皆様、こんにちは✋
この記事は、2021年に日本の劇場で公開された映画作品の中から、私の独断と偏見による評価でランキングを付けていく記事です。
ランキングの付け方
e-maru.hatenablog.com
実は、上記にある記事で作品すべてに以下4つの観点ごとに⭐の数で点数を付け、星の合計数で総得点を算出しています。
①脚本・ストーリー
②演出・映像
③登場人物・演技
④設定・世界観
⭐の数は各観点ごとに最大5個です。
今回、私が付けるランキングは星の合計数による総得点で順位を付けます。例えば、星の合計数が10だった作品は、合計数が9以下の作品より必ず上になり、逆に合計数が11以上の作品には必ず上になります。星の合計数が同じになった作品は、合計数が同じ作品だけで優劣を決めて順位を付けます。星の合計数が被った作品がけっこう多いです。
第11位~第30位の作品
一応、第30位まで決めたので、作品名だけ掲載します。
- 第30位 空白
- 第29位 梅切らぬバカ
- 第28位 17歳の瞳に映る世界
- 第27位 哀愁しんでれら
- 第26位 ミッチェル家とマシンの反乱
- 第25位 チック、チック…ブーン!
- 第24位 レイジング・ファイア
- 第23位 悪なき殺人
- 第22位 街の上で
- 第21位 クーリエ:最高機密の運び屋
- 第20位 孤狼の血 LEVEL2
- 第19位 フリー・ガイ
- 第18位 ドライブ・マイ・カー
- 第17位 ファーザー
- 第16位 由宇子の天秤
- 第15位 サウンド・オブ・メタル 聞こえるということ
- 第14位 隔たる世界の2人
- 第13位 マリグナント 狂暴な悪夢
- 第12位 RUN/ラン
- 第11位 トゥルーノース
どれも傑作ばかりです。トップ10に名を連ねてもおかしくない作品たちですね。第11位の『トゥルーノース』と第12位の『RUN/ラン』は第9位と第10位の作品と点数的には同じなので、実質10位みたなものです。
第10位 日常と殺しを追った笑いと殺戮のドキュメンタリー
最強殺し屋伝説 国岡 完全版
①ジャンル:モキュメンタリー
②監 督 :阪本裕吾
③キャスト:伊能昌幸、上のしおり、吉井健吾、松本卓也 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計18個
⑤感想
京都最強と称される、国岡昌幸という名の殺し屋に密着したフェイク・ドキュメンタリーです。監督を務めるのは同年に『ある用務員』・『黄金の村』、そして『ベイビーわるきゅーれ』で旋風を巻き起こした阪本裕吾監督です。2021年の阪本監督の代表作と言えば『ベイビーわるきゅーれ』を挙げる方が多いかと思いますが、私は自主製作映画という撮影スタイルを逆手にとって独創的な世界を打ち立てたコチラを推します。
この作品が他の映画にない独特な雰囲気を放っているのは、YouTubeにアップされている予告編を視聴すれば一目瞭然です。阪本監督自身がハンディカメラを手に取り、映画の撮影担当とドキュメンタリーの密着カメラマン役を兼任し、架空の殺し屋社会をあたかも我々がいる現実世界に存在する一つの業界に見せかけた手法は唯一無二にして最高の世界観を創生しました。加えて、どこか本物っぽい殺し屋社会の空気感を醸しながらも、フィクションならではのコミカルな演出とキャラクターといった要素もあり、フィクションとノン・フィクション風が絶妙な塩梅で調合されています。殺しをしない時はユルッとした我々が生きる現実世界の日常感を漂わせ、殺しの時はパンチの効いた非日常感を放ち、このメリハリが非常にクセになります。
戦闘シーンが必見です。フィクションとノン・フィクション風が上手いことミックスされ、真面目なんだかフザケているんだかが同時並行しながら戦闘する流れがブラック・ユーモアで面白いです。おそらく、佐藤二郎さんがいつもの面白いツッコミおじさん役で出演していたら、「おっ、お前ら!お前らさ…。あのさ…まっまっ真面目にやれよ~」とか言うに違いないです。なのに、銃撃する時のガン・エフェクトはカッコイイ。あと、主人公の国岡を演じる伊能昌幸さんはもちろんのこと、敵と味方の殺し屋たちのアクションも身体使いまくりの格闘戦は見応えバツグンです。最後の格闘戦なんか面白過ぎて笑っちゃいます。「最強殺し屋伝説 国岡という映画を体で表現してください」と言われたら、観た者たち全員が最後の格闘戦のアクションをすると思います(笑)
