDIOS

公 開 日  :9月29日

ジャンル:コメディ、スリラー

監 督 :エリザベス・バンクス

キャスト:ケリー・ラッセル、マーゴ・マーティンデイル、レイ・リオッタオールデン・エアエンライク、オシェア・ジャクソン・Jr、ブルックリン・プリンス 他

 

概要

 1985年9月11日の朝。麻薬密輸人のアンドリュー・カーター・ソーントン2世がFBIに追われ、セスナ機からコカインが入ったバッグを投げ捨てた。しかし、こともあろうに体重80kgの巨大なクマがコカインを食べてしまった…。そんなウソみたいなホントのハナシに着想を得て、爆笑&ハラハラドキドキのパニック映画に大胆アレンジを施したのが本作。偶然にもジョージア州の森に集った刑事、ギャング、森林警備隊、観光客、子供たちが、大量のコカインを食べて暴れ回るクマこと”捕食者の頂点”と遭遇したとき、いまだかつてない惨劇…いや、笑いが起きる。

 プロデュースを務めるのは『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』を手掛けたフィル・ロード&クリストファー・ミラー。製作および監督を務めたのは『チャーリーズ・エンジェル』のエリザベス・バンクス。豪華クリエイターが集った作品となった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

あらすじ

 1985年のある日。ジョージア州上空を通過するセスナ機には大量のコカインが積まれていた。運び屋アンドリュー・カーター・ソーントン2世は、雇い主である麻薬王シドの命令どおり、森にコカインの入ったバッグを投下するが、その直後に自身も誤って落下。コカインの場所をシドに伝える前に死亡してしまう。その報告を聞いた刑事のボブは捜査のため、同じく報告を聞いた麻薬王シドの部下であるエディとダヴィードはコカイン回収のために森へ赴く。だが、その前に、森にある滝をスケッチするためにやってきた13歳のディーディーと友人のヘンリーが森に入り、それを追う形でディーディーの母親サリと森林警備隊員のリズと野生動物管理官ピーターも森に入る。さらには非行少年3人組までもが森に近づく。各々の目的のために森へ向かった人間たちだったが、そこに待ち受けていたのは、アンドリューが投下した大量のコカインを食べてハイになった巨大なクマだった。

 ※公式サイトより引用および抜粋

 

感想

 不運にも凶暴クマに遭遇する人々の襲撃大喜利と緊張感ゼロのユーモラスな掛け合いにギャハギャハ笑いながら観れる愉快なポップコーン・ムービー。さらには、コカインを森に放り込んだ人間に対して「自然を汚してんじゃねえぞっ!」とクマが自然の代行者となって警告を発する環境愛護ムービーに見えるのも確か。「麻薬密輸人が飛行機からコカインを放り捨て、そのコカインを食べたクマが過剰摂取で死亡した」という実話をエンタメにも社会的メッセージにも昇華させ、面白さと自然に対する思いやりが込められている。 B級映画だけど、CGで手掛けたクマのビジュアルとモーションはA級であり、凄みと同時にギャップで笑える。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐

星の総数    :計14個

 

まなみ100%

(C)「まなみ100%」フィルムパートナーズ

公 開 日  :9月29日

ジャンル:ドラマ

監 督 :川北ゆめき

キャスト:青木柚、中村守里伊藤万理華、宮崎優、藤枝喜輝、下川恭平、日下玉巳 他

 

概要

 本作の監督を務めた川北ゆめきさんの実体験を基に、高校時代から1人の女性を追い求めていた10年間の記録を映画化した青春ドラマ。

 

あらすじ

 仲間と恋人を興味の向くまま本能的に手を出して生きている自由奔放なボク。だが、高校時代に出会って恋をした同級生の”まなみちゃん”だけは特別だった。恋愛感情を持ちながら友人関係を続け、時には求婚を迫ったが毎度オッケーの返事はもらえず、はぐらかされていた。そして、まなみちゃんと出会ってから10年の時が経ったある日、彼女がボク以外の男性と結ばれて結婚することに。結婚式に向かう途中、ボクがまなみちゃんと過ごした10年間の記録が再生されていく…。

 

感想

 瑞々しくも生々しい。男性目線で男女の恋愛脳の違いがヒシヒシと伝わってくる。男性は自分を受け入れてくれる女性に靡く。男性は好きだった女性の記憶がデスクトップの目に入る位置に永久保存されている。それに対して、女性は…。本作は男性から見れば、女性の心が全く理解できなかった若い頃の過去を刺激する。(私は20代男性だが、今でも女心を分かっていません(笑))多くの男性たちの記憶に居たであろう、まなみちゃん的存在が蘇生し、デスクトップのファイルを開いて記憶を再生させる。一方、女性目線からは「女性の恋心って、そうなんだよね」や「男性って、好きだった女性のことを長い期間、引きずるんだね」と客観的に見れる作品だと思う。(私が男である以上、全くを持って断言は出来ません。)