第9位 心の震えを感じながら、僕たちは、駆けだそうとしている
草の響き
①ジャンル:ドラマ
②監 督 :斎藤久志
③キャスト:東出昌大、奈緒、大東駿介、Kaya、林裕太、三根有葵 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計18個
⑤感想
精神的な不調に陥った夫とその妻が、夫を療養するために東京から函館に帰郷して再出発を目指すヒューマン・ドラマです。登場人物たちの移ろう内情をセリフという言葉だけではなく、日常の静かな変化で繊細に表現しています。東出昌大さん演じる夫の病状や奈緒さん演じる妻の向き合う心境が見え隠れし、些細な言葉や態度で何とも言えない夫婦の距離間が計れてしまいます。これが実にツライ…。日常は平行線に見えて、わずかな歪みを生んでいるんだなと思いました。そして、深くなった歪みは今とは違う日常へ移り変わっていくものだと。だけど、過去を惜しみながらも未来へ進んでいくラストシーンは、寂しさがありながらも清々しい余韻を与えてくれる傑作です。
第8位 君が世界を守れ、俺が君を守る
少年の君
①ジャンル:ドラマ
②監 督 :デレク・ツァン
③キャスト:チョウ・ドンユィ、イー・ヤンチェンシー 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐️
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
⑤感想
1人の受験生である少女と1人のチンピラである少年が壮絶なイジメと向き合う中国・香港合作のヒューマン・ドラマです。香港の映画賞では作品賞・監督賞・主演女優など他部門において受賞し、第93回アカデミー賞では国際長編映画賞にノミネートされ、世間的な高評価を獲得している誰もが認める傑作です。
イジメ題材作品あるあると言えば、イジメを受けた本人やその友人たちが家族や担任教師にイジメを伝えられないケースが多々描かれます。また、教師が事なかれ主義でイジメから逃げたり、一介の教師の力では歯が立たなかったりと、教師陣の力量不足が背景にあるケースも多々あります。さらには、警察がなかなか介入できないといったケースもあります。この作品では、それらが一切皆無です。各々の機関が等身大な対応をしたにも関わらず、それでもイジメが襲い掛かるリアルな物語となっています。イジメ題材作品では一歩前に進んだ作品です。その設定の中で、主演2人の互いを守ろうとする姿勢が非常に感動的であり、最後は感極まります。
私の独断と偏見にはなりますが、この作品は評価が高いわりには騒がれなかった印象があります。公開規模が小さく、たまたま観た方や事前に海外の評価を知った方ぐらいしか観てないのかなと勝手に思っています。劇場で観れた方が満場一致で良い作品だと高評価を押していると思います。作品の嗜好は十人十色ですが、知らずにいるには勿体ない作品だと個人的に強く推します。
第7位 あなたの資産「死ぬまで」守ります
パーフェクト・ケア
①ジャンル:スリラー
②監 督 :J・ブレイクソン
③キャスト:ロザムンド・パイク、ピーター・ディンクレイジ、エイザ・ゴンザレス、クリス・メッシーナ、ダイアン・ウィースト 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
⑤感想
因果応報を受けざるを得ない悪人たちによる泥沼劇。だが、美彩な色彩を放つ映像表現。煌びやか&スタイリッシュな演出と音楽。次の一手が気になるストーリー。多くの要素が悪人たちをクールかつコミカルに映し出し、なぜか悪人たちを応援したくなり、最後まで観る者を惹きつける良質かつ異質エンタメです。
さらに異質な点と挙げるなら、悪人たち全員が世間で言う”社会的弱者”になっていることです。同性愛者や生まれつきの病気を持った者たちです。だが、それに関して劇中で全く言及がございません。大抵の作品では、差別の対象者となったり、気を遣われる存在だったりします。それを一切合切捨て去っています。誤解のある言い方かもしれないですが、「どんな人でも悪い奴になるよ」と平等性を表しています。良い意味で可哀そうに見えません。むしろ、この作品では、その平等性ですら改めて言及するのも野暮な気がします。将来、差別の撤廃が先進した世界でも残り続けるであろうクライム・エンタメです。
第6位 この世界は生きづらく、あたたかい
すばらしき世界
①ジャンル:ドラマ
②監 督 :西川美和
③キャスト:役所広司、仲野太賀、長澤まさみ、北村有起哉、六角精児、白竜、橋爪功 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
⑤感想
刑期を終えた元殺人犯にして元ヤクザが更生を目指し、第二の人生を描いたヒューマン・ドラマです。法の下の生きづらい世の中。だが、それでも生きていく人間たち。人と人との紡ぎと解れで構成される実社会を哀しくも温かくも感じ取れる、すばらしき傑作です。
この作品で特筆すべきは、役所広司さん演じる主人公と周囲の人々の関わり合いです。更生の道へ進む者と見守る者。明るくコメディ的なシーンもあれば、家族とヤクザ絡みの過去がまとわりつく辛く悲しいシーンもあります。また、役所広司さんの演技が素晴らしく、社会復帰できるよう見守りたくなる可愛げがある反面、元殺人犯兼元ヤクザという近づくのに抵抗感を感じる側面も持ち得た不器用なキャラを幅広く体現しています。もちろん、主人公の周囲にいる登場人物たちを演じる俳優陣の演技も素晴らしく、温かみのある人物像を強く印象づけます。
世間の風は冷たい。でも、人間は温かい。そう思わせてくれる作品です。
第5位 愛すべきクソやばいヤツら。
ザ・スーサイド・スクワッド ”極”悪党、集結
①ジャンル:アメコミ、アクション
②監 督 :ジェームズ・ガン
③キャスト:マーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ、ジョエル・キナマン、ダニエラ・メルヒロール、デビッド・ダストマルチャン、シルベスター・スタローン、ビオラ・デイビス 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
⑤感想
『マン・オブ・スティール』から続く、DCコミックスを原作の一大シリーズ「DCエクステンデッド・ユニバース」の第11作目です。監督を務めるのは大人気シリーズ「マーベル・シネマティック・ユニバース」で異彩を放って人気を博した『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』を作り上げたジェームズ・ガンです。ストーリーとしては、服役中のヴィラン(敵役)たちが減刑を引き換えにスーサイド・スクワッド(直訳すると、自殺分隊)と呼ばれる部隊に所属し、生存が保障されないデス・ミッションに挑む物語となっています。
この作品の良さは既に多くの映画ファンが語っているため、この記事で言及する必要はないでしょう。満場一致で2021年のベスト作品です。
最初から最後まで飽きることない演出の連続です。音楽やアクションの一つ一つが最高に面白いです。残酷なのに笑える。ダサそうなのにカッコよく見える。汚らわしいけど、キレイに見える。フザケているようで真面目。真面目かと思いきや、フザケている。感情が相反する演出を音楽やビジュアルを機能させて映し出す、ジェームズ・ガンの唯一無二な独特のセンスが光ります。
キャラクター1人1人が最高です。アイアンマンのように伸縮自在なメカ・ウエポンを巧みに扱い、かつてスーパーマンを病院送りにした暗殺者ブラッドスポート。平和の為なら女も子供も殺すと豪語する、一周回った狂気の正義漢ピースメーカー。『スーサイド・スクワッド』と『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』からマーゴット・ロビーが続投し、相変わらずの狂気ぶりとマイペースを見せつけるハーレイ・クイン。真面目で隊員思いなのに、ダサTを着てしまうチーム・リーダーのリック・フラッグ大佐。その他にも魅力的なキャラクターがいますが、挙げていけば、それだけで3~4記事分まで出来てしまうんじゃないかと思います(笑)