 歌曲の挿入がジャスト・タイミング過ぎる。劇伴が少ない中、ここ1番の感動ポイントでピン刺しする。やり口はセリーヌ・シアマ監督の『燃ゆる女の肖像』と『秘密の森の、その向こう』の音楽の挿入タイミングと同じ。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計19個

 

ノーウェア:漂流

Netflix

公 開 日  :9月29日

ジャンル:スリラー

監 督 :アルベルト・ピント

キャスト:アンナ・カスティーリョ、タマル・ノバス 他

 

概要

 Netflixで配信されたスペイン映画。コンテナに入れられて海中に投げ出されてしまった妊婦が生還を目指すサバイバル。スリラー。

 

あらすじ

 国内で資産不足に陥った国家。この問題を解決するため、社会的貢献度が低い子供と妊婦を排斥する政策に乗り出し、軍隊を派遣して子供と妊婦を次々に捕縛していた。そんな事態の中、妊婦のミアは夫のニコと共に非合法的な組織の力を頼り、トラックに積まれたコンテナに隠れて国外逃亡を図る。だが、道中でニコと生き別れになってしまう。そして、ミアを乗せたコンテナは船に積まれて出航したが、不慮の事故で海中に投げ出されてしまった。現在地も不明。コンテナ内の物資は僅か。妊婦ゆえに、腹には赤ん坊が…。危機的状況に陥ったミアは無事、生還することができるのか…。

 

感想

 周囲が海。コンテナが浸水。妊婦ゆえに産気づく。どうやって生還する術を探し出すのか予想が出来ない危機的状況の中、意外にも描かれるのはサバイバル・エンタメよりも母性とエコ(?)。そう捉えれば本作の設定とストーリー展開に対する納得度が上がる。

 コンテナ内の臨場感が高い。漂流後は浸水が始まり、波の音と共に揺れ動く。本当に海中を漂っているかのような感覚に陥る。浸水した水を浴び続ける主人公を見ていると、こちらが風邪を患ってしまうような気持ちになる。

 コンテナに空けられた小さな穴が良き働き。本作では資源不足と排斥活動をする国家の全体像は全く見えない上に把握不可。だが、主人公が穴からコンテナ外部を覗き見した際に画面は主人公の一人称となり、主人公と同化する。国家が働く反人権的な活動を目の当たりに見せつけられ、現場にいるような当事者意識を植え付ける。それにより、わざわざ全体像を見せずに一部の切り取りだけで国家の恐ろしさを伝えている。

 ショッキングなシーン多数あり。生々しく、痛覚を刺激される。痛々しいフランス映画『あのこと』並み。他の映画だったらカメラの位置を調整して、やってる体で済ますシーンを本作はちゃんと道具を作成し、全てをカメラに収めている。しかも、作成した道具が道具に見えない。「本物を使ってない?」と思えるし、主人公を演じたアンナ・カスティーリョの人体がリアルに状態異常を起こしてるようにしか見えない。あと、妊婦と子供を排斥してるだけに容赦ない扱い方をする。閲覧注意。

 実はコンテナ内のワン・シチュエーションだけが見所ではない。敵に追われながらコンテナに行き着くまでの冒頭開始から数分間に渡る長回しのシーンが非常にスリリング。主人公夫婦の周囲を1台のカメラが追いかけ続けてコンテナを目指すシークエンスはアクション・アドベンチャー・ゲーム的なスリルがある。

 本作は母性の話である。どんな窮地に陥っても、腹に宿す我が子を守ろうとする姿勢から視覚的に母性本能の強さが分かる。妊婦の主人公を演じたアンナ・カスティーリョの前のめりな熱演も相まって、画面内に更に母性の強さが帯びる。また、勝手な推察をすると、生物の始まりは海からであり、海は全生物の母である。なので、全人類は海の子である。加えて、誰もが胎児として始まり、腹の中にいる間は羊水に浸されている。つまり、生物は水から生命が始まり、水は母体の象徴である。なので、本作では母性を語るシチュエーション先に漂流した海に選ばれた…と思っている。

 本作はエコロジー(?)の話でもある。漂流した主人公が生還するためにコンテナ内の物資をやりくりする描写は、資源不足を掲げる国家へのアンサーとも考えられる。主人公は生きる為とはいえ、数種類の物資を本来の用途とは全く違う使い方をしている。本来、この場にあって欲しい物資がない代わりに、現在この場にある物資を変形させて不足を補っている。つまり、国家に対して、資源は使いようであるとカウンターの意味合いがあると考えられる。でなければ、物語の背景に資源不足を描かず、冒頭数秒で主人公をコンテナに詰めて海へ放流しているはず。

 

⭐評価

脚本・ストーリー:⭐⭐⭐

演出・映像   :⭐⭐⭐⭐

登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐

設定・世界観  :⭐⭐⭐⭐

星の総数    :計15個