2021年には他にもアメコミ・ヒーロー映画として、『ジャスティス・リーグ』・『ブラック・ウィドゥ』・『シャン・チー』・『エターナルズ』・『ヴェノム2』があり、どれも楽しめる作品でした。その中でも個人的ナンバーワンのアメコミ作品は『ザ・スーサイド・スクワッド』です。
第4位 生死を賭けた「真実」が裁かれる
最後の決闘裁判
①ジャンル:歴史
②監 督 :リドリー・スコット
③キャスト:マット・デイモン、アダム・ドライバー、ジョディ・カマー、ベン・アフレック 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
⑤感想
妻を強姦され、怒りに燃える騎士。強姦ではなく合意の上で行為を行ったと主張する騎士。合意ではなく、強姦だと主張する妻。やがて、真実の相違は騎士たちによる決闘へと向かう歴史映画です。
この作品は3章仕立てとなっています。1章で1人の人間が提起した真実を2章と3章で別人物が補完していく流れであり、1人の主観から複数の主観が重なっていくという構成は秀逸です。そこから生み出される視点の違いで真実や価値観の相違を産出していく様が見事です。そして、3章では今作が最も主張したいであろう男尊女卑という社会的テーマを現代の我々へ突き付けてきます。男性の威厳が女性の尊厳を上回っていた歴史を知り、改めて前時代への逆行を戒める作品となっています。
デリケートなテーマを扱っていて、この着眼点を話題にするには不謹慎かもしれませんが、今作はマット・デイモンやアダム・ドライバーを初めとする騎士たちの戦闘の演出が素晴らしいです。息を呑むほど緊迫感があります。まあ、『グラディエーター』等を手掛けてきたリドリー・スコットが監督となれば当然のことではありますけどね。特に、戦闘シーンで良かったのはマット・デイモンとアダム・ドライバーの一騎打ちです。殺陣アクションを用いて派手にカキンカキンと武器のぶつけ合いを連打するのではなく、現実的で等身大な打ち合いをしたことで、2人の騎士たちの刃に己の魂が重くのしかかり、真実を賭ける様が一層際立っていました。かといって、カッコよさはなく、命を賭けた緊迫感と女性の尊厳そっちのけな醜態を帯びた戦闘となっていました。こんなことは言えるのは私が男だからだと思います。すいません…。
個人的に、名匠リドリー・スコット監督作品の中では上位に食い込む作品です。
第3位 実話に基づくかもしれない物語
ドント・ルック・アップ
①ジャンル:ブラック・コメディ
②監 督 :アダム・マッケイ
③キャスト:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、ロブ・モーガン、ジョナ・ヒル、マーク・ライランス、メリル・ストリープ 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
⑤感想
滅亡の危機に直面した地球の命運を賭けた社会派ブラック・コメディです。彗星が地球に向かって飛んでくる。激突したら地球は爆発して砕け散る。そしたら、人類は滅亡する。「さて、どうしましょう?」というのが大筋のストーリーです。
すごく笑える作品です。なぜなら、この作品に出てくる登場人物はバカまみれ(笑)あと1年もしないうちに地球が滅びるにも関わらず、な~んにもしない。いや、やってることはあるんですけどね。いかんせん、やってることが彗星を止めることに直接に結び付いていない。政府関係者は彗星を止めることに既得権益を生み出そうとしたり、選挙戦に影響が出ることを気にしたりする。民衆やTVキャスターは彗星がデマだと思い込み、ギャグ扱いしたり陰謀論を唱えたりする。極めつけは、世界の歌姫ことアリアナ・グランデを起用して、全く意味のないイベントを開催する。マ~ジでアホ(笑)危機的な状況に陥ってるのに、笑うしかない。
とはいえ、易々と笑って観るものでもありません。なぜなら、この劇中の登場人物は現実世界の我々そのものかもしれないからです。前述にある通り、劇中の登場人物は地球滅亡の危機が迫っているにも関わらず、何もアクションを起こさないorアクションが解決に結びつかないことばかりを行います。でも、これって、我々の現実世界でも同様のことが言えます。例えば、災害の時だってそうです。被災した方々の無事を祈るだけで何かした気になってしまったり、「ここから応援するだけじゃダメだ!励ませるものを届けよう!」とか言って千羽鶴とかいう可燃ゴミを送りつけたりします。ただの自己満足です。「ボランティアで物資届けるとか被災者に有益なことをしような!」とツッコミを入れたくなりますよね(笑)でも、それが自己満足だと気づかずにやり続ける人が世に溢れているのが事実です。
簡単に言ってしまえば、この作品は現実世界をメタりまくった作品です。「地球滅亡の危機が迫っても、お前ら人間は所詮この程度だろ?」と人間をナメくさった作品です。この作品を理解した時、本質に基づく行動を起こせるのではないでしょうか。
第2位 ただの男
パワー・オブ・ザ・ドッグ
①ジャンル:ドラマ
②監 督 :ジェーン・カンピオン
③キャスト:ベネディクト・カンバーバッチ、キルステン・ダンスト、ジェシー・プレモンス、コディー・スミット=マクフィー 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計19個
⑤感想
牧場を経営する兄弟と家族の人間関係を描いたヒューマン・ドラマです。話としては、牧場経営主の弟が子持ちの未亡人と結婚した後、兄が弟を奪われた腹いせに、弟の妻へ嫌がらせをしていくドロドロな物語となっています。
雄大なる自然の風景。趣のある牧場のセット。ベネディクト・カンバーバッチが演じる主人公・フィルが見せつける有害な男らしさ。その男らしさが生み出すドロついた人間関係。常に居心地の悪い(褒めてます)緻密な演出と画づくりの数々。それらを観る者に読み取らせ、主要人物の思惑と衝撃の物語を伝達する技巧派な怪作です。セリフで直球的に心理を吐露するシーンは少ないです。登場人物のアクションとリアクションだったり、一つ一つのシーンの構図だったりで登場人物の心情を精微に表現しています。
また、主要人物の演技も光ります。兄に対してオロオロしがちな弟・ジョージを演じたジェシー・プレモンス。義理の兄に追い詰められて精神が蝕まれる弟の妻・ローズを演じたキルステン・ダンスト。両親の身を案じながらもミステリアスに伯父と関係を持つローズの息子を演じたコディー・スミット=マクフィー。そして、カリスマ牧場経営主として男たちを魅了するマッチョイズムに染まった主人公・フィルを演じたベネディクト・カンバーバッチ。
全員が素晴らしい演技を披露してくれましたが、群を抜いて印象を残してくれたのはベネディクト・カンバーバッチです。女々しいことを忌み嫌い、男らしさだけを追求するマッチョイズム。一心同体となって今まで生きてきた弟を奪われた腹いせに弟の妻に嫌がらせをする排他的主義。有害な思想を持った1人の男性を怪演しました。しかも、ただ有害な男だけではなく、他の男たちを魅了するカリスマ性も同時に見せつけていました。ベネディクト・カンバーバッチ演じる主人公は明らかに有害な男ですが、シーンだけ切り取るとカッコよく見えることも出来ます。華のある動きがあり、他の者たちが彼のカリスマ性に惹きつけられるのに納得がいきます。有害だけど、カリスマ性も合わせ持つ。二面性のある非常に難しい役どころをベネディクト・カンバーバッチは体現してくれました。この作品で数々の主演男優賞をノミネートまたは受賞し、彼のキャリアに一生、刻まれていくことでしょう。
第1位 くそったれな青春
BLUE ブルー
①ジャンル:スポーツ・ドラマ
②監 督 :吉田恵輔
③キャスト:松山ケンイチ、東出昌大、柄本時生、木村文乃 他
④評価
脚本・ストーリー:⭐⭐⭐⭐⭐
演出・映像 :⭐⭐⭐⭐⭐
登場人物・演技 :⭐⭐⭐⭐⭐
設定・世界観 :⭐⭐⭐⭐⭐
星の総数 :計20個
⑤感想
私が選んだ2021年の第1位は吉田圭輔監督の『BLUE』です。2021年の吉田監督と言えば『空白』が話題を呼びましたが、私はコチラを強く推します。
勝負の世界にて直面する現実が詰まったボクシング群像劇です。才能の有無。没頭する精神。運の巡り合わせ。挑戦を始めた人間に待ち受ける苦悩と受容を現実的に感じ取れる傑作です。
この作品で特筆すべき点と言えば、ボクシングに打ち込む登場人物たちの設定と構図が非常に見事なことです。人生の時間を全てボクシングに捧げても1勝すら出来ない、松山ケンイチさん演じる瓜田。瓜田とは逆にボクシング・センス抜群でチャンピオンが目前と迫った直後で病に侵されてしまう、東出昌大さん演じる小川。女子からモテたいという不純な動機からボクシングを始めながらも、めきめきと技術を習得していく、柄本時生さん演じる楢崎。熱量に才能が追いつかない者・才能に恵まれても夢破れようとする者・初めて物事に真剣に取り組む者。三者三様で直面する現実の厚い壁はボクシング界に留まらず、私たちの人生にも訴えかけるものがあります。よくある人生論の中で、「人生はやるか、やらないか」という言葉があります。この作品では前者の「やる」を選択した者たちがどういった過程を辿るのかが色濃く描かれています。また、「やらない」を選択した者たちも描かれ、「やる」と選択した者たちからどういう見られ方をしているのかが映し出されます。やはり、人生は挑戦するかしないかが不随するものなので、この作品はボクシング映画だけの域に留まらず、人生の道標的な映画として位置づけしても過言ではないでしょう。人生を語る作品は、他に大々的に銘打ったものがありますが、ボクシングを通して人生観を突き詰めた作品は、お目にかかれないと思います。なので、この作品は観終わった後すぐに2021年の第1位と確定しました。
2021年の総括
2021年は邦画界で大きな躍進がありました。私が16位に選んだ『由宇子の天秤』と第18位に選んだ『ドライブ・マイ・カー』が国外で高い評価を得て、数々の賞を受賞しました。特に、『ドライブ・マイ・カー』はアメリカのアカデミー賞で作品賞・監督賞(濱口竜介さん)・脚色賞の4部門でノミネートし、国際長編映画賞では受賞を果たしました。また、新たな監督の台頭として、阪本裕吾監督の活躍が目立ちました。たった1年で『ある用務員』・『ベイビーわるきゅーれ』・私が第10位に選んだ『最強殺し屋伝説 国岡 完全版』・『黄金の村』の4作品を公開しました。中でも『ベイビーわるきゅーれ』は大反響を呼び、多くの新規ファンを獲得しました。(私もその中の1人です。)アニメでは『新世紀エヴァンゲリオン』が完結し、『呪術廻戦0劇場版』が大ヒットにより、年を越してのロングラン上映をしていました。
ハリウッドでは、Netflix映画が数々の映画賞でノミネート及び受賞を手にしていました。アカデミー賞において、作品賞ノミネート10作品のうち、私が第3位に選んだ『ドント・ルック・アップ』と第2位に選んだ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』がノミネートされました。『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は作品賞以外にも、主演男優賞(ベネディクト・カンバーバッチ)・助演男優賞(ジェシー・プレモンスとコディー・スミット=マクフィーの2人)・助演女優賞(キルステン・ダンスト)等の多部門に渡ってノミネートされ、監督のジェーン・カンピオンが監督賞を受賞しました。また、ゴールデングローブ賞では、私が第25位に選んだ『チック、チック…ブーン!』でアンドリュー・ガーフィールドが主演男優賞(コメディ/ミュージカル部門)を受賞しました。
俳優については、東出昌大さんとベネディクト・カンバーバッチの2人が大きな印象を残してくれました。東出昌大さんは、私が第9位に選んだ『草の響き』と第1位に選んだ『BLUE ブルー』で病気と闘う人物を等身大に演じていました。ベネディクト・カンバーバッチは、私が第21位に選んだ『クーリエ:最高機密の運び屋』と第2位に選んだ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』、ランク外にはなりますが、『モーリタニアン 黒塗りの記録』の3作品で大きな存在感を放っていました。
数々の傑作が話題を呼びましたが、その中で私は第1位を『BLUE ブルー』に選ばさせて頂きました。やはり、その年を代表する作品として、観た方の人生に直結する作品を筆頭に据えるべきだろうという勝手な思いがあり、『BLUE ブルー』を2021年ナンバーワン作品としました。人生観に迫った作品が多く出ましたが、どれも『BLUE ブルー』には一歩及ばずといったところでした。『BLUE ブルー』、最高です。
2022年も人生を揺さぶる作品に出会えたらと待望しております。